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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

春の1日

2014-04-08 | 呼吸器外科

P4046008 きのうも、きょうも2歳馬のTieback&Cordectomy.

運動中に、左披裂軟骨だけでなく声帯も虚脱を起こすので、

(右)

声帯切除も併用した方が良いと考えている。

この症例では左側の声帯が虚脱を起こしているが、Tieback後に右だけとか、左右両方の声帯が虚脱を起こす症例があったことが報告されているので、

私は左右両側の声帯を切除することにしている。

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昼前、ゆうべ難産した繁殖雌馬が疝痛で来院。

排便障害もあるらしい。

貧血気味。

馬は、とくにサラブレッドは大量出血してもすぐにはPCVは下がらない。

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午後は1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

立会に来たのは昨年獣医科大学を卒業したイギリス人女性獣医師。

春らしくフレッシュでいいな。

と言っても、欧米の卒業の季節は7月なんだけど。

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昨夜は新生子馬の来院。

前の日に生まれて、その夜から疝痛を示し、胎便は次の朝までに出たものの、沈鬱で、乳を飲むと鼻から逆流してしまう。

PCVは32%だが、皮膚テント延長、口粘膜乾燥、眼球陥没、etc.

こういう状態ではPCVは高くなくても脱水がある。

循環も悪く、口粘膜の色調も悪い。

乳を飲めていないので低血糖なのだろう。

出生後24時間以上経って、水分もエネルギーも栄養も枯渇している。

持続点滴を始め、酢酸リンゲル、ブドウ糖、アミノ酸を投与する。

点滴を始めて2時間あまり経った夜10時半、子馬は具合良さそうだった。

朝5時、親から哺乳させてみる。

P4086022点滴管をつけたまま。

その後も6時半、8時と、順調に哺乳できた。

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ゆうべはその他に当歳馬の小腸閉塞。

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P4076020君も

春を

満喫しているようだね。

 


DDSPの治療の効果

2013-06-05 | 呼吸器外科

DDSP軟口蓋背側変位と、EE喉頭蓋捕捉で調教に耐えられない2歳馬を、まずEEの喉頭蓋下粘膜切開手術をした。

Cornell大学のDr.Ducharmeは、

「EE切開後に持続的なDDSPを起こす馬が居るので、EEの切開前にはそのことを考慮すべきだ。」

と香港でのアジア馬上部気道シンポジウムで述べておられたが、競走馬にしたい馬ではEEもDDSPも治療しないわけにはいかない。

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EEは治癒した。

その後はこの馬は持続的DDSP状態だったが、徐々に改善され間欠的DDSPになった。

それでも調教には耐えられないので、Tieforward手術をすることにした。

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手術前、頚を屈橈している状態での喉のXray。

DDSPは起こしていないようだ。

喉頭蓋(赤線)は軟口蓋に乗っている。

喉頭蓋と底舌骨(黄円)の位置関係に注意。

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12 右は頚の伸張した状態でのXray。

喉頭全体が胸の方向へ引かれる。

喉頭蓋(赤点線)も下顎の影から引っ張り出されそうになっている。

角度も寝ている。

かろうじて軟口蓋には乗っているようだ。

しかし、喉頭は底舌骨(黄円)とは離れている。

一般に、馬は頚を伸ばした方が気道抵抗は減る。

このX rayでも鼻孔から続く気道が直線近くなっているのがわかる。

しかし、DDSP(喉頭蓋が軟口蓋の下に落ちてしまう)を起こすと、呼気も吸気も妨げられ、馬は苦しくなって失速する。

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14 左はTieforward(前へ縛る)と呼ばれる手術後のXray。

頚はそこそこ伸ばしているが、喉頭蓋(赤線)は底舌骨(黄円)に近く保たれている。

喉頭蓋の角度も立っている。

Tieforward手術は、

喉頭を形成する甲状軟骨に糸をかけ、

それを舌骨に引張りつける手術だ。

(右P1171711

最初に報告されたときの初期の数例はワイヤーで縛っていたそうだ。

しかし、今はFiberWireという丈夫な糸を使っている。

以前は舌骨にドリルで孔を開けてそこへ糸を通していた。

しかし、舌骨が折れてしまうことがあったそうで、今は舌骨の舌突起に糸をかけている。

右は新しい教科書に載っている図なのだが、今は糸のかけ方はさらに工夫されている。

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2012年のEquine Veterinary JournalにDDSPの治療方法についての学術報告を総括的に評価しようとしたユニークな論文が載っている。

A systemic review of the efficacy of interventions for dynamic intermittent dorsal displacement of the soft palate

運動中の間欠的DDSPに対する治療の効果の体系的総括

イギリスのBristol大学、Liverpool大学、オーストラリアのAdelade大学の大先生達の連名による調査成績なのだが結論は・・・・・

各研究や各症例報告のEvidence(確証)としてのレベルが低いためにDDSPの治療方法の効果を結論として導き出すのは難しい。とのこと。

例数が足りなかったり、手術の効果を判定するための手術前・手術後の検査が充分でなかったり、手術後の競走成績を評価するのが難しいことや、etc.

