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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

Dr.Hendrikson講演会

2007-11-02 | 講習会

 今日は、苫小牧で胆振獣医師会産業動物(馬)講習会。Pb020009

コロラド州立大学外科学教授のDean A. Hendrikson 先生の講演。

内容は、前半2/3が腹腔鏡手術。残りが上部気道の外科手術。

 腹腔鏡は、サラブレッド生産地では適応症例は多くなさそうだ。

卵巣摘出は顆粒膜細胞腫くらいしか行ったことはないし、特別大きな顆粒膜細胞腫では腹腔鏡では摘出するのはたいへんそうだ。

陰睾の去勢は年に数頭やるが、それほど苦労しているわけではない。

仔馬の膀胱破裂への応用は、膀胱を尿が漏れないように縫うのが難しいので、簡単ではないそうだ。

 それでもUSAの馬の外科の現状について聞けたのは勉強になった。

毎年、内容の濃い講習会を企画・実行されている胆振獣医師会諸氏に敬意と感謝を表します。

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Pa170041 最近、万歩計を着けている。

あまり椅子にすわっている時間はなくて、一日診療所をうろうろしているようだが、なかなか万歩とはいかない。

午前の手術で3000歩。午後も診療だと2000歩。というところか。

日曜日、診療しないで paper work だと1500歩だった。

田舎の暮らしは本当に歩かない。

運動しましょ。

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そして、いつも思っていることなのだが、馬も歩かせることが大切。

 


ケンタッキーの馬産講演会

2007-10-18 | 講習会

Photo 今夜は「強い馬づくり」講演会。

ケンタッキーで牧場を経営する吉田直哉氏の「ケンタッキーの馬産」の講演。

面白かった。

ケンタッキーでの馬産の要点について話してくれた。

たぶんケンタッキーへ視察に行っても、こんなに要点を見て来て知ることは難しいだろう。

吉田氏は獣医師でもあり、実は学生のころ、うちの診療所に実習に来たこともある。

繁殖管理、外科治療についての情報もたいへん参考になった。

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 馬は放牧で育てる。異論なし。

 冬をどう過ごさせるかが日高での馬産の鍵。異論なし。

 栄養コンサルタントは、調教師や育成者が望むより馬をふくよかにする傾向がある。異論なし。

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 成長板にイオジンとココナッツオイルを混ぜたものを注入すると骨の成長が促進されて肢勢が矯正できる。おおいに疑問あり。

このGPSと呼ばれる治療方法にはケンタッキーの馬外科医も懐疑的だそうだ。

私も簡単に信じる気はしない。

そんなもんで骨の成長を促進できるなら肢を長くすることだってできるんじゃないの?

仔馬の肢勢はかなり自然に変わる。それもたいていは良くなる方向に。だから気をつけないと自然に良くなったのを治療の効果と勘違いする。

今は長く行われてきた骨膜剥離PEにも否定的な馬外科医が増えてきた。私もその一人だ。

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 いずれにしても生のケンタッキーの情報を通訳なしで聞けたのはたいへん参考になった。通訳が入ると倍の時間がかかるし、多少なりとも間違いやニュアンスの違いが起こるから。

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 今日は喉嚢炎馬の流動食投与、そのあとの腫瘍切除はドタキャン、そのあと鼻血の馬は篩骨血腫と診断してホルマリン注入で治療、そのあと膝のX線撮影は異常なし、午後は競走馬の飛節腱鞘炎 Tharapin の治療、育成馬の骨嚢包Bone cyst の治療、繁殖雌馬の胃内視鏡による胃潰瘍の検査。

次から次に診療しても吸入麻酔を使う手術がない日は精神的にも肉体的にも楽だ。

                          


レポジトリー講習会

2007-02-07 | 講習会

P2020059 先日、セリにおけるレポジトリーについての講習会があった。

講師はケンタッキー州レキシントンの巨大馬診療施設 Hagyard-Davidson-McGee http://www.hagyard.com/ の外科医Dr.Rodgerson 。

何度も私のところを訪れている Dr.Spirito の同僚外科医だ。

といってもまだ37歳と若い。

カナダのプリンスエドワード島の出身で、ケンタッキーでインターンをし、大学でレジデントをやって外科専門医となり、またケンタッキーへ戻ったそうだ。

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 午前中は、X線撮影とX線所見の評価について。

技術的な面、評価の上での判断は日本と大きくは異ならない。

デジタルX線撮影の機材はうらやましい。

現像作業なしで、コンピューターに画像を取り込める装置がHagyardには10台あるそうだ。

1台1千万円ほどする。

ケンタッキーではセリのX線撮影だけで何千頭も行われる。

まだまだ日本とは規模が違うのだ。

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 午後は、喉の内視鏡所見と評価について。

喉頭麻痺について、左右の披裂軟骨が完全に同調して完全な外転をするのはGrade1、左の披裂軟骨は右とは同調しないが、完全な外転が可能なのはGrade2、とするGradeシステムで、「Grade1も2も正常だ」と言っていた。

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 夜、Dr.Rodgersonを囲んでのアルコール付き懇談会に呼んでもらった。

