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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

牛の臼歯根部感染;診断、外科的抜去、予後

2019-10-10 | 学問

馬は歯の手入れが必要だ、ということが普及し、定期的な整歯や、噛み出しをする馬の歯科治療が行われるようになっている。

しかし、牛については・・・・感心すらもたれていないのが現状だろう。

Veterinary Surgeryに牛の歯科治療についての報告が載っていたので紹介したい。

             ー

Cheek teeth apical infection in cattle : Diagnosis, surgical extraction, and prognosis

牛の臼歯根部の感染:診断、外科的抜去、そして予後

カナダ、ケベック州のモントリオール大学からの報告だ。

彼らは”母国語”はフランス語なんだよな・・・・まあ、英語も何不自由なく使えるのか・・・・・

要約

目的:根部が感染した臼歯の外科的抜去を行った牛の、臨床的所見、治療、結果について報告すること。

研究のデザイン:少数例症例集。

動物:9頭の成牛。

方法:2005年から2017年に外科的に臼歯を抜去して治療した、臼歯の根部感染と診断された牛の診療記録を調査した。

臨床的検査、補助的検査、外科的手技、そして予後をデータとして集めた。

結果:主訴は、下顎の腫れ、食欲低下、そして乳量減少であった。

全体では、7本の下顎臼歯と3本の上顎臼歯が抜去された。

左の歯列が侵されることが多く、7本の臼歯と3本の前臼歯が抜去されていた(n=臼歯7本)。

2頭は外から見てわかる病変はなかった。

X線画像では、全ての損傷歯の根部を取り囲む透過域が認められた。

下顎臼歯は頬切開による歯槽骨プレートの除去、あるいは打ち出しによって抜歯された。

上顎臼歯は、上顎洞フラップをしての打ち出しにより抜歯された。

最もよく分離された細菌は嫌気性菌(6/11)とTruperella pyogenes (3/11)であった。

最も多かった併発症は、歯をそのまま摘出できなかったことと(n=4頭の牛)と術創感染(n=5)であった。

全ての牛は治療後牛群に戻された。

結論:臼歯の外科的抜去が9頭の牛で行われた。術後も病的状態が続くことが多く、動物の生産性についての長期間の結果は得られていない。

臨床的重要性:臼歯の外科的抜去は牛の臼歯根部感染において成功しうる治療である。

             ー

本文中に載っているのはこんな画像。

13年間で9頭だから、よくある症例とは言えないだろう。

しかし、必要なら牛でも抜歯するということだ。

私たちに必要を診断できるか?必要を感じて処置する技術があるか?

たいへんな思いをして1頭を治す気持ちがない?それは問題外だ。

                /////////////////

大動物臨床獣医師をめざした若者たちの夢のあと。

研修センターは順調に破壊されつつある。

 

 


馬の整形外科内固定の術創感染:155症例(2008-2016)

2019-09-30 | 学問

SSI Surgical Site Infection は馬の骨折内固定が失敗する大きな原因のひとつ。

内固定手術は、技術も周囲の環境も変っていくので、SSIがどれくらい起きていて、どのような手術で多いか、過去とは変ってきているかもしれない。

Veterinary Surgery にペンシルヴァニア大学New Bolton Center からの報告が載っている。

そう、あのRichardson教授が指導した学術報告だ。

             ー

Surgical site infection associated with equine orthopedic internal fixation: 155 cases (2008-2016)

馬の整形外科内固定に関連した術創感染:155症例(2008-2016)

