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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

レーザーによる軟口蓋焼烙

2009-04-13 | 呼吸器外科

DDSP 軟口蓋背方変位の外科治療。 P4070484

私はTie forward 手術に併せて軟口蓋の焼烙も行っている。

これは、軟口蓋を厚く固くすることでDDSPを起こしにくくすることを期待している。

今までは内視鏡を通した高周波焼烙器のスネアを軟口蓋に接触させて行ってきた。

しかし、スネアが軟口蓋に焦げ付いたり、出血したりすることがあった。

高周波焼烙では、プラズマ放電が起こるので接触部位の温度は1000度を超えてしまうのだP4070487 そうだ。

今回は、ダイオードレーザーを用いて焼烙した。

非接触用のファイバーの先にはレンズが付いていて、レーザー光を集束させて焼烙することができる。

(右写真は焼烙前。仰臥なので軟口蓋が上。白いのは照射前のレーザーの照準。)

接触させなくて良いので操作は楽。P4070488

まさに光線銃。

出力20Wで焦げない程度の焼烙ができた。

高周波ほど高温になっていないので、術後の疼痛も少ないはずだ。

P4070489 Tie-forwardの方は・・・

報告では2本の糸かワイヤーで引っ張っているが、私は4本に増やしている。

軟骨へかかる力も分散される利点があると考えている。

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P3260439 ダイオードレーザー装置。

レーザーにはCO2レーザー、YAGレーザー、などあるが、

最近はダイオードレーザーの高性能化が進み主流になりつつあるようだ。

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今日午前中はTieback&Ventriculocordectomy。

声嚢声帯切除は、全身麻酔下でレーザーで皮膚切開、喉頭切開、声嚢・声帯切除した。

出血が少なく良い感じ。


喉頭の筋肉の機能

2009-03-13 | 呼吸器外科

どういうわけか、解剖の教科書は学生のとき使ったものが使いやすい。

それだけ良く勉強したということか?(笑)

たぶん、解剖学がすでに確立されていて、その後も大きく加筆修正される必要もないからかもしれない。

これが、微生物の教科書だったりすると、細菌の名前や分類が変わってしまっていたりするので古い教科書を調べるのは辞めた方が良い。

P3120434私が学生時代に使っていたのは、加藤嘉太郎先生の「家畜比較解剖図説」(左)。

この下巻の方には喉頭の筋肉がどのような機能を果しているか解説した部分がある。

これは他の解剖の教科書にはあまりない記載で、喉頭の手術をする馬外P3120431科医にはたいへん参考になる。

喉頭を開かせているのは背側披裂輪状筋だと思われている(左)。

披裂軟骨筋突起を輪状軟骨の背側正中へ引っ張る。

すると披裂軟骨が外転して喉頭が開く。

しかし、喉頭と声門裂を開く役割を果しているのは背側披裂輪状筋だけではない。P3120428

甲状軟骨と輪状軟骨を結んでいる輪状甲状筋(6)が収縮すると、

輪状軟骨と甲状軟骨の位置関係が変わる(右)。

すると、輪状 軟骨と関節している披裂軟骨も引かれて、声帯(17)も緊張P3120429_2して開くことになる。

この輪状甲状筋を支配している神経を手術で傷つけることが、術後に声帯の虚脱を起こしているかもしれないことを先日の記事に書いた。

ちゃんと、ん十年前に書かれた解剖の教科書に説明されていたわけだ。

右上の図は右から見た図なのだが、馬のTieback手術は圧倒的に左側から行う手術なので、欲を言えば左から見た図で書いて欲しかった。

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今日は、午前中は予定を変更してもらって1歳馬の緊急開腹手術。

レーザーで開腹した。出血が少なく済む。

午後はずれ込んだ競走馬のTieback&Ventriculocordectomy.

レーザーで喉頭切開し、声嚢声帯切除した。


声帯切除する理由 3

2009-03-11 | 呼吸器外科

  Sydney大学のAndrew J. Dart が、Veterinary Surgery誌に投稿した文章なのだが・・・・

Vocal Fold Collapse after Laryngeal Tie-Forward Correction of Dorsal Displacement of the Soft Palate in a Horse.

