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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

つながってる? 腕節の関節

2011-05-31 | 馬臨床解剖学

馬の腕節は3つの関節からできている。

橈骨手根骨関節(antebrachiocarpal joint = radiocarpal joint)と、

手根骨間関節(middle carpal joint = intercarpal joint )と、

手根骨中手骨関節(carpometacarpal joint)と、三段になっている。

橈骨手根骨関節は手根間関節とはつながっていない。

どちらも競走馬で骨片骨折を起こしやすい関節なのだが、どちらの関節が傷んでいるのか、たいていは関節の腫脹や熱感で判断できる。

手根骨間関節と手根骨中手骨関節は交通している。121_2

手根骨中手骨関節は動かない関節なので、あまり関節として意識されることがないが、掌側にも関節腔を持っている。

その関節腔は繋靭帯の近位付着部に近いので、手根骨間関節を麻酔すると、繋靭帯近位付着部の痛みがブロックされてしまうことがあるので注意が必要だ。

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今日は、急患で当歳馬の疝痛。

当歳馬の肢軸異常。成長板を跨ぐスクリュー挿入による矯正手術。

繁殖雌馬の剖検。

血液検査をやってから、

競走馬の脛骨外果骨折の骨片摘出と去勢。

夕方、繁殖雌馬の腕節の外傷。幸い、関節腔に至る部位ではなかった。

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P5311094_2 退院?マジか?

退院、間近。


つながってる? 飛節の関節

2011-05-30 | 馬臨床解剖学

飛節は離断性骨軟骨症 OCD が多いので、生産地にいる私達がもっともよく関節鏡手術を行う関節だ。

子馬の細菌性関節炎も多い。

Hockfx1捻挫や骨折や骨関節症を起こすこともある。P6240217_3

(左;飛節の致命的な骨折)

(右;足根骨の致命的な?骨折)

が、構造が複雑で、理解するのが難しい関節かもしれない。

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飛節は4つの関節腔からなっている。

足根下腿関節(脛骨距骨関節)、近位足根間関節遠位足根間関節足根中足骨関節、である。

ふつう、飛節の関節腔として意識されているのは、脛骨距骨関節である。

この関節はたいへん広く、よく動く。

円い距骨滑車の上に脛骨が乗っかっているので、構造上は非常に不安定に思える。

よく内側が腫れたとか、外側が腫れたとか、後まで腫れてきた。と関節液の増量を表現する人がいるが、1つの関節腔なので、柔らかいところが膨らみ、目立つところが腫れて見えるだけだ。

この脛骨距骨関節近位足根間関節(距骨と足根骨の関節)はつながっている。

飛節(脛骨距骨関節)の関節鏡手術をすると、近位足根間関節へつながっている孔が見える。

脛骨距骨関節の骨軟骨片はそのポケットのような孔を通って、しばしば中心足根骨の前へ落ちるので、関節鏡で覗き込んで取り出さなければいけない。

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遠位足根間関節足根中足骨間関節は8-38%の馬でつながっているとされている。

それぞれの関節腔を穿刺する方法があるのだが、つながっているかもしれないと思っていないと、関節内麻酔の結果を間違って解釈する可能性が出てくる。

足根間関節や足根中足骨関節は、DJD 変形性関節症を起こすことがある関節で、その場合、どの関節が痛みの元になっているか慎重に判断しなければならない。

かつては、痛みの元になっている関節腔をドリルで穿孔し、骨癒合を進めることで痛みを軽減しようとする治療が海外ではよく行われていたようだ。

近年は、痛い関節にアルコールを注入すると、ドリルで穿孔するより早く痛みが消えるようなので好まれている。

しかし、この関節内アルコール注射は、それに先立ってその馬の関節のつながりを確認しておかないと、DJDを進行させてしまいたくない関節にまでDJDを引き起こしてしまう可能性がある。

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104頭の馬で調べた報告では、12頭の馬で、遠位足根間関節近位足根間関節(距骨と足根骨の関節)とつながっていたとされている。

