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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

EE

2008-06-16 | 呼吸器外科

P6050139 EE Epiglottis Entrapment

喉頭蓋が、喉頭蓋下の粘膜をかぶってしまっていることがある。

症状がない、あるいは気づかれないこともあるが、やはり喉鳴りの原因になる。

かぶっている粘膜を切開すればいいのだが・・・・・・

左の内視鏡写真は粘膜にフックナイフをひっかけて引っ張っているところ。

この手技は立位でもできなくはない。

立位でやったこともある。

しかし、馬が暴れると思わぬところを傷つける可能性があり、立位ではやらない方が良いと教科書にも書かれている。

それで、全身麻酔して行う。

しかし、DDSP(喉頭蓋が軟口蓋の下にもぐってしまう)を起こしてしまうと、鼻からは喉頭蓋が見えなくなる。

また、鼻からやると軟口蓋を傷つける可能性もあるので、DDSP状態にして口からやることを推奨する人が多いようだ。

P6050140 口から喉頭蓋下粘膜を切開した状態がこれ。

喉頭蓋下粘膜を切開するだけだと再発することがあるという意見もあるが、どうだろうか。

EEカッターのフックが短いと、かぶっている粘膜をペロンとめくるだけになる。

すると、当然、再発する。

大きなフックをひっかけて、かぶっている部分全体を切開すればまず再発しない。

再発を避けるために喉頭蓋下粘膜を切除する方法もあるが・・・・・あまり喉頭蓋下の粘膜を切除しすぎると、瘢痕収縮して喉頭蓋が下に引っ張られ、持続性のDDSPになる可能性が高くなる。

 繁殖雌馬で、なんの症状もない馬で、偶然EEを見つけたこともあった。

少々の異常は馬として生きていくには何の問題もないのだが、競走馬として他の馬よりすこしでも速く走らなければいけない馬にとっては、喉のわずかな異常でも大きな問題なのだ。

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P6160183P6160182  というわけでEEカッターは手製のものを使っている(左)。

フックはこんなかんじ(右)。

本当はもっと鋭く、切れ味良くしたいのだが・・・・なかなか難しいんだこれが。

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東北の地震被害に遭われた皆さんにお見舞い申し上げます。             


のどに縦棒はいらない

2008-06-06 | 呼吸器外科

獣医さんの良くある誤字に、

」を「くちへん」に「」と書くことがある。

はどう違うんだろう?

略字を書くことはあるが、余計な縦棒を書く必要はない。

「のど」は「」だ。

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P6060142 漢字って難しいね。

書けなくても、間違ってっても、気持ちが通じれば良いか。


軟口蓋裂

2008-06-04 | 呼吸器外科

口腔の蓋。つまり、口と鼻を分けている棚が口蓋。

歯に近い部分のほとんどは骨があり、これが硬口蓋。

もっと喉に近い方は軟部組織でできていて軟口蓋。

馬の喉頭蓋(気管の入り口の蓋)はふつうは軟口蓋にぴったりと乗っている。

だから馬は口を開けて呼吸をすることができない。

鼻を閉じると窒息する。

人の新生児もそうらしい。

P6020151この仔馬は生まれたときから乳が鼻へと逆流する。

確認のための内視鏡検査に連れてこられた。

心配したとおり、軟口蓋が裂けている。というか中央がない。

写真のU字型の部分が欠損部。

だから口から飲んだ乳が鼻へと逆流してしまう。

こういう仔馬はやがて誤嚥性肺炎がひどくなる。

手術すれば生きていけるようになる可能性もあるが、激しく呼吸しなければならない競走馬になれる可能性はない。

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生まれたときから乳が鼻から漏れる仔馬では先天性の軟口蓋裂を疑った方が良い。

                              

P6040139 P6040154


早春賦

2008-02-29 | 呼吸器外科

  きのう午前中は2歳馬の脛骨外果の骨折。スクリューで固定しようと試みたが、良い位置にスクリュー孔をあけるのが難しい。靭帯を剥がして骨片を露出させて固定するくらいなら、摘出してしまった方が良いと判断した。

