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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

盲腸と結腸の位置関係、そして血管の位置

2014-06-24 | 馬臨床解剖学

JRAは出版物を送ってくれる。

P6246341馬の獣医学の情報が限られているわが国にあって、

JRAの出版物は市販品、非売品によらずたいへんありがたい。

左の1990年に作られた「馬の解剖図譜」もシンプルでありながら、たいへんわかりやすく作られていて、

自分の勉強やら、学生への説明やらに重宝して使わせてもらってきた。

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ただし・・・・

P6246342左の図の「盲腸体」の右側が指しているのは

右腹側結腸だ。

だから、「盲腸尖」とされているのは大結腸胸骨曲辺りだ。

-

私たちは1年に何十頭か、体表からの超音波画像検査で盲腸と結腸を描出しようとする。

区別するのは難しいが、それが診断に関わってくる。

そして、年に何十頭かの結腸捻転・変位の開腹手術では、盲腸と結腸の位置関係を何度も確認する。

でないと、colopexy結腸固定術をしようものならたいへんなことになる。

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P6246344左の図は、

Horse Anatomy から。

やはり、右側から見た腹腔臓器が描かれている。

盲腸が正中よりにあり、

その頭よりにあるのが右腹側結腸、

そしてその頭より背側にあるのが右背側結腸。

上の「馬の解剖図譜」が間違っているのが確認いただけると思う。

P6246345馬の盲腸と結腸の位置関係がどうして重要なのか、

盲腸と結腸の血管は盲腸と結腸のどちら側をどのように走行しているのか、それを確認するのがどうして重要なのか、

それをいつも意識しているのは病理学者でも、解剖学者でもなく、

馬外科医なのかもしれない。

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P6226364えへへ~

今日はイイ天気

オラにはちょっと暑いけど

日も長くて

遊ぶにはサイコーさ


カンコツ・ケイコツ・トウコツ

2013-12-16 | 馬臨床解剖学

ことし、とある講習会で、

「先生はナカテコツって言ってましたがチュウシュコツじゃないですか?」

と指摘された。

ごもっとも。

ただ、読み物、書き物と違って、チュウシュコツとしゃべられてすぐ中手骨とイメージできるだろうか。

トウコツとしゃべられて、橈骨?頭骨?とならないだろうか。

ケイコツとしゃべられて、頚骨、脛骨、繋骨?とならないだろうか。

カンコツとしゃべられて、管骨、寛骨、冠骨?とならないだろうか。

日本語は漢字で表現するには一目瞭然なのだが、音で表現すると同音異義語が多すぎる。

中国語もそうだと思われるかもしれないが、中国語は日本語より発音と四声が複雑で聞き分けられるのだろうと思う。

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英語でも頭骨は skull と表現しても良いが、本当は cranium が望ましいらしい。

skull はズガイコツ ドクロ 髑髏 っぽいのかもしれない。

cranial bone ともいうようだからややこしい。

いずれにしても下顎骨 mandible は含まないでしょう?

                          -

教科書を書くなら用語は統一しなければいけないのかもしれない。

しかし、現実には用語は統一されずに使われている。

話すときには第二指骨と言われ、記号で書くときにはP2と書かれ、カルテには冠骨と書かれ、英会話ではshort pastern とか middle phalanx とか・・・・・

解剖学的に正しくは中節骨か?

だれもチュウセツコツなんて呼ばないから、中節骨としか知らないで卒業したんじゃ馬臨床で通用しないんだよね。

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Pc165441
とうちゃんと

さむくてくらいなか

えきまであるいた

でも

なんにもかってくれなかった


骨標本での側頭骨舌骨関節

2013-09-15 | 馬臨床解剖学

P9054898学会で訪れた帯広畜産大学本館のロビーには馬の全身骨格標本が飾られていた。

(右)

私はしげしげと観てしまったが、さして気に留めて観る人はいなかったようだ。

軽種馬の骨格標本ではなく、重輓馬の標本だったので、細部はサラブレッドと異なる部分がけっこうあった。

P9054899側頭骨舌骨関節の位置や構造も興味深く観察させてもらった。

しょっちゅうX線撮影したり、解剖したりしている私でさえ、この部分の骨をしげしげと観る機会はほとんどない。

この部分を解剖体で観るためには、頭を切り落とし、下顎をはずし、周囲の筋肉を丁寧に剥がさないと見えない。

それを舌骨を折らないようにやろうとすると長い時間と、熟練した技術と、特殊な道具が必要だ。

P9054904
側頭骨舌骨関節を観察すると、この関節が骨癒合すると、長~い舌骨の動きによって、薄い骨でできている側頭骨錐体部は容易に骨折するだろうことが想像できた。