「あなたが購入者なら、Grage1の馬を探すか?」と訊ねたら、

「左右の披裂軟骨は別な神経支配を受けている。完全に同調するはずがない。すべての馬はGrade2だ。」

との答えだった。

しかし、それならGrade1は無くせば良い。Grade1だった馬が、Grade3になっていく過程では、Grade2の時期もあるだろう。

ケンタッキーでも、X線検査や喉の内視鏡検査は売る側の依頼で行われている。

売る側、競走馬として使いたい買い手、そしてピンフッカーとして転売目的での買い手。立場によって、判断基準も異なってくる。

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 他にもいろいろと興味深い話も聞けた。

「Dr.Spiritoはたいへん経験豊富な素晴らしい外科医だ」とも言っていた。

手術をすればするほど収入が増えるシステムだが、「生活とのバランスが大事」とも言っていた。

 大学で教官をしていたこともあるそうなので、臨床とどちらの職が好きか聞いてみた。

「臨床に集中でき、スピードのある今の仕事の方が好き。ただ、忙しすぎないようにしたい」とのことだった。

 Dr.Rodgersonもこれからどんどん経験を積んで超一流になっていくのだろう。

われわれも負けてはいられない。


ESWT、US、クローン馬

2007-01-11 | 講習会

P1110012   今日は獣医師会の講習会だった。

午前中は、ショックウェーブ治療。イギリスの先生の講演だった。

ショックウェーブには2タイプあり、Radial型と呼ばれるコンプレッサーを使った機械で弾道衝撃波を出すタイプと、Forcus型と呼ばれるエネルギーが収束するタイプがある。

今日の講演は、弾道衝撃波型の機械を主に使っている先生の講演だった。

 以前、収束型の機械を使っているUSAの先生が、収束型の機械を販売している業者の招待で来た時には、

「弾道衝撃波はショックウェーブではない」とまで言い切っていた。

まあ、なんと言うべきか・・・・・・ 

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P1110013  午後は1題目は繁殖に関する超音波画像診断の応用について。

これはテキサスA&M大学の繁殖学の教授の講演。

日高でももう20年以上も応用されている超音波画像の話だったが、きちんとデータを採って、科学的に整理すると論理的な診断技術として確立できるんだな~と感心させられた。

生産地の獣医師は、さんざん診ている画像なのだが、これだけ整理して話すのは難しいのではないだろうか。

若い先生達には勉強になっただろうと思う。

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 P1110014 午後2題目はクローン馬の作製についての講演。

クローン技術にもう歯止めはないのだと思わされた。

馬の体細胞を、牛の卵子に注入して、増殖させ・・・・・・

クローン動物は、虚弱であることが知られているが、そんなことは克服できれば問題にはならないらしい。

 禁止しても、いずれクローン人間も作られるだろうと確信した。

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 帰ってきてから明け1歳馬の外傷縫合と、肺炎で死んだ子牛の剖検。 P1110017

すっかり寒くなった。

もう今年生まれの子馬の血液検査が来た。

クローン技術と言い、真冬に生まれる子馬と言い、寒さで死ぬ肺炎の子牛と言い・・・・・

人が家畜にすることの罪深さ。と言っては言いすぎか。

life and death.  合掌。


AM種子骨骨折 PMマイクロチップ

2006-10-23 | 講習会

 午前中は関節鏡手術。P7200017_1

前肢の内側種子骨の頂部の骨折だった。2cm近い骨片を摘出した。

実はこの馬、1年あまり前に同じ種子骨を骨折して手術している。そのときも2.2cmの骨片を摘出した。

その後、9戦して5勝したそうだ。

しかし、また同じ種子骨が割れた。(写真は別症例)

 前肢の内側の種子骨は、8個ある種子骨のうち最も張力がかかる。

種子骨をX線撮影して、放射線状に陰影があるのを「種子骨炎」と呼ぶが、その放射線状陰影から剥がれるように割れてしまうことがある。

たぶん今日の馬も、種子骨の弱い部分からまた割れてしまったのだろう。

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 午後はマイクロチップの講習会。Pa230063

来年生まれる子馬からは、右のようなやつを埋め込まないと競走馬登録できない。

世界的な流れなのだし、馬の個体確認がしやすくなるのだから理由はわかる。

 どう考えても種付けに連れて行く繁殖牝馬を間違えたとしか思われない。という結論になった裁判もあった。

 競馬に出走させた馬が入れ替わっていたという不祥事もあった。

 今年、私のところにも、手術に来る馬を間違えて連れてきた牧場もあった。

 毛色、特徴で馬を確認しようとしたら、毛色が違っているとか(子馬のときは刺し毛か芦毛かわかりにくい)、白い肢が違っているということもあった。

 まあ、マイクロチップが入っていても間違えるときは間違えるだろうけど。

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Pa230064 ただ、埋め込み役になる生産地の獣医さんたちはあんまり簡単に考えない方が良いと思う。

項靭帯項索に確実に埋め込むことが難しいのは左の写真を見ればわかるだろう。

筋肉や脂肪組織に入ってしまった場合、競走馬になったときに読み取れないことがどれくらいの率で起こるかはまだわからない。

誰が入れたか記録が残るのだから、狙いすまして入れなければならない。

 トラブルがないとも言えないだろう。

0.1%の確率で問題が起こるとしても、毎年5000頭以上行うのだから、毎年5頭は問題が起こることになる。

血行が乏しい組織に異物を埋め込むのだから、性質の悪い菌に感染したりすると厄介だろう。

子馬の免疫能力は充分ではなく、感染に弱く、環境は病原体に満ち溢れているのはご存知のとおりだ。