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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

香港 DDSPの外科治療

2012-01-20 | 呼吸器外科

P1171678 Dr.Ducharmeが示してくれたDDSPの外科治療の一覧。

1)口蓋帆切除

2)吻側口蓋形成

a)口蓋縫縮

b)熱口蓋形成

c)laser口蓋形成

3)尾側口蓋形成

a)laser口蓋形成

b)硬化剤

c)Pillarの手技

d)Berwitzの手技

4)喉頭蓋増強

5)牽引筋切除

a)胸骨舌骨・胸骨甲状筋

b)胸骨舌骨・胸骨甲状筋・肩甲舌骨筋

c)Llewellynの手技

6)Tieforward

まあ、なんとこんなに方法がある。

逆にいうといままで決定的な方法はなかった。

                     -

P1171676 左は口蓋帆切除。

軟口蓋の尾側縁を切除する。

古くは、この部分が喉頭蓋にかぶさるのがDDSPなのだから切って短くしてしまおうと考えられたらしい。

しかし、短くしてしまうと喉頭蓋が簡単に下に落ち込んでどうしようもなくなる。

今は、硬くしてやって、喉頭蓋が落ち込みにくいようにしようというのがその考えのように思う。

だから0.75cmしか切らない。

最近は喉頭切開せず、laserでやる馬外科医もいるようだ。

                      -

P1171677 こちらは軟口蓋の尾側をlaserで焼灼する方法。

これも軟口蓋を硬くしようという考えなのだろう。

しかし、焼きすぎると孔が開いたり、裂けたりしてしまう。

軟口蓋の尾側部分は薄いので注意が必要だ。

                       -

いろいろな外科治療でずいぶん良好な成績が報告されたりもしてきたが、詳しく研究されたり、他の人がやってみると結果はそんなによろしくない。

そこで!Dr.Ducharmeは画期的な方法を考案した。

P1171680_2喉頭蓋が尾側に引かれて軟口蓋の腹側へ落ち込んでしまうなら、喉頭蓋が付いている甲状軟骨を前(吻側)へ引っ張ってしまおう!

ひっぱる支点には・・・舌骨を使おう!

これがTieforward手術。

                      -

しかし、この手術にも問題はあって、舌骨にドリルで孔を開けて糸を通すのだが舌骨が壊れてしまうとか、

甲状軟骨が壊れてしまうとか。

P1171711それで、その後も工夫が積み重ねられてきたようで、

左図はEquine Surgery 4ed.に載っている図。だそうだ。

(私はまだ去年出た最新版を持っていない)

底舌骨にドリルで孔を開けて糸を通していたのを、舌突起に糸を巻くように縛りつけている。

香港では、さらに改良された糸の通し方を教えてもらってきた。

以前の方法より甲状軟骨を前、背側へ強力に牽引することができ、喉頭蓋は強く上を向く。

                       -

最新の教科書を読んでも書かれているのは既に報告された知見だ。

学会発表を聞いても既に数年前から集められた成績だ。

トップにいる先生が現在進行形で今、何を考えて、どうやっているか、それを直接教われる今回のような機会はたいへん貴重で価値があるものだ。

                       //////

P1131646 香港の街なかで見かけた小動物病院。

香港の大学には獣医学科は今は無いそうだ。

香港ではほとんどの人が集合住宅に住んでいるので、大型犬を飼える人はほとんどいないだろう。

小型犬や猫も飼い辛いのかもしれない。

小鳥や、爬虫類が人気があったりするのだろうか・・・


香港 DDSPの保存的治療

2012-01-19 | 呼吸器外科

DDSPにはいままでさまざまな治療方法が報告されてきた。

牧場に話すと、「舌縛りすると良くなりますよ」などという返事が返ってきたりする;笑。

それで全部のDDSPが良くなるなら誰も苦労はしない。

P1161674_2 しかし、確かにこれにはDDSP馬の管理方法の真実があって、

運動を休んでしまうのではなく、その馬に適した強度の調教を続ける。

3歳まで成長を待ってやる。

舌縛りをする。

こういう調教方法の変更で、61.3%のDDSP馬は獲得賞金が増えた。

という報告もある。 

                       -P1161673

このブログで紹介したこともあるCornell Collar。

甲状軟骨をしたから持ち上げることでDDSPを起こさないようにしようという馬具で、

名前の如くCornell大学が開発したのであり、Dr.Ducharmeがまさにその人である。

P1161675 右はその効果についての実験的研究で、

7頭の馬で実験的にDDSPを作った。

動脈ガスや気道抵抗を測定して評価した。

上部気道に問題がない馬ではCornell Collarをつけても効果はなかった。

14回のうち13回で運動中に起こるDDSPをCornell Collarは予防した。

という素晴らしい結果が示されている。

ただし!