軟口蓋背方変位のTieforward手術による治療後の声帯虚脱を示した1頭。

Pb110006以下抜粋---

Tieforward手術はDDSPの外科的治療法として報告され、成功率は82%と高く、併発症は少ないとされている。

DDSPを起こすことをトレッドミル検査で確かめた馬でTieforwardを行ったが、運動に戻した後も異音があった。

トレッドミル検査をしたところ両側の声帯の虚脱を認めた。

Tieforward手術する以前の検査では声帯虚脱は起こしていなかった。

Tieforwardは軟口蓋機能を改善するが、両側の声帯虚脱を起こし易くするかもしれないことが示唆された。

 Holcombeらは輪状甲状筋の機能不全が運動中の馬で声帯虚脱を起こすことを報告している。

輪状甲状筋は喉頭の腹側にある1組の短い筋肉で、輪状軟骨の外側溝に始まり、吻側縁に沿って吻・背側へ伸び、甲状軟骨の尾側縁に付着している。

頭側喉頭神経の外側枝の神経支配を受けている。

Holcombeらは、頭側喉頭神経が輪状咽頭筋と甲状咽頭筋の上を走っているところで、この神経を傷つけることにより、声帯虚脱がTieback手術の併発症となりうるかもしれないことを示唆している。

 輪状甲状筋と神経接合部、そしてTieforward手術の部位は解剖上関連している。

今回の症例では、術創の問題や輪状甲状の線維性の腫脹の結果として声帯虚脱が起きた可能性がある。

一方、声帯虚脱が左側でより悪く、運動が進むにつれてひどくなったことは左の輪状甲状筋の機能障害が原因として考えられ、神経支配の損傷により起こったのかもしれない。

声帯虚脱はTieforward手術の併発症として起こる可能性があること考えるべきである。

とくに術創の腫脹や漿液腫が起こっているときには。

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Holcombeらの報告は、輪状甲状筋が機能しないようにすると声帯虚脱が起こることを実験で示したものなのだが、その文献には、輪状咽頭筋と甲状咽頭筋の間の外側面を頭側喉頭神経の外側枝が走っている写真が出ている。

それは、まさに喉頭形成術 Tieback のときの喉頭への外科的アプローチをおこなう部位だ。

                      ---

以前から、喉頭形成術 Tieback 後もパフォーマンスが改善されない症例の原因として、咽頭や喉頭を支配している神経や筋肉を傷つけることを挙げている馬外科医もいる。

咽頭や喉頭は、複雑な構造をしていて、舌骨、軟骨、それらを動かす筋肉がそれぞれ神経の支配を受けて、非常に複雑かつ微妙な動きをすることで、嚥下や呼気・吸気の機能を果している。

外科侵襲により、術前はなかった問題が起こる可能性は充分考えられる。

Holcombeらの報告や、Dartの指摘は、Tieback手術やTieforward手術のあとに、併発症として声帯虚脱が起こる機序や可能性を示すものだ。

これが、Tiebackに声帯切除を併用する理由のひとつだ。


声帯切除する理由 2

2009-03-10 | 呼吸器外科

Tieback手術後の動的虚脱

2005のAAEPで発表された報告なのだが

Dynamic Upper Airway Evaluation of 37 Horses with Residual Poor Performance after Laryngoplasty.

喉頭形成手術後の説明のつかないプアパフォーマンス馬37頭の上部気道の動的評価。

Elizabeth J. Davidson, Benson B. Martin, and Eric J. Parente

要約

喉頭形成術後の高速トレッドミルヴィデオスコープ検査によって81.6%に動的虚脱が認められた。

喉頭形成術により良好に外転していた馬では100%、中程度から軽度に外転していた馬では60.9%、外転していなかった馬では20%、が披裂軟骨の位置が維持されていた。

