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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

ウマの麻酔セミナー

2015-09-09 | 講習会

日曜日ははウマの麻酔セミナーだった。

今年はウマ科学会の臨床委員会の海外講師招聘として、麻酔学会に来日したお二人の先生に日高へ来ていただいた。

講師はコロラド州立大教授のDr.Mamaと、UC Davis名誉教授のDr.Steffey、ご夫婦である。

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テーマが麻酔なので正直どれくらい人が集まるかとか、質疑が盛り上がるかと懸念したが、杞憂であった。

御二人の学術的知識や臨床経験の豊富さがうかがえてとても興味深く、会場での講義・症例発表・質疑もとても盛り上がった。

時間が足りないのが残念なほどで、もっとお聞きしたいことがあった。

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「吸入麻酔中に低血圧と頻脈があるなら、それは循環血液量の不足を意味しているので、輸液をもっと増やしたほうが良かった。」

と明確に答えてくださった。

重度の腹膜炎があった症例での吸入麻酔中も、トキシッックな状態では血管拡張があるので輸液をしても血管外へ逸脱してしまうから、輸液はもっと必要になる、とのこと。

そして、Dr.Steffeyの飛び入りショート講義。

Arterial Pressure = Cardiac Output x TPR

Cardiac Output (心拍出量)は、心拍数と1回拍出量で決まる。

IPPVでは、胸腔を陰圧にして吸い込んでいる自発呼吸と異なり、陽圧をかけて酸素を送り込んでいるので、肺胞の血管が押しつぶされるということはIPPVの基本として知ってはいても、それを状態が悪い患畜への対処に生かすことはなかなか難しい。

しかし、学術的知識と臨床経験の豊富さがそれを可能にするのだと感じさせられた。

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難しい講義やディスカッションを手際よく正確に訳していただいた通訳の方も素晴らしかった。

このような機会を実現するために準備、努力された方々に感謝したい。

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次の日から、オラはとうちゃんと出かけた

とうちゃんは、自分の水とウンチくらい背負えって言う

でも岩場を登って行くのはたいへんだった・・・・・


特定動物「馬」講習2015

2015-08-01 | 講習会

例年呼んでいただいている特定動物の診療の講習会へ行って講師を勤めてきた。

全国のNOSAIの経験5年未満の獣医さん達が参加者で16名だった。

手を挙げてもらうと、診療区に馬が居て、診る可能性がある人は4-5名。

乗馬経験がある人は1-2名。

それで、あまり細かい話をしても仕方がないので、大雑把に「馬はこうですけど、牛はどうしてますか?」みたいな話にした。

x線撮影装置が使える環境にある人は1/3くらい。

それでは整形外科の話をしても応用・実践してもらう機会はないかもしれないが、若い獣医さん達だ。

必要性を感じてもらって、地元で診療環境の向上につなげてもらいたい。

牛の内固定をプレートでやってはどうでしょう。と提案し、デモも観てもらった。

大学で小動物外科の講義や実習では習っているようだった。

大動物では「できない、やらない」では情けないじゃないか。

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本州府県のNOSAIから来ている獣医さんに聞くと、

診療所があるNOSAIは半分以下。

すべての手術は往診先でやることになる。

1県のNOSAIの獣医師の数はNOSAI日高だけよりも少ない。

日本全国で「1府県1NOSAI」にしようとしているのがどれだけ現状無視で馬鹿げているか、官僚も政治家もわからないのかね?

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その夜は私は帯広でプチ同窓会。

とても楽しゅうございました。

ガーデンを見学して帰ってきた。

 


Cornell大学での腱鞘鏡・滑液嚢鏡手術研修

2015-04-30 | 講習会

Cornell大学で行われる馬の腱鞘鏡・滑液嚢鏡手術の研修。

講師は、香港にも来られていたProf.Nixon、あのMcIlwraith先生、などそうそうたる面々。

舠嚢、指屈腱鞘(球節)、手根腱鞘(腕節)、足根腱鞘(飛節)、上腕二頭筋滑液嚢を対象として、実習と講義とディスカッション。

実習は死体肢で行う。

参加費は2日間で$1,550、だから20万円弱。

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腱鞘鏡・滑液嚢鏡といっても特殊なものではなく、関節鏡を差し込む部位によって呼び名を変えている。

関節と同じく、滑液と呼ばれる潤滑液が入った腔で、感染を起こしたり、癒着したり、フィブリンや線維や塊状物ができたりするので、スコープを入れて、癒着を剥がしたり、切開したり、洗浄する。

腱鞘の中から腱や靭帯を切る手技もある。

関節鏡ほどよく行われる手術ではないのだが、それぞれの部位で特有の構造があり、それに精通していなければならない。

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この1,2年こういう研修会の企画が目立つ。

専門分野が確立されてきたこと、卒後教育、それも専門医の継続教育の需要があること、などが理由だろうか。

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今日は、当歳馬の肢軸異常ALDのsingle screw 矯正手術。

続いてscrew抜去。

午後は1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

今日で、忙しかった4月も終わり。

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ずいぶん成績の良いひと月だった気がする。

腸管手術も、帝王切開も、新生仔脳症も、骨折内固定も、ほとんどが助かって帰っていった。

(君が威張るんじゃない!)