「Dr.DucharmとCornell大学はこの製品が売れると利益を得ることを暴露しておく。」

とある;笑。

                       -

DDSPは若い育成馬でたいへんよくある問題だ。

調教を続けながら成熟を待てば良いと言っても、すぐゲロゲロ鳴り出してしまう馬ではそうもいかないことも多い。

Cornell Collarはやってみる価値がある方法だと思う。

                       -

ただJRAは競走でのCornell Collarの使用を禁止してしまった。

競走結果を左右しかねない馬具の使用は認められないということらしい。

(鞭やシャドーロールはどうなんだ?)

で、Dr.DucharmeはCornell Collarと同様の効果をもつ手術方法も開発した。

それがTieforward手術なわけだ。

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P1111614_2 今回、実習にヴィデオスコープが必要だということで、Storz社が協力してくれたのだそうだ。

Storzのヴィデオスコープを観るのは初めてだったが、光源、モニター、ヴィデオセンターが一体になっていて、持ち運びしたい馬の診療にはとても良いだろう。

上のは旧式で、下のが新しいタイプ。

  非常にコンパクトで、取っ手までついている。

USBポートが付いていて、画像を出力できる。

たいへん使い勝手は良さそうだ。P1111615_2


香港 DDSPの診断

2012-01-18 | 呼吸器外科

P1161657 馬の上部気道障害についての最近の大きな話題は調教コースで走っている最中の馬の喉の様子を内視鏡検査できる内視鏡が開発されたことだ。

それまではトレッドミル上で高速運動をさせながらでないと動的な障害は診断できなかった。

左のグラフはトレッドミルで診断した障害と、各報告者が運動中内視鏡(OverGround Endoscope)で診断した喉の障害の比率を示している。

対称とした馬が異なっているので、それぞれ正しい診断なのかもしれないが、

DDSPやADAF(披裂喉頭蓋襞軸側変位)などはトレッドミルだと過剰にそうだと診断してしまう傾向にあるのかもしれない。

OverGround Endoscopyがトレッドミルより何もかも優れているかと思われがちだが、トレッドミルよりコースや乗り役やスピードの条件を一定させるのが難しく、運動中の心電図や血液サンプルなどを採ることもしにくい。

これからもトレッドミルは研究目的などでは使われていくだろう。

                       -

P1161670DDSPの診断について言えば、

「安静時の喉頭内視鏡検査は運動中内視鏡検査による所見とはあまり相関しない。

安静時にDDSPを起こすスポーツ馬で、運動中に間欠的なDDSPを起こす率は7.7%にすぎなかった。」

という文献が紹介されている。

また、DDSPは特徴的な喉鳴りをするので、症状で把握できると思いがちだが、そうでもないこともわかってきたようだ。

競走馬の「喉鳴り」でもっとも多いと思われるDDSPは、症状や、安静時の内視鏡検査で診断するのはとても難しい。ということだ。

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P1131638 3日間、午後の実習は沙田競馬場の「獣医部馬医院」で行われた。

香港城市大学からバスで連れて行ってくれる。

馬病院は、こじんまりとしかし機能的に造られていた。

P1131639 (世界的に馬医者は玄関やホールに馬の骨格標本や剥製を飾りたがるものらしい;笑)

 正面玄関から入ると1階に薬局、手術室、X線室、馬房、診察室。

少し離れて、トレッドミル室、など。

P1121633実習は病院のあちこちを使わせてくれた。

死体の頭は豊富に用意されていて、喉や鼻の手術を実習させてもらった。

       -

Dr.Riggsと話したが、ここの 手術頭数はそんなに多くはない。P1131641

喉頭形成術は年間10-15頭くらいだそうだ。

私は30-40頭やると言ったら、「そりゃ多いな」と言っていた。

「この次は、疝痛か、関節鏡応用コースのセミナーを開こうかと思っている。」と話しておられた。

「疝痛の手術は好きか?」と尋ねられたので、

「馬を救うことができるので、好きだ。年に100頭以上やる。」と言ったら、あきれていた;笑。

P1111613     -

香港ジョッキークラブ式?鼻捻子。

太くて丸いので回しにくい?