そして、長い舌骨を観ていると、この骨が遺残器官などではなく、何か働きをしているのであろうと感じられる。

私は学会で側頭骨舌骨関節症の治療法として角舌骨摘出手術を行った症例について報告した。

角舌骨を摘出すればすべての症状がなくなって再発しないとはいかないようだ。

この側頭骨が骨折したら骨増勢も起こるだろうし、骨折した部位はもとの状態に取り戻しはしないだろうし、

周辺にある脳神経への圧迫や癒着は時間とともに進行するかもしれない。

そんなことを考えながらしげしげと眺めたのだった。

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休みの日の書き物もだいぶ進んだ。

一度にははかどらない。

それでも少しずつ進むのと、進まないのでは大きな差になる。

トライアスロンで学んだ。

立ち止まったり、座り込んだらゴールは近づかない。

走れなくても、歩いてでも進めばゴールへ近づける。

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P9144962オラ、泥のなかも大好き

この足で飛びついたら

ねえちゃんたちが

ワーワーキャーキャーよろこんでくれるのも知ってる


舌骨 その形

2011-10-24 | 馬臨床解剖学

馬の舌骨は結構複雑で不思議な形をしているのだが、はっきり認識している人は少ないのではないだろうか。

外から触ることもできないし、トラブルを起こすこともあまりないし、解剖しても取り出して観ることはまずない。

せいぜい喉嚢を内視鏡検査すると、中央に茎状舌骨があり、内側と外側の嚢を分けているのを観る程度だ。

Pa241567_2 図は加藤嘉太郎先生の「家畜比較解剖学図説」から。

だいたいどこが骨の本体かわからない。

舌骨体と呼ばれるのは2.の底舌骨

短い部分だ。

舌の中へ突き出しているのは3.の舌突起なのだが、実はこの馬の舌突起が家畜の中で一番大きく、牛にはちょこっとあるが、人にも他の家畜では「舌」突起はない。舌骨なのに・・・・

4.は甲状軟骨へと伸びている甲状舌骨

5.は角舌骨。底舌骨と関節し、反対側は上舌骨と関節している。

7.は茎状舌骨。上舌骨から側頭骨へとつながる一番大きく長い部分。

8.鼓室舌骨。側頭骨鼓室の茎状突起とつながる軟骨。

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Pa241569_2 こちら人の舌骨。

図は「骨のしくみ・はたらき事典」(西東社)より。

ずいぶんシンプル。

この動物と人の舌骨の発達の差は、動物と人の喉や舌の構造や機能の差と関係するのかもしれない。

Pa241568_2 この「骨のしくみ・はたらき事典」は良い本だ。

赤シートが付いていて、暗記にも使える。

ちょっと惜しい間違いがあったりするのだけど・・・(右)

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そういうと、学生の頃、馬の骨をスケッチさせられて、骨と各部位の名前を覚えるのが解剖の授業だった。

しかし、舌骨はなかったと思う。

骨標本にしても、壊れちゃうんだろうな。

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Pa241558 送っていただいたメートルとフィートの両方が目盛られたメジャー。

測るものや、人や、業界によって、両方が使われている国では必要なのだろう。

インチとフィートって12進法だったのね。

知らなかったというか、忘れていたというか、使うことがなかったというか。

Pa241561 自分の身長くらいフィートとインチで言えた方が良いのだろうか。

・・・しかし、中途半端な単位だな・・・・・・


つながってる? 左右の胸腔

2011-06-01 | 馬臨床解剖学

馬が胸膜炎を起こすと、左右の胸腔に炎症性の胸水が溜まる。P4300058_2

しばしば、左右で多少性状が異なったり、量が違ったりするのだが、少なくとも私は片側だけの胸膜炎というのは経験したことがない。

胸腔は左右でつながっているかどうか・・・・・?

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以下、Equine Respiratory Medicine and Surgery の 「The Thorax 胸腔」の章、The pleurae 胸膜についての記載。

胸膜は途切れることなく胸腔の表面すべてを覆っている。臓側胸膜は肺を覆い、門部で縦隔胸膜につながっている。

壁側胸膜は肋部、横隔膜、縦隔と表現され、それぞれ肋骨、横隔膜、縦隔構造を覆っている。

縦隔尾部で2枚の薄い縦隔胸膜が重なった部分の裂隙を通して、二つの(左右の)胸腔がつながっている馬も居る。

In some horses the two pleural sacs communicate via fenestrations where the two thin layers of mediastinal pleura are apposed in the caudal mediastinum.

                           

図は馬の胸腔の模式図。「図説比較解剖学」(文永堂)から。

P2280913_2P2280912_2P2280911-

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左右の胸腔がつながっているかどうか、臨床的には重要な問題なのだが、「つながっている馬も中には居る」では解剖学にならないのだろう。

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今日は、種雄馬の疝痛の開腹手術。

血液検査をして、

2歳馬の角膜炎。

2歳馬の喉頭内視鏡検査。

ひじょうに珍しい長期在胎の帝王切開。