写真は馬の喉頭の軟骨に、筋肉が付いた状態の解剖体。
喉頭の左側斜め上から見ている。
輪状咽頭筋をピンセットで前へめくると、輪状軟骨上に背側披裂輪状筋が見える。
この筋肉が披裂軟骨をひっぱって、喉頭を開かせる筋肉である。
甲状咽頭筋との間を分けて、輪状咽頭筋を後へひっぱると披裂軟骨筋突起が見える。
背側披裂輪状筋はこの筋突起をひっぱっている。
神経が麻痺して、この筋肉を使えなくなっているので、この筋突起を輪状軟骨の尾側端へひっぱって、左披裂軟骨が虚脱を起こさないようにしよう。というのが喉頭形成術 Tie back 手術である。
(思いっきり引っ張って、喉頭を最大限に開かせておこう。と考えがちだが、開きすぎより、適度に固定されている状態の方が術後の競走成績が良かったという研究報告がいくつかある。
開きすぎていると、咳しがちだったり、誤嚥したりする。)
左の写真は甲状咽頭筋と輪状咽頭筋を取り除いたところ。
この馬は喉頭片麻痺はなかったようで、左右対称にしっかりした背側披裂輪状筋がついている。
こんなに筋肉が付いている馬を Tie back したとするとこの背側披裂輪状筋の上から糸を通すことになる。
すると、使われなくなった筋肉が萎縮した後、どうしても糸が緩み易いだろう。
完全な片麻痺ではない馬の手術成績が、完全に麻痺している馬より劣るとすれば、それが要因ではないかと思う。
左の写真は背側披裂輪状筋の走行方向へピンセットで収縮させている。
左側の披裂軟骨小角突起が外転(開いている)のがわかる。
方向はこのように、筋突起から輪状軟骨の背側正中に向かっている。
Tie back する時も、輪状軟骨尾側の正中近くに糸をかけた方がきれいに外転する。
左が喉頭の入り口で閉じたり開いたりする小角突起。
右上の端が筋突起。
筋肉をはずすと、手術のときのイメージと違うかもしれない。しかし、この軟骨の形を把握しておいて、しっかりした部分に針を通す必要がある。
これは背中側から披裂軟骨をみたところ、輪状軟骨との関節面はこんなところにある。
筋突起を引っ張った時に、この関節が支点となって、小角突起が開く。
しかしこの写真でわかるように、支点となる関節面との距離は、筋突起より小角突起の方が遠い。
そのため、筋突起を少し引っ張ると小角突起は大きく開く。逆に牽引した糸が少しでも緩むと小角突起はかなり緩んでしまう。
糸が切れるとか伸びるとかではなく、輪状軟骨や筋突起が牽引に耐えられないで変形することや、糸の縛られた筋肉などが痩せて糸が食い込むことでゆるみができるのだろう。
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本来、披裂軟骨は呼吸する時は開き、物を食道へ飲み込むときは閉じなければならない。
それを閉じないようにしようというのはかなり無理がある手術なのだ。
しかし、喉頭片麻痺で呼吸が苦しい馬を、競走馬として他の馬と優劣を競わせたいなら、無理がある手術であること、それに伴うリスクを覚悟でやってみるしかない。
そして、手術がうまくいっても、喉頭片麻痺がなければ発揮したであろう能力を完全に発揮することはできないと考えられている。