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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

中間種の難産

2012-05-20 | 繁殖学・産科学

朝、出勤したら枠場で難産介助中。

「中間種」ということで、上背はないが890kgだそうだ。

枠場では出そうににないので全身麻酔して後肢を吊り上げる。

P5202097 「中間種や重種馬では後肢を吊り上げて押し戻すとどこもとどかなくなってしまう。」

と言う人もいるが、基本的には立位で出せない難産は重種馬であっても全身麻酔下後肢吊り上げ法が有効だと思っている。

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この難産は最初下胎向だったそうだ。

(胎児の背中が下を向いているのを「下胎向」と呼ぶ)

それを整復して上胎向にしたのだが、その経過中に頭頚部が捻れてしまったのだろう。

鼻先は産道に向いているのだが、前肢を引っ張っても頭が出てこないで遅れてしまう。とのこと。

結局、頚にチェーンをかけて引っ張りながら、前肢を一旦押し戻し、さらに完全な上胎向に近づけて、牽引して出した。

子馬は最後まで生きていたようだが、蘇生できなかった。

分娩に6時間近くかかってしまったので、生きていたのが不思議だった。

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その後、待ってもらっていた当歳馬の細菌性関節炎の検査と治療。

細菌性心内膜炎(弁膜症)の剖検。

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Photo 藤沢周平、用心棒シリーズ第4弾にして最終抄。

16年後の青江又八郎と左知の再開とお家騒動を描いている。

前3作と異なり、短話の集まりにはなっていない。

また、主人公は浪人せず藩の役持ちであり、用心棒稼業は友人の手伝いをするくらいのもの。

そして、ストーリーは謎を追うミステリー仕立てになっている。

もう40半ばになった主人公は衰えを感じつつ相変わらずの大活躍をするのだが、もう若くはない。

ストーリー上も「嗅ぎ足組」は終焉を迎えようとしているし、愛しい人は尼になると言う。

ハッピーエンドではあるのだが、「老い」と「終幕」がテーマの最終刊であった。

しかし、こんなハッピーエンドは現実にはありえないだろうな・・・・・・


馬の搾乳器具

2012-03-02 | 繁殖学・産科学

子馬が自分で乳を飲めないときや、乳の質を検査したいとき、あるいは初乳を横取りして保存しておきたいときなど、馬でも搾乳しないといけないときがある。

馬の乳首は小さいので、指で搾ることになる。

ボールなどの容器に搾るが、蹴る馬だったりするとこぼしてしまう可能性がある。

直検手袋に搾ると、うるさい馬でもこぼす心配が少ないし、容器を持つ手が楽。

50ccのシリンジ(注射ポンプ)の先を切り落として、内筒を逆に入れると、簡易な搾乳器になると聞いてさっそくやってみた。

P2251879  なかなか良いかP2251881もしれない。

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人用の搾乳器も馬に使えるようだ。

電動とか、ポンプ式とか、哺乳ビンにそのまま入れられるとかいろいろある。

しかし、手が疲れるとか、痛いとか、搾ったほうが速いとか、人のおかあさんの使用感もさまざまのようだ。

こればっかりはねエ~、私には判断しかねるが、シリンジで作った搾乳器は、安くてうまく搾れるんだからいいんじゃない?

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P2181846 北海道発スペシャルドラマ「大地のファンファーレ」の後編を観た。

本州ではまだこれからの放送らしい。

馬好きには面白いドラマだと思う。

見慣れたサラブレッドや乗馬と違う巨大な重輓馬の魅力を多くの人に知って欲しい。

小説「輓馬」もお勧めしておく。


Dr.LeBlanc 2 立場と見解

2011-12-02 | 繁殖学・産科学

Dr.M.LeBlanc から聞いたことを反芻しておきたい。

このような講演では、話す人の立場や背景も考慮に入れて受け取る必要がある。

たとえば、難産で複数の介助者が強引に助産してしまうと子宮頚管などを傷つけ、ひどいときにはその繁殖雌馬をだめにしてしまう。ということを何度か注意しておられた。

しかし、難産では引っ張らないわけにはいかない。

一人で引っ張っても出ないから二人で引っ張るのだ。

胎仔の失位を無視した無理な牽引は論外としても、引っ張らないならあとの選択肢は帝王切開か切胎しかない。

Dr.LeBlancは難産に対応することがなく、難産で不妊に陥った雌馬の不受胎を治療しなければならないので、そういう表現になるのだろう。

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子宮内膜炎の要因については、子宮の自浄能力のない雌馬を交配することが感染を誘発する。という説明をしておられた。

