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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

Hendra virus感染

2008-08-30 | 感染症

Ben_small オーストラリア、ブリスベンの動物病院 Redlands Veterinary Clinic で働いていた33歳の獣医師が、Hendra virus感染症で亡くなった。

彼は、動物病院に入院していたHendra virusに感染していた馬を治療していて、このウィルスに感染した。

ヘンドラウィルス Hendra virus は、オオコウモリが自然宿主と考えられていて、馬はコウモリの排泄物に汚染された放牧地などで感染すると考えられている。

1994年にやはりブリスベンのサラブレッド厩舎で発生し、14頭の馬と調教師1名が死亡したのが初発例だった。

1995年には馬の解剖を手伝った人が感染し、死亡している。

人は出血性肺炎と髄膜炎を起こす。

もっと詳しい情報はこちら。

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 学生の頃、子牛の下痢が多発している牧場を、抗生物質の治験の採材のために定期的に回っていた。

もう一人の同級生と一緒に回っていたのだが、ある採材の日、彼は研究室に出てこなかった。

私は、熱があって具合が悪かったのだが、なんとか一人で採材をこなした。

 次の日は一日寝込んでしまった。

風邪のように呼吸器症状はなく、下痢をするわけでもなく、ただ熱だけが高かった。

後で、同級生に聞いたのだが、なんと彼も発熱して起き上がれなかったのだと言う。

たぶん、子牛の下痢や肺炎が多発している牧場で、二人とも何かの病原体に感染したのだ。

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 馬は人獣共通伝染病が多い動物ではないと思うし、

オーストラリア固有の野生動物から感染するオーストラリアで数件の発生例しかない感染症を恐れても仕方がないが、

気をつけるべきことは、気をつけたほうが良いかもしれない。

 一番は、疲れやストレスをためず、偏食せずで、自分の抵抗力・免疫力を落とさないことかな・・・・・・

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                 Ben Cunneen獣医師の冥福をお祈りする。

 

 

 


ロドコッカス感染症は減ったか?

2008-02-24 | 感染症

P7190001 P7190002 久しぶりに雪が降った。

トラクターも出して除雪したが、もう雪の下の地面が凍っていないので、土を掘ってしまう。

たいした量でもないし、すぐに融けそうなのでほどほどで止めた。

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 先日の会議で、家畜保健所に昨年13頭のロドコッカス Rhodococcus equi 肺炎で死亡した仔馬が搬入されたと聞いて驚いた。

診療センターの検査室での血液検査、気管洗浄液からの菌分離、解剖場へ搬入される仔馬、いずれをとってもロドコッカス感染症による死亡仔馬は減ったと考えていたので驚いた。

血液検査をして早期診断に努め、細菌分離して確定診断に努め、早期治療で治療に成功している牧場と、

発見が遅れ、感染子馬が撒き散らすロドコッカス強毒株に汚染され、それでも治療費をかけたくないので放置している牧場とでは、すっかり感染率も、発症率も、死亡率もちがってしまっているのかもしれない。

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 ロドコッカス感染子馬は、痰や糞便で多量の病原性ロドコッカスを撒き散らす。

隔離したり、治療したりしないで放っておくと、直接ほかの仔馬に感染するし、厩舎やパドックが汚染されて後から生まれてくる仔馬の感染源になる。

去年、肺炎で具合の悪い仔馬を放していたパドックは、今年生まれた子馬を初めて外にだすパドックではないですか?

それは、ロドコッカスで汚れたところへ、感染しやすい生まれて1ヶ月以内の仔馬を入れて、わざわざ感染させているようなものです。

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 ロドコッカス感染仔馬を減らしたかったら、感染子馬を早く見つけて、早く治療して、牧場からこの菌を減らすしかありません。

治療費をかけたくなくて放っておくと、ほとんどの仔馬が感染し、そのうち何頭も死ぬようになります。

異常の早期発見のために血液検査を用いるなら、以前は使えなかった炎症マーカーSAAが以前使ったフィブリノーゲンやαグロブリンより鋭敏なので、以前より効率よく感染子馬を発見できるはずです。

 


