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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

チーム医療

2020-05-14 | How to 馬医者修行

脛骨外果骨折の関節鏡手術が予定されている午前中、橈骨骨折らしい1歳馬も来院するという。

その前に、子馬のNICU入院で居た母馬が疝痛を繰り返しているので診察と経鼻電解質液の投与。

呼吸音がおかしい当歳馬も来院したので、一人で喉頭内視鏡検査と肺の超音波スキャンをする。

跛行の1歳馬は手根間関節の細菌性関節炎だった。

X線撮影で骨折を否定し、触診で手根間関節の腫脹と圧痛に気づき、穿刺してミカンジュースのようなSynovial Fluid が採れたので、抜けるだけ抜いて抗生剤を関節内投与した。

関節鏡手術が終わったところで、夜中に死んでしまったNICUの子馬を剖検する。

未熟仔で、骨もしっかりできておらず、肺も肝臓も腸管もまともに機能していたとは思えない状態だった。

未熟による多臓器不全 Multiple Organ Failure だ。

もう一頭、妊娠末期に突然死した繁殖雌馬も剖検を頼まれていた。

口粘膜チアノーゼ。腹腔内には消化管破裂はない。だとすると心臓突然死か?と思って心臓を観たら、心嚢内を血餅が埋めていた。

心タンポナーゼだ。

大動脈基始部の破裂だった。

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午後は、種子骨骨折のscrew固定手術。

私はその間、疝痛の急患に対応。

来院したら落ち着いていて、血液検査所見も悪くなく、直腸検査でも超音波でも異常はなかった。

2歳馬の腰痿のX線撮影。

新生子馬の臍ヘルニア。

その母馬も分娩前から疝痛を繰り返しているので、私一人で診て経鼻電解質液を投与。

その子馬は大きいが後肢は内反があり、前肢は球節が硬く、歩くのもやっと。

手術が終わって、前肢は球節を伸ばすためにキャストして、4人がかりで歩かせて馬運車へ運びこんだ。

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今日も数え切れないほど患馬が来た。

チーム医療っていうのは、一人でできる人が寄り集まって、一人でやるよりレベルの高い医療をやることだろう。

一人でやれることを一人でやる気概を失くしては成り立たない。

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滅菌された術衣はなくなった。

不織布の滅菌ガウンも用意してあったから大丈夫だが、今は手に入りにくいのかもしれない。

手打ちうどんやそば屋は、「麺がなくなりしだい閉店します」って書いてあるじゃない。

ラーメン屋だって「スープがなくなったら終了」でしょ。

でも手術室はそうはいかない。 

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花はおわっちゃったね

草はミドリになって、山は春紅葉だ

 

 

 

 

 

 


2018診療実績

2020-01-02 | How to 馬医者修行

2020年になったばかりでややこしいのだが、見ているのは2018年度の診療実績。

年々診療頭数が増えて、入力・集計・整理するのもたいへんになっている。

まだ2019年度中であり、やっと出た2018年度の診療実績が手元にある。

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2017年度も診療件数は1,302と記録的に伸びていた。

2018年の1月から別の二次診療施設が閉じたので、2018年度は地域唯一の二次診療施設として年間を通した初めての年度。

診療件数は1,621

長年、年間1,000頭馬が来ます、と言ってきて、去年はそれを改めて「年間1,300頭来ます」と言うようにしたのだが、

もう「年間1,500頭来ます」と言った方が良いだろう。

牛は、乳牛13頭、肉牛33頭。

だから98%は馬、それもサラブレッド。

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全身麻酔は808件

この馬の全身麻酔の頭数(牛は含まれていない)はたぶん日本で一番多い。

以前は全身麻酔していた手技も立位でやるようになり、少し減る傾向にあったのだが2017年度、2018年度と飛躍的に伸びた。

2018年度3月から獣医師が1名増えて5名態勢になったのが大きいのだと思う。

2グループに分かれてでも躊躇なく全身麻酔する手術を始められるようになった。

以前からそうなのだが、うちは獣医師が増えれると仕事量が増える。

徐々に増えるのではなく、獣医師増員にあわせて階段状に増えるのだ。

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開腹手術は138件。この数も牛は含まれていない、馬だけ。

これは日本で一番多い。

子宮穿孔12頭、膀胱破裂2頭、帝王切開4頭、を含んでいるので、腸管手術は120頭。

世界中で馬の腸管手術を100頭以上やる馬病院はそれほど多くないはず。

腸管手術を100件以上やる動物病院は日本にあるか??