この調査では遠位足根間関節足根中足関節がつながっている馬は居なかった。

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Intertarsaljointdjd12Tarsalfx13 左の馬は遠位足根間関節と足根中足関節の両方に問題があるように思われる。

 右の馬は、遠位足根間関節だけの問題なのかもしれない。

いずれにしても、治療するならどの関節が痛みの元になっているのか慎重に調べる必要がある。


つながってる? 後膝の関節

2011-05-29 | 馬臨床解剖学

馬の後膝の関節は3つの関節腔からできている。

大腿膝蓋関節外側大腿脛骨関節内側大腿脛骨関節である。

大腿膝蓋関節内側大腿脛骨関節は60-65%の馬でつながっている。

しかし、この交通は信頼できるものではなく、わずかな圧で破れたり、炎症があると破れたり、つまったりするようだ。

大腿膝蓋関節外側大腿脛骨関節がつながっていることは希で、大腿脛骨関節の内側外側はつながっていないとされている。

だから、関節腔の局所麻酔をするときなどは、それぞれの関節腔に局所麻酔薬を注射しなければならない。

(Lameness in Horses 5th ed 参照)

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P3250092_2 きのうは、9:00 1歳馬の飛節の関節腔内注射。

10:00 2歳馬の胃内視鏡検査。

11:00 当歳馬の後膝関節の細菌性関節炎の関節洗浄。

感染は外側大腿脛骨関節に限局されているようだった。

(右写真は別症例)

12:00 2歳馬の腹膜炎。

血液検査をこなして、

2:00 2歳馬の喉頭形成・声嚢声帯切除 Tieback&Ventriculocordectomy 。

4:00 繁殖雌馬の膀胱破裂。

がタイムスケジュールだったが、生き物は機械ではなく、解剖構造さえ個体差があり、ましてや異常事態である病気や障害は千差万別で、その治療は予定通りにはいかず、臨機応変の処置が必要とされる。

やれやれ。


鎖骨ふたたび 

2011-03-06 | 馬臨床解剖学

比較解剖学とは・・・・加藤嘉太郎先生の「比較解剖学図説」には、

比較解剖学 Comparative Anatomy は動物部門全般を対象として、各種器官の相同、相似を論及し、動物の類縁関係を明らかにすることを主目的とする。

系統解剖学とは・・・

系統解剖学 Systematic Anatomy とは動物体を各系統(骨格、筋、消化器、呼吸器、尿生殖器、脈管、神経、感覚器、外皮等の各系統)に分けて、順次に説明していく方法で、特定の動物(人・家畜等)を対象とする。

とある。(こんな大事なことが「頭蓋骨の構成」の章の脚注に書いてある;笑。)

 そもそも私は、臨床と絡めながら馬を系統解剖学的に眺めなおしてみたいと思っていた。

しかし、人と比較することは、考察する上でわが身を参考にできるし、人については情報が多く、馬について考える上でも参考になるので、人と比較し始めた。

ところが、人と馬を比較するだけでは判断できないものもあり・・・・

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さて、鎖骨。

四肢動物には鎖骨は無いほうが機能的なのだろうということ。

筋肉で体を支えるとことの優位性。

鋸筋は体をぶら下げるだけでなく、肢を振るためにも機能していること。P3010921_3

を以前に書いた。

 それは進化・退化からみて正しいと思われるか?