 


AOVET Course - Advances in Equine Fracture Management 1日目午前

2015-03-29 | 講習会

実際のコースはAuer先生のLC-DCP(DCPを改良したチタン製プレート)、DHS/DCS(Dynamic Hip Screw/Dynamic Condylar Screw)の講義で始まった。

しかし、LCP(Locking Compression Plate)が開発された今となってはLC-DCPを使う理由はほとんどない。

LC-DCPの利点はLCPにも生かされているからだ。

そして、DCSはとても複雑で、高価で、かつ骨にあまりに大きな穴を開けるシステムだ。

もともと人の大腿骨骨頭骨折用に開発されたもので、骨端部の骨折を強固に固定することができるが、世界的にも馬の骨折治療に普及しているとは言い難い。

Auer先生も、高価な器具は業者から借りることもできる。と言っていたが、たいていの骨折は緊急手術だ。

必要になってから借りる手配をしていたのでは使えない。

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今回の実習でもっとも時間をかけたのは成馬の橈骨斜骨折あるいは3piece骨折を5.5LCPとDCSで固定する方法だったが、

Dr.Richadsonに「DCSを使いますか?」と聞いたら、「まず使うことはない。LCP2枚での固定を選択する。」という返事だった。

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そのあと、とくにどこというわけではないプラスチック模擬骨での内固定の実技練習

私はインド人の参加者をbaddie(相棒)としてpractical exercise することになった。

私たちコンビは模擬骨を落として粉砕骨折にしてしまった。baddieがその骨片も押さえ込むことにこだわったので”内”固定はあまりうまく行かず時間切れ。

baddieの英語は私より格段上だ。インドは公用語は英語だ。が、くせが強くて私には聴き取りにくい。

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cofee breakのあとケンタッキーRoode and RiddleのDr.Rugglesの講義2つ。

Treatment principles of long bone fractures 長骨骨折の治療原則

Ruggles先生の講義は症例集のようなもので、その中で重要なポイントが箇条書きにされていてわかりやすい。

ただし、症例があまりに豊富で、次々に出てくるので理解が追いつかない。

もっとゆっくりと体重や年齢などの付随情報を提示して欲しかった。

それはこちらの英語力のせいもあり、Ruggles先生も早口で聴き取りにくい。

プレートはテンションサイド(引張られる側)に置く、とか、斜骨折では骨端を押さえるようにプレートを置きたい、とか、基本原則を聞いたのはたしかこの講義だった。

知ってはいるけどそれがいろいろな条件では難しいのが骨折手術なんだけど。

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もうひとつは、Diagnosis and treatment of complicated ulna fractures 難しい尺骨骨折の診断と治療

尺骨はプレート固定をもっとも使いやすい骨折なのだが、それもいろいろな条件で難しくなる。

尺骨頭部はプレートだけでは固定できないことがある。

粉砕骨折だったらどうするか?

子馬の尺骨骨折はスクリューを橈骨まで届かせると、尺骨が成長できなくなって関節面がずれてしまう。

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で、そのあとはまたプラスチック骨での尺骨骨折の実技練習

私は整形外科用のドリルの使用に不慣れだった。骨を固定する器具の使い方を知らなかった。プラスチック骨は”骨折面”が滑りやすいので骨整復鉗子でしっかり固定しようとするとかえって滑ってズレてしまう。

そんなこんなで、この実習方法そのものに慣れていないと難しい面があった。

そして、プラスチック模擬骨はとてもよくできているのだが、実際の手術では筋肉や皮膚をかぶっているのでプラスチック骨での練習のようにはいかない。

Dr.Richardsonを日高に呼んだときにやったように死体肢でやるほうが本格的な練習になる面もある。

この尺骨骨折のプレート固定の練習の出来上がりをAuer先生が採点して3チームに景品進呈。

AOのコースでは参加者2人に1台は練習台を用意して実技練習することが決められているのだそうだ。

また、期間中の昼食・夕食はすべて参加費に含まれていなければならないというのも決めごとなのだそうだ。

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ここで、昼食。

講義室の前にカフェテリア方式で食べ物が並べられて、各自立ったまま食べたり、講義室に戻って食べたり。

あまりに盛りだくさんなので

(つづく)

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夜中、難産で起こされる。

両前肢腕節屈曲、後肢も産道に入って来ているということで、すぐに帝王切開の決断をした。

子宮を切開して引っ張り出した胎仔。

腕節拘縮、脊椎側湾、後肢は飛節と球節で内反。

おそらくこれに近い格好で子宮に入っていたのだろう。

奇形によるひどい難産だったわけだ。

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Rogz (ログズ)・ファンシードレス・アームドレスポンス・犬用首輪 - XLサイズ Red Heart (並行輸入品)
ログズ
ログズ

 相棒に首輪を注文したら配送予定よりずっと速く届いた。

南アフリカ製で、ハンガリーから届いたらしい。

これで2千円足らず。送料無料。

質感も上々だ。

消費者にとっては良い時代かもしれないが、業者にとってはとてつもないものと競争しなければならない。

それが良いことなんだろうか・・・・・?