 午後、2歳馬の網嚢孔ヘルニア。壊死した空腸末端を切除して、空腸回腸吻合。

 夕方から、繁殖牝馬の小結腸穿孔による腹膜炎。

厳しいことは予測していたが、開腹してみると予想以上にひどかった。

それでも、損傷した小結腸を切除・吻合して、腹腔を徹底して洗浄した。

一度は麻酔覚醒して、術前のエンドトキシンショックも改善されたかに見えたが、徐々に状態は悪化し、5時間後覚醒で死亡した。夜中2時。

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 今日は軟口蓋背方変位 Dorsal Displacement of Soft Palate のTie forward 手術。併せて胸骨甲状筋付着部切除。

 午後は喉頭片麻痺の Tie back。併せて声嚢声帯切除 Ventriculocordectomy 。

 夜、難産。頭位下胎向。枠場で胎向を整復しながら引っ張り出した。

仔馬はまだ生きていた。

 続いて、難産。両前肢と両飛節が産道へ向いてきていた。頭はない。

両飛節から両球節を引っ張り出して、前肢を押し込み、尾位で引っ張り出した。

頭も湾曲した奇形。胎盤も同時に剥がれてきていた。仔馬が先に死んだので、そのまま押し出されて来て難産になったのだろう。

 ゆうべあまり寝ていないので眠たい、力が出ない。

 ぼちぼち春が来たようだ。

P7220012


Tieback 後の過外転 over abduction

2008-01-26 | 呼吸器外科

P1220012 喉頭片麻痺の内視鏡所見。

左右の披裂軟骨が不対称に見える。

右(むかって左)の披裂軟骨が開いて息を吸おうとしているが、左の披裂軟骨はまったく動かない。P3090020

こういう状態だと、競走中には左の披裂軟骨は気管に吸い込まれて、気管の入り口を塞いでしまう(虚脱;右図は Equine Surgery より)。馬は苦しくて走ることができない。

P1220014 Tieback(喉頭形成術)とVentriculocordectomy(声嚢声帯切除)をした。

左は手術から約1週間後。

深呼吸しただけで馬の喉頭はこれくらい開く。

全力疾走しているときにはこれ以上開くかもしれない。

右の披裂軟骨は開いたり閉じたりしている。左は糸で固定されて開いたままだ。

息を吸い込むためには良い開き具合なのだが・・・・・・・・

P1220007 牽引が強すぎた、というか予想したより緩まなかった。

左の披裂軟骨は、息を吸っていないときでも開いた(外転)したまま。

1回目の手術から1ヶ月以上経ってこの状態、もうゆるむことは期待できない。

気管には食べ物があって、誤嚥しているのがわかる。

P1220011 手術し直して牽引していた糸を切って抜いた。

1回目の手術のときに、披裂軟骨と甲状軟骨の間を剥がして、牽引された状態で癒着するようにしているので、糸を切っただけではあまりゆるまない。

再度、軟骨の間を剥がして、望ましい程度にゆるませる。

緩ませすぎると1回目の手術前に戻ってしまうかもしれP1220009ない。

その2回目の手術後(左上)。

右の披裂軟骨が開くとこんな感じ(左下)。

これなら競走のときの激しい呼吸にも対応できるだろう。

声嚢声帯も切除してあるので、喉頭の下側にあるべきV字も開いている。

2回目の手術の後、馬は咳もしなくなったし、誤嚥もないようだ。

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 しかし、まだ安心はできない。

調教が激しくなると咳をし始める馬もいる。また、Tiebackした馬は輸送性肺炎も起こしやすい。

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 左右の披裂軟骨が目いっぱい開いて酸素を吸いながら走っている馬と勝ち負けするためには、Tiebackでもかなりしっかり左の披裂軟骨を開かせなければならない。

ただ、開かせすぎると咳や誤嚥が起きてしまう。

しかも、手術中や、手術直後よりは、多かれ少なかれ牽引は緩む。

それを予測して望むよりは強めに牽引しなければならない。

たいへん微妙で、難しい手術なのだ。

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 明日から武者修行に行ってきます。

 しばらく更新はお休みです。