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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

手術に役立つ臨床研究 第2章 研究仮説とデザイン

2020-12-09 | 学問

ひきつづき

 

から。

         ー

「臨床研究デザイン」とは、「研究の概要を明確にし、解決策を講ずること」。

最近は海外獣医学術誌でも、abstructに”study design” を示していることが多い。

ランダム化比較試験 RCT ; randamized control trial とか、

コホート研究 cohort study がこれにあたる。

PECO/PICOの C ; control を置かない臨床研究は、”単腕(アーム)研究 single arm study ”。

外科系の症例観察研究では、「〇〇例手術しました。〇〇例良くなりました。」という記述研究が多くなりがちだが、

対照を置かない研究では、因果関係に踏み込んだ結論を述べることはできない。

          ー

介入には、①新しい手術方法、②周術期管理、③保存療法、がある。

介入をどの患者に行うか、行わないかをランダム(無作為)に行うのがランダム化比較試験 RCT。

割り付けをランダムに決定しない研究は非ランダム化比較試験 NRCT ; non-randamized controlled trial。

RCTには、被験者と主治医の療法に割り付けの結果を知らせていない二重盲検化と、

どちらかには知らせている単盲検法がある。

外科領域の臨床試験では「ランダム化は行うが、ブラインドは行わない」というデザインが多い。

その場合は、論文には open-label, no-blinded, assessor blinded (評価者のみブラインド), 

prospective randamized open blinded endpoint (PROBE) 法(割り付けは開示し、エンドポイントをブラインドする)などがある。

          ー

①EとOが同時に測定されている場合は「横断研究」

②EとOの測定に時間差があれば「縦断研究」

③”要因から結果 E→O”を明らかにするタイプの研究を「コホート研究」

④”結果から要因 O→E”を類推するタイプの研究を「症例対照研究」

とされる。

          ー

「PECOを作る」「既存研究を把握する作業」は、自分のRQを探索型の研究から仮説検証型の研究に変えていく作業である。

          ー

「後ろ向き retrospective」という言葉に深い意味はない。過去起点型のコホート研究を意識し、臨床データベースを構築するのが理想。

retrospective な研究でなければできない研究がある。

大切なことは日々の診療記録や手術記録を現時点できちんと残していくこと。

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よくみるとなが~いかお

よくみて きろくをのこして おもいついたら しらべてみて

いけるとおもったら仮説をたてて 

それを証明するための研究でざいんをかんがえる

 

 

 

 


症例報告を書きませう

2020-11-15 | 学問

馬の外科、を中心に、学術論文を読むし、

診療に必要だと、PubMedなどで学術論文を検索したりもする。

馬外科医としての私にとって、最もヒットして嬉しいのは case series 症例集。

手術手技を知りたいし、その経過や予後についても知りたい。

           ー

学術論文としては症例集や1例報告はレベルが低いとされがち。

実験室での研究なら、供試動物は年齢や血統までそろえることもできる。

”方法”も統一できる。

”結果”は数がそろっていて、統計処理もされている。

”考察”も書きやすいだろう。

しかし、それがそのまま臨床につながるとは言えない研究論文が多い。

           ー

症例報告なら、図が多いのが望ましい。

学術報告は、文章できちんと表現されていなければならないのだが、文章だけより写真や図の方がわかりやすい。

例数が多い症例報告だと、一覧表もあると嬉しい。

           ー

どうしてその症例報告が書かれたのか、その病気の治療で何が問題なのか introduction にきちんと書かれているとありがたい。

考察で、それらのテーマが掘り下げられていて、すでにどのような報告が出ていて、今回の症例とその治療がどこを踏襲していて、どこが新しくて、予後がどうだったのか書かれているとたいへん参考になる。

           ー

新しい北海道獣医師会雑誌が届いた。

私たちの地域のNOSAIから case series が2報、載っている。

素晴らしい;笑

大動物臨床家のみなさん、症例報告を書きましょう。

自分が正しい知識を持っているか確認する機会になる。

自分が基本に沿った診療をしているか確認する機会にもなる。

あらためて成書や文献を読めば、新たな発見があるかもしれない。

そして、仲間や後輩の診療に貢献できるかもしれない。

                                               ー

牛はもう個体診療の対象ではなくなりつつある、と言う人も居る。

そんなことはない。

大動物獣医師のほとんどは、日夜個体診療に励んでいる。

その中には工夫もあるし、進歩もある。

それを示さねばならない。

             ー

みなさんが学術論文や症例報告を投稿しないと、北海道獣医師会雑誌は年寄りのエッセイ集になっちまうゼ;笑

          //////////////

1例1例積み上げる、ってこった;笑

 

 


