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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

舌骨 その機能

2011-10-29 | 呼吸器外科

Pa251566 その妙な形の舌骨がどのように機能しているかというのはなかなか難しい。

左図と以下の文章はEquine Surgery 3ed.から。

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鼻咽頭は呼吸と同様に嚥下にも関わっており、食道へ食塊を進めるために収縮し、かつ、肺へと肺からの空気の流れを邪魔しないように運動中には拡張しなければならない。

これらの機能は独特の位置にある筋肉により行われていて、一群の筋肉は咽頭の収縮と拡張を行うことができる。

馬におけるこれらの筋肉の正確な機能は完全には解明されていないが、馬と他の動物種での研究において、概要はわかってきている。

 舌骨構造は非常に重要で、舌の根元と喉頭と同様に咽頭も支えている。

舌骨構造の筋肉は次のような仕組みで吸気時に収縮して咽頭を拡張させている。

頤(おとがい)舌骨筋と頤舌筋は吻側・腹側へ、一方胸骨舌骨筋と胸骨甲状筋は尾側・背側へ引っ張る。

この組み合わせ効果は、茎状舌骨と角舌骨関節を伸展させ、舌骨は腹側へ動き、鼻咽頭は安定しさらには拡張もする(上図)。

DDSPの推奨される手術の1つは、胸骨舌骨筋と胸骨甲状筋の切断である。

この手術の目的は、喉頭蓋を吻側へ動かし、そのことで軟口蓋に咬み合せることである。

先に述べたように、胸骨舌骨筋と胸骨甲状筋の切断は咽頭の拡張を妨げることは明らかで、咽頭の虚脱を促進するかもしれない。

運動中の馬で計測すると、胸骨舌骨筋と胸骨甲状筋の切断は運動中の馬の気道の抵抗をわずかに増やすことが示唆されている。

(つづく)

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大学で講義して、翌日はお隣の獣医師会の講習会に出てきた。

今年のテーマは「馬の呼吸器」。

競走馬の輸送性肺炎、馬の肺胸膜炎、Rhodococcus equi感染子馬のスクリーニング、子馬の間質性肺炎、子馬の気管裂傷、運動中喉頭内視装置、馬の喉頭の軟骨の個体差についての文献紹介、上部気道のLASER手術とたいへん興味深く、勉強になった。

参加者90名とのこと。

こんなに馬医者がいるんだね~。

もっとも本州からの参加者や学生さんもいたようだ。

良い内容なら人は集まるんだね~。


披裂軟骨炎による肉芽

2011-10-06 | 呼吸器外科

繁殖雌馬が、ときどき呼吸音がおかしいので、内視鏡検査をしてもらったら喉頭にポリープが見つかったとのこと。P9301411

披裂軟骨炎による肉芽腫のようだ。

気管裂を塞ぐほどの大きさなので、運動能力を要求されない繁殖雌馬でも、この肉芽を切除しないと呼吸が苦しくなるだろう。

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切除する手術方法としては、全身麻酔して喉頭切開し、肉芽を切除する。

難しくはないかもしれないが、全身麻酔のリスクと費用、喉頭切開傷が自然に閉じるのを待つ期間が必要になる。

もう一つの方法はLaser surgery。

馬が大人しければ立位枠場保定でできるかもしれない。

ただ、肉芽腫がくびれた茎を持った形状をしているかどうか・・・・

そして、肉芽腫をしっかり保持したり掴み出せる鉗子が欲しいところだ。

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P9301407で、うまく取れた。

茎がある形状をしていたが、物自体が大きいので茎部の径も1cm以上ある。

筋になっているのはレーザーファイファイバーを押し当てて焼灼しつつ刺すことを繰り返して切断したからだろう。

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P6200681Equine Respiratory Medicine and Surgery は新しい情報が載った良い本だが、

この病気で載っている症例は右の写真なので、

「勝ったな」と嬉しくなった私は馬鹿だ;笑。

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今日は、1歳馬の去勢。

紹介した症例とは違う披裂軟骨炎の肉芽切除。Laser Surgery.