馬インフルエンザその後

2007-10-12 | 感染症

  馬インフルエンザは大きく世間を騒がせることはなくなった。しかし・・・・・・・・・

 浦和競馬場では、他の競馬場に比べて遅れて流行してしまったようだ。感染馬が入ってくることを警戒できる状態だっただろうが、閉鎖環境である競馬場でさえ完全な防疫は難しかったということか。

 地域的にも、道東(北海道の東)にも九州にも広がってしまったようだ。36年前の流行のときは、北海道では感染馬は出なかった。馬の移動の頻度が、その頃よりはるかに激しくなっていることも流行の広がりの要因だろう。

 国体の馬術競技は中止になってしまった。乗馬の世界にも広がってしまった。乗馬も競技に出かけていく馬はほとんどワクチン接種されていると聞く。日常的には、競馬場以上に閉鎖環境のようにも思うが・・・・・・・

 私がもっとも懸念していた常在化、散発的な流行があちこちで起こり続けるという状況に着々と近づきつつあるように思う。

 来週から日高でもセリが始まる。1,300頭以上が数日間に集合・離散する。連れて行く馬、連れて帰って来た馬は充分観察し、できる限り隔離した方が良い。

症状が無くても感染していないとは限らない。

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  冬山登山の経験で思うことなのだが・・・・・・・・一般に寒いと風邪をひきやすいと思われている。そのこと自体はまちがいではない。

数日間の冬山登山は強烈な寒さとの戦いになる。しかし、登山するパーティ(仲間)の中に風邪をひいて入山する者さえいなければ、誰も風邪をひいたりしない。

風邪、呼吸器症状を主体とするウィルス感染症は、感染源さえなければ、どんなに寒くても感染しない。

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 こどもを育てての経験。子供がいなかった頃は、職場が人数が少なく、通勤もせず、来訪者も少ないこともあって、街へ出かけたりしなければ風邪をひくことなどほとんどなかった。

しかし、子供が幼稚園や学校へ行って風邪をひいて来ると・・・・・・子供の風邪だと思っていると、親にも伝染するんだ、これが。

免疫が弱い、あるいは抵抗力が落ちている人が集まる学校や病院は、大きな感染の機会だと思ったほうがいい。

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世界的に感染症による脅威が大きくなっていると思っているのだけれど、それはまた別の機会に。

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この像。好きなんですよ。


馬インフルエンザのこれから

2007-09-10 | 感染症

 競馬も開催され、競走馬の入厩・退厩も徐々に正常に戻されつつある。

しかし、まだ感染馬がそちこちに居る。

これから数ヶ月が、清浄化できるか、散発的に感染馬がでる状況になってしまうかの鍵ではないだろうか。

欧米では何年にもわたり小規模の流行が起こっている。

とくに馬の頭数が多く、当歳や繁殖雌馬などにはワクチン接種していない生産地では、馬インフルエンザが蔓延し、定着してしまう可能性がある。

 ただ、現状ではインフルエンザ撲滅の現実的な決定打はない。

感染を拡げないように、基本的な注意をするしかないようだ。

今回の馬インフルエンザでは症状を示さない不顕性感染馬が多い。

症状のあるなしに関わらず、移動馬は隔離するべきだ。

発熱、咳、鼻水などの症状があったら、あるいは症状がなくても感染が疑われたら綿棒で鼻粘膜をぬぐう検査をしてみるべきだ。

感染馬が出ても、誰が悪いという話ではない。

しかし、やるべきことをやらないで感染を拡げることは馬社会に莫大な被害を与える。

今は、もっとも望ましい結末である清浄化へむけて努力を続けるべきときではないだろうか。


馬インフルエンザ その後

2007-09-04 | 感染症

 馬インフルエンザ騒動は、移動制限・自粛の解除へ移行しようとしている。

しかし、まだまだ警戒は必要で、防疫措置は続けなければならない。

具体的に、移動や防疫のために何が必要か、正確かつリアルタイムな情報が必要だ。

情報源を一つ紹介しておく。

http://www.equinst.go.jp/keibokyo-homepage/

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P9040017農水省、JRA、地方競馬、乗馬サークル、そして生産地。

足並みが完全に一致しているわけではない。

しかし、生涯をかけて馬の防疫に取り組んで来られた専門家もいらっしゃる。

信頼して良いと思うよ。