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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

高速運動中の喉頭内視鏡検査

2011-06-06 | 呼吸器外科

Photo2歳馬の喉の検査をしたのだが、安静時の内視鏡検査では異常がなかった。

披裂軟骨は左右対称で、開き方も良く、喉頭蓋もしっかり反り返っていた。

症状も、DDSPを疑うけれど、典型的なブルブルゲロゲロではないようだった。

 それで、高速運動中の喉頭内視鏡検査をやってもらうことにした。

トレッドミルに乗せるのではなく。

                           -P6061117

那須でデモンストレーションを見せてもらったことがあるが、実際に2歳馬が大人しくつけさせるかどうか心配だった。P6061118_4

が、ほとんど嫌がりもしなかった。

通常の馬具と変わらないので、毎日乗っている馬なら心配いらないようだ。

スコープを鼻から入れるときだけ鼻捻子をして、セットしたら、調教コースへ(右)。

P6061121_2以前紹介した、運動中に喉頭を内視できるスコープは騎手が背負うタイプの物だった。

騎手が背負っていると、万が一落馬したときに、機械が壊れるだけでなく、人も馬も怪我をするかもしれない。

今回の機械はすべて馬に装着されているので、そういう心配はない。

手元にあるのは、リモコン。

スコープの先を上下左右に動かしたり、水や送気を操作できる。

現在の画像も観ることができるが、距離が離れると送信されてこないので、実際の診断は馬に積んだパソコンに録画された画像を後で観て行う。

P6061130_2 左右の披裂軟骨の開きは良好。

まったく麻痺はない。

正常な馬の披裂軟骨は運動中こんなに開く(左)。

お~DDSPだ(右)。P6061132_6

喉頭蓋が軟口蓋の下に潜り込んでしまう。

こうなると充分に吸気できず、

呼気のときは軟口蓋がさらに上へ吹き上げられて、異音がする。

そして、さらに、

P6061129_2 披裂喉頭蓋ヒダの虚脱、あるいは軸側変位だ。

声帯も虚脱している。

DDSPと複合されたこれらの異常が、この馬の高速運動時の「のど鳴り」と、呼吸の苦しさなのだろう。

単純なDDSPだけではないので、DDSPの典型的な症状や経過でもなく、音もゲロゲロ音だけではなかったのだろう。

診断はついた。

後は馬外科医の腕と経験で、必要と思われる処置をする。

                           -

育成馬や競走馬ののど鳴りは大きな問題だ。

しかし、何度か書いてきたように安静時の喉頭内視鏡検査だけでは高速運動中に何が起こっているのか診断することはできない。

トレッドミル上で馬を高速運動させて、その間に喉頭を内視する方法が行われてきたが、トレッドミルで馬を高速運動させるには馴致が必要で、さらには肢が腫れたり、あるいは致命的な骨折事故が起きる可能性もある。

それに比べると、この馬に装着して運動中に喉頭内視画像を録画できる機械は、安全に運動中の検査ができる。

トレッドミルは屋内の置き場所が必要だし、検査するには良く慣れた3名以上の人が必要だ。

それに比べれば安価だし、人手も要らない。

競走馬・育成馬の喉を正確に診断するための必需品になるだろう。  

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今日は好い天気で、さわやかだった。

Dsc_0460_2  Dsc_0466こんな日に外で仕事ができると幸せだ。

 


つながってる? 左右の喉嚢

2011-06-02 | 呼吸器外科

左右の喉嚢は中隔で分けられている。Dscn6621

交通はない。

だから、片方の喉嚢真菌症で大出血しても、反対側のフラップからは血が出てこない。

たいていは・・・・・・・

Dscn6614 しかし、喉嚢の中隔上に病変ができると(左写真)、中隔が破れてしまうことがある。

そうなると左右の喉嚢はつながってしまう。

もっとも、左右がつながること自体は問題はないようだ。

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P9140022_2 喉嚢の入口がうまく働かなくて、空気が入るだけで出てこなくなると、喉嚢鼓張症と呼ばれる状態になる。

ほとんどが子馬なのだが、喉嚢が膨らんで、嚥下や呼吸に障害が起きる。

片方の喉嚢の入口(フラップ)だけが問題のときは、中隔を破って左右の喉嚢をつなげてやるだけで、喉嚢鼓張が治る。

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ひょっとすると、左右の喉嚢はつながっているほうが都合が良いのではないかと思うのだが・・・・

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今日は、競走馬の腕節剥離骨折の関節鏡手術。

こんな可愛い名前の馬に蹴られたくない;笑。

ポニーの難産(右)。P6021107_2

当歳馬の細菌性関節炎の関節洗浄。

後膝だったが、3つの関節はつながってしまっていた。

午後、血液検査業務。

2歳馬の去勢。

繁殖雌馬の疝痛。と言われたが子宮穿孔だった。

開腹手術して子宮の裂孔を修復し、腹腔内を洗浄する・・・

のだが、予定していた2歳馬と競走馬の跛行診断が3頭。

神経ブロックで痛い箇所を探るが、馬が針を刺されることに怒ってしまってうまくいかない。

注射器を持って近寄ろうとすると蹴りに来る。

賢い馬だ;笑。


直角剪刀

2011-04-01 | 呼吸器外科

P3090952_2 こんな鋏、何に使うんだろうと思うのが普通だと思う。

DDSP 軟口蓋背側変位の古典的な手術のひとつに Styaphylectomy 口蓋垂切除がある。

軟口蓋の尾側辺縁を切除する。

この手術が始められた当初は、軟口蓋が長すぎて喉頭蓋に被さっているのではないかとか、

形が悪いので喉頭蓋に被さるのではないかと思われて、軟口蓋の辺縁を切りとろうとしていたのかもしれない。P3140970_2

今は、軟口蓋を短くしたり、形を変えるのではなく、辺縁をわずかに切除することで瘢痕収縮させて、硬くすることで喉頭蓋がその腹側へ落ち込まないようにしよう、という考えで行われるようだ。

