goo blog サービス終了のお知らせ 

馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

子宮「平滑筋」腫

2015-10-24 | 繁殖学・産科学

先日の子宮「?」腫の病理組織検査の結果が帰ってきた。

 ------------------------

子宮平滑筋腫 leimomyoma of uterus

提出組織は腫瘍組織を認める子宮組織です。 (取り違えとかはない;笑)

子宮内膜下に平滑筋細胞由来の腫瘍組織を認めます。 (粘膜;子宮の場合は「内膜」と呼びます。の下の腫瘍で間違いない)

紡錘形の腫瘍細胞束が交差する所見を認めます。 (自潰するような腫瘍ではない)

腫瘍細胞は比較的均一な楕円形の核を有します。 (性質の悪い腫瘍ではなさそうだ)

腫瘍細胞の核分裂像は不明瞭です。 (極端に増殖が速い腫瘍ではない)

子宮内膜に細管構造を認めます。 (表面には内膜をかぶっていて、内膜の機能も残っていたのか?)

子宮内膜間質にリンパ球主体の炎症細胞浸潤を認めます。 (ふむふむ、炎症も起こしてたのね)

子宮組織に化膿性炎症所見ならびに悪性増殖所見を認めません。 (でも炎症はひどくないし、子宮腺癌の可能性もない)

 

注)子宮内膜下に平滑筋由来の良性腫瘍を認めます。子宮部~膣部の平滑筋腫の発生は性腺ホルモンの影響を受けると考えられており、局所コントロールには切除が有効ですが、多発性(多中心性)に発生する可能性が心配されます。

(予後は悪くないだろうけど、また出てくるかも)

------------

( )内は病理を真剣に勉強したことがない馬臨床家の印象です。

                           -

手術して組織を取り出すと、必要を感じたら病理組織検査へ出すようにしている。

その組織がどういう性質のものか知っておくことは、

・今後の治療方針を立てるのに役立ち、

・予後判定につながることもあり、

・また同じような症例に遭遇した場合の参考にもなる。

・記録を残したり、さらには症例報告しておけば、他の獣医師への情報提供にもなる。

                        -

ホルマリンに漬け、漏れないように梱包し、宛名書きして、臨床所見を書き、病理組織検査してくれるところへ発送する。

「生体組織学的検査」ということで家畜共済の保険点数が設定されているが、その点数で検査してくれる検査機関はない。

おまけに送料や資材費もかかるので、やればやるほど診療所の持ち出しになる。

まして、すでに死亡した患畜の病理組織検査だと保険給付されないので、丸っきり診療所の経費的負担になる。

それでも、きちんと必要な症例を判断して病理組織学的診断をしていかなければいけないと思っている。

その馬のためにも、今後のためにも。

                        ////////////////

秋晴れの好天が続いている。

赤茶色の紅葉はすっかり里にも降りてきた。

ぼちぼち山では雪も降るだろう。

タイヤ交換もしなきゃ。


子宮「?」腫

2015-10-09 | 繁殖学・産科学

繁殖雌馬の子宮に塊状のものがあり、

去年はそれがあるまま受胎して、今年無事に分娩したが、今年は4回交配して不受胎だった、とのこと。

超音波で確認するが、塊状のものは子宮壁の中にある。

子宮内膜をかぶっている。

大きさは直径4cmほど。

内視鏡でみながらスネア(ワイヤー)をかけたり、laserで切除できるかもしれないが、子宮穿孔させるリスクがあり、開腹手術した方が早くて確実だと判断した。

正中切開でいけそうだ。ただし、臍より尾側を切る。

子宮を探りあてたら、子宮角の先端の病変部は簡単に術創から出せた。

子宮壁を切開して塊を切除する。

子宮内膜に穴が開くので、縫合して閉じた。

どういう性質のものだろう?

腫瘍、ではあるのだろうが、周囲組織に浸潤しておらず、発育速度も速くなく、良性のもののようだ。

 

 


立たない難産馬

2015-04-11 | 繁殖学・産科学

もう真夜中へ向かう時刻、難産の連絡で起こされる。

1時間後来院したら馬はトラックの中で立てない。

頭と前肢を引張って、馬運車の出口を向けても立たない。

たいていの馬は出口を向けると立つのだが・・・・

仕方がないのでトラクターで吊り上げて診療室へ運び込む。

診療室内ではブルーシートを敷いておいて、その上に石鹸水を撒くと馬を滑らせることができる。

この方法は鹿児島の獣医さんのブログで知った。

倒馬室で後肢を吊り上げて手を入れて診るが、頭屈曲、両腕節屈曲、すでに分娩開始から3時間近く経っていることもあり、経膣分娩は厳しいと判断し、帝王切開することにした。

                     -

開腹したら、子宮の中で胎仔の飛節は奥の方(母馬の背中側)右よりにあった。

それを術創まで引張ってきて、子宮を切開する。

胎仔のつなぎにチェーンをかけてホイストで引きあげる。

最近の帝王切開はいつもこうしている。50kgの胎仔を術者や周りの者が引張り揚げるのは無理がある。

ホイストなら胎仔の位置と姿勢によって、前や後へ引張る方向を変えることも容易。

胎盤はかなり剥がれていて、子宮内膜も一緒に反転しそうになったが押し込んで子宮切開創を縫合する。

子宮体左角から子宮体の腹側だった。

ン?さっき母馬の背中側右よりから引張ってきたはず・・・180度子宮捻転していたのか??