先に角がないので馬の唇を傷つけにくい?

紐が長いのは手がでかいから?

あんまり使い勝手は良くなさそうだ;笑。


香港 DDSPの機序と解剖構造

2012-01-17 | 呼吸器外科

  P1161666_5 今回の香港Upper Airway Symposiumでも感じたのは、診断や治療の基礎にある解剖学や生理学や上部気道の機能を理解することのたいせつさだ。

馬に何かの障害があり、外科手術方法があると、ついつい手術手技に意識が行きがちだ。

それで良くなるなら問題ないのかもしれない。

しかし、うまくいかないことがあるので考えなければいけないときに、見よう見まねで手術していたのでは進歩できない。

                       -

P1161667  しかし、喉の構造や機能は非常に複雑だ。

多くの神経が多くの筋肉を動かし、それが特有の形状をした軟骨や舌骨や軟口蓋を動かして呼吸や嚥下を司っている。

DDSPの馬では、舌縛りや、8字の鼻革や、特殊なハミが効果をあげることがある。

それがどうしてなのかわかっていれば、うまくやれるかもしれない。

舌の奥には舌骨があり、した骨は甲状軟骨にくっついている。

舌をひっぱることで甲状軟骨が前へ引かれれば、甲状軟骨にくっついている喉頭蓋がしっかり軟口蓋に乗っかり、落ち込みにくくなるわけだ。

                       -

P1161669右はDr.Ducharmeが示した文献資料。

「調教しているサラブレッドでは喉の異常の5-27%がDDSPによるものだった。」という文献や、

「27-50%」だったとする文献、

「スポーツ用馬では4-54%であった。」とする文献が紹介されている。

他の研究者の成績もきちんと把握しているところはさすが大学の先生で、その分野の専門家だ。

そして、DDSPはおそらく競走馬のもっとも多い喉の障害なのだ。

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P1111619

シンポジウム初日の夜はHappy Valley競馬場で食事をしながら競馬見学。

テーブルを囲んでsmorgasbord(バイキング式)で食事を楽しみ、テラスへ出て競馬も見れる。

香港は人口700万で、2つの競馬場があり、馬券売り上げは1兆円だそうだ。

どんどん伸びているそうで、その勢いと余裕が今回のシンポジウムの開催につながっているのだろう。

P1111623 馬の名前も英語名と漢字名で併記されている。

その訳し方が意訳になっていて面白い。

「さあ、馬券を買ってください。それが私のサラリーになります。」

と、Dr.Riggs。

伸びていく中国の活気を香港競馬でも感じた。

P1111625

                 


tieback surgery

2011-11-26 | 呼吸器外科

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YouTube: Horse Roaring, this is Roaring Horse Tie Back Surgery

のど鳴り(喘鳴症)の馬の喉頭形成術のコマーシャルヴィデオだ。

のど鳴りは roaring と呼ばれる。

内視鏡検査が普及して、喉頭片麻痺 laryngeal hemiplegia (喉頭片側不全麻痺)と呼ばれることが多くなった。

しかし、さらに最近では、RLN recurrent laryngeal neuropathy と呼ぶほうが正確だということになってきたようだ。

hemiplegia 片側麻痺にしても、paralysis 麻痺にしても、完全に麻痺することを指すからだと言う。

が、「paresis 不全麻痺」という用語もあるのに使わないのは、迷走神経反回枝の喉頭支配枝の障害であることがはっきりしたからそう呼ぼう。ということのようだ。

                      -

治療方法としては、このヴィデオのように喉頭形成術(この呼び名も無理があるように思う。俗称だがTiebackの方がピンと来る。)が行われることが多い。

しかし、麻痺あるいは不全麻痺に対して、麻痺を治す治療ではなく、開かない(外転しなし)披裂軟骨を引っ張って開きっぱなしにしようという手術なので、かなりの無理がある。

 このヴィデオではかなり大きく切開しているが、血管や神経が多い部分なので、外科侵襲を少なくすませることも大切だと思う。

使っている道具、糸の通し方、など私のやり方とはかなり違う。

喉頭切開して声嚢声帯切除しているのは私と同じ。

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