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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

DDSP軟口蓋背方変位の手術

2006-07-12 | 呼吸器外科

 喉鳴りは喘鳴症と呼ばれ、これは喉頭片麻痺の同義語としても使われたりする。しかし、育成段階から含めて、いわゆる「喉鳴り」の中で最も多いのはDDSP軟口蓋背方変位だ。

左の披裂軟骨が麻痺する喉頭片麻痺の喉鳴りはヒューヒュー。一方、DDSPはゲロゲロ、ゼロゼロ、ブルブルというように表現される。

 DDSPは若い馬に多いのだが、馬が肉体的にも精神的にも強くなってくると、ほとんどの馬が自然に治る。

それで、DDSPの喉鳴りだと診断しても、あまり積極的に手術は勧めていない。

ただ、3歳になってもDDSPが治まらないとか、2歳でも調教が進められないとか、悠長に待っていられない。という場合はなんとかしなければいけない。

 昨年からは、コーネルカラーhttp://www.vet-aire.com/を使ってみるように提案してきた。ほとんどの馬はDDSPを起こし難くなるようだ。

ただ、コーネルカラーを付けたまま競馬をするのは日本では無理なようなので、治してしまいたければ手術を考えるしかない。

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 DDSPの手術方法は何種類も行われている。

喉頭を引っ張る筋肉を切除する方法。その筋肉の付着部を切断する方法。これらはいずれも、喉頭が後(尾側)へ引っ張られて、軟口蓋の下へ落ちるのを防ごうと言う考えだ。

P7100007 軟口蓋の辺縁を切除する方法。軟口蓋の鼻側を焼烙する方法(左)。軟口蓋の口側を焼烙する方法。軟口蓋の口側を舟形に切り取り縫い縮める方法。これらは、軟口蓋を固くしたり、持ち上がらないようにして、喉頭蓋が落ち込むのを防ごうとする方法だ。

これらの方法は、いくつかを組み合わせて行うことができる。

しかし、いずれの方法も成功率は6-7割と考えられている。

私の経験でも、喉頭蓋が薄いとか短いとか弱いなどの問題がなければほとんどの馬が手術で良くなったが、喉頭蓋の異常がある馬では、良くならない馬がいた。

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 コーネルカラーを開発したグループは、同じ考えによる手術も考案し報告している。その成功率は8割以上としている。

P7100002 左はその術式を示した図。甲状軟骨を舌骨へ糸でひっぱることで、喉頭を前(鼻側)へ牽引し、喉頭蓋をしっかり軟口蓋に乗せ、落ち込まないようにする。

前へ引っ張るのでTie-forwardと呼ばれていくだろう。

この手術にあわせて、甲状軟骨を後(尾側)へ引っ張る筋肉の付着部を切ることもできる。

P7100004_2 舌骨にドリルで孔をあけ、そこに通した糸で甲状軟骨を引っ張る。

この傷は縫って閉じてしまうので、喉頭切開した傷のように開けっ放しにはしない。

 全身麻酔したついでに、鼻から入れた内視鏡に高周波焼烙器(電気メス)を通して、軟口蓋の焼烙もあわせて行っている。

以上、図と写真はEquine Surgery 3ed. http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/1416001239/httpdrhiblogj-22 より

自分とこでやってる写真は今度撮っておきます。なかなか写真撮ってる余裕が無いんだよな~。


重輓馬のTieback

2006-06-29 | 呼吸器外科

Photo_103 輓馬の喉鳴りの手術を頼まれた。

輓曳競馬も無酸素運動ではなく、酸素摂取能力がものを言うようだ。

息が苦しくて止まってしまうのだと言う。

しかし、この1トン近い馬を手術台にうまく横臥で乗せる自信がなかった。現役の輓馬の開腹手術で、仰臥で乗せたことはあるのだが、横臥で乗せるのは難しい。

Photo_104 それで、倒馬室でマットに乗せて手術することにした。大きいことは大変だ!

首の形が違う、皮膚が分厚い、など違いはさして問題ではなかった。

重輓馬は、軽種馬より軟骨が固いとされている。そして、酪農学園大田口先生のグループの発表によれば、年齢とともに固くなるのだそうだ。

披裂軟骨も牽引しても開きにくいと聞いていた。Photo_105

1左が術前の内視鏡写真。 向かって右(左)の披裂軟骨が麻痺して垂れ下がっている。

SECUROSの Tieback kitを使って披裂軟骨筋突起を輪状軟骨へ牽引した。

右が術後の写真。左(向かって右)の披裂軟骨は外・上へ牽引されている。

この馬は若かったせいか、軽種馬より開きにくいという感じはしなかった。

サラブレッドには最近はたいてい声嚢声帯切除も併用しているが、この馬は真っ直ぐ長距離輸送しなければならず、術後も心配だったのでTiebackだけにした。

輓曳競馬での活躍を願う!!

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 昨年、春に疝痛で開腹手術をした現役輓馬はその年の内に勝鞍をあげたそうだ。みんな680kgをはるかに超す馬たちである。

診療室の床が破れそうで、不安なのだが、腕力だけは鍛えておいて、恐る恐るやってみるか・・・・・・

しかし、冬鉄(雪や氷の上で滑らないようにブロックや刻みが付いている)履いてきたら診療室には入れませんからね!!