当歳馬の口角の外傷。

眼窩下孔で神経ブロックして立位で縫合。

競走馬の飛節のX線撮影。

2歳馬の跛行診断。副手根骨の遠位で中手骨神経神経をブロックすると跛行はほぼ消失した。

5ヶ月齢の黒毛子牛の中手骨骨折のキャスト固定。

4頭入院していた疝痛馬達は3頭は退院していった。

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避難小屋。

愛想も商売気もない呼ばれ方。

人の多い季節には管理人さんがアドバイスや注意を与え、

無人になる冬にも2階から逃げ込めるようになっている。

最後の砦、拠り所。

P9291482


2回目の手術

2011-07-12 | 呼吸器外科

むかし、何かで病院へ行ったら、救急車で急性腹症の患者さんが運ばれてきた。

相当痛いらしく「うんうん」唸っているのだが、看護師さんが尋ねている。

「1回目の手術はどこで受けたの~?」「う~ん・・う~ん」

「2回目の手術は何の手術だったの~?」「う~ん・・う~っ」

「3回目の手術はいつの話なの~?」「う~ん・・う~!」

どうやらそのおじさんは何度か開腹手術を受けており、癒着による腹痛に気をつけていたのだが、たまたま遊びに来た知人のところで発症してしまったらしい。

その病院は開腹手術できる病院ではなかったのだが、転院させるにしても患者の情報を付けて送らなければならないのだろう。

どこの病院で手術を受けたのか聞き出して、問い合わせもするようだった。

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馬も手術が増えるにしたがって、2回目の手術が増えてきている。

前回の手術がいつで、どんな手術だったかは、2回目の手術をするかどうかにも関わってくる。

しかし、その馬が以前に手術を受けていることさえわからないことがある。

術野の毛を刈ってみてはじめて、「あれっ?手術した痕がある」となる。

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 疝痛の症例では、以前に開腹手術歴があれば癒着疝が大いに疑われる。

腸捻転や重積を疑えばできるだけ早く開腹した方が良いが、癒着による通過障害だけなら、辛抱して待てば、元の生活に戻れることもある。

 関節内の骨片骨折では、手術を受けたことがない馬なら、X線撮影して欠損部があったり、骨膜や骨棘があれば、関節内に損傷があることが間違いないので、「関節鏡手術しましょう」となるが、

以前に関節鏡手術を受けている関節だと、多少の異常所見があるのは当たり前で、2回目の手術をするかどうかは、もっと慎重な判断が必要になる。

 喉頭片麻痺では、左の披裂軟骨が動かなければ「手術しましょう」となるが、

以前に喉頭形成術を受けている馬だと、2回目の喉頭形成術は難しくなり、成功率は低い。

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「そう言うと、前にどっかで手術したって言ってたな・・・・」という話ではないのだけれど。

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Dsc_0534アヤメ?

カキツバタ?


ADAFは定着するか?

2011-06-11 | 呼吸器外科

P6200686ADAF axial deviation of aryepiglottic fold ; 披裂喉頭蓋ヒダの軸側逸脱の文献。

                            -

52頭の競走馬での披裂喉頭蓋軸側逸脱の臨床的経験

King DS, Tulleners E, Martin BB Jr, Parente EJ, Boston R

                 Vet Surg. 2001, 30(2) 151-60

目的

 ADAFを示した52頭の競走馬の臨床所見を記載し、これらの馬のうち33頭の休養後あるいは内視鏡下レーザーによる披裂喉頭蓋ヒダ切除後の結果を報告すること。

研究のデザイン

 回顧的調査

症例の構成

 競走成績不良で高速トレッドミル検査された競走馬

方法

 診療記録と安静時と運動時の内視鏡検査のヴィデオを調査した。ADAFが有り、他の上部気道障害がない33頭の馬の外科処置と休養後の結果を、少なくとも1年以上の競走成績と馬主と調教師への質問を用いて比較した。