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関節鏡手術が244件

以前から200頭を超えた年はあったが、これも飛躍的に伸びた。 

腱鞘鏡や滑液嚢鏡としての使用も増えている。

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喉頭形成術が43件

これは2007年度の45件をピークに減少傾向だったのが、ピーク時に近い件数に戻った。

これは他所との兼ね合いがあるのだと思う。

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外傷治療が69件

これもいくつか要因が考えられる。

馬の密度。頭数と密度が増えると怪我も増えるだろう。生産頭数は増加している。育成牧場も満杯状態。

放牧時間。昼夜放牧、夜間放牧が増えた。朝発見する夜間放牧中の外傷の来院がひとつのパターンになっている。

往診診療との兼ね合い。外傷治療の多くは往診先でも診療可能だ。往診が手薄になったり、経験に乏しい獣医師が増えると来院しての外傷治療が増える。

wounds management が馬の外科の大きなテーマのひとつであることは間違いない。

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大型X線撮影が73件

これも2016年度の50件をボトムに増えている。

しかし、ポータブルX線撮影装置が、60kVから80kV、さらに2019年には90kVの撮影装置を導入したので、もうかつてのように100件も大型X線撮影することはないだろう。

DR導入後は80件を越えた年はない。

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一方、ポータブルX線撮影装置で診断するための来院も77件あった。

適切な角度で、良い条件で、高質な画像を得て、しっかり読影して、必要なら神経ブロックと組み合わせながら跛行診断したり、

いくつかの病状をX線撮影で判断するのは往診先で獣医師ひとりでやるのはたいへんなのだろう。

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セリのためのレポジトリー検査は0件

もう二次診療施設で請け負う業務ではないということだろう。

しかし、若い獣医さんはレポジトリーに使える質のX線撮影や喉頭内視鏡検査をできるようになっておく必要がある。

その教育の場としての意義はどうする?

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これらのうち、疝痛、外傷、難産、は緊急診療だ。

来院の2割程度を占めていて、急患の多さも馬の二次診療施設の特徴だ。

24時間365日対応するためには少なくとも2名、できれば3名の全身麻酔か手術ができる馬麻酔・外科獣医師が常勤していなければならない。

上記の頭数をこなすためには、予定の手術だけでも平日だけでは不十分で、土曜も日曜も祝日も予定を入れてこなしていかなければならない。

そして、夜中の診療も含めないと上記の件数にはならない。

しかし、4名から5名態勢になったのは大きかった。

4名のうち1名が休むだけだと週休2日にはならない。

繁忙期は1名、非繁忙期は2名が交代で休むことで馬産地の救命救急センターの役割を果たせていると

考えている。

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ことし”は”どうぞお手柔らかに;笑

 

 

 

 


大学での講義

2019-11-10 | How to 馬医者修行

某大学に呼んでいただいて、「産業動物診療についての理解醸成のための講習」、のうちの「馬生産地域の馬の診療」、について講義してきた。

中央畜産会が経費負担して行っている獣医科大学生対象の講義で、

大動物診療をめざす学生が減って不足しているので、「理解醸成」が必要だということなのだろう。

大動物診療に当たっている獣医師も組織も、その必要性はわかるでショ?協力するのが当然でショ?ということで、

ほとんどボランティア;笑

しかし、行かねばなるまい。

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午前中は、宮城NOSAIの先生が、牛群管理の講義をしていた。

私は途中から聴かせてもらった。

飼養管理、代謝プロファイルテスト、繁殖健診、蹄病管理、etc.