実験動物ではないので、対象となっている馬も遺伝的にも、置かれている状況も実に様々で比較対象の仕様がない。

しかし、しっかりしたエヴィデンス(根拠)が確立されるまで治療に手を出さないのではその間、DDSPの馬は放置するしかないし、そんなことはできない。

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今日は、獣医師会の代議員会。

公益法人化されて最初の代議員会とあって、かなりきつい質疑もあり、混乱した。

そもそも獣医師会とは何か?

なんのために在るのか?

なんのために加入するのか?

という根源的な問題が、法人格についての規定や、財務の問題となって見直す機会になっているように思う。

そして、たぶん誰にも明確で単一な答えなどできないのだ。

P6044393P6044395


声帯虚脱での声帯切除

2013-02-12 | 呼吸器外科

今日は午前中1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

P2023687午後は運動中に声帯の虚脱を起こす3歳馬の声帯切除。

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声帯の虚脱は運動中にしか起こらないので、

運動中の声帯虚脱によるプアパフォーマンス(能力低下)は運動中の喉頭内視で診断するしかない。

上のような様子だと声帯が虚脱していることでどれくらい最大酸素摂取量が阻害されているかなんとも言えない。

しかし、実際の競走中に4コーナーを回ったあとに起こる気道の陰圧は、このような坂路でのそこそこの騎乗運動中よりはるかに激しい。

P8132694 左のように左右の声帯がくっつくほど虚脱している可能性も大いにある。

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声帯の虚脱を起こしている馬では、私は全身麻酔下で喉頭切開して左右の声帯を切除することにしている。

左右の声帯を取るのが望ましいと思うし、

そのためには立位でLaserで行うより、喉頭切開した方が早くて確実だと考えるからだ。

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去年の夏に声帯切除した競走馬は、手術前5着、6着だったが、手術後2連勝で重賞勝ちした。

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P2123720 君は首輪をひっぱるからハア~ハア~いうんだよ。

ちゃんと横を歩くことを覚えなさい。


DDSP & ADAEF なんのこっちゃ

2012-10-24 | 呼吸器外科

朝、当歳馬の腰萎のX線撮影。

続いて、地域外からのX線撮影。

午後は、2歳馬のDDSP&ADAF。

DDSPはDorsal Displacement of Soft Palate.

長らく「軟口蓋背方変位」と呼ばれてきたが、Dorsal は他の用語でも背側と訳されるので、

「軟口蓋背側変位」と呼びましょうという日本獣医学会の意向のようだ。

そんなモン知らん。と日本の馬医者さん達が言うならそれはそれで;笑。

                        -P6200686

ADAFは聞き慣れないかもしれない。

(右)

Axial Deviation of Aryepiglottic Folds

Arytenoid は披裂軟骨。

epiglottis は喉頭蓋。

「披裂喉頭蓋ヒダ軸側変位」 と訳されることになるのだろう。

                       -

香港でDixon先生はADEFと呼んでおられた。

う~ん、ADAEFが良いかもしれない。

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この障害は運動中の喉頭を内視しないと、安静時の検査ではまったく診断できない。

運動中の喉頭を内視できる装置が利用できるようになってきたので、これから診断される症例が増えていくだろう。

手術はLaserでやるなら、立位でできる。P6200683

(右)

馬の保定者。

ヴィデオスコープとlaserの操作者。

ユニバーサル鉗子の操作者。

ヴィデオスコープを鼻に挿入する人。

の4人が慣れてないとなかなか難しい。

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今日は、立位で披裂喉頭蓋ヒダを切除しておいて、P1171711

その後、吸入麻酔してTieforward手術を行った。

右はEquine Surgery 4th ed.に載っている糸の通し方。

もちろん今日は、香港で習ってきたサラに新しい方法で行った。

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Pa243170Pa243177 とうちゃんッ!

オラを家に入れるように言ってくれ。

結露取りも手伝うゾ。

オラが舐めればきれいになるゾ。

Pa243172 Pa243176_2 「そんなデッカイ骨もらってるワンコいないんだから、

大人しく外で遊んでなさい。」

そうか~?


喉鳴りの季節

2012-08-22 | 呼吸器外科

のど鳴りの手術が続いている。

デヴューできそうにない2歳馬や、

競走してみたものののど鳴りで勝てそうにない2歳馬や、

不調を抱えたまま競馬してみたが勝てなかったJRA所属の3歳馬が、

手術の決断をする時季なのかもしれない。

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馬場での騎乗運動中に喉頭にどんな異常が起きているのか記録できる器具が利用できるようになったので、

のど鳴りの診断方法はかなり進歩した。

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P8132694 運動中に声帯の虚脱を起こしている内視鏡像。

このあと披裂喉頭蓋ヒダの軸側変位ももっとひどくなった。

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この状態に先立ってDDSPも起こしていたので、

胸骨甲状筋付着部切除と、

声帯切除と、披裂喉頭蓋ヒダ切除も行った。

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さてこの内視鏡像、Photo

ムンクの叫びを思い出してしまった。