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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

子馬のIgGレベルと感染症

2007-02-11 | 感染症

 子馬の血清IgG量と感染症への罹りやすさは、640頭の子馬について調べられた。

60日齢までに感染症になった子馬は56頭で、

IgG量が800mg/dl未満の子馬では感染症の発症率は19.4%、

800以上1600mg/dl未満の子馬では8.9%、

1600以上2400mg/dl未満の子馬では4.7%、

2400mg/dl以上の子馬では3.4%であった。

 血清中IgG量が少ないほど、早い日齢で感染症による初診を受けていた。

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血清中IgG量が800mg/dlであった子馬108頭の子馬のうち、38頭は血漿輸血を受けていた。

1リッターの血漿輸血により平均315mg/dlのIgG量が平均609mg/dlへと、平均294mg/dl増加した。

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 血清中IgG量が400mg/dl未満で血漿輸血を受けた子馬の感染症発症率14.8%(4/27)は、血漿輸血を受けなかった子馬の発症率66.7%(6/9)に比べて有意に低かった。

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P2080096_1  P2080097子馬のIgGと感染症発症率の話で難しいのは、どこかで線を引かなければいけないことだ。

古典的には400とか800mg/dlが境界とされていて、調査・研究でもこれが境目として使われていることが多い。

しかし、本当に良質な初乳を、子馬が充分な量飲んで、きちんと吸収できれば、子馬の血清中IgG濃度は2000mg/dlを越える(左・右)。

上に示したデータでもわかるように、そういう子馬は本当に感染症にかかりにくい。

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 しかし、実際にはもっと低いレベル(400とか800mg/dl)で線を引いて、それより高いか低いかで比較することになる。790の子馬と810の子馬は、別のグループとして比較されることになる。

それが、はっきりした結果が出ない理由のひとつになっている。

 数例の子馬を見ていて、900mg/dlの子馬も病気をしたとか、600mg/dlの子馬も病気をしなかったとかいう印象を持つのは、どこかで線を引かなければならない難しさだ。

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 科学的な調査をした成績でも例数が不足していることがしばしばある。

移行免疫不全は10-20%の率で起こるとされている。

100頭規模の子馬で調査しても、移行免疫不全の子馬は10-20頭しかいない。

その中で感染症にかかる子馬の率を話しするとすれば、たまたま感染症の子馬が3頭なら発症率30%、5頭いれば50%と言う話になってしまう。

移行免疫不全と感染症発症率の調査をするなら、全体では1000頭近い子馬を調べて、100頭近い移行免疫不全の子馬が感染症になったかどうかを調べなければ、まともな調査にならない。

しかし、それほどの数の子馬のIgGを調べて、感染症になったかどうかを調査した成績は世界的にもあまりない。

 世界的な仕事をしてるんだけどなア・・・・・・・

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 良い調査研究をしたら、文章にしておきたい。

口頭発表だけだと、発表抄録しか残らない。

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英語にしたらJES Journal of equine science  へどうぞ。投稿論文、掲載論文を増やしたいそうだ。

症例報告、1例報告も受け付ける。

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P2110111 いや~降った降った。

しかし、暖かくてどんどん溶けた。

 


子馬の移行免疫不全 FPT

2007-02-09 | 感染症

 子馬のγグロブリン量、IgG量をチェックしたデータをまとめてもらったことがあった。

1967頭の子馬を調べて、IgG量が400mg/dl未満だったのは106頭(5.4%)

400~800mg/dl未満が202頭(10.3%)だった。

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 こういう初乳からのIgGの吸収がうまくいかなかった子馬を移行免疫不全と呼ぶ。

英語ではFPT(Failure of Passive Transfer)と言う。

アンケート調査を行い、FPTになる要因も調査した。

その調査結果によれば、FPTを引き起こす要因として、

・漏乳(分娩前に乳が漏る)により初乳中のIgG量が少ないこと

・初乳を飲むまでに時間がかかること

・3日齢までに虚弱、胎便停滞、下痢などの臨床症状を示していた子馬

・母馬が高齢であること

・初産、不受胎により前年分娩していないこと

が、あげられた。

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 FPT(移行免疫不全)になるのは、

初乳のIgG量が少ないか、(漏乳、母馬の高齢)

子馬が初乳を飲む量が少ないか、(子馬の虚弱)

飲んでも吸収できないか(子馬の臨床症状) によるということだ。

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 初乳の質(IgG量)が良いかどうかは間単に調べる方法がある。

まずは見た目。

黄色くてドロドロしていれば、まず大丈夫。充分なIgG含量がある。

白くてサラサラしていれば、初乳とは呼べない。初乳としてはIgG量は不足で、子馬はFPTになる。

色も粘り気も中間だと判断は難しい。IgG含量はさまざまで、測ってみないとわからない

 測ってみるには、簡単な方法がある。P2080101

屈折計式の糖度計(N50E Brix 0.0-50.0% アタゴ;右)でBrix値という値を測る。

20以上なら良好、30以上なら非常に良好。15未満だとIgG量が不足だ。

初乳のBrix値とIgG量はよく相関することが調べられている。

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 子馬がどれくらいの量の初乳を飲んだかを知るのはなかなか難しい。

吸収できたかどうかを知るのは、これも難しい。

子馬の血液を調べてみるのが一番確実な方法なのだ。

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                        -P2090103

P2090108  お父さんは、馬用にはステンレス製の抜歯鉗子をUSAから買ってきたんだけど、子供用は「ペンチ」だ。

ごめんよ。

でも、痛くなかったショ?


