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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

馬インフルエンザ セリについて

2007-08-19 | 感染症

 すでに、インフルエンザは競馬サークルに大きな被害を与えている。

生産地では明日からセリが始まる。セリにまつわるインフルエンザについての注意は

http://www.hba.or.jp/consig/

を参照いただきたい。

  1日約250頭が集合・離散を5日間繰り返す。

競馬場との行き来がある育成牧場が連れてくる馬も多い。もし感染馬がいれば、集まってきた他の馬に感染し、その馬が牧場に帰って、さらに感染を拡げるだろう。

当歳、繁殖雌馬はワクチン接種していない。

36年間前の発生では、競馬場にいる馬は9割以上が感染したとされている。

感染馬がでた生産牧場でも同じ厩舎にいるワクチン非接種馬はほとんどが感染すると思っていた方がいいだろう。

競馬場と違って、牧場と牧場は距離がある。放牧地が接しているなどの状況を除けば、牧場間での拡がりは馬の移動がなければ防げる。

セリに連れて行く馬、セリから連れて帰って来た馬について充分な注意を!

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 馬インフルエンザについて病気としての詳しい知識は以下をご参照ください。

http://www.equinst.go.jp/JP/book/kansenS/EIF.html


子馬の下痢の病原体RとIgG

2007-02-16 | 感染症

 恩師一條先生は、どういうわけか「白」い病気の研究をされていた。

牛の「白」血病に、牛馬の「白」癬菌症に、牛馬の「白」筋症に。

子馬の肺炎と下痢が大きな問題であることは以前に書いたが、肺炎の病原体の代表は「R」hodococcusであり、下痢の病原体は「R」ota virus である。

Photo_205 これはずっと以前に子馬の下痢症で細菌検査とロタウィルスの検査を頼まれた子馬の日齢の分布をグラフで示したもの。

黄色い棒はロタ陰性の下痢子馬で、赤い棒はロタ陽性の下痢子馬。

ロタ陰性の下痢は、30日齢以内に多いことがわかる。

ロタ陽性の下痢は30日齢から75日齢あたりが多い。

生まれて1ヶ月以内の子馬が下痢をすることが多いが、その頃は移行抗体でロタウィルスから守られていて、抗体が低くなる2ヶ月目、3ヶ月目にロタウィルスによる下痢にかかり易い。と解釈した。

Photo_206 左は下痢子馬の血清中のロタ抗体価の分布をロタ陰性(黄色)とロタ陽性(赤)で示している。

ロタ陰性下痢の子馬の抗体価はほぼ正規分布。

40倍以下の子馬はさすがに多いが、それ以外は因果関係がないので正規分布するのだろう。

一方、ロタ陽性の下痢子馬はロタ抗体価が低い子馬に多い。

ほとんどがロタ抗体80倍以下であり、抗体価が640倍以上ある子馬でロタ陽性の下痢をした子馬はいない。

 血清中のIgG抗体が、腸粘膜に感染するロタウィルスを排除するのは難しい。

ロタウィルスに対する抵抗性は、腸粘膜をコーティングするIgAの方が働きが大きいと考えられている。

しかし、ロタウィルスによる下痢にかかる日齢や、ロタウィルスによる下痢を起こした子馬のロタ抗体価は、やはり抗体が子馬をロタウィルスから守っていることを示している。

子馬の下痢の約半数はロタウィルによる下痢だと考えられている。

今は、妊娠中の母馬にうつロタワクチンにより初乳中のロタ抗体を上昇させることもできる。

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 McGuire先生らが1970年代に提唱したIgGの重要性、その後の反論と再評価。

そしてこれからは各病原体と抗体価の役割について考えていかなければいけないだろう。

 子馬の肺炎と下痢。その代表的な病原体であるRhodococcus Rota virus

それぞれの病原体と抗体との関係は、微妙に、あるいは大きく異なっている。

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Iggcg 左の図。

芋のようなものが細菌。

青いのが病原体と闘う白血球。

そしてY字が抗体。

抗体は、病原体にくっついて破壊し、白血球による貪食を助ける。

抗体が豊富にあるのとないのでは、細胞性免疫にも差がおきてくる。

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以前に、子馬のIgGのレベルごとに5種類のウィルスの抗体価を計ってもらった。

当然ながら、総IgG量の多い子馬は、各ウィルスに対する抗体価も高く、IgG量が少ない子馬は各ウィルスに対する抗体価も低かった。

IgGが低ければ、病気にかかり易い、病気に対する抵抗力が弱い。と考えるのは当たり前のことなのだ。

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長々と書いてきた、子馬にとっての初乳由来のIgGの重要性。