                            


喉頭形成、声帯声嚢切除、軟口蓋焼烙

2006-06-07 | 呼吸器外科

 ここのところ、また喉の手術が続いている。

P6060082 運動しているが喉鳴りで苦しいという2歳馬。左(向かって右側)の披裂軟骨が垂れ下がって見える。呼吸をしても開く動きをしない。典型的な喉頭片麻痺だ。

また喉頭蓋が薄く、弱く見える。これは軟口蓋背方変位を起こしやすい馬の特徴でもある。

と思っていたら、検査中に案の定、DDSPを起こした。

P6060080喉頭片麻痺があるので、呼吸がしづらく、気道の陰圧が高まるので、DDSPを起こしやすくなった。ということは考えられる。

それで、まず喉頭形成術(Tieback)で、呼吸をしやすくする。

しかし、Tiebackがうまくいっても、DDSPが残ると困るので、DDSPを起こしにくくなるように軟口蓋を焼烙して固くなることを期待することにした。

P6060083 P6060085 TiebackはSECUROSのTieback Kitに、伝統的なETHIBONDを併用して行った。

その後、気管チューブを入れたまま軟口蓋の焼烙。

気管チューブで呼吸しているため、空気の動きがなく、焼烙した煙が喉頭から出て行かないので、写真が煙っている。

 その後、仰向けにし、喉頭を切開し、電気メスを使って声嚢、声帯を切り取った。

P6060086 P6060087 左・右は覚醒、起立後、再度内視鏡検査した所見。

手術前垂れ下がっていた左側の披裂軟骨は、外側へ引っ張られて固定されている。

声帯がなくなっているのがわかる。

術前からあったのだが、リンパ濾胞が数多く、大きい。

これは、呼吸が楽になれば、炎症も治まり、小さくなることが期待できる。

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 今年になって使い始めたSECUROSのTiebackキットだが、すっかり気に入った。

喉鳴りの手術も増え、消耗品は買い足した。「BSEフリーの証明書を付けろ」と言われて時間がかかったが、手元に届いた。

術後、音が変わることを期待して声嚢・声帯切除も行っている。また、声帯のみの虚脱も防げる。

 DDSPの手術方法は数多くあるが、Tiebackと併用するときは軟口蓋の焼烙をやっていこうと思う。

声嚢声帯切除と併用するときは、軟口蓋の辺縁切除を行う手もあるだろう。

DDSPだけの場合は、胸骨舌骨筋付着部切除と舌骨甲状軟骨牽引(Tieforward)を採用していこうと思う。

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 喉は呼吸だけではなく、飲み食いの時も、鳴くときも、非常に複雑かつ重要な動きをしなければならない。本当は外科的にコントロールするのは難しいが・・・・・・やらないわけにはいかない。

                      

 


登山と手術の共通点

2006-03-21 | 呼吸器外科

 各地で山の遭難があったようだ。二つ玉低気圧が通過し、オホーツク沖で発達する。春の悪天の典型的な天気図で、警告も出ていたのになぜ山へ入ってしまったんだろう。

 せっかく休みを取ってるし、この機会を逃すと・・・・・せめて行ける所まででも・・・・・になってしまうんだろう。体力が落ちている中高年登山者にとって、判断力と自制が不可欠なのに。

 登山歴何十年などといっても、社会人が積雪期の登山を一冬に何度もできるわけではない。1年1回なら10年経っても10回だ。しかも10年前の経験など忘れていく。

 手術でも、年に何度もやらないような手術の経験を積んでいくのは難しい。そして、その経験を次の機会に生かすためには、1回1回を思い入れを持って行い、1回1回の反省を何度も反芻して忘れないようにするしかない。

 登山も手術も、命がかかっているのだから。

P3150002                 -

 例えば手術するときに体位、ポジションは非常に大事。首の手術では首の伸ばし方。首の下におく枕の位置と大きさ。肢の手術なら、仰臥を選ぶのか、横臥でやるのか。そして関節の角度。

 前回どうすればもっとやりやすかったのか、何が成功で何が失敗だったのか忘れないように何度も何度も反芻する必要がある。

にもかかわらず、甘く見て、失敗し、命を失うのだ。登山でも手術でも!!

亡くなった方々のご冥福をお祈りする。

 

 


喉の音

2006-03-18 | 呼吸器外科

P3180011_1  春の海。ひねもすのたりのたり。

とはいかない。まだまだ冷たそうだ。

今年も何日かこの海で遊べる日があるだろうか。

P3090016_1        -

左はのど鳴りの音を録音するためにマイクをつけた馬の写真。

ヘッドフォン付マイクを着けた通訳やアナウンサーのようで面白い。

このままトレッドミルで運動させてのど鳴り音を録音する。

もっともトレッドミルで馬を走らせるのは結構大変なようだ。馴致が必要だし、硬いベルトの上で高速で走らせると肢が腫れるそうだ。

育成牧場でも導入したところがあったが、そんなこんなで運動のためにはほとんど使われていない。

「人や犬の運動には最高だよ。一度犬をつないだまま忘れてたけど・・・・」と聞いたことがある。

P3090017_1 左はそうやって録音した実験的に発症させた、喉頭片麻痺の馬の「のど鳴り」音。

正常な馬は息を吐くときにわずかに音がするだけだが、この馬は 吸うときに大きな音がしている。音の周波数は3つからなる(F1、F2、F3)。

人にはヒーヒー、ヒューヒュー聞こえる。

P3090018_1

左は同じく実験的に発症させたDDSPの馬の「のど鳴り」音。

息を吸う時にはほとんど音はないが、息を吐くときに大きな音がしている。

人にはブルブル、ゲロゲロ震えるような音に聞こえる。

   以上、図は EquineSurgery 3ed より。           

 喉頭片麻痺の手術後ののど鳴り音を分析すると、音自体を減らす率が高いのは声嚢声帯切除術だそうだ。

というわけで、今日もTieBackに声嚢声帯切除 ventriculocordectomy を併用しました。

喉頭片麻痺、DDSP以外ののど鳴りする異常についてはまた今度。