子馬のチェック 蛋白泳動像

2007-02-08 | 感染症

P2080092 ある日の血液検査結果から抜き出した。

ある子馬の血清蛋白の電気泳動像。

関節炎で、強い炎症像がある。

急性炎症を表す蛋白分画であるαグロブリンが1.3g/dlと増えている。

そして、IgG量と相関があるγグロブリンが0.17g/dlと少ない。

私たちは、毎日毎日こういう血液検査像をいやほど見てきた。

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P2080093 右の血液検査像も同じ日のもの。

下痢・腸炎のようだ。

これも強い急性炎症像があり、γグロブリンは0.13g/dlと少ない。

IgG量も測定しているが、260mg/dlと少ない。

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 γグロブリン・IgGが少ない子馬は感染症にかかり易く、かかると重症化しやすく、治りにくい。

これには否定する意見や情報もある。

しかし、IgGは細菌やウィルスに対する抗体と呼ばれる免疫成分の集まりだ。

少なければ、感染し易く、治りにくいというのは、ごく当たり前の考え方だ。

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P2080090 P2080091 ついでに同じ日の子牛の血液検査も出しておこう。

左の子牛も右の子牛も、初乳からIgGを充分には吸収できなかったようだ。

γグロブリンの値はそれぞれ0.27と0.72g/dl。

そして、急性炎症を示すαグロブリンは

1.24と1.18g/dlと増加している。

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人でも初乳の重要性はよく言われている。

しかし、IgGが胎盤を通過して、ある程度のIgGを赤ちゃんが持って生まれてくる人と違って、馬や牛は胎盤がIgGを通過させないため、子馬や子牛は初乳からIgGを吸収するしかない。

それに失敗すると、自分で抗体を作り始める生後2-3ヶ月までは、抗体無しで細菌やウィルスの攻撃と戦わなくてはならない。

おまけに、清潔な環境にいる人の赤ちゃんと違って、子馬や子牛は糞尿の上に、おしめも産着もなしで寝ている。

抗体を持たなくてもそれほど病気はしない。という感想は限られた数の子馬をみているからで、具合の悪くなった子馬の血液検査が集まってくる所にいる私は、やっぱり抗体は大事なものだという、当たり前の印象をもっている。

自分が生産者だったり、自分が繁殖牧場の管理者だったら、子馬がIgGを充分吸収できたかどうかは調べておきたい。

というのが、子馬をチェックしようという事業の原点だった。

                            


抗生物質感受性試験と微生物学そして内科学

2006-08-03 | 感染症

 抗生物質感受性試験は微生物学、あるいは細菌学で習うのだろう。内科ではあらためて習わないか?

しかし、抗生物質感受性試験の解釈には感染症についての知識が不可欠だ。

 乳房炎はどの教科で教えることになっているのだろう?

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 牛の乳房炎の治療を、抗生物質感受性ではなく、分離された菌種と今までの治療成績に基づいて行うべきだとすれば、細菌と宿主・局所の関係についての病理学的知識や、細菌の病原性についての知識、抗生物質の性格や薬物動態についての知識が、それぞれの菌について必要になる。

また、臨床的な治療成績を蓄積していく必要がある。

たいへんなことなのだけれど、「S;感受性」の判定をされた抗生物質しか効かないと考えるより正しいだろう。

しかし、組織的、系統的にデータが蓄積されてはおらず、臨床獣医師の経験とカンにまかされている。

「治してくれ」と要求される臨床獣医師は、たよるところは感受性試験しかない。というのが現状だろう。

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 馬の細菌感染症の抗生物質治療にも、まだまだ問題があると思う。

 例えば、

馬に朝晩注射をうつのはたいへんなのでセフェム系抗生物質を経口投与するように牧場に渡している獣医師がいるが、正しいか?

Rhodococcuc equiが分離されていないのに、リファンピン、あるいはマクロライド系抗生物質を投与する獣医師がいるが、正しいか?

競走馬はストレスにさらされていて感染症が重症化することがあるという理由で、競走馬の発熱にはゲンタマイシンとセフェム系抗生物質を投与し、それでも解熱しないときはミノサイクリンを投与する。というのは正しいか?

私は、どれも正しくないと思っている。

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 正しい抗生物質治療のためには細菌学、薬学、そして内科学、または外科学にも精通する必要があるのかもしれない。

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 先日の、牛の乳房炎の抗生物質感受性試験についての文献は・・・・・

酪農地帯の獣医さんたちはもうとっくに読んでいる文献だっただろうか?

この文献を読む前から、当たり前のように考え、職場で議論されていることだっただろうか?

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P8020018 P8020014エラが縮んでほとんどなくなり、すっかりサンショウウオらしくなった。

しかし、まだあまり石には上がらない。

成長期のとまどい。カナ?