骨折した馬の応急処置は非常に大切で、その馬の予後を左右しかねない。
骨折が悪化しないようにキャスト固定して、手術できるところへ運ぶことになるが、理想的なキャスト固定が行われていることは少ない。
この事情は海外でもあるらしい。あちらの方が「まし」なようなので、日本でも改善できるはずだ。
昨年、Dr.Richardsonが来られたときに、「こういうキャストを巻いて来院する骨折馬が多い」と質問したら、
「(こんなキャストは)巻かないほうがましだ」という回答だった。
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ひとりひとりの獣医師にとってはキャストを巻く機会は多くないし、基本を教わったこともないし、練習する機会もないことが、実践を難しくしているのだろうと思う。
骨折して興奮し、痛がっている馬に、ひとりで対応しなければならないのもたいへんだ。
しかし、鎮静剤を使い、準備をして始めれば、そうそう困難なことではない。
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キャストが割れる要因についても以前に書いた。
もう一度、人の整形外科の図解書を参考に馬のハーフリムキャストについて書いておく。
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・ストッキネットを固定範囲よりやや長めに装着する。
・ギプス用下巻き包帯を均一に巻く。骨の突出部位ではやや厚めに巻く。
(私は、球節周囲と、キャストトップには外科用フェルト「エバウールシート」を愛用している)
・プラスチックギプス包帯は、常温の水に浸した後、軽く絞って使用する。
(すべての部分がしっかり水に濡れるよう揉み解した方が良い)
・1/2程度が重なるように転がすように巻いていく。人の下肢でも4~5層重ねる。荷重ギプスの足関節では6~7層重ねるとされている。馬ではもっと必要でしょう。
割れる、折れる、は球節の近位か遠位で起こる。そこを充分厚くすべきだ。
・肢に沿うように、そして強くなるようにモールディングしながら巻く。しっかり一体化すればグラスファイバーキャストはたいへん強い。
・人のギプスでは荷重させるまで20分かかるとされているが、立位で馬に巻く場合、そんなことはしていられない。だからこそ、しっかり水中で揉み解し、速く固まらせる。
・長くキャスト固定する場合は、蹄尖部が磨り減るので、蹄修理用の樹脂で補強する。
・基本は中手中足骨と指骨趾骨が直線状になるように固定する。私は、後肢は少し屈曲させる。
・ヒールブロックは一旦蹄底を作ってから付ける。でないと、ヒールブロックで受けた荷重が肢へ伝わってしまう。
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私は成馬のハーフリムキャストで「5」を2本、「4」を2本、使う。
このように巻けば、3-4週間は巻きかえずに済む。
いつも興味深い記事をありがとうございます。
骨折の応急処置では、副木とロバートジョーンズを併用するほうが、安価で、アジャストも効き、初診時のレントゲン像へのアーティファクトも少なくなるので、キャストを巻くよりも適していると思うのですがどうでしょうか?
さらに、副木を着用させて罹患肢の使用をあえて不自由にすることで、残りの三本肢で歩くように促して、体重負荷による骨折箇所の悪化を防ぐ効果も期待できると思います。
どのような骨折かによるとは思いますが、RJバンデージと副木では体重を支えてやることはできません。肢が曲がりにくくするだけです。副木の先端を肢先より長くした状態を保てるなら別ですが、実際には難しいでしょう。(キムジー「スプリント」は別です)
Dr.RichardsonもRJバンデージを勧めておられましたが、「馬が寝ないようにするだけだ」とおっしゃっていました。
例えば第一指骨趾骨が折れてしまっているとき、粉砕しないように輸送し、倒馬するためには理想的なハーフリムキャストが望ましいでしょう。
負重はしていないのでしょうけれども肢を触らせないのかなとも思いますが如何でしょうか。
もしそのようなことがあるのなら鎮静以外にも神経ブロックを使いたくなったりしそうですが。
肢を触らせなければアスパラベーコンも巻けません。
馬は肢を骨折すると、痛くて患肢を浮かせていますし、3本肢では逃げることも蹴ることもうまくできません。ほとんどの場合、鎮静すればうまく肢先まで巻けます。