ここらで、一段落としたい。


子馬の肺炎の病原体RとIgG

2007-02-15 | 感染症

  前回、子馬の病気、死亡原因として肺炎・下痢がその最たるものであるという報告を紹介した。Photo_204

子馬の肺炎の原因となる細菌を調べるためには、気管洗浄液を採材し培養する。

314頭の子馬の気管洗浄液を培養して、Rhodococcus equi が分離された率を示したのが右のグラフ。

Rhodococcus equi による肺炎が、調べた子馬の肺炎の61.1%を占めていたことになる。

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 子馬の Rhodococcus equi 感染症とFPT(血清IgG濃度)の関係も調べた。

Igg_1  3年間にわたって、707頭の子馬を30日齢と45日齢で血液検査と獣医師による診察を行った。

この日齢は子馬のロドコッカス Rhodococcus equi 感染症の多発日齢である。

R.equi のELISAによる抗体検査も行い、獣医師の診察も行っているので、少なくとも発症している子馬は見逃していないと考えても良いと思う。

707頭のうち574頭は生まれて数日間に血清IgG濃度も測っていたので、その血清IgG濃度を横軸にとって分布を示したのが左のグラフだ。

30日齢45日齢で行った検診やその後の臨床症状でロドコッカス感染症と診断された子馬は濃い部分で示している。

IgGが800mg/dl未満だった子馬は574頭中68頭で、そのうちロドコッカス感染症になったのは4頭(4/68;5.9%)。

IgGが800mg/dl以上だった子馬は574頭中506頭で、そのうちロドコッカス感染症になったのは16頭(16/506;3.2%)。

初乳からIgGを吸収できた子馬の方が、ロドコッカス感染症になる率はIgGが不足だった子馬の約1/2なのだが、統計的には有意差はなかった。

ロドコッカス感染症を発症した子馬の中にはIgGが2000mg/dlを越えていた子馬もいて、どうも移行抗体は子馬をロドコッカスから守るとはいかないようだった。

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 この理由として、

・ロドコッカスは子馬特有の感染症で、母馬はロドコッカスに対する抗体を豊富に持っているとは言えないので、初乳中にも抗ロドコッカス抗体は豊富とは言えないこと(母馬のELISA OD値、初乳を充分飲んだ子馬のELISA OD値は高くない)。

・ロドコッカスは宿主の細胞内で生きられる特殊な能力を持った細菌で、抵抗するためには抗体のような液性免疫より細胞性免疫の能力が重要だと考えられること。

が、考えられた。

 初乳により子馬にIgGを豊富に与えることが重要で、子馬がIgGを充分に吸収できたかどうかを調べておくこともたいへん価値があると書いてきたが、残念ながら初乳によるIgGが肺炎の最大の原因菌であるロドコッカスから子馬を守ってくれるとはいかないようだった。

このことは子馬のIgG値と感染症の関係を考える上で記憶しておく必要がある。

 P2150094                              -

  今日は内部の調査研究発表会だった。

H先生が子馬の下痢とくにロタウィルス Rota virus による下痢症についての膨大なデータの一端を報告してくれた。

生産地の子馬の下痢の実態について全体を把握できるような調査成績は見たことがない。

海外での報告も知らない。

そして、肺炎とともに子馬の感染症・病気の最たるものである下痢にロタウィルスが占める率は、そしてIgGとの関係は・・・・・・・・・また、今度。


子馬の病気と死亡の要因

2007-02-14 | 感染症

 子馬の病気と死亡の原因、そして関係する要因についての報告も紹介しておこう。

テキサスA&M大学の疫学、家畜衛生学の大先生Dr.Cohenの論文だ。

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Caueses of and farm management factors associated with disease and death in foals.

       子馬の病気と死亡の原因と関係する牧場管理上の要因

               N.D.Cohen,VMD,MPH,PhD

テキサスの子馬の病気と死亡の原因と関係する牧場管理上の要因を調べるための研究が計画された。

167の牧場の2468頭の子馬についてのデータを1991年の12ヶ月間にわたって獣医師から提供を受けた。

2468頭の子馬のうち、116頭(4.7%)が死亡した。

肺炎が最も多い死亡原因であり、ついで敗血症であった。

群として考えると、筋骨格の障害(外傷性、感染性、あるいは奇形)は、すべての「報告された死亡」の最も多い原因であった。

死亡することの1日ごとの危険は、生後7日間が最も大きく、日齢がいくにつれて減少した。

死亡の原因の危険と頻度は日齢によって異なっていた。

年間の罹患率は27.4%(677/2468)であった。

研究対象馬では、呼吸器病が最も多い疾病であり、ついで下痢であった。

疾病の罹患は7日齢までに最も多く、日齢がいくにしたがって減少した。

子馬が馬房で生まれる牧場に比べて、子馬が放牧地で生まれる牧場では、下痢の発症率は明らかに低かった。

移行免疫を評価する行為は、敗血症と肺炎の罹患率を減少させることに明らかに関係していた。

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 この調査は、テキサスでアメリカ馬臨床獣医師会AAEPに入っている獣医師をリストアップして行われた。

