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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

Dr.Ducharme講習&実習 in Shizunai

2016-12-03 | 呼吸器外科

Ducharme教授に聞いたこと・・・

Cornell大学はHong-kongにも分校を創っていますが・・・・「Cornellはあちこちに広がろうとしている。Cancerのように。」

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夜の講演会の次の日は、獣医師向けの講習と実習。

講演内容は、予定を変更してEE(口喉蓋包埋)手術のcomplications(併発症)について。

生産地の獣医師のかなりが、Duchrame先生の東京での講演と、前夜の地元での講演を聞いているので、こちらで要望して内容を変えてもらった。

要望されて急遽内容を変更できるところがすごい。

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馬の喉の手術は、手技そのものが難しいというより、complicationsの率が高い。

それも、術前より悪くなることも多く、しかも対処方法がないcomplicationsも多い。

複雑で特殊な形状をした喉を扱わなければならず、そこは大きく切り開くことはできないし、

軟骨と神経と筋肉が、複雑に関係して、呼吸と嚥下を司っている。

「あ~EEだ。切ってもらえば治るよ。」

というのは安易すぎるし、無責任だ。

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次いで、日本でのTiebackの500例以上の成績を紹介してもらって、Ducharme先生のコメントをもらった。

Ducharme先生に、「年間どれくらいTieback手術をやりますか?」と尋ねたら、

「週に1頭から5頭」という回答だった。

年の頭数は数えてないのかね?

それでも、すごい数なのだろう。

Ducharme先生がやっても、「Tiebackの20-25%はうまく行かない」とのこと。

2回目のTiebackはさらに難しい。

うまく行かなかったからと言って、訴えられるようならとても取り組めるような手術ではない。

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午後は実習。

われわれの喉頭の超音波検査の手技を見てもらう。

Ducharme先生は、CAD(背側披裂輪状筋)を体表から観ることはあきらめていたようなのだが、テクニック次第でできなくはない。

しかし、Ducharme先生は、CAL(外側披裂輪状筋)周辺を含めて、実に正確な知識を持っておられた。驚くほど。

他の点でもそうなのだが、上部気道について、最新の文献も含め、実際の手技も含め、網羅的に正確に知っておられる。

研究者であり、教育者であり、外科医であり、それぞれにパーフェクトで権威なのだ。

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次いで、Tieback後に誤嚥する馬に用いる声帯を膨らませる手技。

輪状気管粘膜から18Gのスパイナル針を刺して、ルアーコック式のシリンジに入れた「物質(ボーンセメント、テフロン、など)」を声帯に注入する。

さらに、立位でのLaserによる声帯切除。

馬の頭を台に乗せる。充分に鎮静する。十二分に局所麻酔薬をかける。嚥下を完全に止める。しかし、局所麻酔薬を嚥下させたり、気管に入れてはいけない。

左の声帯の腹側を切って、喉頭鉗子でテンションをかけながら・・・・披裂軟骨小角突起の声帯突起は避けて・・・・

とやっているうちに高齢の実習馬が倒れてしまった。

実馬を使った実習は中止。

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解剖体で、Tiebackの手技を教えていただく。

実に細かい工夫がされていて感心した。

2012年に香港で教わった方法とかなり変わっている。

現在は、ほとんどのTiebackを立位でやっているとのこと。

輪状軟骨の尾側に糸をかけるのはArthrex社製の金属のボタンを使っている。

糸は、Fiber wire かFiber tapeあるいはTiger tape。

針は特注のテーパーポイント針。三稜針は軟骨を切ってしまいやすい。

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現在は甲状咽頭筋と輪状咽頭筋を分けて、披裂軟骨筋突起を露出させている。

筋突起に器具をかけると引張り出すことができる。

輪状軟骨に針をかけるときも、筋突起に針をかけるときも、食道や食道周囲の筋膜を拾わないことが大事。

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披裂軟骨の関節を開けて、やすりで関節軟骨を削る。

筋突起への糸のかけかたも、とても複雑で、よく考えられ工夫されていた。

テンションは、競走馬と乗馬で変えるそうだ。

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そのあと、披裂軟骨切除。

Ducharme先生は、粘膜を軟骨から剥がさない。

しかし、軟骨切除後、披裂口蓋ヒダを切除部分に縫い付ける。

引張りすぎて引きつらないように注意。

腹側は血が溜まらないように傷を開けておく

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webbing(左右両側の声帯切除をしたあと、腹側に膜が張ったように癒着すること)に治療法がありますか?