結果

 ADAFは成績不振で検査された馬の6%に認められた。種類、性別、などには関係しなかったが、ADAFがある馬は高速トレッドミルで検査されたほかの全体の中で若い傾向にあった。ADAF馬52頭のうち19頭は少なくとも1つの他の上部気道障害を持っていた。ADAFと他の動的上部気道障害の間に明らかな関係は認めなかった。外科的処置は立位あるいは麻酔下で併発症無しに行うことができた。ADAFだけが上部気道の障害であった症例では、手術を受けた75%の馬と、休養した馬の50%の馬が客観的に成績が改善した。馬主と調教師は、手術を受けた馬において成績のより大きな改善を認めた。

結論

 ADAFの外科的治療が推奨される一方、臨床的経験によりすべての馬でADAFを改善するために手術が必要とされるわけではないことが示唆された。しかし、手術を受けた馬の馬主と調教師は保存的に治療された馬以上に結果に満足した。

臨床的関連

 ADAFの診断は高速運動中のヴィデオスコープ検査によってのみ可能である。内視鏡下でのレーザーによる披裂喉頭蓋ヒダの虚脱する部分の切除は立位の馬で安全に行うことができ、気道閉塞は改善され、早期に調教に復帰できる。

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P6101144内視鏡下でレーザー手術を行うには、ダイオードレーザーに対応したヴィデオスコープが不可欠だ。

最近のヴィデオスコープはダイオードレーザーの波長に合わせたフィルターが入っていて、レーザーを出力中もハレーションを起こさない。

このフィルターが入っていないスコープだと、レーザーを出力すると、画面が真っ白になって何も見えなくなってしまう。

内視鏡を挿入する人、内視鏡とレーザーファイバーを操作する人、鉗子を操作する人、3人の技術とチームワークが大切。

3人が操作しやすい位置にヴィデオスコープのモニター画面を置いた方が良い。

そして、馬が大人しく、よろめかない程度にしっかり鎮静されていることが必要。

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もう馬関係者にDDSPという用語が定着したように、ADAFという用語が定着するだろうか?

運動中の喉頭内視鏡検査、そしてレーザー手術が普及していかないと、6%の馬は救われない。

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P6111149


披裂喉頭蓋ヒダの虚脱(軸側逸脱)

2011-06-10 | 呼吸器外科

Photo 披裂軟骨と喉頭蓋を結んでいるヒダが、運動中に陰圧に吸い込まれて気道を狭くしてしまう障害がある。

(左右写真はEquine Respiratory Medicine and Surgery より)

披裂喉頭蓋ヒダの虚脱、

あるいは軸側(軸側とは中心線寄りのこと)逸脱P6200685_2

axial deviation of the aryepiglottic folds (ADAF) などと呼ばれるようだ。

(displacement ではなく、deviation となっているので、「変位」と区別して「逸脱」でどうでしょう?;笑)

これは、安静時の喉頭内視鏡検査では観察されることはなくて、高速運動中の喉頭内視鏡検査をして初めて診断される。

治療法はない。と説明している獣医師もいるようだが、そんなことはない。

P6200683 披裂喉頭蓋ヒダを長い鉗子でひっぱっておいて、内視鏡下でレーザーで切除する。

披裂喉頭蓋ヒダが小さくなることと、硬く瘢痕収縮することで吸い込まれにくくなるのだろう。

(左写真もEquine Respiratory より )

馬が大人しければ立位でできる。

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P3100954_2のど鳴りする2歳馬で、高速運動中に披裂喉頭蓋ヒダ軸側変位が確認されたということで、

レーザーによる披裂喉頭蓋ヒダ切除手術を行った。

術後はのど鳴りしなくなり、経過は順調だそうだ。

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今日は、子馬の腕節のvarus(内反)のsingle screw 法による成長板阻害手術。

繁殖雌馬の鼻出血の内視鏡検査。

セールのレポジトリー検査。

2歳馬のDDSPとADAFの内視鏡下手術!

Dsc_0481