対象馬はクウォーターホースが48.5%、サラブレッドが21.0%、アラブが12.6%、などである。

テキサスのクウォーターホースの飼い方は日本のサラブレッドの飼い方とかなり違う。囲いの中に多頭数が入れられていて、牛や豚の飼い方に近いかもしれない。

 それらの違いを踏まえたうえでも、参考になる部分がある。

・子馬の最大の死因は肺炎、ついで敗血症であること

・生後7日齢までが死亡率が高いこと

・呼吸器疾患が疾患の中で最も多く、ついで下痢であること

・移行免疫を判定する行為は敗血症と肺炎の罹患率の減少と明らかに関係していたこと

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 さて、子馬の死亡原因として肺炎、下痢が重要なのは日本でも同じだ。

そして、子馬の肺炎と下痢については、血清IgG濃度、FPTとの関係も含めて考えなければいけないことが大いにある。

それは、また後日。

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 きのうは、関節鏡手術をはじめる頃に、難産の馬が来た。

 今日は、喉鳴りの手術の最中に子馬が来てしまった。

 夕方、予定していた喉の検査は、牛の手術と並行して行った。

 患畜が重なるようになって来ると、春が来るのを感じる・・・・・・

P2140092 まだ冬の太陽は弱弱しいけど。


子馬のIgGレベルと感染症 反論

2007-02-13 | 感染症

 IgGが少ない子馬が感染症になりやすいという話を書いてきたが、それほど関係しないのではないかという調査・研究結果も報告されている。

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Prevalence (treatment days) and severity of illness in hypogammagloblinemic and normogammaglobulinemic foals

Jay L.Baldwin, DVM et.al.

低γグロブリン血症と正常γグロブリン子馬の疾患発生(治療日数)と重症度

 132頭のスタンダードブレッド子馬から、IgG濃度を測るための血清サンプルを生後18-48時間に採取した。

IgG測定の結果は牧場側には知らせなかった。

低γグロブリン血症の治療としての血漿輸血は1頭の子馬にも行わなかった。

子馬の健康記録を調べて、子馬ごとの、感染性疾患の発生(子馬治療日数 foal treatment days ; FTD)、命にかかわる感染性疾患の発生(重症子馬の治療日数 foal treatment days-serious condition ; FTD-sc)、および疾患数(number of diseases ; NOD)を求めた。

子馬ごとの、子馬治療日数、重症子馬の治療日数、疾患数は、生後21日間と90日間について求めた。

子馬ごとの、子馬治療日数、重症子馬の治療日数、疾患数は、IgGが400mg/dl未満の子馬と、400mg/dl以上の子馬で比較した。同様に800mg/dl未満と800mg/dl以上の子馬でも比較した。

統計分析では、IgG濃度は子馬治療日数、重症子馬の治療日数、疾患数のいずれとも、どの群わけにおいても関係していなかった。

また、低γグロブリン子馬の頭数が充分あるにもかかわらず(400mg/dl未満が13.6%、800mg/dl未満が44.7%)、21日と90日齢を越える生存率は、それぞれ100%と99.2%であった。

この成績は、血清IgG濃度は今回の調査子馬において疾患の発生や重症度、あるいは生存率に関係していなかったことを強く示唆している。

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 子馬の低γグロブリン血症、IgG量の不足、移行免疫不全FPTが感染症罹患の大きな要因になっていることは、1970年半ばにMcGuireらによって報告された。

まだ、免疫能力を把握することができず、IgGを測定することも大変だった時代に画期的な知見だった。

しかし、今McGuireらの論文を読んでみると、あまりに例数が少なくて笑ってしまう。

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 今回紹介した論文の著者3名はニューヨークのLana Lobell Farms にいた先生達。

ニューヨーク州のコーネル大学の疫学の先生の名前も1名入っている。

このBaldwinらは、132頭の子馬のIgG量を測り、その結果は牧場には知らせず、子馬の診療記録を調査して、IgG量が子馬の感染症とも、重症の感染症とも、病気の数とも関係していなかったと報告している。

考察の最後にBaldwinは書いている。

「獣医師も研究者も、血清IgG濃度自体が免疫と同義ではなく、子馬の複雑な免疫システムの一つの要素にすぎないことを認識しなければならない」

McGuireらの報告に堂々と反論したわけだ。

1991年のアメリカ獣医師会雑誌に掲載された。良い論文だと思う。

 さて、本当に子馬のIgGレベルと感染症は本当に関係しないのか、あるいはやはりIgGは重要なのか?

Baldwinも書いているのだが、重症の子馬を預かる大学の集中管理ユニットNICUではなく、野外の牧場の子馬についてはるかに多くの頭数で調査しなければ結論はでない。

以前紹介した私達の調査結果は、それに答えるものだと思うわけだ。

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