DDSP軟口蓋背側変位と、EE喉頭蓋捕捉で調教に耐えられない2歳馬を、まずEEの喉頭蓋下粘膜切開手術をした。
Cornell大学のDr.Ducharmeは、
「EE切開後に持続的なDDSPを起こす馬が居るので、EEの切開前にはそのことを考慮すべきだ。」
と香港でのアジア馬上部気道シンポジウムで述べておられたが、競走馬にしたい馬ではEEもDDSPも治療しないわけにはいかない。
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EEは治癒した。
その後はこの馬は持続的DDSP状態だったが、徐々に改善され間欠的DDSPになった。
それでも調教には耐えられないので、Tieforward手術をすることにした。
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手術前、頚を屈橈している状態での喉のXray。
DDSPは起こしていないようだ。
喉頭蓋(赤線)は軟口蓋に乗っている。
喉頭蓋と底舌骨(黄円)の位置関係に注意。
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右は頚の伸張した状態でのXray。
喉頭全体が胸の方向へ引かれる。
喉頭蓋(赤点線)も下顎の影から引っ張り出されそうになっている。
角度も寝ている。
かろうじて軟口蓋には乗っているようだ。
しかし、喉頭は底舌骨(黄円)とは離れている。
一般に、馬は頚を伸ばした方が気道抵抗は減る。
このX rayでも鼻孔から続く気道が直線近くなっているのがわかる。
しかし、DDSP(喉頭蓋が軟口蓋の下に落ちてしまう)を起こすと、呼気も吸気も妨げられ、馬は苦しくなって失速する。
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左はTieforward(前へ縛る)と呼ばれる手術後のXray。
頚はそこそこ伸ばしているが、喉頭蓋(赤線)は底舌骨(黄円)に近く保たれている。
喉頭蓋の角度も立っている。
Tieforward手術は、
喉頭を形成する甲状軟骨に糸をかけ、
それを舌骨に引張りつける手術だ。
(右
)
最初に報告されたときの初期の数例はワイヤーで縛っていたそうだ。
しかし、今はFiberWireという丈夫な糸を使っている。
以前は舌骨にドリルで孔を開けてそこへ糸を通していた。
しかし、舌骨が折れてしまうことがあったそうで、今は舌骨の舌突起に糸をかけている。
右は新しい教科書に載っている図なのだが、今は糸のかけ方はさらに工夫されている。
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2012年のEquine Veterinary JournalにDDSPの治療方法についての学術報告を総括的に評価しようとしたユニークな論文が載っている。
A systemic review of the efficacy of interventions for dynamic intermittent dorsal displacement of the soft palate
運動中の間欠的DDSPに対する治療の効果の体系的総括
イギリスのBristol大学、Liverpool大学、オーストラリアのAdelade大学の大先生達の連名による調査成績なのだが結論は・・・・・
各研究や各症例報告のEvidence(確証)としてのレベルが低いためにDDSPの治療方法の効果を結論として導き出すのは難しい。とのこと。
例数が足りなかったり、手術の効果を判定するための手術前・手術後の検査が充分でなかったり、手術後の競走成績を評価するのが難しいことや、etc.
実験動物ではないので、対象となっている馬も遺伝的にも、置かれている状況も実に様々で比較対象の仕様がない。
しかし、しっかりしたエヴィデンス(根拠)が確立されるまで治療に手を出さないのではその間、DDSPの馬は放置するしかないし、そんなことはできない。
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今日は、獣医師会の代議員会。
公益法人化されて最初の代議員会とあって、かなりきつい質疑もあり、混乱した。
そもそも獣医師会とは何か?
なんのために在るのか?
なんのために加入するのか?
という根源的な問題が、法人格についての規定や、財務の問題となって見直す機会になっているように思う。
そして、たぶん誰にも明確で単一な答えなどできないのだ。