Decision Analysis for Fracture Management in Cattle 牛の骨折治療の決定分析 2 ECONOMICS

2020-08-06 | 学問

前文に続いて、ECONOMICS 経済 。

            -

牛では、骨折を治療する決定は、

損傷の重篤度(例えば、開放骨折か閉鎖骨折か、神経脈管の損傷、など)、

治療の経費、治療の期待できる成功率

その患畜のわかっている、あるいは潜在的な、経済的そして遺伝的価値

骨折の部位とタイプ(例えば、関節か非関節か、キャストか骨プレートか外固定か)、

を評価することで行われる。

感染があること、神経のダメージ、脈管損傷は予後悪化の衝撃となり、治療費を明らかに増加させる。

閉鎖骨折はほとんどの症例で治癒することが期待できるが、開放骨折は壊死骨片、癒合遅延、あるいは癒合不全といった併発症に苦しむことになりやすい。

患畜の気性や行動は予後を良化も悪化もさせる可能性がある。

積極的行動の牛は起立、歩行、そして自身をまかなう能力を維持しやすい。

しかし、そのような牛は治療するのがより難しかったり、危険であったりし、それゆえに世話の質が低下するかもしれない。

上腕骨、大腿骨のような肢近位部の損傷は、より大きな軟部組織の支持と側副血液供給がある。しかし、遠位部の骨折より固定するのが難しい。

外固定器材は後肢損傷より前肢損傷の方が適用し易い。

より若い患畜の骨折治療はより治りやすい、それは若い牛が治癒速度が明らかに速く、成牛より外固定の安定性が良いからである。

高価ではあるが、小動物やヒトでの使用のためにデザインされた整形外科インプラントは若い子牛での使用には適切な機械的強度があり、牛のさまざまな骨折の治療に成功裡に用いられてきている。

予後を悪化させる多くの要因を熟慮したのちに、獣医師は依頼主に選択肢を示すことができる。

獣医師の責任は、その症例の最終的な結果に関わる治療経費について、畜主が情報を与えられた上での選択をできることを保証することである。

(長くなるのでつづく)

         ー

牛の骨折治療の決断に関して、直接、経済とか農場経営上のあれこれを検討はしていない。

かえって、骨折部位とか、治療方法とか、が検討されている。

もちろんそれにより予後も治療経費も変ってくるのだが、治療費について具体的に検討していない。

言いたいのは、この部分での最後の文章なのかもしれない。

獣医師の責任は、その症例の最終的な結果に関わる治療経費について、

畜主が情報を与えられた上での選択をできることを保証することである。

         ー

農家は、ダメになろうとしている子牛の価値だけを考えがちだ。

そこへ、治療の可能性、かかる手間と経費、そして併発症の可能性、を示せるのは獣医師だけだ。

保険額、家畜共済でまかなえない給付外負担、を示せるのはNOSAI獣医師だけだ;笑

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暑かった。

と言っても30℃近かった、という程度で道外の方にはもうしわけないくらいなのだが、

近づいている台風の影響か湿度がひどい。

林の中の川で・・・・

出たらもちろんゴロスリ。

ブルブルっ!

 

 

 

 

 

 


牛の小腸閉塞 成書の記載 Large Animal Internal Medicine 5th ed.

2020-07-06 | 学問

牛の小腸閉塞について成書を調べてみる・・・・といっても書庫にない;笑

若い先生に借りてコピーさせてもらった。

まずは、Large Animal Internal Medicine 5th ed.

 

Large Animal 大動物の内科。

牛も馬も一緒に。というのはもうコンセプトが古いな~

両方診る獣医師は世界中にいるだろうが、片方しか診ない獣医師の方が多いだろう。

そして、馬と牛はかなり違う動物で、病気もかなり違う。

詳しく、正確に書こうとすればするほど、もう「大動物」というくくりは無理がある。

                    -

その中の牛の腸閉塞の章に、Volvulus of the Large and Small Intestine around the Mesenteric Root の項がある。

腸間膜根部を軸とした大腸と小腸の捻転

 Ruminants of any age are susceptible, but most cases are seen in preruminant neonates.

どの年齢の反芻動物も起こしうるが、ほとんどの症例は反芻胃が発達する前の幼獣である。

Surgical correction is the only successful treatment option.

外科的整復が唯一の成功する治療選択である。

The prognosis depends on the degree of devitalization of bowel.

予後は腸管の生存性の程度かかっている。

Animal surgically corrected during the early satages respond better.

早期の段階で外科的に整復された患畜は良好に反応する。

                  -

子牛に多い。手術するしかない。それも早くやんなきゃだめだ。早くやれば予後良好。

ということだ。  

                ---

この本の筆頭編集者は、Bradford P. Smith 教授。

California大学Davis校の先生だ。

裏表紙に、掲げられているのは、

To study the phenomena of disease without books is to sail an uncharted sea,

While to study books without patients is not to go to sea at all.

