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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

E.V.J.

2020-12-27 | 学問

E.V.J.

Equine Veterinary Journal

UKの馬獣医学の学術誌で、世界中で読まれている。

学術誌の格を表すimpact factor は獣医分野では指折り高い。

ことしMitsuishi 発の学術論文がEVJに掲載された。

馬の背側輪状披裂筋の体外経皮超音波画像診断手技:

安静時内視鏡検査との比較、そして筋の大きさと超音波輝度の評価

「のど鳴り」はサラブレッドにとって大きな問題で、しかし、治療方法はTieback がgold standard とされている。

Tiebackの成績は数多く報告されているが、決して満足のいくものではない。

手術するか、温存するか、「のど鳴り」する馬の評価は、長らく安静時の内視鏡検査で行われてきた。

近年ではOver Ground Endoscopy で高速騎乗運動中の喉頭の様子が評価できるようになっている。

その原因となる背側輪状披裂筋の萎縮と変性そのものは、特殊な経食道内視鏡を使えば超音波画像で評価することが報告されている。

しかし、そんな経食道内視鏡検査に使う特殊な超音波プローブなんて誰がもってんの?;笑

この検査のためだけに買うか?

特殊な経食道超音波プローブがなくても、技術を磨けば背側輪状披裂筋を汎用されるリニアプローブで観察することができる。

この手技で背側輪状披裂筋を観察することで、喉頭虚脱を起こす直接の原因である背側輪状披裂筋の変性と萎縮を評価できる。

安静時の内視鏡グレードがⅢ以上の馬は、右に比べて左背側輪状披裂筋が薄いこともわかる。

手術中に、実際に左背側輪状披裂筋に針を刺して測った筋の厚さと、超音波画像で測定した厚さも相関した。

              ー

この技術は、馬臨床家が馬の喉頭の構造を超音波で評価することの普及につながるだろう。

多くの馬獣医師が持っている超音波プローブで、馬の喉頭の軟骨の形状、筋の萎縮や変性、を評価できるのだ。

馬にとってとても大きな問題である喉頭片麻痺(反回神経障害)についての、臨床応用価値の高い研究成果だ。

重箱の隅ではなく、メインディッシュである。

世界中の馬臨床家がこの論文を読み、この技術を身につけ、さらなる調査研究報告、症例報告も出るだろう。

素晴らしいことだ。

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かつてMitsuishi をDavis や New Bolton Center のようにしたいと思った。

もちろん全く同じにではない。

同じ方向を向いて、同じ質の輝きを放つ、ってことかな。


手術に役立つ臨床研究 第5章 RCTの功績・観察研究の利点

2020-12-21 | 学問

引き続き

から。

プラセボコントロール、ダブルブラインド、ランダム化比較試験

が、理想か?

薬剤の効果判定では、画期的な成果をあげてきた。

抗不整脈薬が心臓死を期待したようには減らしていないことが明らかになったりした。

しかし、外科領域では、ランダム化もダブルブラインド化もなかなか難しい。

さらに、外科手技でもプラセボ効果があることが知られている。

そして、臨床研究ではバイアスがつきまとう。

ブラインド化が難しく、バイアスをコントロールできないなら、RCTではなく観察研究でやるのも方法。

          ー

「内妥当性」とは、その研究内部の妥当性。

「外妥当性」とは、得られた研究成果がほかの集団にもあてはまるかどうか。

          ー

世の中にはevidenceなどないことの方が多い。

それでも的確な判断をしていくのが優秀な人なのだろう。

経営者やスポーツ選手でもそうだろう。

臨床においても、evidenceはなくても推察し、可能性が良いであろう方法を選んでいる。

馬の臨床ではヒト医療よりはるかにevidenceに乏しい。

evidenceと経験と本能で、適切な手術方法をとっていくのが腕の良い馬外科医だろう。

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寒い!

冬の楽しみ。

 

 

 


手術に役立つ臨床研究 第4章 臨床研究を論文にする その3 Discussionを書く

2020-12-17 | 学問

なんと!Discussionは田中角栄流に攻める、ことが推奨されている。

(私は田中角栄が名政治家のように言われ、賞賛される風潮を好まない。

それまであった政治家の節度を破壊し、金権政治の権化であったことを忘れたり許してはいけないと思う)

田中角栄流とは、

初めに結論をいえ。

理由は、3つに限定しろ。

わかったようなことをいうな。

気の利いたことをいうな。

そんなものは聞いている者は一発で見抜く。

借り物でない自分の言葉で、全力で話せ。

そうすれば、初めて人が聞く耳を持ってくれる

という格言?だそうだ。

        ー

著者は、本書の中で(p124)安易に「・・・だが」とか、「・・・が」を使うことをいましめているのだが、この田中角栄の言葉の紹介の前の文章は「・・・が、」で接続された文章が3つ続いている。

