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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

子馬の鼻中隔切除

2020-06-22 | 呼吸器外科

2.5ヶ月齢の子馬が呼吸が苦しい。

右の鼻は内視鏡も通らない。左の鼻は内視鏡は通ったが鼻道が狭く、咽喉頭の粘膜も腫れている。

鼻孔から指を入れたら、鼻中隔が変形している。

X線撮影したら、鼻道の入り口近くで「く」字型に曲がっている。

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北米外科専門医Yoshi先生に海外の情報を調べてもらった。

子馬で鼻中隔を切除すると、鼻梁を含めた顔の発育に問題が起こるかもしれない、という記載はある。

しかし、実際にそうなった、という情報はないし、ひどいものではなさそうだ。

海外の先生にメールを送ったら、部分切除すると断端が肥厚するので、全摘を勧める、とのことだった。

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少し小さめで、肉付きも良くはない。呼吸が苦しいというのは辛いことだ。

鼻梁を円鋸する代わりに喉頭切開して、線鋸を鼻中隔の背側と腹側へかける。

あとは引っ張れば鼻中隔の背側と腹側が切れてくる。

鼻の中へストッキネットにガーゼを入れたパックを詰めて止血を助ける。

取り出した鼻中隔。

大きく曲がっていた。

気管切開創に残す気管鏡をどうするか問題だった。

おとな馬用の気管鏡や気管チューブは子馬に大きすぎる。

斜めに切り落とした水道ホースの片側にテーピングテープを巻きつけたらうまく行った。

翌日、鼻の詰め物を抜いたら鼻で楽に呼吸できたそうだ。

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手術がうまくいったらオラもうれしいです

とうちゃんきげんがよくて ふーどふえるです

 

 

 

 

 

 

 

 


緊急!永続的気管開窓術

2020-01-21 | 呼吸器外科

この正月から呼吸がおかしい繁殖雌馬。

来院したら、チアノーゼ、喘鳴音がひどい。

これは喉頭の問題で呼吸困難になっているのだろう、と予想する。

うかつに鎮静剤投与しないほうが良い。

これ以上酸素を吸えなくなったら突然倒れてしまうかもしれない。

そうなったときのことも考えておかなければならない。

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喉頭内視鏡検査をしたら、披裂軟骨炎による喉頭閉鎖ではなく、左側の喉頭片麻痺による喉頭虚脱だった。

左側だけが完全に麻痺しても呼吸困難にはふつうならないのだけど。

            -

立位で永続的気管開窓術することにした。

私は自分ではやりません;笑

中腰で上向きで首や腰が辛い手術になるから・・・・このあと関節鏡手術する馬を待たせてるし。

ほらね。

教科書に書かれていない私なりのこの手術の工夫も伝えてある。

うん、よいできだ。

気管を切開したあとは喘鳴音もやみ、馬はとても楽になった。

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ゆきふった

でもすくない

 


