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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

DDSPの軟口蓋焼烙治療の効果の是非

2010-10-11 | 呼吸器外科

きのう、AAEPの抄録を紹介したDDSPの軟口蓋焼烙処置。Pc120070_2

数年前から私もやっているし、このブログでも以前に書いたこともある。

その手技の効果をパデュー大学のグループが評価して報告している。

こちらの方が後発なので、Dr.Hoganらの発表と実践を検証する意図があるのだろうと思う。

                           -

Evaluation of the effects of transendoscopic diode laser palatoplasty in clinical, histologic,

magnetic resonance imaging, and biomechanical findings in horses.

馬のヴィデオスコープを通したダイオードレーザーによる口蓋形成術の効果の臨床的、組織学的、MRI、生体力学的評価

            Am J Vet Res 2010 May;71(5):575-82.

目的

馬における軟口蓋のダイオードレーザーによる口蓋形成術の効果を明らかにすること。

動物

6頭の正常な馬と6頭の他の研究により安楽死した馬。

方法

6頭はダイオードレーザーによる口蓋形成を行った(処置馬);3頭は低出力のレーザー処置(1,209J[ジュール]から1,224J)、3頭は高出力のレーザー処置を行った(2,302Jから2,420J)。

残る6頭は処置しなかった(対照馬)。

すべての処置馬の上部気道は手術後すぐに(0日)と2,7,14,21,30,45日に検査した。

馬は45日に安楽殺され、頭部のMRIを行った。

処置馬と対照馬から軟口蓋を切除し、肉眼的に検査し、浮腫、炎症、瘢痕をスコアした。

全馬の軟口蓋は組織学的・生体力学的評価のために切り出した。

成績

内視鏡的検査では、7日までに処置馬において軟口蓋の瘢痕の明らかな増加と、浮腫と炎症の減弱が認められた。

肉眼的剖検所見はMRI所見と一致した。

肉眼的、組織学的検査は、45日での瘢痕、浮腫、炎症の明らかな増加を示した。

高出力での処置馬の口蓋組織の組織学的評価では、筋線維の萎縮を伴う骨格筋の全層の損傷が判明し、低出力で処置した馬の所見は骨格筋への表面的損傷が示唆された。

術後は、処置馬は、対照馬に比較して明らかな軟口蓋の弾性率の減弱を示した。

結論と臨床的関連

レーザーによる口蓋形成術は軟口蓋の線維組織形成と骨格筋損耗を起こす。しかしながら、線維組織形成は軟口蓋の弾性率の増加にはつながらない。

                           -P8310792_3

DDSPを起こす馬の軟口蓋は、気道が陰圧になると大きく持ち上がる。

そこで、軟口蓋を硬くしたり、縫い縮めたりする手技が報告されてきた。

レーザーによる焼烙もそのひとつだ。

内視鏡で観ながら軟口蓋を焼烙していると、焼烙したところが収縮していくのが如実にわかる。

P4070490軟口蓋のどの部位を、どのくらいの強さで焼烙するべきかはまだ定説がないように思う。

今回のパデューからのリポートは、焼烙によるダメージ(変化)を客観的にとらえようとしたものだが、

DDSPへの効果の臨床的評価と併せながら、この治療方法が評価されていかなければならないだろう。

(病理組織がどうでも、治ればいいんだから・・・・・・・・笑)

                  //////////

Pa110587_2

12月2日にDr.Richardson先生が静内ウェリントンで午後6時から馬の骨折について講演してくれます。

この講演は獣医師以外の方にも聴いていただきたいと思っています。

(手違いで申し込んでいただくよう案内がでていますが)

参加申し込みは不要です。

今、馬の骨折がどこまで治せるかという話が聴けると思います。

                         -

13日午後北海道大学で馬の臨床について話します。

いまだに馬の骨折や障害がどれほど治せないか話そうと思います(笑)。


DDSPの補助療法としてのレーザー焼烙

2010-10-10 | 呼吸器外科

2002年にDr.Patricia Hoganが競走馬のDDSPの補助療法としての、軟口蓋のレーザー焼烙をAAEPで発表している。

たいへん良い成績なので、紹介する。

以下、Proceedingsの抜粋。

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Transendoscopic Laser Cauterization of the Soft Palate As an Adjunctive Treatment for Dorsal Displasment in the Racehorse.

 競走馬のDDSPの補助療法としての軟口蓋の経ヴィデオスコープレーザー焼烙

緒言

 DDSPの病理生体学について多くの説が唱えられてきたが、誘引や、軟口蓋と喉頭の間の機能の正確な関係の理解はまだ不十分なままだ。

この障害は複雑で、少なくとも多くの要因が関係している。

歴史的には馬具の工夫(舌縛り、8字バンドなど)、抗炎症剤(副腎皮質ホルモン全身投与、鼻腔へのスプレー、フェニルブタゾン)が行われてきた。

外科的治療は年を追って少しずつ変わってきたが、現在普及しているのは、口蓋帆切除と併せた、あるいは単独の胸骨甲状筋腱切断である。

この手技は、術後の競走成績の改善を指標としたスタンダードブレッド競走馬41頭の研究で、70%とされている。

口蓋帆切除の成功率は、それのみを分析したときには、スタンダードブレッドとサラブレッド競走馬59頭で59%と報告されている。

口蓋帆の切除の効果についてのいくつかの説には、口蓋の自由縁を切除すると縁に沿って線維化や瘢痕化が起こり、それゆえに軟口蓋と喉頭蓋の間がしっかり閉じるというものである。