良好に外転していた馬では80%、中程度から軽度に外転していた馬では73.9%、外転していなかった馬では100%に、披裂軟骨以外の喉頭の構造の虚脱が認められた。                                   

結果---抜粋---

喉頭形成手術後もパフォーマンスに問題があった37頭の馬を安静時と高速トレッドミル運動Photo 中にヴィデオスコープで検査した報告。サラブレッドは26頭、うち23頭とスタンダードブレッド7頭が競走馬。

34頭はプアパフォーマンスであり、30頭は異常呼吸音(喘鳴)があり、6頭は咳をしていた。安静時の内視鏡検査では、5頭は外転状態良好。23頭は中程度から軽度。10頭は外転なし。

喉頭形成に併せて、6頭では左の声嚢摘出が、23頭では声帯声嚢切除が行われていた。

他の上部気道の異常では、間欠的なDDSPが6頭に、披裂軟骨変性が4頭に、気管上部の肉芽形成が4頭に、軟口蓋尾側縁の潰瘍が1頭に、右の声帯声嚢切除されていた馬が1頭に、認められた。

気管の中に粘液が認められた馬が20頭、食物カスが認められた馬が7頭いた。

高速トレッドミル運動中のヴィデオスコープ検査では、31頭(81.6%)に動的虚脱が認められた。

右の声帯の動的虚脱が18頭(58.1%)に、Pb110015

左の披裂軟骨の動的虚脱が17頭(54.8%)、

左の披裂喉頭蓋組織の動的虚脱が15頭(48.4%)、

左の声帯の動的虚脱が14頭(45.2%)、

右の披裂喉頭蓋組織の動的虚脱が9頭(29.0%)、

間欠的DDSPが5頭(16.1%)、

左の小角突起の動的虚脱が5頭(16.1%)、

持続的なDDSPが1頭に認められた。

左の披裂軟骨の虚脱があった全ての馬は他の軟部組織の虚脱も示した。

左声帯の虚脱があった14頭のうち13頭は声嚢切除や声帯声嚢切除されていなかった。

良好に外転されていた馬の100%、中程度から軽度に外転されていた馬の60.9%、外転していない馬の20%は喉頭形成による披裂軟骨の位置を保っていた。

良好に外転されていた5頭の馬のうち4頭(80%)、中程度から軽度に外転されていた23頭の馬の17頭(73.9%)、外転していない10頭の馬の全て(100%)は左披裂軟骨以外の喉頭や咽頭組織の動的虚脱を示した。

考察

披裂軟骨の外転の程度は手術の効果の評価に用いられてきた。ある研究では、喉頭形成術により披裂軟骨の外転が大きかった馬の方が、外転が小さかった馬より運動機能を回復している傾向にあった。他の研究では、最大外転の70%以上外転していた馬がよりパフォーマンススコアが高かった。しかし、実験的研究において、補綴の確固さは吸気抵抗を決定する大きな要因であるが、外転の程度はそうではなかった。今回の研究の多くの馬は中程度から外転なしであった。今回の馬達はプアパフォーマンスにより来院したので、外転の程度は期待してそうしたものではなく、おそらく喉頭形成術の失敗によるものだ。披裂軟骨の外転の程度は動的な披裂軟骨の虚脱に関係していた。良好な外転では100%、中程度から軽度では60.9%、外転なしでは20%が披裂軟骨の位置を維持していた。

馬主と調教師はしばしば異常な呼吸音を手術の失敗と結びつける。しかし、異音は失敗を判定する単独の評価基準として用いるべきではないと示唆されてきた。呼吸音の録音を用いた研究では喉頭形成された馬全てに運動中原因の特定できない異音があった。披裂軟骨の手術による外転が最も大きい馬達でその異音は大きかった。そして、両側の声帯声嚢切除だけが異音を減弱させる結果につながる外科手技であった。異音の発生は活動レベルにも関係しているかもしれない。競走馬では60%、スポーツホースでは76%が喉頭形成術後に異音が解消していた。今回の研究では、81.1%の馬が異常な音がするとされて来院し、93.5%(31回の検査のうち29回)で動的虚脱が認められた。左の披裂軟骨と/あるいは左の声帯の動的虚脱を示した馬のすべてと、右の声帯の虚脱を示した馬18頭のうち17頭(94.4%)が異音があった。