いずれにしても胎仔の腹腔内での位置も異常だった。

引張り出した胎仔はすでに死んでいて、腕節は90度以上伸びなかった。

                   -

2時半に手術室から覚醒室へ移した。

目が覚めても体を起こそうともしないので、4時に左横臥から右横臥へ裏返した。

放牧地でもあまり歩かず、他の馬に蹴られても動かない、暢気な?大人しい?馬なのだそうだ。もちろんへばってもいるのだろう。

胎盤は覚醒室で寝たまま出た。

ようやっと立ち上がったのは5時半。

すっかり夜明けだった。

難産は羊水や血や胎便で、診療室も、服(術衣、カッパ、診療着、etc.)も、タオルも、手術用布も大量に汚れる。

かたづけて、もう寝ている時間はない。

                 //////////////

オラはとうちゃんが朝帰りした日は、診療所の方へ走ってチェックに行く。

とうちゃんは夜中出て行って、イイ匂いをさせてくるので、きっと1人でうまいものを喰って来たにチガイナイ。

でも、ウマのウンコくらいしか落ちてないんだよナ~


帝王切開後の胎盤停滞へのオキシトシン点滴

2015-03-01 | 繁殖学・産科学

2月末になって帝王切開を3頭。

いずれもひどい失位で切胎しても出せそうになかった。

今年は雪も少なく、暖かく、その点では繁殖雌馬の運動量も少なくはないと思うのだが。

                   -

帝王切開後には後産が順調に落ちる方が少ない。

胎仔胎盤の血液を循環させているのは胎仔の心臓で、それが早くとまってしまう、あるいは早くに臍帯が切られてしまうことで、胎仔胎盤に血液が多く残る。

そのことが子宮側との結合が剥がれるのを邪魔するのではないかと考えたりもするが、これは私の想像にすぎない。

難産だったこと、子宮を切開すること、開腹手術の外科侵襲、平滑筋弛緩剤投与、全身麻酔などが手術後の子宮収縮を妨げることも要因だろう。

たいてい子馬は死んでいるので、哺乳によるオキシトシンの分泌促進がないことも要因になる。

                   -

24時間経っても胎盤が落ちないようだと、処置をしてでも排出させたい。

発熱したり、蹄葉炎の症状が出てからでは遅いからだ。

                   -

前日の早朝に帝王切開して入院していた馬は、翌朝オキシトシンを筋注したとのこと。

しかし、ほとんど痛がりもしなかったらしい。

オキシトシンは筋注、皮下注では15分ほどしか効いていないとされている。

胎盤をひっぱってみたがぶら下がっている以上には出てこないとのこと。

午前中、手術の予定もなかったので、オキシトシンを点滴する。

ぶら下がっている胎盤には直腸検査手袋に少し水をいれてぶら下げる。

投与し始めてから15分ほどで汗をかき始め、少し後肢を踏みかえるようになった。

悪露を何度か排泄し、胎盤のぶら下がっている長さが伸びてきて、オキシトシン点滴開始から45分で落ちた。

子宮角の先端部分まで残らず排泄されていることを確認する。

この馬は、早期胎盤剥離で、先に赤い膜(絨毛膜)が出てきたらしい。

日本語では「生産」と呼ぶが、productionではない。英語ではBreeding 繁殖?だ。

繁殖学をreproduction と呼ぶこともある。

産科学はobstetrics と言う。

学問としてはtheriogenologyであり、専門医はtheriogenologistだ。

これはveterinaryは付かないので、American college of theriogenolists となっている。

専門医になるのに馬の難産についての知識や経験が必要なのかどうか知らない。

                         /////////

ふがいない僕は空を見た (新潮文庫)
窪 美澄
新潮社

この本は空港の本屋でみかけて出張中に読んだ。

打ちのめされるように面白かった。

久しぶりの、ゆすぶられるような本だった。

現代の、都会の、若者の、性をテーマにしているのだけれど、それは若い人の生き辛さとか、とまどいとか、暴走とか、失敗とか、失意、堕落、etc.と表裏一体で、その先が破滅であったりもする。

しかし、読後感は暗くはない。

立ち直っていったり、達観に近づいている登場人物もいるからだろうか。

R-18文学賞大賞受賞。

子どもに読ませたい本ではない。じゃあ誰に勧めるの?