しかし、過剰に切除すると、持続的なDDSPが起こる危険もあり、肉芽形成が問題になった症例も報告されている。

加えて、喉頭切開創の術後管理が必要で、この傷が治るのに2-3週間かかる。

軟口蓋の弛緩が間歇的なDDSPに寄与しているかもしれないという説からは、切除しないで軟口蓋の組織の性状を変化させる方法が必要とされている。

 この研究の目的は間歇的DDSPの症例で口蓋帆切除に代わる方法として軟口蓋の経ヴィデオスコープレーザー焼烙の臨床的価値を調べることである。

この焼烙手技が口蓋帆切除の必要とされる効果を満たしており、侵襲が少なく、術後管理を必要とせず、現在推奨されているより術後の回復期間が明らかに短くなることを検証した。

材料と方法P1110087_4

 52頭の競走馬が運動中の間歇的DDSPの疑いで来院した。全馬は調教が進んでいるか、現役競走馬であった。

可能なら、焼烙処置前に、静脈麻酔下で胸骨甲状筋腱切断を行った。

麻酔覚醒後、枠場に立たせて、キシラジンとアセプロマジンで鎮静し、鼻捻子保定した。

内視鏡を右の鼻孔から入れて、メピバカイン10ccで軟口蓋を局所麻酔した。

600μベアファイバーをバイオプシーチャンネルを通し、軟口蓋の尾側自由縁に接触させた。

出力15Wで接触法で軟口蓋の自由縁全体に沿って、2-4mm間隔で、1-2秒、吻側1.5cmまで当てた。

 手術中にフェニルブタゾンを静脈内投与し、喉にスプレーをし、3日間曳き運動してから速歩や駆け足に戻すように指示して退院した。

術後治療は14日間喉にスプレーをし、フェニルブタゾン経口投与を5日間、14-21日間経口プレドニゾロンの漸減投与を行った。

1週間後の内視鏡検査で術部の問題がなければ、馬は完全な調教に戻された。

 担当獣医師、調教師と持続的に連絡をとりあい、手術直後から術後1年までの情報を得た。

成績

 調査対象はスタンダードブレッド42頭とサラブレッド10頭である。すべての馬は担当獣医師か調教師によって上部気道に起因すると判断された運動不耐性を示していた。

46頭については、競走や調教の終わりか、終わり近くに聞き取れる上部気道の異音が報告されていた。

47頭(90%)は術前の内視鏡検査で軟口蓋の尾側自由縁に潰瘍を認めた。

 42頭は同時に胸骨甲状筋腱切断を行い、8頭は以前に行われており、2頭はDDSPの術前診断が疑問であったので、レーザー焼烙だけが推奨された。

 この抄録提出時までに、52頭のうち50頭が術後に出走した。10頭のサラブレッドのうち8頭が少なくとも3回出走し、2頭は上部気道に関係しない理由でまだ出走していない。

42頭のスタンダードブレッドのすべてが術後少なくとも5回出走した。手術前に出走したことがあった42頭のスタンダードプレドのうち38頭は、手術前の2レースの最後の400mの平均タイムは31.2秒(範囲29.2-36)であったが、手術後のそれは28.3秒(範囲26.4-29)であった。