オラ、首輪なしでもいいゾ


ウマ科学会Scott Morrison講習会・デモ

2014-12-05 | 講習会

日本ウマ科学会臨床グループが今年招いたのは馬蹄病の専門家としてますます大活躍しているScott Morrison.

以前にも生産地に来てもらって話を聞いたり、デモを見せてもらったことがある。

その後もDr.Morrisonはさらに忙しくなり、毎日の診療に、各地での講演や講習に飛び回っているらしい。

今回、生産地では午前中に講演してもらい、午後は装蹄師さん向けにデモをやってもらった。

私は午前中だけ出て、午後は遠慮しようと思っていたのだが・・・・結局、お手伝いがてら見学させてもらった。

見せてもらって・・・ヨカッタ;笑。

観といて・・・ヨカッタ。

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デモではまず蹄葉炎馬での、デ・ローテーションさせるための接着装蹄。

これは、必ず深屈腱切断を行って深屈腱の牽引をなくして行う。(Scottに質問して確認した)

ただし、手技としてはデ・ローテーション装蹄をしておいてから深屈腱を切る。

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装蹄師会に頼まれて用意したのは慢性蹄葉炎でダメになった馬の蹄。

1頭は私が往診して深屈腱を切った馬だった。

蹄管理がたいせつなことは説明したのだが、半年後ひどい状態になっていた。

ひどい慢性蹄葉炎が深屈腱を切れば治るわけではないし、その後の管理方法は獣医師や装蹄師でないとできない。

今回見せてもらった蹄管理の技術や知識が普及してくれると良いのだが。

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費用の問題も確かにある。

特殊な蹄鉄や接着剤やその他の消耗品を買い込んでおいて使うのはすごく経費がかかるし、

状態の悪い馬に特殊な手技を行うのは時間も取られる。

そして一度で済むわけではなく、何度も繰り返さなければならない。

その経済的負担を畜主が望むかどうかも技術普及の課題ではある。

しかし、私たちがやってきた手術と同じで、やればかなりの率で治るとなれば特殊な装蹄管理にもお金はかけられるはずだ。

安からぬ種付け料を妊娠している馬の蹄葉炎も多いし、

慢性蹄葉炎になった繁殖雌馬でも、そうだったとわからないほど良くなることもある。

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蹄葉炎のためのcast(ギプス)のやり方も見せてもらった。

Distal limb cast(繋部遠位キャスト)で巻く。

以前はHalf limb cast(腕節・飛節遠位キャスト)で巻いたこともあるが、あまり効果は変わらなかったとのこと。

荷重を中手骨部へ逃がすことではなく、底が丸いキャストをすることで反回ストレスを無くすことと、蹄や蹄関節が動かなくすることで楽になるのだろう。

慢性蹄葉炎、しばしばsinkerの蹄を、しっかり削蹄して反回を楽にして、感染部は消毒と抗生物質軟膏注入をして、蹄底にACS(アドヴァンスドクッションサポート)を着けて、

ストッキネットを履かせて、外科用フェルトでキャスト端が当たる所を保護して、下巻きを巻いて(蹄にも)、4号グラスファイバーキャスト2本で巻く。底にはさらにエクイロックスを盛ってドーム状に丸くする。

sinkerにはこの方法しかないし、ローテーションするタイプではデ・ローテーション装蹄をしておいて、キャストを巻くこともある。

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それから、裂蹄のワイヤー締結のやり方のデモ。

蹄壁が厚さがあり、しっかりしていれば蹄壁そのものにワイヤーを通すこともあるが、薄くて弱いときにはケブラー繊維を混ぜたエクイロックスを裂蹄部の両側に盛って、それにワイヤーを通す。

裂蹄部にはエクイロックスが入らないように布テープを裏返して巻いたものを詰めておいてあとで抜く。

締め具合はかんじんで、とくに裂蹄が古くなっていると瘢痕組織ができているので締めすぎると痛みが出る。

馬の耳を動かしたり、肢を引くのを気にしながら、できれば裂け目が寄るまで締める。

さらに布小片にエクイロックスを塗ったものを貼り付けて補強する。

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とても勉強になった。

今年、慢性蹄葉炎の深屈腱切断について研究発表して賞をもらった。

しかし、深屈腱を切れば良くなるとは思っていない。

多くの慢性蹄葉炎馬はそれで一時楽になるが、その後の管理がとてもたいせつ。

そのこととに確信をもち、またその方法について知識が増えた。

感謝!!

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I am sorry so hard schedule. とScottに謝っておきました。

"no rest"

と笑っておりました;笑。

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講習から帰ってきたら疝痛の繁殖雌馬が2頭来院していた。

どちらも手術になった。

1頭は小腸捻転で、1頭は盲腸便秘。

ワイシャツ姿のまま手伝う。

今日も夕方、繁殖雌馬の疝痛の来院。

すでに腹膜炎を起こしていて予後不良。

十二指腸の穿孔だった。

なぜ穿孔した?