それで、5mm以上の幅で切り取らない方が良いとされている。

右図はThe manual of equine field surgery より。

P3090951_2 喉頭切開創から鋏を入れて、軟口蓋を引っ張っておいて、その縁を切除するのだが、長い鋏でも、普通の鋏では非常に切りにくい。

狭い喉頭切開創から吻側へ鋏を入れて、入れる方向とは直角に切らなければならないからだ。

で、このような直角に曲がった鋏が必要になる。P3090946_2

この鋏を持っていないのに、軟口蓋の辺縁切除をしようとしない方が良いと思う。

そして、この鋏は、今のところ、それ以外の使い道を私は知らない。

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stap ; ブドウの房。

staphylococcus ; ブドウ球菌。

口蓋垂 口蓋帆 のどちんこ uvula

口蓋垂切除術 のどちんこ切り取り uvulectomy, uvulotomy, staphylectomy

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朝は難産。

予定日より25日早く、流産だったようだ。

全身麻酔後肢吊り上げで引っ張り出す。

その後、予定していた2歳馬のTieback&Ventriculocordectomy.

午後は4歳競走馬の腕節剥離骨折の関節鏡手術。

夕方から、1.5ヶ月齢の当歳の第一趾骨遠位部の完全縦骨折のスクリュー固定。

骨がやわらかく、感染に弱く、独特の難しさがある。

まだまだ大きくなることと、再生能力・治癒能力の高さに期待しよう。


2011冬公獣協研修 2

2011-02-06 | 呼吸器外科

研修2日目のキャスト固定。

ハーフリムキャストを、中手骨と指骨が直線状になるように、蹄先まで覆うように巻くことをポイントにした。

が、どうもキャストの硬化が悪かった。

おそらく、水の中でよく揉み解さなかったのが原因だろうと思う。

キャストの取り扱い説明書には、水をあまり搾りすぎると速く固まるが発熱が強すぎる。と書いてある。

しかし、立位の馬の肢を持ち上げて巻く場合は、水中でしっかり揉み解し、しっかり搾って速く硬化させた方が良い。

                           -

 翌日は、生産地の急性腹症の手術がどのように増加し、どのように治癒率が向上してきたかを講義した。

発症後、早くに来院し、早くに手術することで救命率が向上する。

そのことでまた早くに来院し、開腹手術する決断できるようになる。

その鍵は初診を行う獣医師が担っていること。

を知っていただきたかった。

 生産地のように馬の密度が高くないところでは、それぞれの獣医療の事情もあるが、

放っておけばもがき苦しみながら死んで行くしかない馬を、1頭でも助けるところから始まるのだと思う。

                           -

P2030901  開腹手術が長引いたので、昼食抜きでダイナミックラリンゴスコープ?(運動中に喉頭を内視できるヴィデオスコープ)のデモンストレーション。

3時にカレーライスをかき込んでから、運動中の喉の動画を観せてもらった。

その後、喉の異常の診断と治療の講義をして、Tieback(片麻痺の治療としての喉頭形成術)のデモ。

どういう手術で、どういう効果があり、どういう問題があり、予後はどうか、ということは、実際には手術を行わない獣医さん達にも知っておいてもらいたい。

「喉鳴り?じゃあ手術。」というほど簡単には行かないし、

「喉鳴り?手術しても治らない」というわけでもない。

トレッドミルより安全に運動中の喉の様子を検査できる機器は、今まで診断できなかった異常を診断でき、今まで治せなかった症例を治せるようになるひとつの手段になるだろう。

(つづく)

                            

 


代替療法 alternative medicine

2010-10-15 | 呼吸器外科

Pa150585_2  咽頭虚脱(狭窄)とDDSPを起こしてしまう2歳馬。

喉頭内視鏡検査で状態を把握した後、

中国針・電気針をやってもらった。

 電気刺激中に喉頭内視鏡検査をしたら、施術前より咽頭の弛緩が取れて良い感じ。

                            -

Pa150586_2 針治療、カイロプラクティック、漢方、マッサージ、リフレクソロジー、ハーブ、ヨガ、気功、オステオパシー、ホメオパシー、etc.などは代替療法とされている。

通常医療以外の治療法ということらしいが、この定義は「では通常医療とは何か?」

ということになってしまう。

最近ならEBMに基づいて進もうとするのが通常医学。

それ以外の伝統、慣習による治療が代替療法。ということになるのかもしれない。

しかし、代替療法を科学的に捉えようとする努力も必要だろう。

そして、効果が出る機序が理解され、効果があることが証明されれば、それはEBMに則った立派な通常医療であるはずだ。

 効果があるかどうか疑ってはいけない。信じるものは救われる。信じないと出る効果も出ない。なんていう代替療法なら、信じるに値しないと思うけどね。

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 午後は披裂軟骨炎の2歳馬のTieback手術。

日が暮れて、1歳馬の外傷。

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Pa150587_2 会員資格の更新(会費納入)がまだです!

会費を払わないと・・・・

「これがEVEの最後の刊になるわよ!!」

USA人のすることは派手で強気だ(笑)。