繁殖雌馬の披裂軟骨・気管粘膜腫瘍による気管閉塞

2019-10-12 | 呼吸器外科

15歳の繁殖雌馬が、この1ヶ月間どんどん喘鳴がひどくなり、呼吸困難になってきた。

内視鏡を観たら、気管の入り口に腫瘍があって閉塞している。との依頼。

                 -

腫瘍を摘出しても再発する可能性がかなりあるので、永続的気管切開が必要だろう。

永続的気管切開は立位でもできるが、できれば腫瘍の摘出もしたい。そのためには全身麻酔して喉頭切開したい。

披裂軟骨の肉芽だけなら立位でlaserで手術できるが、今回の症例は腫瘍が大きく、しかもできているのは少し奥のようだ。

しかし、気管の狭くなり方はかなりひどくて、気管挿管できるのか・・・・・  

鎮静剤投与や全身麻酔すると呼吸困難がひどくなる可能性がある。

そうなったら、すぐに気管切開して、そこから気管チューブを入れてとりあえず気道確保し、

吸入麻酔で維持できるようにしてから落ち着いて手術しよう。という術前計画を立てた。

永続的気管切開だけでなく、緊急の気管切開や気管鏡の装着、喉頭切開や輪状軟骨までの切開など、喉頭や気管を扱ういくつかの手技の経験がある術者と、

何種類もの気管チューブが用意されていて、チアノーゼが出るような状態でも対応できる麻酔担当医がいるので対応できる、はず。

                   -

手術台上で落ち着いて永続的気管開窓術を行った。

この手技は、立位でやったり、静脈麻酔でやったりすることが多いので、吸入麻酔で落ち着いてやるのは初めてかもしれない。

けっこう時間がかかるし、これからは吸入麻酔でやりたい、な。

術者の首と腰が楽;笑  血まみれにならずに済む。

その開窓部から気管チューブを入れておいて、喉頭切開した。

喉頭切開部から披裂軟骨にできた腫瘍を摘出した。

気管にできている腫瘍はもっと大きい。

気管切開創からも指を入れて、特別長いメッツェンバウム鋏で切断し、気管切開創から摘出した。

喉頭切開創だけだと取り出せなかっただろう。

こんなサイズだったから。

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出血があるので、ボスミンガーゼを気管に詰めている。

気管チューブは気管切開創から入れてカフを膨らませている。

血液や粘膜を肺に吸引しないように。

高齢なので吊起帯も着けた。

しかし、この馬、子馬に齧られて尻尾が短い。

それもありなかなか危険な覚醒になった。

肉眼では悪性腫瘍ではないように思うが病理組織検査に出す。

「病理組織学的検査」は家畜共済の点数設定が低くて、外注すると赤字になる。

ホルマリンが漏れないようにするパック代もかかる。

送料もかかる。

それでも正確な診断のためにだいじなことだ。

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電気を取り入れる電柱に付いている開閉器。

塩害で傷んでいる、と電気保安協会から指摘されて交換することになった。

ん十万円する。

交換作業で半日停電した。

それとは別に、北電の工事があった。

これはたまたま重なったらしい。

こちらの電気工事では停電にはならない。

世の中は電気に頼りすぎているかもしれない。

去年の地震によるブラックアウトでも痛い目にあった。

台風による千葉の停電はもっと長くなったようだ。

みなさん、考えて備えておいた方がいいです。

例えば、北海道が真冬に停電したら・・・・暖房はできず、水道は凍結し、凍死者も出るだろう。

都会では何が起こるかさえ、想像もつかない。

 

 

 

 


EE、RLN、Colic

2019-07-27 | 呼吸器外科

出張続きで、しばらく手術していなかった。

診療がしたい。

私はやはり臨床が好きだ。

と、思い直せるのは出張がつづいたおかげ;笑

                -

復帰明けは、1歳馬のEE 喉頭蓋捕捉。

まだ充分には馴致できていない1歳馬だし、鼻や喉も狭いので、EEカッターではなくlaserで切開することにした。

喉頭蓋にやけどをさせないように、手製の鈍なフックで喉頭蓋を覆っている喉頭蓋下粘膜をlaser切開した。

披裂喉頭蓋ヒダも切開を加えておく。

                -

つづいて、

4歳現役競走馬の喉頭片麻痺のTieback&Cordectomy。

近年は「喉頭片麻痺」ではなく、反回神経喉頭枝神経症?RLNと呼ぶことが提唱されている。

安静時の内視鏡検査では、GradeはⅡbかⅢaだった。

超音波検査では、かなりな左輪状披裂筋の変性と萎縮が評価された。

しかし、手術が絶対に必要か決断できなかったので、OGE(騎乗中喉頭内視鏡検査)をやってもらった。

結果、見事な左披裂軟骨と声帯の虚脱が確認された。

で、

喉頭形成手術と声帯切除手術をすることになった。

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夜、起こされた。

2歳馬の疝痛とのこと。

来院しても立っていられないほど痛い。

開腹したら空腸が捻転していた。

腸間膜を軸に捻れて、ひどい胃拡張を起こすほど閉塞していたが、空腸はまだ壊死していなかった。

胃はパンパン。

おそらく固形物が多くて、胃カテーテルを入れてもほとんど減圧できなかっただろう。

手術中に逆流していた胃液は赤味をおびていた。

覚醒室でも、入院厩舎へ行ってからも、ゲップし続けていた。

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その朝、助けられなかった患者さん。

窓に激突し、即死だった。

コゲラだね。

朝の惨劇だった。

 

 


鈍端のEEE

2016-12-09 | 呼吸器外科

私は日本で一番早くに馬の喉のlaser手術を始めた。

EE(喉頭蓋エントラップメント)の切開もやってきたし、

他の馬病院で処置のしようがない、と言われた披裂喉頭蓋ヒダの切除もやってきた。

Tiebackにあわせての声帯切除もlaserでやってきた。

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EEでは、Tim Greet先生の講演を聴いてからEEカッターでやるように戻した。

Greet先生は、Laserでやるより火傷のリスクが無いEEカッターをファーストチョイスとして勧めておられた。

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今回、Ducharme先生は、EEの症例でLaserで喉頭蓋下粘膜を切開するときに、必ず器具で持ち上げておいて切開するよう注意しておられた。

そして、EEカッターで切るより幅広く切開できることをLaserの利点としてあげておられた。

その鈍端の器具を何と呼んでおられたか・・・・・?

Epiglottic Entrapment Elevator ならEEEでどうだろう。

Ducharme先生が使っておられるのは、先が2本になっている。

その2本の間で切開すると、Laserが喉頭蓋に当たるかもしれないのでいけない。

切開は、棒の上で行う。

棒は金属なので、Laserで熱を持ってしまう。

だから、棒にはシリコンをかぶせておく。

先端部は横に切開し、そこから縦に切開する、すこし幅広く。

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さっそく作ってみました。

EEE !!

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今日は、午前も午後も競走馬の腕節骨折の関節鏡手術。

昼、乳牛の第4胃左方変位。