抄録

目的:内固定後の術創感染の発生を確定し、術創感染と非生存の危険因子を同定すること。

研究のデザイン:懐古的調査。

動物:1病院で2008年から2016年に長骨骨折あるいは関節固定を内固定で治療した馬155頭。

方法:症状、診断、外科治療、外科医、手術時間、抗生物質治療、術創感染の始まり、細菌の同定、補助的治療を記録した。

周術期の多様性を分析して予後に関係する因子を同定した。

結果:術創感染は155頭のうち22頭(14.2%)で報告され、以前の報告より低かった(=.003)。

球節の関節固定、あるいは尺骨骨折の馬は、より術創感染を起こしやすかった。

局所の予防的な抗生物質投与は術創感染のリスクの増加と関係していた。

術創感染があった馬は、なかった馬より12倍生存して退院する率が低かった(P<.0001)。

球節あるいは腕節を関節固定した馬、あるいは橈骨/上腕骨/大腿骨骨折の馬は生存率が低かった。

開放骨折、切開しての整復、そして内固定、あるいは手術時間と術創感染の間の関連は認められなかった。

結論:本調査での術創感染の発生はかつての報告よりも低かった。

球節あるいは腕節の関節固定、または橈骨/上腕骨/大腿骨骨折の馬は術創感染のリスクが増加し、そして、あるいは生存して退院する率が低い傾向にあった。

術創感染に対する抗生物質局所投与の防御効果は確認することができなかった。

臨床的関連:馬の内固定症例の予後への術創感染のインパクトは今も重大である。

術創感染のリスクが高い症例を特定することが、外科手技、術後治療、そして術創感染が疑われたときの早期の介入に影響をあたえるべきである。

局所の抗生物質治療に関するさらなる調査が必要である。

              ー

師匠Richardsonは、馬の骨折内固定が失敗に終わるパターンとして、

感染、

内固定の崩壊、

不運、

をあげておられた。

経験から出た金言だと思う。

つまり、馬の骨折内固定を成功させようとしたら、感染に気をつけ、崩壊しないような内固定を行い、不運につながる要素を限りなく排除していけばよい。

私のこの10年の馬の骨折内固定の症例では、やはり感染はひとつの大きな失敗要因になっている。

特に、子馬の中手骨、中足骨をdouble plates 固定すると、術後の傷の治りと感染が問題になる。

double plates しないでキャストを併用するとか、

minimally invasive technique で手術するとか、

工夫が必要だろうと考えている。

             ー

しかし、155頭。すごい数だ。

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日暮れが早くなってきた。

夕方の散歩はもうなくなるぞ。

そんなにはしゃぐな、脚も痛いんだし。

 

              

 

 

 

 


頸椎骨髄炎の子牛への外科的介入

2019-09-29 | 学問

Veterinary Surgery誌の最新号に素晴らしい症例報告が載っていた。

Surgical intervention for vertebral osteotomyelitis in a calf

子牛の脊髄骨髄炎への外科的介入

Iowa州立大学からの報告。

やるじゃないかIowa州立大学!