喉頭形成術後の高速トレッドミル運動中のヴィデオスコープにより81.1%の馬に動的虚脱が認められた。しかし、喉頭形成術の失敗による披裂軟骨の虚脱が起こったのはは17回の検査(54.8%)のみだった。加えて、17回の検査すべてで、他の上部気道組織の虚脱が併発していた。披裂軟骨の問題がない場合の14回の検査(45.2%)では喉頭や咽頭の他の構造の虚脱が認められた。喉頭形成術後の原因不明のプアパフォーマンスと/あるいは上部気道の異音を示す馬において、上部気道の運動中ヴィデオスコープ検査は喉頭・咽頭機能の、適切な治療管理の、そして再手術するかどうかの正確な診断として考えられるべきである。

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つまり・・・

喉頭形成術 Tiecack では左披裂軟骨の外転は良好 excellent と判定できるような牽引をめざしたい。しかし、外転が良好でないからといって、運動中に左披裂軟骨が虚脱しているとは限らない。

左披裂軟骨以外の喉頭・咽頭構造が運動中に虚脱を起こしていることはかなりの率であって(喉頭形成術後、異音がするとか、パフォーマンスが改善されない馬の約8割)

声帯の虚脱も半数前後で起こっているようだ。

(右は58.1%、左は45.2%、両側がどれだけかは記載されていない)

喉頭形成 Tieback 後もパフォーマンスが改善されなければ高速トレッドミル検査できれば理想だが、現実にはそれは難しい。

これが・・・・

喉頭形成術 Tieback には、声帯声嚢切除を併用した方が良いのではないかと考える理由のひとつだ。

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今日は、競走馬の腕節の剥離骨折の関節鏡手術。

2歳馬の下顎切歯骨骨折のワイヤー固定。

1歳馬の飛節後腫。

競走馬の種子骨骨折の関節鏡手術。

2頭の入院馬の治療。


声帯切除する理由 1

2009-03-09 | 呼吸器外科

P3010411_2  本当に呼吸能力をめいっぱい使って走っている時の馬の喉は左の写真のようになっている。

(写真は Equine Respiratory Medicine & Surgery より)

もっと開く馬だと左右の披裂軟骨はM字型に持ち上がるほど「外転」している。

声帯も開いている(気管裂のした半分にあるV字)。

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左下の写真の症例は、現役の競走馬だが、喉鳴りで競走も振るわなくなったとのことで来院した。

しかし、左の披裂軟骨も動き、かなりの外転が可能。gradeⅢa。

安静時の喉頭内視鏡所見ではTiebackに踏み切るための確証が得られなかった。

喉鳴りの音もヒューヒューではなく、ゼーゼーで、何が起きているか確信できなかった。

P2060357それで、トレッドミル上で走らせて内視鏡検査してもらった。

結果・・・・・左披裂軟骨が虚脱している。

だけではなく、左右の声帯が虚脱して気道をさらに狭めている。

おまけに苦しいながら走ってると、DDSP(軟口蓋背方変位)も起こした。

P2060364 左写真はトレッドミル上での高速運動中、DDSPを起こした時の吸気P2060368 時(息を吸う時)のようす。

右写真は、呼気(息を吐く時)のようす。

こうなると普通はゲロゲロ、ブルブルというような喉鳴りをする。

喉頭片麻痺に、声帯の虚脱に、DDSP。

音が混じり合って、ゼーゼーと聞こえたのかもしれない。

三重苦だ。

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こういう馬でもTiebackだけを行っても、気道の陰圧状態が変わって声帯の虚脱やDDSPを起こさなくなるのかもしれないが、

声帯も切除しておくにこしたことはないだろう。

声帯も虚脱を起こしている馬がいること。

それがTiebackに併せて声帯声嚢切除を行っている理由のひとつだ。

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今日は1歳馬の疝痛の開腹手術。

休養馬の結腸便秘。

妊娠末期の繁殖雌馬の疝痛。

競走馬の腕節剥離骨折の関節鏡手術。

入院馬2頭。