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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

Ethmoid hematoma 篩骨血腫

2007-12-20 | 呼吸器外科

鼻血が少しずつ何ヶ月も出る。という症状だと、まず疑うのは ethmoid hematoma 篩骨血腫。

Org030916たいていは、内視鏡検査で、鼻道内に独特の色(ピンクではなく、緑がかっていたり、灰色がかった黄色)をした新生物が見える(左)。

かつては全身麻酔下で手術し、篩骨洞や副鼻腔から摘出していた。

数年前からは、内視鏡下でホルマリンを注入することで、この新生物の縮小させる方法をとっている。

内視鏡を通したチューブに針を付けておく。それを篩骨血腫に刺す。

そしてホルマリンがあふれてくるまで注入する。Org030920

文献では2週間隔が推奨されているが、1週間隔でも良いと考えている。

1週間後、少し小さくなっていた(右)。

Org030920inj 左はホルマリンを注入しているところ。

Org030927 さらに1週間後(右)。

新生物はさらに小さくなった。

Org031003 さらに1週間後(左)。

このピンク色の塊は異常なものではない。

健康な鼻道の篩骨部分にはこういうポリープ状のものがある。

Org031010 さらに1週間後。

篩骨洞をよく見ても、1週間前に残っていた血腫が縮んだものもなくなっていた(左)。

治療開始から1ヶ月足らず。

数ヶ月から、数年で再発の可能性はあるが、とりあえず、治療終了だ。

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今日はその篩骨血腫の症例。

午後は喉頭片麻痺の再手術。

腸炎の仔馬、入院中。


生産地の獣医師の仕事 呼吸器疾患2

2007-12-05 | 呼吸器外科

Pb230059

引き続き、ウマ科学会シンポジウムの講演内容です。 

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この20年、生産地に育成牧場が数多くでき、調教を積んでから競馬場へ行くようになった。

左上の写真は、2歳馬の喉鳴りでもっとも多いDDSP(軟口蓋背方変位)と呼ばれるのどの異常。

馬が調教を積んで、精神的にも肉体的にも強くなっていくと自然にDDSPをおこさなくなることが多いので、外科治療は積極的には勧めていない。

しかし、苦しくて調教を進められないとか、いつまでもレースに出られないという馬では手術することもある。

DDSPの手術は何種類も報告されていて、私も何種類かを組み合わせて行うことが多いが、もっとも新しい方法は Tie forward と呼ばれる喉頭の軟骨を前へ(舌骨)へ引っ張る手術(右上)。

今や、生産地は育成地でもある。

育成馬に特有の障害も、生産地の獣医師の治療の範疇になっている。

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 左下の写真はDDSPより年齢が進んだ競走馬に多い喉鳴り、喘鳴症。左の披裂軟骨が麻痺して垂れ下がっている。

こうなると自然に治ることは期待できないどころか、徐々に悪化する。

競走で満足できる結果がだせないとなると、今のところは Tie back と呼ばれる手術をして、披裂軟骨を後へ引っ張って喉頭が開くようにする。

私は右下の Securos Tieback Kit を使って年に40頭ほど手術している。

生産地は純粋に生産地ではなく、競走馬の休養・リハビリ・治療の場所でもある。

競走馬は剥離骨折や喉鳴りの手術をしに生産地へ帰ってくる。

現役競走馬の治療も生産地の獣医師の重要な仕事になっている。

(つづく)

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 私が就職した20数年前は、生産地にある育成牧場は限られていて、1歳馬は秋になると競馬場や本州の育成場へ出て行っていた。

生産地の獣医師は秋になるとすっかり暇で、秋になるとパチンコ屋にいるか、築港で釣りをしていた(笑)。

春の直腸検査と仔馬の診療で、1年分稼いだつもりになれた良い時代だったかもしれない。

生産地では、バブル崩壊後の生産頭数の減少による空洞化を補ってきたのが育成馬の増加だった。

最盛期の30%以上生産頭数は減少した。

あまり生産地としてだけ自分達の立場を考えていると、現状を把握しそこねると考えている。


Tieback の体位

2007-10-01 | 呼吸器外科

 アクセス数30万突破しました!

日頃のご愛顧に御礼申し上げます(謝~!!)。

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Pa010013今日は午前中 Tieback & Ventriculocordectomy

馬のポジションはけっこう工夫している。

まず、手術台は高くせず、術者は椅子に腰掛けて手術している。

それは、術者が楽をするためではない。Pa010014

Tiebackの後、馬を仰向けにして喉頭切開して声嚢声帯切除するのだが、その体位変換のときに安全なように手術台を上げずに手術しているのだ。

 ちょうど手術部位の下あたりに枕を入れて持ち上げている。これをすることで首が湾曲し、気管が術創に近づき手術し易い。

このことは最近の文献でしっかり書いている外科医もいる。

 頚が向こうへ落ちていかないように平打ち縄で頚を引っ張っている。

これはDr.Spirito に教わった。

どんな手術でも体位 position はたいへん重要。

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P9300010 空気が冷たくなってきた。

朝夕は肌寒いくらいだ。

 

 


9月最後の土曜日

2007-09-29 | 呼吸器外科

  あ~よく寝た。徹夜あけ、10時間くらい寝たか?

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 今日は、競走馬の球節の関節鏡手術。Hpnx0117

air distension 法で骨片を取り出す(右;写真は別症例)。

球節は狭いし、骨片は関節包付着部の近くにあるが、air distension 法だと関節内の滑膜の絨毛がひらひらしないので観察しやすい。

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 検査業務をしてから

P7100004_32歳馬のDDSP  Dorsal Displacement of Soft Palate 軟口蓋背法変位の手術。 P7100007

手術方法としてはTie forward(左) と軟口蓋の焼烙(右)を選択した。

その後、当歳馬の放牧事故の剖検・解体。

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あまじゅう先生、コロラドからのメールありがとうございます。

まさに世界を股にかける武者修行ですね。

「関節鏡手術?あんなものコロラドの田舎でやってるだけだろ。」と言った人が昔居ましたが、いまやコロラドは馬の関節障害の研究拠点です。

お会いして話を聞かせていただくのを楽しみにしています。

                         


7月末の日曜日

2007-07-22 | 呼吸器外科

 午前中は3歳馬のTie-back 。すこしでも早く調教に戻して、3歳未勝利戦に間に合わせたいので、喉頭切開による声嚢・声帯切除はしなかった。

 昼前、喉嚢鼓張・喉嚢カタールの子馬の手術。左右喉嚢の中隔に電気メスで孔をあけたが、どうも両側の喉嚢が鼓張を起こすらしく改善されないので、反対側の喉嚢の入り口のフラップも内視鏡下で切除。P5220372

 午後、障害競走馬の飛節軟腫のX線撮影。異常なしなので、関節液を抜けるだけ抜いてステロイドを入れる。

 その後、競走馬の蹄癌(右)の Debridment 手術。

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 7月末の日曜日。あしたは、大学で講義。入念に準備する時間はない。ぶっつけ本番だな。

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 きのうは競馬関係の仕事を紹介する本の取材を受けた。

「仕事の上での目標はなんですか?」

「仕事のやりがいはなんですか?」

「競馬の中で、どのような部分を占めていると思いますか?」

う~ん、言葉にするのは難しい。そんなこと考えながら仕事しているわけじゃない。