著者はほとんど女性獣医師だ。

          ー

抄録

目的:頸椎骨髄炎で歩行不能の子牛の外科的治療と結果を報告すること。

研究のデザイン:症例報告。

検体の数:3か月間四肢不全麻痺の3.5か月齢の雌の交雑種子牛。

方法:CTガイドにより骨生検を行い、第四頸椎体に細菌性骨融解病変と、二次的な病理学的圧迫骨折があり、臨床的には全四肢の不全麻痺がその子牛で診断された。

第四頸椎内の病変からは培養によって Trueperella pyogenes が分離された。

結果:内科的治療には反応に乏しかったので、第四頸椎内の病変の外科的デブリドが必要であり、それに伴って頸椎脊柱の安定化が必要であった。

3部の手技が行われた。それらは(1)第四頸椎のデブリド、(2)第三から第五頸椎までの両側腹側の固定、(3)アンピシリンを含浸させた石膏ビーズの注入、であった。

術後の身体的リハビリテーションを行い、その子牛は完全な歩行機能を取り戻した。

1か月の検査では、その子牛は軽度の固有受容体運動失調を伴う歩様であったが、インプラントの崩壊の徴候はなかった。

1年後の検査では、その子牛は208kgになり、残っていた神経学的問題もない完全な歩様であった。

結論:外科的介入と抗生物質含浸インプラントの使用は今回報告する脊椎骨髄炎の長期の内科的治療に代わりうることが示された。

臨床的重要性:この症例は、外科的介入が生産動物の歴史的な致命的状態の予後を改善するための可能性がある処置であることを示した。

                 ーーー

この子牛の第四頸椎の骨融解病変の細胞診。

変性した好中球内に多量の細胞内細菌が見える。

新生細胞は観察されない。

頸椎の側方X線画像。第四頸椎の長さは、中程度に短くなっており、それは大きな中央部の骨融解(矢印)による。

第四頸椎の腹側縁は連続性がなく、病理学的骨折を示している。

頸椎の矢状断CT像。

第四頸椎の融解は第三第四椎間板腔を通って、第三頸椎の尾側骨端へ伸びている(矢印)。

術後1か月での頸椎のX線画像。

腹側のSOPプレートの位置、スクリュー、椎体は以前と変っていない。

骨融解の進行の所見もない。

             ー

本文中に、畜主はこの子牛への感情的な思い入れによって安楽殺に reluctant 抵抗した(ためらった or 気が進まなかった )、とある。

コンパニオンアニマルではないだろうが、牛をたいせつにする飼い主さんだったのだろうか。

USAでは、日本より子牛の価格は安いはずだ。

大学病院に入院させ、CTを撮り、プレートを2枚入れる手術をしたら、治療費はこの子牛の価格を飛び越しただろうと思う。

             ー

SOPプレートというのは聞き慣れないが使われたのは、3.5mm String of Pearls プレート、だそうだ。

新しいロッキングプレートだ。

真珠の首飾りプレート。たしかに。

             ー

Iowa州立大は、馬の手術頭数はうちより少ないだろうと思う。

しかし、こういう症例の診断や治療はうちではできそうにない。

CTがないだけではない。

まだまだ知識や技術や経験や、周囲の環境や、それから何だろう?足りないもの、及ばないものは?

まだまだレベルアップが必要だ。

Iowa州立大学のチームに敬意を送りたい。

          ///////////////

ラグビーには大して興味はなかったのだが、ラグビーワールドカップを見始めたらその迫力に感じるものがある。

アイルランドがスコットランドを圧倒した試合を観た。

フォワードの圧力がすごくて、こんな奴らと第二戦で当たるなら、怪我をしないことだけを優先させた方が良いのではないか、と思っていた。

日本-アイルランド戦は、前半は引き離されなくて良かった。同点にもできなかったが・・・・

と思っていたら!

後半は日本がアイルランドを圧倒した。

失礼した。

選手たちは本気だったんだな。

それだけの努力と準備を4年間やってきたんだな。

成せば為る。

感動した!!

 

 

 


馬の高カリウム血症の治療の総括 Results

2019-06-24 | 学問

さて、馬の高カリウム血症の治療について、AAEPでの講演を紹介してきた翻訳文も最後。

                 -

Results

高カリウム血症の治療はしばしば一時的で、元の内科的状態が解消するまでの橋渡しである。

HYPP hyperkalemic periodic paralysis の症例は急速に改善され、長期間の管理はその後の問題を予防しうる可能性がある。

膀胱破裂は外科的に修復することができ予後は良好である。

しかし、それ以上に長期的予後が良くない状態(急性腎不全)は、初期には改善を見せても、後に悪化するだけかもしれない。

一般的法則として、高カリウム血症は、尿が作られていない患畜より、機能的な腎障害がある馬での管理の方が容易である。

Discussion

馬臨床家は述べてきた治療方法を高カリウム血症の初期治療として用いることができる。

輸液と下記のリストは容易に行うことができ、救命となりうる。

馬の高カリウム血症の臨床的治療

1. バランスのとれた等張の電解質液の5リットルバッグ

2. 加えて、50%ブドウ糖500ml

3. 加えて、レギュラーインスリン0.5ml(100units/ml)

4. 加えて、23%カルシウムグルコネート500ml

この輸液合剤は、1時間あまりで10ml/kgの量を投与できる。

もし静脈内輸液治療が遅れるなら、アルブテロールの吸入投与を行うことができる。

長期のケアとして、ブドウ糖とインスリンが入った静脈内輸液はフロセミド投与と同様、使うべきものかもしれない。

                  -

この文章は、高カリウムが危険だから、救命目的で対処することが主眼となっている。

細胞内からカリウムが抜けた状態であるなら(腎不全や膀胱破裂での高カリは別にして)、カリウムを細胞外液から細胞内へ戻してやることは、一般状態の改善にも役立つのではないだろうか。

ブドウ糖の積極的利用はやってみようと思う。

それによりインスリンの分泌を促すこともできる。

どこかのタイミングで、血糖値のモニターもしておくと良いだろう。

                 ///////////////

盛夏が近づいてきた。

繁殖シーズンも終わり。

牧草作業も始まるようだ。

今週は東京で1時間講演、来月は3時間の講習と3時間の講義を頼まれている。そして・・・・9月までに教科書の文章を書かなければいけないんだった。

8月には学会と症例検討会もある。

負けずに夏を楽しもう!!