 

 


馬の子宮内膜炎の総説 by M.LeBlanc

2014-10-20 | 繁殖学・産科学
もう亡くなってしまったM.LeBlanc先生が2009年にReproduction of Domestic Animal誌に馬の子宮内膜炎についての論説を書いておられる。
全文は手に入れていないが、Pub Medから要約だけを読んでも新しい情報や考え方が含まれていて興味深い。
                            -
Clinical and subclical endometritis in the mare: both threats to fertility.
雌馬の臨床的あるいは潜在的子宮内膜炎:どちらも繁殖性をおびやかす

                            -
雌馬の繁殖障害の大きな原因となる子宮内膜炎は、細菌、精子、そして分娩後の炎症性浸出物の排泄の失敗から起こり、しばしば診断されていない。
生殖器の解剖学的問題、子宮筋層の収縮の問題、リンパ液の排泄の問題、粘膜繊毛上皮の排泄活動の問題、子宮頚管機能の問題、加えて脈管の変性、そして数年越しの炎症が子宮内膜炎への感受性の下地となる。
診断は子宮内の貯留液、膣炎、悪露、発情周期の短縮、子宮内の細胞の炎症所見、子宮検体の細菌培養陽性に基いて行われる。
しかし、潜在的な症例ではこれらの徴候は陰性かもしれない。
古典的な、見つけ易いstreptococcusによる子宮内膜炎では、刺激性の分泌亢進、水っぽい好中球豊富な滲出液が起こる。
対照的に、バイオフィルムの形成、粘りの強い滲出物、限局的な感染は潜在的な子宮内膜炎の特徴であり、通常はグラム陰性菌、真菌、staphylococcusによって引き起こされる。
潜在的な子宮内膜炎の徴候には、超音波画像診断での、交配後の過剰な水腫や子宮内膜縁の間の白い線がある。
加えて、子宮の生検組織、あるいは少量の子宮灌流液の培養が、グラム陰性細菌の検出では、スワブより倍ほど検出感度がある。
一方、子宮内膜炎の検査では、子宮の細胞学検査は培養の倍の感度がある。
子宮の生検は、潜んでいる炎症性の、そして、子宮の血管の弾性線維の破断のような退行性の変化を探り当てるかもしれない。
一方、子宮内視鏡検査は、超音波画像診断では観ることができない病巣に焦点を当てることができる。
潜在的な子宮内膜炎を持った繁殖雌馬は非繁殖期に超音波による注意深いモニタリングを必要とする。
非繁殖期の子宮洗浄、オキシトシン、子宮内抗生物質注入のような伝統的な治療に加える処置としては、交配前1時間の子宮洗浄、carbetocin、子宮頚管弛緩剤、抗生剤全身投与、子宮内へのキレート投与(EDTA-Tris)、粘液溶解剤(DMSO、kerosene、N-acetylcysteine)、副腎皮質ステロイド(prednisolone、dexamethasone)、免疫調整剤(Mycobacterium phleiそしてPropionibacterium acnes細胞壁抽出物)が挙げられる。

                           ---
症状のはっきりした臨床的な子宮内膜炎だけでなく、サブクリニカルな潜在性の子宮内膜炎も不受胎や不妊につながっている。
それを調べるには従来行われてきた子宮頚管粘液の細胞診や細菌培養では不充分で、子宮灌流液の細胞診や培養、あるいは子宮内膜のバイオプシーが必要かもしれない。
処置としても、子宮内への抗生物質投与だけではなく、新たな方法が模索されている。
                            -
さて、あとは雑談。
子宮内に入れる薬剤として挙げられているkeroseneとは灯油のことだ。
灯油は刺激性がある。
飲むとひどい下痢を起こす。
・・・って飲んだことがあるのか?
実はある。
大学山岳部員だった頃、長期の冬山縦走登山のために秋に荷揚げ登山をして縦走路にデポ(食糧や燃料の貯え)をした。
金属製の缶の中に、漏れないようにポリタンクにいれた灯油や、米などの食糧を入れておいた。
冬に数日がかりで日高山脈の稜線まで登り、竹ざおに付けた小さな旗を目印にデポ缶を雪の中から掘り出した。
ところが、気温の変化でポリタンク内の圧が変わったせいか、デポ缶の中は灯油臭かった。
ビニル袋にしっかり入れていた米にも灯油の匂いがついていた。
しかし、その米を食べないと登山を続けられない。
雪を溶かした水で炊いた米はそうひどい匂いではなく食べられそうだった。
で、その夜、私はひどい下痢。
冬山ではトイレに行きたくなってもそう簡単ではない。
冬用シュラフの口はしっかり縛って閉じているし、その上にシュラフカヴァーがかかっているし、冬山では登山靴を履かないとテントから出れないし、
冬用テントの入り口は紐でしっかり縛ってあるし、外はマイナス10℃の世界だし、稜線では風が吹きすさんでいる。
水下痢だった;笑。
                            -
私の下痢は1日で治まった。
登山を続け、カムイエクウチカウシ岳(クマが転がり落ちるところという意味)に登頂した。
3人パーティーのうちもう一人は体調回復せず、頂上アタックはできなかった。
あとの一人は下痢もしなかった。
kerosene経口投与による腸炎実験発症と個体差を体感した獣医学的経験だった;笑。
                           ///////////

何してる?
秋を探してるのサ