酪農場の実態を知っていないと理解も興味も持てない内容だと思うのだが、学生たちがわりと真面目に聞いているのに感心した。

以前来たときは、広い階段教室のうしろ、上の方にだけ学生が集まり、やる気のなさがいっぱいだったのだが・・・

ずっとスマホをいじっているのが5%、寝ているのが10%くらいは居たけどね。

                  -

私は午後から3時間の講義。

生産地でどのような馬の診療が行われているか。

生産地の馬の死亡廃用事故は何が多くて、助けるためにどうするか。について話した。

質問は出ない。

「NOSAIが馬の診療をしているのを知りませんでした」

「実習に行きたいんですけどどうすればイイですか?」

と言ってきた学生も居たので、まあこうやって自分達の職域を説明に来ることも必要なのだろう。

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往復船中泊で出張した。

帰りのフェリーは揺れた。

さすがに睡眠不足がこたえた。

                          

 

 

 


やってみよう関節鏡 part2

2019-10-22 | How to 馬医者修行

日曜日は「やってみよう関節鏡」の第2班。

それぞれの関節の解剖は、教科書で勉強しても3Dで頭に入っているわけではない。

それだとX線撮影もなかなかうまく行かない。

決まった角度でX線撮影できるようになっても、特別な工夫をした角度の撮影は想像がつかない。

広い関節、狭い関節、そして関節を取り巻いている関節包や靭帯の構造を意識できると、関節穿刺や関節洗浄もしやすい。

「腫れている」のを触診しても、それが関節腔なのか、関節周囲なのか、腱鞘なのか、わかりやすい。

馬の獣医師が関節を扱うことはこの30年たいへんに増えたのだと思う。

それには関節鏡手術の普及が大きな役割を果たしてきた。

体験しておくことの意味は大きいと思う。

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さあ、ラグビー応援しに帰ろう!!

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負けちゃったけど、楽しませてもらったし、感動した。

サッカーにはない善さがある文化と伝統になっている。

準備して鍛錬を重ねれば今まで行けなかったところまで行けることを見せてもらった。

ありがとう!!

 


私が学生実習に来たころ 4

2019-10-13 | How to 馬医者修行

取り壊されていく研修センター。

私が実習に来たのは昭和58年(1983)だから、診療センターと町立畜産研修センターの開所から8年目ということになる。

その間、毎年10人や20人は学生実習に来ていたと思うので、100名近い獣医科学生が実習に来たはずだ。

しかし、私が就職したとき、この地区の農業共済組合にはここでの実習経験者はいなかった、と記憶している。

実習を経て就職したのは、私が初めて?

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以降は、採用者には実習経験者がたくさん居る。

NOSAIだけではなく、地元の軽種馬農協にも居るし、開業している先生も居る。

馬の業界で、他の地域で働いている実習経験獣医師も多い。

JRAにも、地方競馬にも、牧場にも数多い。

あらためて、責任の重さを感じている。

「ハコモノ」としても必要なものだった。

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これは直腸膣瘻です。第三度会陰裂傷ではありません。

初産で、子馬の鼻や肢が肛門から出て、そのまま生まれてしまうと第三度会陰裂傷になりますが、

押し戻して、陰部から生ますことができたら、直腸膣瘻になります。

直腸膣瘻は、自然治癒することもありますが、今回のようにとても大きく裂けていることもあります。

小さい瘻管が残っている例では、とても見つけづらいこともあるので、しっかり観て、触って診断することが重要です。

直腸膣瘻は直腸と膣の間を切り分けます。

この切り分けが難しく、とても重要です。

そうやっておいて、直腸の穴と膣の穴をそれぞれ別にしっかり縫合します。

術前・術後に絶食し、下剤をかけ、直腸に便が数日来ないようにすることもだいじです。

壊れたら再建する。

いったん破壊してでも、再建します。