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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

子牛の食道梗塞処置での気管挿管

2021-11-19 | 牛、ウシ、丑

10日齢の黒毛和種子牛。

「7日間、親から哺乳させていて、離乳して投薬器でミルクをやったら鼻から逆流してきた。

この3日間、食道梗塞が解除されないようで、カテーテルも入っていかないので、補液している」、とのこと。

キシラジンで鎮静して寝かす。

内視鏡を鼻から入れたが、食道に入ってすぐそれ以上送り込めなくなる。

X線撮影すると、食道上部に塊状の閉塞物がある。

子牛用の胃チューブで押してみるが押し込めない。

閉塞部位が上部なので、食道を洗浄すると逆流が気管に入ってとても危険だ。

それで、気管挿管した。

内視鏡で喉頭部を見ながら、食道に胃チューブを入れて、ストマックポンプで水を送り込む。

少しずつ鼻から閉塞物が流れ出てくる。

頚に手を当てて、閉塞部をもみほぐした。

そして、胃チューブが通過した。

内視鏡を食道へ入れると、まだ食道の内壁に張り付いているものもあるが、容易に胃まで到達できる。

あとはミルクを飲んでいれば流れていくだろう。

カーフハッチの床はオガクズなので食べる心配はない、とのこと。

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内視鏡も威力を発揮したが、無くてもなんとかなったと思う。

それより必須は気管挿管だった。

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花もなく、紅葉も終わり、雪もない季節。

ただ日が短くなり、寒くなっていく。

 

 


ホルスタイン新生子牛の屈腱拘縮

2021-11-02 | 牛、ウシ、丑

前日に生まれたホルスタイン子牛が突球で、副木を当てたが伸びないということで来院。

かなりひどい。

右前は引張ると伸びるが、これでは蹄底で負重できない。

左前はより重度で、球節で内反もしていて、関節の拘縮もあるようだ。

立てないまま運ばれてきて、そのままキシラジンで鎮静して、局所麻酔して、浅屈腱を切断し、それだけでは伸びないので深屈腱も切断した。

蹄にsuper fast でエクステンションを付けた。

蹄尖を前に出してやれば蹄底で負重しやすいだろう。

これで立てるかどうか様子を観て、だめならキャストを巻いて伸ばした方が良い。

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1週間ほどで自力で立てるようになり、翌日には歩いたそうだ。

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きのうは、

朝、1歳馬の大腿骨骨嚢胞のscrew固定。PRP療法併用。

開腹手術した1歳馬が術創感染したので再来院。抜糸して、細菌検査材料を採って、洗浄して、イソジンシュガーを入れた。

午後、私は血液検査。

手術室では2歳馬の球節のchip fracture の関節鏡手術。

2歳馬の中手骨外顆骨折のscrew固定手術。

その途中に、1歳馬の舌裂傷の縫合。

鎮静して、下顎神経ブロックして、舌を包帯で縛って引っ張り出して、傷を洗って、鋭匙でデブリドして、縫合した。

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秋は、短くて、寂しくて、好きな季節ではなかったが、今年は楽しめた気がする。

例年より暖かかったからか?

私が暇で楽になったおかげか?;笑


子牛の臍構造の感染 尿膜管膿瘍、臍静脈膿瘍、臍帯炎 各方面の記述から

2021-10-11 | 牛、ウシ、丑

子牛が臍から感染し、臍帯炎、尿膜管膿瘍、臍静脈膿瘍、ができる症例は増えているように思う。

岩手での報告

本当に増えているのか?

かつては見過ごされ、予後不良になっていた症例が多かった可能性もある。

帯広畜産大学からの巨大な腹腔内膿瘍の予後不良例の報告。

この報告では、原因菌は環境細菌だった、とされているが、かつてはArcanobacterium pyogenes とされており、

現在ではTrueperella pyogenes とされている細菌の病原性は無視できないように思う。

超音波画像診断装置の普及によって臍静脈と臍動脈、および尿膜管といった腹腔内の構造の状況まで把握できるようになった。

それで、診断される症例が増えたということはあるかもしれない。

兵庫からの報告

子牛の臍のトラブルでは超音波画像診断は必須の手技であろう。

手術が必要となった症例では、各地で開腹手術が行われている。

島根での手術例。キシラジンと局所麻酔で。

傍正中切開がいいんじゃないか、という兵庫からの報告。7頭のうち2頭は淘汰、1頭はこの時点で育成中。

予防して、発生を減らしたいところだ。

農家向けに多くの文章が書かれている。

臍のトラブルについて、根室から

臍ヘルニアと外見上区別がつきにくいので、獣医師に診せる判断をどうするかは重要なポイントだ。

オホーツクからのシンプルなやつ

多くは出生後の臍帯の消毒を推奨しているのだが、抗生物質軟膏の臍帯への注入と、抗生物質の全身投与を推奨している文章もある

これは賛否両論あるだろう。

抗生物質を予防に使えば、初期の徴候が隠蔽され、耐性菌が環境に増え、難治性になるかもしれない。

分娩房を使っている農家では、分娩房の掃除と消毒は非常に大切だろうと思う。

分娩房がTrueperella pyogenes で汚染されていたら、感染実験・発症実験をしているようなものだ。

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分娩の管理が子牛の臍のトラブルの要因になっている可能性を示唆する文章もある(最初の岩手からの記述)。