と尋ねたら、

「Dixon先生が考案している。」と、方法を教えてくださった。

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もうそのあたりで予定の4時を過ぎてしまった。

とてもハードな日程をこなしているのに、嫌な顔ひとつせず、尋ねたこと以上の回答とコメントをくださる。

すごいものだ。

しかし、colic surgeryはやらないそうだ;笑

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「すばらしい施設だ、器具もすばらしい、スタッフも優秀だ。」と実習会場をほめてくださった。

たぶん私をそこの所長だと勘違いなさっていた;笑

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講習の内容も、実習の内容も、どうしても馬外科医が聴きたいこと、聞きたいことになってしまう。

世界レベルの権威者を招いておいて、馬の喉頭内視鏡検査をしたことがない獣医師に一から教えてもらうということにはならない。

それは自分で勉強して、さらには地元で講習会や実習をすれば良い。

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もっと勉強しなきゃだめだな、と思わされた。

それだけでも大いなる価値がある。

講演や実習に呼んでもらったら、もっと頑張ろうと思った。

韓国や九州行きくらいでへばってちゃだめだな;笑

Ducharme先生はフロリダで行われるAAEPへ向かわれた。

そこで最も注目されるMilne Lecture をされるのだ。

   

 

 


CTLCって何さ?

2015-05-23 | 呼吸器外科

騎乗運動中の喉頭内視鏡検査 Over Ground dynamic Endoscopy が可能になって、以前は想像もつかなかった上部気道の問題がみつかるようになっている。

これは紹介する文献の写真。

これと同じだろうと思われる症例を相談されて手術したことがあるのでとても興味深い。

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Diagnosis and Treatment of Dynamic Collapse of the Cricotracheal Ligament in Thoroughbred Racehorses

サラブレッド競走馬における輪状気管靭帯の動的虚脱の診断と治療

Padraig G.Kelly, Patrick J.Pollock

Veterinary Surgery 44 (2015) 162-167

目的:(1)ある馬群での輪状気管靭帯の動的虚脱の診断と、(2)障害がある馬の治療と結果、について記載すること。

研究のデザイン:回顧的症例集。

動物:サラブレッド(n=8)。

方法:600頭のover ground dynamic endoscopic examinationを行ったうち、8頭のサラブレッドが輪状気管虚脱 cricotracheal collapse (CTLC)を示した;5頭は2歳馬で調教の初期段階であり、2頭は仕上がった競走馬であった。

CTLCは、輪状気管靭帯の一周する虚脱が運動中に確認されたときに診断した。

7頭は内視鏡検査を繰り返した。

2頭は保存的管理に反応せず、外科的に治療した。

結果:5頭の2歳馬すべてでCTLCと合わせて複数の上部気道の異常が確認され、上部気道の炎症の治療後にCTLCは改善した。

2頭の現役競走馬では併発する呼吸器の異常はなかった。

この2頭では輪状気管腔の外科的縫縮と輪状気管靭帯の重複処置によりCTLCの臨床症状は改善された。

結論:CTLCはサラブレッド競走馬でのまれな動的閉塞の原因である。

調教への適応と呼吸器の炎症の解決により治癒するかもしれない。しかし、CTLCが持続する馬では輪状気管腔の外科的縫縮と輪状気管靭帯の重複処置により臨床症状が治療できる。

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これがCTLCを示す馬のOver-Ground Endoscopy からの静止画。

これが治療後。

素晴らしい。

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私が経験した症例についてCornell大学教授で馬の上部気道の権威Dr.Ducharmeに、

「あの症例はCTLCも起こしていたのではないでしょうか?」

と質問した。

回答は、I don't think so. だった;笑。

う~ん、なかなか難しい・・・・

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リフティングの方が簡単サ!!

 

 


VMADの術後

2015-04-07 | 呼吸器外科

今日は、

1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

その最中に、分娩2日目の繁殖雌馬の疝痛の依頼。

来院したら子宮に血腫ができているようだった。

午後は、私は今週は検査当番。

分娩後の繁殖雌馬の産道損傷の診察。直腸と膣がつながってしまっていた。

今年は種付けをあきらめ、秋になって直腸膣壁の再建手術をする。

真菌性子宮内膜炎の子宮内視鏡検査。

子宮内腔に真菌の繭状の塊が見えた。

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VMAD;Ventro Medial Arytenoid Displacement を手術して4週間。

VMADだけではなく、披裂喉頭蓋ヒダの軸側変位を運動中に起こしていたので、

左右の披裂喉頭蓋ヒダの切除も行った。

左右の声帯の虚脱も起こしていたので、左右の声嚢切除も行った。

左の声帯はDr.Ducharmeの指示で尾側に大きく切除した。

右の声帯は一緒に切除すると左右声帯の腹側に癒着が起こるので、右の声帯は残した。

で、4週間後に内視鏡で検査したら、右の声帯はべったり張り付いて、もう切除する必要はなさそうだった。

外科的にできることはほぼ全部やったと思う。

これで調教してもらうことにした。

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”回収係”の本領発揮。


VMAD

2015-03-18 | 呼吸器外科

VMAD ; Ventro-Medial Arytenoid Displacement

ってご存知か?    

