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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

トラックの中で牛の帝王切開

2022-05-13 | 牛、ウシ、丑

午前中、競走馬の腕節骨折の関節鏡手術。

牛の帝王切開も来るという。

牛は来院したらトラックの中で立てない。

初産の黒毛和牛で、牧場でひっぱってみたけど産道が開かず狭く、出そうにない、とのこと。

仕方がないので、トラックの中で帝王切開することに。

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好い天気でトラックの中も明るくて良かった。

子牛も生きていた。

帝王切開終了後も母牛は伏臥もできず心配したが、牧場へ帰ったら立ち上がり、

母子とも元気だそうだ。

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牛の帝王切開では、子宮内の後肢をさがし、術創外へ持ってくるところが一番難しい。

子宮弛緩剤を使えるようになってずいぶん楽にはなったが、後肢を持って来れないと、いつまでも子宮を切開できない。

そのうち指も腕も腰も萎えてくる。

腹腔内で子宮を切開すると、症例によっては汚れた羊水や潤滑剤を腹腔へ漏らすことになる。

筋力が足らないと思うなら鍛えておくと良い。

時代は筋トレがブームのようだし。

宇髄天元様も言っている。

 

 


黒毛尾位過大仔の帝王切開

2022-02-02 | 牛、ウシ、丑

日曜日、家に戻ってから牛の帝王切開の依頼。

黒毛で、尾位で、過大仔なので、とのこと。

尾位だと頭位よりは早く出さないと子牛が死んでしまう。

過大仔だということはひっぱってみたのだろう。

第二当番も呼んで準備をして待つ。

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2産目で、午後3時過ぎに分娩が始まった。

かなり引っ張ったが出なかった。

後肢は押し込んで来院した、とのこと。

しかし、後肢は産道から出てきた。

もう帝王切開した方が良い。

左腹部を毛刈りして、消毒して、局所麻酔する。

左腰角から頭側斜め30度下へ切るのが私のやり方。

もう分娩が始まって時間が経っているし、牽引しているので子宮はかなり収縮している。

あまり下まで術創を伸ばさない方が良い。

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皮膚切開して、外腹斜筋は斜めに筋繊維を分け、内腹斜筋は直切開した。

内腹斜筋も筋繊維を分けるでも良かったかも。

子宮弛緩剤;塩酸リトドリンを静脈投与してもらう。

術創から両腕を入れて、子宮の上から肢をつかんで引っ張ってきて、助手に切開してもらう。

ここを手早くやって、腕が萎えないうちに終わらせないと帝王切開はたいへんになる。

前肢だろうと思ったら後肢だった。

産道から後肢が突き出していたが、塩酸リトドリン投与で子宮が弛緩し、子宮内へ戻ったのだろう。

しかし、飛節が伸びているので、頭位の帝王切開と勝手がちがった。

両後肢に産科チェーンをかけて引っ張り出してもらう。

子牛は生きていた。

助手に子宮を持っておいてもらって子宮を閉じた。

先の方から縫ったのだが、子宮が収縮気味で奥が縫いづらくなった。

ウトレヒト縫合も逆手になるのでやりにくい。

先の方から閉じようとしたのは、その方が後産を子宮に入れやすく、羊水を腹腔へこぼさずに済むかと考えたから。

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腹壁は連続縫合で閉じた。

皮下織も連続縫合した。

皮膚は非吸収糸と三稜針でかがり縫合。

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手術そのものは3-40分かな。

大人しい牛で助かった。

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夕方、外に出て、ぼんやり眺めて過ごす。

呼吸が速く、身動きもしづらいときもある。

それでも行儀よく離れたところへウンコ・シッコしに行くがへたり込んでしまう。

 

 


3ヶ月黒毛の空腸閉塞

2022-01-22 | 牛、ウシ、丑

午前中、飛節OCDの関節鏡手術。

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3ヶ月の黒毛子牛がきのうから乳飲みが悪く、元気がなく、第四胃が膨満している、とのことで来院。

超音波検査で、第四胃の膨満が確認され、小腸も張っているところがあった。

血液検査は、PCV53%、乳酸値1.9mmol/lとひどく悪い。

北米大動物外科専門医のY先生は、左横臥での肋骨後縁切開を選択。

第四胃は膨満しているが、幽門以降も張っている。

空腸に何か詰まっているのが見つかった。

もみほぐそうとしたがほぐれなかった。

切開して取り出した植物繊維塊。

よく噛まないで飲み込んだせいか??

