Tieback手術後の動的虚脱
2005のAAEPで発表された報告なのだが
Dynamic Upper Airway Evaluation of 37 Horses with Residual Poor Performance after Laryngoplasty.
喉頭形成手術後の説明のつかないプアパフォーマンス馬37頭の上部気道の動的評価。
Elizabeth J. Davidson, Benson B. Martin, and Eric J. Parente
要約
喉頭形成術後の高速トレッドミルヴィデオスコープ検査によって81.6%に動的虚脱が認められた。
喉頭形成術により良好に外転していた馬では100%、中程度から軽度に外転していた馬では60.9%、外転していなかった馬では20%、が披裂軟骨の位置が維持されていた。
良好に外転していた馬では80%、中程度から軽度に外転していた馬では73.9%、外転していなかった馬では100%に、披裂軟骨以外の喉頭の構造の虚脱が認められた。
結果---抜粋---
喉頭形成手術後もパフォーマンスに問題があった37頭の馬を安静時と高速トレッドミル運動
中にヴィデオスコープで検査した報告。サラブレッドは26頭、うち23頭とスタンダードブレッド7頭が競走馬。
34頭はプアパフォーマンスであり、30頭は異常呼吸音(喘鳴)があり、6頭は咳をしていた。安静時の内視鏡検査では、5頭は外転状態良好。23頭は中程度から軽度。10頭は外転なし。
喉頭形成に併せて、6頭では左の声嚢摘出が、23頭では声帯声嚢切除が行われていた。
他の上部気道の異常では、間欠的なDDSPが6頭に、披裂軟骨変性が4頭に、気管上部の肉芽形成が4頭に、軟口蓋尾側縁の潰瘍が1頭に、右の声帯声嚢切除されていた馬が1頭に、認められた。
気管の中に粘液が認められた馬が20頭、食物カスが認められた馬が7頭いた。
高速トレッドミル運動中のヴィデオスコープ検査では、31頭(81.6%)に動的虚脱が認められた。
右の声帯の動的虚脱が18頭(58.1%)に、
左の披裂軟骨の動的虚脱が17頭(54.8%)、
左の披裂喉頭蓋組織の動的虚脱が15頭(48.4%)、
左の声帯の動的虚脱が14頭(45.2%)、
右の披裂喉頭蓋組織の動的虚脱が9頭(29.0%)、
間欠的DDSPが5頭(16.1%)、
左の小角突起の動的虚脱が5頭(16.1%)、
持続的なDDSPが1頭に認められた。
左の披裂軟骨の虚脱があった全ての馬は他の軟部組織の虚脱も示した。
左声帯の虚脱があった14頭のうち13頭は声嚢切除や声帯声嚢切除されていなかった。
良好に外転されていた馬の100%、中程度から軽度に外転されていた馬の60.9%、外転していない馬の20%は喉頭形成による披裂軟骨の位置を保っていた。
良好に外転されていた5頭の馬のうち4頭(80%)、中程度から軽度に外転されていた23頭の馬の17頭(73.9%)、外転していない10頭の馬の全て(100%)は左披裂軟骨以外の喉頭や咽頭組織の動的虚脱を示した。
考察
披裂軟骨の外転の程度は手術の効果の評価に用いられてきた。ある研究では、喉頭形成術により披裂軟骨の外転が大きかった馬の方が、外転が小さかった馬より運動機能を回復している傾向にあった。他の研究では、最大外転の70%以上外転していた馬がよりパフォーマンススコアが高かった。しかし、実験的研究において、補綴の確固さは吸気抵抗を決定する大きな要因であるが、外転の程度はそうではなかった。今回の研究の多くの馬は中程度から外転なしであった。今回の馬達はプアパフォーマンスにより来院したので、外転の程度は期待してそうしたものではなく、おそらく喉頭形成術の失敗によるものだ。披裂軟骨の外転の程度は動的な披裂軟骨の虚脱に関係していた。良好な外転では100%、中程度から軽度では60.9%、外転なしでは20%が披裂軟骨の位置を維持していた。
馬主と調教師はしばしば異常な呼吸音を手術の失敗と結びつける。しかし、異音は失敗を判定する単独の評価基準として用いるべきではないと示唆されてきた。呼吸音の録音を用いた研究では喉頭形成された馬全てに運動中原因の特定できない異音があった。披裂軟骨の手術による外転が最も大きい馬達でその異音は大きかった。そして、両側の声帯声嚢切除だけが異音を減弱させる結果につながる外科手技であった。異音の発生は活動レベルにも関係しているかもしれない。競走馬では60%、スポーツホースでは76%が喉頭形成術後に異音が解消していた。今回の研究では、81.1%の馬が異常な音がするとされて来院し、93.5%(31回の検査のうち29回)で動的虚脱が認められた。左の披裂軟骨と/あるいは左の声帯の動的虚脱を示した馬のすべてと、右の声帯の虚脱を示した馬18頭のうち17頭(94.4%)が異音があった。
喉頭形成術後の高速トレッドミル運動中のヴィデオスコープにより81.1%の馬に動的虚脱が認められた。しかし、喉頭形成術の失敗による披裂軟骨の虚脱が起こったのはは17回の検査(54.8%)のみだった。加えて、17回の検査すべてで、他の上部気道組織の虚脱が併発していた。披裂軟骨の問題がない場合の14回の検査(45.2%)では喉頭や咽頭の他の構造の虚脱が認められた。喉頭形成術後の原因不明のプアパフォーマンスと/あるいは上部気道の異音を示す馬において、上部気道の運動中ヴィデオスコープ検査は喉頭・咽頭機能の、適切な治療管理の、そして再手術するかどうかの正確な診断として考えられるべきである。
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つまり・・・
喉頭形成術 Tiecack では左披裂軟骨の外転は良好 excellent と判定できるような牽引をめざしたい。しかし、外転が良好でないからといって、運動中に左披裂軟骨が虚脱しているとは限らない。
左披裂軟骨以外の喉頭・咽頭構造が運動中に虚脱を起こしていることはかなりの率であって(喉頭形成術後、異音がするとか、パフォーマンスが改善されない馬の約8割)
声帯の虚脱も半数前後で起こっているようだ。
(右は58.1%、左は45.2%、両側がどれだけかは記載されていない)
喉頭形成 Tieback 後もパフォーマンスが改善されなければ高速トレッドミル検査できれば理想だが、現実にはそれは難しい。
これが・・・・
喉頭形成術 Tieback には、声帯声嚢切除を併用した方が良いのではないかと考える理由のひとつだ。
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