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Cornell大学のDucharme教授のグループが2012年のEquine Veterinary Journalに報告したスタンダードブレッドの繋駕競走中の喉頭内視鏡検査についてのレポート。

 

Dynamic respiratory endoscopy of Standardbred racehorses during qualifying races

 

格付け競走中のスタンダードブレッド競走馬の運動中呼吸器内視鏡検査

要約

研究実施の理由: 競走中の馬の上部気道の検査は記述されたことがない。

目的: 競走中のoverground endoscopy検査の可能性と、それによる上部気道の観察内容を記述すること。

方法: 格付け競走中のスタンダードブレッド競走馬46頭でoverground videoendoscopy 検査を行った。

被検馬のスピードは競走中ポータブルGPS装置で記録した。

結果: 内視鏡で検査された馬のその競走と検査を行わなかった以前の競走で明らかな差はなかったので、今回の手法はパフォーマンスを妨げなかった。

競走中あるいは競走後の気道閉塞が21頭の馬で記録された。

最も以前から報告されている気道閉塞の原因が観察された。

驚くべきことに両側の腹内側披裂軟骨変位ventro-medial arytenoid displacement がDDSPと同じ頻度で運動中に見られた(n=5)。

DDSPは最も多く診断された(n=10)が、多くのDDSPは競走後に起こった(n=5)。

競走後にDDSPを示した馬は起こさなかった馬より競走中のスピードが遅かった。

結論: 競走中の内視鏡検査はパフォーマンスを妨げずに上部気道閉塞を診断することを可能にする。

運動後すぐのDDSPを起こすことは臨床的問題につながっているかもしれない。

競走中のVMADは重要な異常であるかもしれない。

潜在的関係: 競走中内視鏡検査は、競走のための調教中や、あるいはトレッドミル検査での診断的内視鏡検査の検出率を関連付けるのに役立ちうる。

VMADの病因と重要性はさらなる調査を必要としている。

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右上がVMAD。

この写真の説明では、bilateral ventro-medial displacement of the apex of the arytenoid cartilages となっている。

「両側性披裂軟骨先端腹内側変位」だろうか。

アルファベットの言語も、漢字の言語も、たいへんだね~

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VMADの症例の治療を依頼され、Cornell大学のDucharme先生に相談してアドバイスをもらい、手術した。

その手技については、またいずれ。

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これは3年前の4月5日の写真。

まだ雪が残って氷が張っている。

今年はとても暖かい3月なんだな。

 


馬を窒息死から救う方法

2014-11-25 | 呼吸器外科

今日は、

繁殖雌馬の副鼻腔蓄膿。

顔の変形はないので副鼻腔は閉塞してはいないが、x線検査で副鼻腔に曇りがある。

副鼻洞が閉塞し、原因菌が耐性菌になる前に外科処置をした方が良いだろう。

1月分娩予定の馬だが、円鋸手術は立位でできる。

前頭洞に孔を開けたら、膿性漿液があふれでてきた。

円鋸孔からファイバースコープを入れて内部を観る。

ひどく肉芽増勢したりはしていなかった。

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ついで、呼吸で異音がして息苦しい繁殖雌馬。

内視鏡検査すると案の定、重度の披裂軟骨炎。

永続的気管開窓術をすることにした。

3月分娩予定なので立位でやる。

全身麻酔しても妊娠の維持にとってリスクはないと思っているが、

ただでさえ数%流産のリスクがある時期だ。

しかも食欲をなくすくらい呼吸困難の馬だ。

全身麻酔して手術したあと流産したら、麻酔したことを後悔するかもしれない。

立位で気管開窓術をすると上向きで手術するので首が痛くなるし、血だらけになるが仕方がない。

気管軟骨を4個部分切除した。

気管粘膜は切り取らず、皮膚に縫合した。

気管を皮膚に開窓しておくのに邪魔になる筋肉は部分切除した。

馬は鼻でしか呼吸ができないので、鼻道を閉塞させる病気が起こると窒息してしまう。

喉頭の病気でも、今回のように窒息してしまう。

気管切開してやることで馬を窒息死から助けることができる。

窒息死は悲惨な死に方だ。

馬の数が少なく、専門の馬臨床家が居ない地域でも馬を窒息死させないように気管切開・気管開窓手術をしてやってもらないか?

立位でできる手術だし。

という話を来年2月に岡山での日本獣医師会年次学会でしようと思っている。

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午後、

1歳馬の肩関節のOCD。

夕方、

当歳馬の胸膜肺炎の剖検。

夜、

1歳馬の疝痛。

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相棒はこのブロンズ像にも激しく反応した。

「ポートランディア」

レイモンド・カスキー

単におねえさん好き?