馬の高カリウム血症の治療についての総括 introduction

2019-06-20 | 学問

膀胱破裂や、結腸捻転で、高カリウム血症に遭遇するときがある。

非常に危険な状態なので、対応方法について知っておく必要がある。

2016年のAAEPで、高カリウム血症の治療について総括している講演があった。

以下は、その抄録。

講演者は、Langdon Fielding獣医師。

カリフォルニアの馬獣医師のようだ。

               -

Introduction

高カリウム血症は生命の危険があるカリウムの混乱で、成馬にも子馬にも起こりうる。

もし異常が重度であれば野外で即時的治療を始めるべきだ。

他の動物での研究では馬の高カリウム血症で推奨されていたいくつかの治療は、以前に信じられていたほど効果的ではないかもしれない。

馬の臨床家は、高カリウム血症の治療に、往診先でも病院内でも使うことができるこれらの新しい治療のアルゴリズム(問題解決のための段階的手法;hig注)について知るべきだ。

 馬の高カリウム血症には、2つの主な生理学的原因がある。

1)体からカリウムを排泄する利尿システムの破綻、そして

2)細胞内から細胞外液へのカリウムの移動、である。

成馬では高カリウム血症は、無尿性腎不全、高カリウム周期性麻痺(HYPP)、泌尿器系の破裂(膀胱、尿管、尿道)、大量の細胞破壊(横紋筋融解症あるいは溶血)で起こりうる。

子馬では、無尿性腎不全と泌尿器系の破裂がもっともよくある原因である。

しかし、細胞融解にも遭遇することがある。

高カリウム血症は基礎にある状態の経歴、臨床症状の発現、あるいは検査室での確証にもとづいて疑われるかもしれない。

カリウムの測定は保存や周囲の気温によって影響を受けることがあり、それゆえに予想外の結果は確認しなければならない。

 高カリウム血症の臨床症状は、軽いが、典型的な筋力低下を示しているかもしれない。

心電図の変化は血漿カリウム濃度が6.2mmol/l以上になっていると現れるかもしれない。

それは、1)高い、あるいは尖ったT波、2)平坦なP波、3)QRSの延長、4)心停止が起こりうる。

心電図の変化は高カリウム血症でいつも起こるとは限らず、それがないからと言って診断除外に使うべきではない。

 もし、高カリウム血症が履歴(HYPP状態、腎不全の経歴)、臨床症状、あるいは検査結果から疑われたら、すぐに治療を始めるべきだ。

中には(例えばHYPP)往診先で解決できる症例もあり、一方それ以外の症例では集中治療ができるところへ輸送する前の安定のために行うことになる。

高カリウム血症ではわずかに改善しておくことさえ命を救うことにつながる。

この文章の目的は、高カリウム血症への治療のアプローチについて述べ、馬の臨床にかかわる最近の変化に焦点を合わせることである。

to be continued

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ひどい高カリウム血症は、不整脈や心停止につながるので、すぐに処置しなければならない状態だ。

また、筋力の低下も引き起こすので、麻酔覚醒起立時の事故の要因にもなりうる。

補正方法を知っておかなければならないが、かつて信じられていた方法で否定されつつあるものもある。

AAEPでの講演の抄録を全訳しておきたい。

             //////

きのうは北海道獣医師会代議委員会。

耐震基準を満たしていない建替えが必要な獣医師会館にオッサンを通り越してジイサンになりかけているセンセイたちが詰め込まれてイインカイ;笑

不快指数、高い。

かつて会員ひとりひとりからも寄付を集めて、現在の北海道獣医師会館を建設した先人たちには驚嘆する。

右肩上がりの時代だったからできたのだろうな。

              ー

早朝。

カシワの葉がひろがって、雑木林は暗くなった。

今日は残っている薪を割ってしまおうか。