本当に増加しているとしたら、血統的な背景も考えられるかもしれない。

しかし、ホルスタインでも黒毛和種でも似た状況なので、他の要因が大きいのだろう。

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その地域から分離されるTrueperella pyogenes について詳細に調査した報告もある。

福井から

とても素晴らしい調査成績だ。

Trueperella pyogenesの病原性について推察することもできるし、

環境が汚染されて発症につながるのではないかと考察することもできるように思う。

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研修センター裏の林の紅葉。

剪定しなきゃな・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 


巨大な尿膜管膿瘍

2021-10-10 | 牛、ウシ、丑

連れて来られたのは3.5ヶ月齢のホルスタイン子牛。

生まれたときから臍の調子が悪く、最近はだんだん腫れが大きくなって、抗生物質を投与しているが抑えられない。

超音波で観たら、臍の中には膿が溜まっていて、腹腔内尾側へ続いている。

破らずに引き出さなければならない。

しかし、巨大で、周囲に炎症が波及し浮腫があり、腹腔内では大網と癒着していて、危険で難しい。

尿膜管から膀胱へつながっているが内腔には境目はあった。

子牛の体重99kg。この塊は・・・・・

1.5kgあった。

内容はクリーム状の膿。悪臭。

(抗生剤を全身投与してもこの中の濃度は上がらないだろう)

もちろん細菌検査・薬剤感受性検査する。

尾側内腔には臍動脈が残っている。

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これほど大きいのなら、一度切開して廃膿させて小さくし、皮膚の傷が閉じたら摘出手術する、というのが良いかもしれない。

今回のようだと外科侵襲が大きく、あまりに危険だ。

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日暮れが早くなった。

 

 


0日齢黒毛和種子牛の橈尺骨骨折 その3 再プレート固定と残念な結果

2021-08-03 | 牛、ウシ、丑

橈骨をプレート固定した子牛は、伏臥できるようになったところでトラックに積んで帰っていった。

翌朝は、自分で立っていて異常はなかったが、昼には立っていたものの肢がおかしかった、とのこと。

X線を撮ったら、プレートが近位部から抜けてしまっていた。

6.5mm 2本がプレート下の皮質と対側の皮質の4 points 、4.5mmが対側皮質の1point。

5皮質にしっかり効いていたので、30kg台の新生子牛なら大丈夫だと判断していたのだが・・・・

                 -

子牛は呼吸が速かった。

血液検査もしていて、IgGの移行は悪くない。

しかし、腎機能はよろしくなく、電解質も異常があった。

生まれてすぐ骨が折れるほどの外傷を受けたのだから仕方がない。

キャスト固定が有効な部分ではなく、この骨折のままでは生きられない。

また吸入麻酔をかけて、手術台上で前回の傷を開いた。

近位部の骨の様子を観たら、近位部が粉砕してしまったのだと思った。

しかし、実際はscrewが引き抜かれただけだった。6.5mmの大穴が開いていた。

それで、今度は尺骨までscrewを伸ばした。

6.5mm screwは、尺骨の皮質2ヶ所にも効いている。橈骨の対側皮質にも効いているので、3points×2本。

そして、内側に6孔ナローLCPを当てた。

短い近位部で、先に入っている頭側DCPの2本のプレートスクリューを避けて、うまく4.5mmと5.0mmLHSを入れることができた。

骨折部の遠位にも4.5mmを2本、LHSを1本。

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しかし、子牛の麻酔の状態は良くなかった。

酸素分圧はずっと低かった。

内固定が終わる頃、心拍がいよいよおかしくなり、期外収縮、心室粗動、となり、心圧迫しながらアトロピン投与などを繰り返したが、心拍は戻らなくなってしまった。

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剖検では、肺は後葉の背側に鬱血が見られた。含気している部分も点状出血していた。新生子牛の未熟な肺が二度の吸入麻酔に耐えられなかったのかもしれない。

可視粘膜に黄疸はなかったのだが、肝臓は黄色味が強かった。

橈尺骨が折れた側の肩甲部や股関節周囲には皮下や筋間に出血があった。骨が折れるほどの衝撃が患側にあったのだろう。それは高カリウムを引き起こしていたのだろう。

残念な結果になってしまったが、最初からダブルプレート固定すべきだったかどうかはわからない。

費用は高額になり、多くのインプラントを使うことは感染のリスクも大きくする。

尺骨まで貫いてプレートスクリューを入れるのも良いことだとは思えない。

橈骨と尺骨は離れていてそれぞれに成長することが肘関節の健常な成長のためには必要なのだと思う。

最初の手術のあとにvelpeau固定する方法もあったと思うが、それが必須だったかどうかはわからない。

外固定せずに済むことがプレート固定する大きなメリットのひとつだと考えるからだ。

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アブがひどい。

都会の人は知らないかもしれない。

でっかいハエのようなハチのような吸血昆虫がわんさか集まってきて、馬や人の血を吸う。

馬は尻尾を振り回して、昼間はアブと格闘しなければならないのです。