これはケンタッキーでもすでに伝染性の細菌性子宮内膜炎を引き起こす病原細菌による被害がほとんどないことからこういう表現になるのだろう。

かつてあったようなCEMの流行や、それに引き続いて起こったKlebsiella Pseudomonus などによる子宮内膜炎が特定の種牡馬と交配した雌馬で頻発した時代には、やはり細菌性子宮内膜炎の一番の原因は感染源であるとせざるを得なかったはずだ。

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Pc011677生産地で同じようにサラブレッドの繁殖に取り組みながら、その科学的なアプローチと、最新の研究成果もとりいれた学識に圧倒されるが、一歩引いてみれば日高の受胎率はすでに10年以上前からケンタッキーを越えている。

その1頭を受胎させるために考えなければいけないことや、

その1頭を流産させないためにしなければいけないことでは学ぶべきことは多いが、

全体として考えるときには何もかもケンタッキーのやり方をまねる必要はないと思う。

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今日は来客の多い日だった。

まあ、いつもは手術や診療で手が離せないので対応していない面もあるが。

さて、そんな(どんな?)12月だ。


Dr.LeBlanc

2011-12-01 | 繁殖学・産科学

ことし、ウマ科学会獣医師ワーキンググループが招聘した海外講師はDr.M.LeBlanc。

Pb301673ケンタッキーのRood and Riddle Equine Hospitalの馬繁殖研究センターで臨床と研究に活躍されている馬臨床繁殖学の大家だ。

かつてはフロリダ大学で教授をしておられた。

私が20年前フロリダ大学へ研修に行かせてもらったとき親切にしてくださり、超音波のセミナーにも参加させていただいた。

昨夜は牧場管理者も含めた雌馬の繁殖障害についての講演。

かなり獣医学的内容だったかもしれない。

しかし、「とまる、とまらない」という問題が奥の深い、難しい問題だということを関係者にもわかってもらえたかもしれない。

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Pc011675_2 今日は、昼過ぎまで講義。

子宮の問題。

胎盤炎の問題。

などについて詳しく聞くことができた。

日本で行われていることと大きくは違わないが、しかし同じ問題なのに違っている部分がありる。

LeBlanc先生の方法は検査と研究成果に基いていて、しかし、オーナーの意向も汲みながら診療を進めている。

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Pc011676_2 その後、妊娠馬の超音波検査の実習。

胎盤炎、流産徴候の馬の検査。

直腸からと、体表から。

胎児のモニターもできる。

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私は繁殖にはすっかり疎くなっていて、薬の名前やホルモンの名前についていくのにたいへんだった。

外科的な部分ではかかわらなければならないので、最新の教科書を読み直す必要を感じた。

世界的な権威を呼んでいるのだから、教科書に書かれていない部分を教わるのが本当なのだけれど、それがなかなか;笑。

しかし、昨年のDr.Richardsonもそうだったが、臨床と研究と教育の最先端にいる先生は素晴らしい。

言葉の端々に科学的根拠と自信を感じるから素直に聞いて信じられる。

そういう先生に教われることは有難いことだ。


長期在胎 2 胎子の死亡と異常

2011-06-05 | 繁殖学・産科学

胎子が死亡すると流産が起こる。あるいは、流産することによって胎子が死亡することもある。

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牛では、胎子が死亡しても流産が起こらないことがある。

その場合、子宮の中で胎子が徐々に細菌による分解を受けて融解し、液の中に胎子の骨だけが漬かっている「胎子浸漬」と呼ばれる状態まで進行することがある。

胎子ミイラ変性と呼ばれるように、羊水や尿膜水、胎子の水分が吸収され、子宮内で胎子が圧迫されて変形して残ることもある。

胎子浸漬でも胎子ミイラ変性でも、流産を引き起こすことはたいていできないので、帝王切開して胎子を取り出さないとならないことが多い。

しかし、子宮も細菌感染や子宮内膜の変性を受けていて、その後の繁殖供用は期待できないことが多い。

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だが、馬では胎子が死亡したのに長く流産しなかった例は私は見たことがない。

Equine Reproduction を開いてみても、長期在胎や胎子浸漬・ミイラ胎子についての記述はないようだ。

馬は、牛や、多胎の犬、猫、豚などに比べると、流産してしまい易い動物であることがその理由なのだと思う。

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が、1ヶ月以上分娩予定日を過ぎて、胎子が死んでしまっているのに娩出というか流産してしまえなかった馬を経験した。

P6011102結局、帝王切開して、死んで時間が経っていると思われる胎子を摘出したのだが、子宮壁や内膜には傷んでいる部分があった。

例外があるから臨床は難しい。