46頭(92%)は、運動時の上部気道の異音が明らかに減るか(14頭)、あるいは止まって(32頭)、調教師によって順調に競走したと考えられた。

術後の内視鏡検査では、主観的に、焼烙した軟口蓋に平滑な硬い外観に、弱々しい白い瘢痕組織が置き換えられているのが観察された。

 1頭の馬で軟口蓋に穴が開いたこと以外に併発症の報告はなかった。

この馬はとくに治療を受けず、口腔と繋がる穴が残ったが、競走成績に悪い影響はなかった。

考察

 ヴィデオスコープを通したレーザーによる軟口蓋の焼烙は競走馬の間歇的DDSPの効果的な補助療法だと思われる。

手術は立位の馬で容易に行うことができ、術中の併発症もない。

術後の治療は最低限で、馬は術後3日以内に調教に戻ることができ、1週後にはスピード調教を再開できる。

推奨した術後の内科治療(喉スプレーと抗炎症剤)はレーザーによる二次的温熱効果を減少させるのに非常に重要である。

1頭は手術時に穴が開いたが特別な術後治療はしなかった。

 馬主/調教師の満足度は非常に高く、92%の馬が以前のプアパフォーマンスが改善されるか、あるいはまったく問題がなくなった。

馬の中には後期の調教過程に居た馬もいたが、DDSPによる呼吸の問題で出走できなかった。そして、術後はうまく出走することができた。

手術の最も明らかな効果は、上部気道の喘鳴が明らかに減少するか、あるいは完全になくなったという、調教師からの報告である。

 DDSPがある馬の最もよく聞く稟告は、調教や競走の最後か最後近くの上部気道の特徴的な喘鳴である。

スタンダードブレッドでは術後に最後の400mのタイムが明らかに改善された。

この指標と、調教師の報告を併せると、術後は1600mの最後にもDDSPは起こらなかったことを示唆していると思われる。

しかし、これは仮定であり、必ずしも臨床的な真実ではないことも重要である。

 著者の意見として、胸骨甲状筋腱切除は競走馬の間歇的DDSPの外科治療の非常に重要な部分だが、今回の調査の結果に基づいて、レーザー焼烙は口蓋帆切除に代わりうる。

その手技は間歇的DDSPの効果的な補助療法である。

胸骨甲状筋腱切除と組み合わせたレーザー手技は、DDSPによる上部気道の喘鳴を減らすか、無くすことに役立ち、術後治療をほとんど必要とせず、完全な調教へ早く戻すことができる。

                           -

 まあ、あくまで謙虚に、補助療法だとしている(笑)。

しかし、たいへん良い結果だ。良すぎて素直に信じられないくらい(笑)。

Dr.Hoganは、軟口蓋の辺縁切除の代わりとしてレーザー焼烙をとらえたのだろう。

だから軟口蓋の辺縁のみを強く焼烙している(写真)。

レーザーで焼烙するにしても、軟口蓋のどの部位をどのくらい焼烙するのが効果的かは、今後検討していかなければならないと思う。

 


ダブルヘッダー double header

2010-01-22 | 呼吸器外科

今日は、喉頭片麻痺P4150274

(右;運動中の左披裂軟骨・声帯の虚脱)の

Tieback&Ventriculocordectomy (喉頭形成・声嚢声帯切除) を2頭。

この手術も那須の研修でやる予定。

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double-header ; two games that are played on the same day

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数日、ブログ更新はお休みです。


laser によるEE切開

2010-01-20 | 呼吸器外科

Ee 競走馬の喉頭。

なんかへん?

喉頭蓋エントラップメント(EE)だ。

喉頭蓋下の粘膜が喉頭蓋を包んでしまっている。

こうなると酷くはないがヘンな喉なりをする。

競走成績が良かった競走馬でも見つけることがあるので、

あるときからこうなってしまう馬がいるようだ。

EEになってしまってからは競走で勝てるとは思えない。

繁殖雌馬では、症状と関係なく見つけたこともある。

         -

Ee2 内視鏡を通したlaserで切開することにした。

使っているのは半導体レーザー。

最近のヴィデオスコープは半導体レーザーに対応したフィルターが入っていて、laser出力中もハレーションを起こさない。

狙った所に当てておいて、フットスイッチを踏むと焦げながら切れていく。

Ee3 切り終わってこんな感じ。

喉頭蓋下粘膜から披裂喉頭蓋ヒダの形状がもっと正常になってもらいたいところだが、

2-3週間待って、瘢痕収縮すれば本来の形状に治まるだろうと判断した。

laserがなければEEカッターと呼ばれる金属製フックで喉頭蓋P6160183 を包んでいる粘膜を切開する。

これも悪い方法ではないが、馬が暴れると軟口蓋や鼻粘膜や口の中を傷つける心配があった。

それで、馬がおとなしくないときは全身麻酔が必要だった。

laserなら、DDSPを起こしてしまってなければ立位で鼻から手術することができるだろう。

                         -

2009のAAEPでは、フックに開け閉めできるガードをつけたEEカッターの試用の発表があったようだ。

しかし、私はフックの形が気に入らない。

                         -

那須で、レーザーによる喉の処置についても話しましょう。


喉の話

2010-01-19 | 呼吸器外科

Photo「 喉の話はさっぱりわからん」

とおっしゃる方に部位の名前の復習です。

気管の入り口の上の左右にあるのが「披裂軟骨」。

下の三角の弁が「喉頭蓋」。

気管の入り口にV字にあるのが声帯。

その外側の袋が声嚢。

Photo_3 縦断面で見るとこんな感じ(左)。

「喉頭蓋」は「軟口蓋」にしっかり乗っていなければならない。

馬が全力で走るとき、すごい陰圧で肺へ空気を吸い込む。

そのとき鼻からだけ空気が入らなければならない。

披裂軟骨も左右に思いっきり開かなければならない。

どんな馬も競走の時には呼吸能力を最大限に使っている。

呼吸器の障害はその馬の本来の競走能力を必ず落とす。

中には喉鳴りしながら勝つ馬がいるが、その馬の潜在能力はもっと高かったということだ。

                          -

もう一つ大事なことは呼吸さえできれば良いわけではないことだ。

食道の入り口は気管の入り口の上(背側)にある。

馬が水を飲んだり、物を食べたりするときには、左右の披裂軟骨は閉じて、喉頭蓋が気管の入り口を塞ぐように起きながら、喉頭は下へ沈まなければならない。

そして、口から入ってきた液体や固体が食道へ入っていく。

この動きと構造がうまく行かないと、馬は誤嚥してしまう。

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23日から那須へ行きます。

喉の内視鏡検査や手術もテーマの一つです。