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続いて、予定していた2歳馬の喉頭片麻痺の喉頭形成・声帯切除手術。

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相棒は元気。

食欲もあり、走るし、いろいろあちこちに興味津々。

シカを追いかけて崖を上らなかったのは、学習したのか、歳のせいか、病のせいか・・・・

 


新生子牛の中手骨開放骨折 1日だけ大掃除 そして大晦日

2021-12-31 | 牛、ウシ、丑

年末、前日難産で生まれた黒毛子牛が中手骨を開放骨折している、との連絡。

あいにく疝痛馬が来るのを待っているタイミングだった。

ざっと様子を聞いて、応急処置をしてもらって、翌日午前中に診療することにする。

手術しても治せるかどうかわからない、それでもやってみるかどうか畜主に確認しておいてもらう。

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開放骨折は、その程度によってグレーディングされる。

Gastiloの分類として有名。

・ 汚染の程度がひどくなければプレート固定もできるだろう。

しかし、感染部に異物(インプラント;プレートとスクリュー)を入れることになり、インプランを除去するまで感染を抑え込みにくい。

感染がプレート沿いに波及し、スクリューがゆるみ、プレート固定が崩壊するとか、

骨折部の感染が制御できなかったり、成長板や関節へ感染が及ぶと予後が懸念される。

・ 開放骨折部から離れた部位に貫通ピンを入れて、創外固定することもできる。

ただ、これはこれで皮膚を貫いているピンが感染しやすい。固定に安定性がない。これらが欠点。

・ 創外固定としてではなく、骨折部より近位に貫通ピンを入れ、貫通ピンキャスト(TPC; Trancevers Pin Cast )を巻いて免重する方法もある。

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周囲の毛を刈り、傷の汚染を洗浄し、骨折を整復し、包帯とバンデージを巻いて、副木を当てて外固定されて子牛は運ばれてきた。

応急処置としては完璧。

もちろん抗菌薬の全身投与も始められている。

開放骨折としてはGastilo分類のⅡだろう。

1cmより大きい穿孔だが、汚染はひどくない。

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骨折は中手骨骨幹遠位の横骨折。

破片はあるが、粉砕というほど大きなピースはない。

切開して傷を広げ、傷の中を洗浄した。

開放骨折ではあるが、キャストで治る可能性大、と判断した。

ストッキネットを二重に履かせ、キャストトップと腕節にエバウールシートを巻き、

キャストライト4と3でフルリムキャストを巻いた。

皮膚の傷の部分には当て物をしながら巻いて、開窓キャストにしてある。

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翌日、子牛は自力で立ってミルクを飲んだそうだ。

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昼、繁殖雌馬の疝痛の依頼。

開腹したら回腸の閉塞だった。

絞められていた痕があったが、どうなっていたかはわからない。

疝痛の常習馬というわけではないので、癒着があったり、ヘルニア孔があったりする可能性は低い。

分娩まであと3.5ヶ月の馬で腹腔内の完全探査をするには開腹手術創を広げなければならない。

膨満している部分の小腸内容を盲腸へ送り込んで閉腹。

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午後に予定していた「あがり馬」の第一趾骨骨折を夕方から。

これは延期するわけにはいかない。

thankfully ; 恩賜 透視装置も使ってscrew固定とキャスト固定。

危ない状態だった。

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翌日は、前所長と現所長で大掃除。

日頃掃除しないところを掃除したい。

壁を塗りなおしたペンキ屋も見えないところは見事に放っておくんだな;笑

むこう、拭き掃除後、こちらこれから。

暖房ファンのフィルターも掃除しないと・・・・これを通った空気の下で診療しているんだから。

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私はこれにて仕事納め。

コロナ禍が続き、しかしワクチンで安心と希望が見え、

ウィズコロナで少しずつ活動が再開され、

日本は状況が落ち着いたかと思ったら、オミクロン株がたちまち世界に広がった今年。

良くも悪くも大晦日。

みなさん、良い歳をお迎えください。

 

 

 

 


初産牛の帝王切開

2021-11-21 | 牛、ウシ、丑

初産牛が分娩予定日の翌日午後2時に破水し、

生まれないので4時半に手を入れてみて、もう袋はかぶっていないのに(二次破水しているのに)出ないので、獣医さんに診てもらったら、

頭は触れるけど遅れていて、過大仔のようなので、帝王切開して欲しい、と5時前に連絡があった。

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6時半に着いたら、牛はトラックの中で立たない。

両前肢にロープをかけてトラクターで引っ張り出した。

そこで牛が立ち上がった。

枠場へ入れて、帝王切開を始める。

北米大動物外科専門医の指導のもと、新人獣医さんに執刀してもらう。

子宮を切開して引っ張り出した子牛は死んでいた。

心拍を感じた気がしたのだが、呼吸はしないし、臍からも出血しないし、角膜は濁ってはないが瞳孔は開いていた。

子宮を縫っているときに牛は寝てしまった。

帝王切開ではしばしば子牛を引っ張り出したあとに母牛が寝てしまう。

予想していたので、右後肢にロープを着けて、倒れこむときに左肩の方へ引張ってもらった。

左を上にして寝てくれるとなんとか手術を続けられる。

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枠場の横棒は邪魔になるので、このあと外した。

なにかと時間はかかったが、1時間半ほどで帝王切開は終わった。

牛はすぐに立って帰って行った。

北米大動物外科専門医の手術指導を受けられるのは日本でうちだけ;笑

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大谷くんのMVP受賞はすばらしい。

すごいことだ。

チャレンジし、あきらめずにひたすら努力すること、その過程を楽しむこと。

それを支えた周囲の人たちも素晴らしい。

怪我をしないように気をつけてもらいたい。

仕事柄それだけが気にかかる。