さすが、加藤嘉太郎先生の「家畜比較解剖図説」には、肢骨の進化について書いた章がある。

右上は「脊椎動物の前肢骨の原型」。

肩甲骨、鎖骨、烏口骨、が上腕骨との肩関節を支えている。P3010922

この前肢のようすは、魚から進化して陸上へ上がり始めた生物のようだ。

 右2枚目は「カエルの前肢帯、腹面」Schwenk原図。

正中上から、上胸骨、肩胸骨、鎖骨、上烏口骨、胸骨、剣状突起とあり、

鎖骨から外側へ肩甲骨、上肩甲骨とつながっている。

Ca360142烏口骨が発達しているのも特徴だが、上胸骨、肩胸骨などがあるのも他の動物と違っている。

P3010925_2あの体が柔らかそうなカエルが立派な骨を前肢帯にもっていることは面白い。

 右は「アヒル(鳥類)の前肢帯、腹面」Ellenberger原図。

中央の大きいのが胸骨。

そこから烏口骨、そして癒合鎖骨。 

組み合わさって、まるで西洋の甲冑のようだ。P3010924

  右は「家畜の前肢帯、背側(肩甲骨だけで成立し、胴骨と全く連絡がない)」。

体の脇に大きく平坦な肩甲骨を貼り付け、それを筋肉だけで支え、すばやく前後に振ることで、四肢で速く滑らかに走れるように「進化」したのだろう。

その過程で、烏口骨も鎖骨も「退化」したのだ。

P3010923 そして、左が「人の前肢帯、腹面(鎖骨だけで胴骨の一つである胸骨と結ばれる)」とある。

前肢を腕として自由に使うためには、大きすぎる肩甲骨や、動きが限定される肩関節は都合が悪いので、肩関節は浅く接触するだけになり、

腕をあちこちへ動かすための支柱として鎖骨が必要なのだろう。

それは、「頑丈」「丈夫」ということとは違うように思う。

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P2240900 明治初期の群像劇でもある。

少し間を置いてみれば、作者の人物評はひどく好悪があるように思われる。

敬意を払われているのは大久保利通、西郷隆盛ただ二人だろうか。

歴史上から視れば何も為さずに非業の死を遂げただけなのかもしれない村田新八などは、好感をもって描かれている。

大隈重信あたりは俗人扱いで、それは言ったこと、行動、それに対する世間の評判までが記録として残ってしまっている近代の人ゆえなのかもしれない。

(早稲田の卒業生が司馬遼太郎の本をどう読むのか聞いてみたい。)

歴史とは道理にしたがっては動かないものか・・・・歴史とは人の世の記録のこと。


前肢帯の機構 スプリング、だけでなく

2011-02-26 | 馬臨床解剖学

P1300867

前肢帯の筋肉と呼ばれる筋肉はたくさんあって、肩甲骨をはじめ前肢上部を固定している。

(左図は「比較解剖学図説」より)

体重として沈み込もうとする胴体を支えるためには、

胴体を肩甲骨に引揚げる筋肉がなければならない。

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P2200904_3

Rooney先生の「馬の跛行」には、その仕組みが説明されている。

どうやら鋸筋というあまり注目されることのない筋肉だけが、ほとんどひとり、この重要な役割を果たしているらしい。

胸筋も胸骨と上腕骨を結んでいるが、これは前肢が広がらないように内転させる(脇を締める)働きの方が大きいように思う。

この鋸(のこぎり)筋。動物の場合は M.serratus ventralis 腹鋸筋。となっている。

肩甲骨の腹側 ventral にあるからだろう。

serra は「鋸(のこぎり)」だそうだ。

人の場合は、serratus anterior 前鋸筋、となる。

肩甲骨の前側にあって、肩甲骨を前へ引っ張るからだろう。

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P2200905 そして、鋸筋は体重や衝撃を支えるだけでなく、肩甲骨を動かすためにも重要な働きをしている。

肩甲骨から、扇型に広がるように胴体を吊り下げているので、

頚腹鋸筋を緊張させて、胸腹鋸筋を緩めると、肩甲骨は垂直に近くなり、前肢全体は後へ送られる。

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P2200906_2逆に、頚鋸筋を弛緩させ、胸鋸筋を収縮・緊張させると、肩甲骨の角度は寝ることになり、

前肢は前へ振り出される。

馬の(四肢動物の)腹鋸筋は、体を前肢にぶら下げているだけでなく、

衝撃をスプリングのように受けもするし、

振り子のように、前肢を振り出す役割を果たしているわけだ。

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YouTube: 競馬馬の疾走をハイスピードカメラで撮影したスローモーション映像