「・・・が、」で文章をつなぐのは便利で、ついやってしまいがち。

しかし、はっきりした逆接でないなら「・・・が、」で文章をつなぐのはやめた方が良い。

        ー

6つの段落構成で書くなら・・・

第一段落で研究結果を要約する。たくさんある結果の中で3つくらい。

第二段落から第四段落で、ピックアップした3つの結果について議論を掘り下げる。

有意差が出なかったときに「傾向がある」「有意差に近い」などと表現することは避ける。

        ー

第五段落で研究限界 Limitation を述べる。

いくつもLimitationがあるなら、最初からそんな研究をするな。ごもっとも。

        ー

第六段落で研究の結論を述べる。

落ち着いて、謙虚に。

「今後大規模な前向き研究が必要である」などという定型文を入れることは、避ける。

        ー

さて、投稿したら、reviewerとの闘いが待っている・・・・

(つづく)

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先日の早朝の月と星。

月食かと思うような月だった。


手術に役立つ臨床研究 第4章 臨床研究を論文にする その2 Resultsを書く

2020-12-16 | 学問

臨床上の疑問 CQ;Clinical Question の思いつきから、

研究状の疑問 RQ;Research Question としてまとめ、

研究計画を書いて、その中には仮説が立てられている。

PECO/PICOが定められ、アウトカムとしてはプライマリエンドポイントも決まっていたので、

結果にはプライマリエンドポイントを第一に記述しなければならない。

        ー

そもそも、臨床観察研究では、上記の過程がきちんと取られていないことも多く、症例報告として所見や経過を読者の参考にしてね。というような学術報告も多い。

”spin”というのは、「都合のよい解釈、錯乱」なのだそうだ。

具体例としては、

・有意差が出なかったprimary endpoint には言及せず、副次的なoutcome により有効性を論じる。

・サブグループ解析の結果を強調する。

・2群間の比較をせず、介入前後でoutcomeを比較し有効性を結論づける。

などが代表的なspin のやり方、だそうだ。

治らなかったけど経過は良かった、とか・・・・

別なグループ分けをすれば・・・とか・・・

有意差はなかったけど傾向が認められた・・・とか

対照群との間に有意差はなかったけど、手術群では手術前より手術後に改善を認めた・・・とか。

spinは研究上の「不正行為」ではないが、「好ましくない研究行為」とされている、とのこと。

気をつけなければならない。 

        ー

線形回帰分析

説明変数の増減に応じて一次関数的に目的変数が変化する、ので”線形”と呼ぶ。

ロジスティック回帰分析

従属変数を二値化し、オッズ比を求める。

        ー

論文のResults は、客観的に結果のみを記載し、筆者の解釈や結論を入れない。

(つづく)

      ////////////

大きかろうが小さかろうが問題じゃない

あなたのAVMA(アメリカ獣医師会)パック(政治活動委員会)は貢献してくれるものだ

献金を

 

        

 

 


手術に役立つ臨床研究 多施設での調査・研究 columnから

2020-12-13 | 学問

最近は、いくつかの馬病院で症例を集めた症例集の報告を見ることが増えたように思う。

メールの利用で連絡がつけやすいとか、

データや画像のデジタル化で症例を合算しやすくなったとか、

研究のレベルが上がってきたり、進歩が速くなり、症例数を増やす必要があるとか、

諸事情があるのかもしれない。

いくつかの施設の症例を合算する目的は、症例数を増やすことだろう、と考えていた。

                                       ー

馬の外科の論文・症例報告を読んでいると、著者や実施施設を知っておくことは重要だと感じる。

本当は、例えば査読者なら、投稿者が誰か、はマスクされて、純粋に論文だけを研究として評価しなければならないのかもしれない。

しかし、どの施設の誰の、あるいは誰のグループがやった研究かを知ると、なんとなく背景まで理解できるのだ。

ところが、複数の施設が含まれていると、症例数はそろっていても、なんだか取り巻く環境は理解しにくい。

取り巻く環境からは以下のようなことを推察できる。ほとんどは論文中には書かれることはない。

・あの辺には高い乗馬がいっぱい居るんだろうな~とか、

・あの辺りにいるのは、高いサラブレッドだけど、競馬産業だから判断はドライなんだろうなとか、

・あそこに運ぶには時間がかかってしまうんだろうなとか、

・あそこは熟練した外科医ばかりだなとか、

・大学教育病院なのでほとんどの手術はレジデントがやったのだろうとか・・・・・

           ー

それで、複数の施設で合算された症例報告には抵抗があったのだが、メリットもあるようだ。

複数の施設で症例を集めようとすると、研究計画を立てて、集める症例を明確にしなければならない。

そして、複数の獣医師(外科医)が関与することになる。

特定の施設だけにある”事情”は除外されやすい。

自分が扱った症例だけ、をまとめたいのが外科医かもしれないが、症例を合算することで見えてくることもあるのかもしれない。

とちょっと思った;笑。

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西日が差し込むカシワ林。

葉が落ちてしまうのは、間伐されずに木々ごとの日当たりが悪いせいかな。