これは医学教育に貢献があった Sir William Osler の言葉だ。

本なしで病気について学ぶのは海図のない海を航海するようなものだ。

そして、患者なしで本で学ぶのはまったく海へ出ないのと同じだ。

                 -

かつてDavisのVMTH(獣医教育病院)を訪れたとき、待合室に掲げてあった。

感銘を受けて写真を撮ってきたがピンボケで読めなかった;笑 

本で学び、そして患者から学ぶ、それが臨床というもの、そういうこと。

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診療に忙殺される季節が終わって、それでも休日も交替で診療に出るので、全員がそろう日がなくなる。

でも、全員がそろう日を創って所内セミナーをする。

密にならないよう気をつけて;笑

北米馬外科専門医への8年の軌跡を話してもらった。

症例がいっぱいあるところで、先達の指導を受けながら臨床の中で学ぶこと。

必要とされる成書をすべて読み、試験で答えられるように記憶すること(マークシートじゃなくて記述式の試験だそうだ)。

最新5年間の文献をすべて読み、試験で答えられるように記憶していること。

それはすごいことだ。

私たちも負けないように勉強し、診療から学ぶ。

Oslerの言葉にあるように、だ。

 

 

 

 


鼻翼ヒダ切除

2019-11-04 | 学問

「のどじゃなくて鼻が鳴ってる気がする」、と言われることがある。

私は、今まで2-3頭鼻翼ヒダ切除をしたことがある。

それらの馬を手術したときも、今も、必要だったのか、効果があったのか、半信半疑だ。

獣医外科分野の最も権威ある学術誌 Veterinary Surgery に鼻翼ヒダ切除についての報告が載った。

           ー

Alar fold resection in 25 horses: Clinical findings and effect on racing performance and airway mechanics (1998-2013)

鼻翼ヒダ切除した馬25頭:臨床所見と競走成績と気道メカニクスへの効果(1998-2013)

ノルウェイ、オスロ、ノルウェイ生命科学大学からの報告。

要約

目的:鼻翼ヒダ虚脱が診断され、外科治療された馬で臨床所見とパフォーマンスを報告し、形状と呼吸器閉塞の程度を評価すること。

研究のデザイン:回顧的症例シリーズ。

動物:21頭のスタンダードブレッド、2頭のコールドブラッド・トロッター競走馬、1頭のサラブレッド、1頭のアイスランド馬。

方法:鼻翼ヒダ虚脱は高速トレッドミル上での運動の間に鼻道憩室が膨らみ、持続的に異常な震える呼気音がし、それが鼻翼ヒダの一時的な背側への縫合により楽になったことに基づいて診断された。

5頭では、鼻咽頭気道圧を測定した。

完全な、両側の鼻翼ヒダ切除後のパフォーマンスは競走成績記録の調査と馬主あるいは調教師への電話インタヴューにより評価した。

結果:馬は、プアパフォーマンスか、異常な呼吸音、あるいはその両方により受診された。

21頭スタンダードブレッドのうち12頭では、付随的な動的問題が見つかった(間欠的DDSP:n=10;鼻咽頭蓋の虚脱:n=2)。

報告されている正常値に比べて、鼻翼ヒダ虚脱がある馬の呼気時の鼻咽頭圧は上昇しているように思われた(範囲+10.8から+21.8cmH2O)。

鼻翼ヒダの完全外科的切除と同様に背側への固定は呼気時の鼻咽頭圧を報告されている正常レベルへ改善した。

平均68か月(範囲7-121)の追跡において、25頭中20頭は手術後競走しており、17頭の繋駕競走馬のうち13頭はキロメーター当たりの時間が変らないか、改善されていた。

結論:鼻翼ヒダ虚脱は軽度から中程度の呼気閉塞を引き起こす。また、この集団の二次的な鼻咽頭虚脱につながっているかもしれない。

臨床的重要性:完全外科的切除は鼻翼ヒダ虚脱の治療として効果的だと思われた。

鼻咽頭圧測定は、鼻翼ヒダ虚脱の診断を確定できる可能性がある方法である。

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これは本文中の写真。

しっかり鼻孔を切開して、鼻翼ヒダを完全に切除している。

この手術方法は新しいものではなく、Equine Surgeryにも以前から載っている。

内圧まで測ってしっかり診断した、というのが要点のようだ。

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この夏も鼻が鳴る、と言われて2頭ほど鼻翼を開帳するように縫合して観察?聴取?してもらった。

2頭とも”鼻鳴り”は変らなかった、とのことで、鼻翼ヒダ切除の適応ではないと診断した。

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星守る犬
村上たかし
双葉社

図書館で借りてきて読んだ。

犬と、そして福祉のストーリーだった。

続・星守る犬
村上たかし
双葉社

読む人は、続編もあわせて読むと良い。

少しは希望も見えてくる。

生きていくことは、生きていくだけでたいへんだ。