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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

Dr.Brooksに聞いたこと

2009-12-05 | 馬眼科学

Dr.Brooksから聞いた馬眼科に関することの覚え書き・・・・

角膜炎

・馬の眼科疾患には2種類ある。角膜炎とそれ以外の疾患。

・角膜炎への対応は非常に重要。なぜなら治せるから。

・角膜の深い部分からの採材のためには綿棒などで擦るのではなく、メス刃の柄につける部分で掻き取るのが望ましい。

・馬の角膜の厚さは、中央部で1.0~1.5mm、辺縁部で0.8mm。

羊膜

・融解を起した角膜炎には結膜フラップを行ってきたが、角膜上に結膜が残り、治癒後の見た目が悪く、視界を妨げる。最近では6mm以下のものにしか結膜フラップはせず、羊膜を使っている。

・羊膜は原理的には光沢がある側が角膜に接するように、血管がある層を剥がした側が表を向くように乗せる。実際には裏表による差はないようだ。

・冷蔵と冷凍で差は感じていないが、幹細胞の定着が研究で証明されれば冷凍しない羊膜が望ましいのかもしれない。

白内障

・手術しか治療方法はない。瘢痕組織が形成されるので、半年後には良好でも、6年後にはどうなっているかわからない。

緑内障

・ダイオードレーザーによる毛様体の凝固術もよく行う。角膜輪部から5-6mmの強膜上で、出力1.5mwatと時間1.5secを設定しておいて30~40箇所に接触照射する(全周やってはいけない!)。ポッピング音が聞こえることがあるが、毎回聞こえるようだと出力が高すぎる。この手技による併発症はまれだが、効果がないこともある。

眼瞼縫合

・十字縫合or8字縫合をお勧めする。

虹彩脱

・飛び出した虹彩は切除する。「押し込めない!」   

    Drbrooks_book                        -

Dr.Brooksは馬臨床医のための眼科学の本も書いておられる。

持っている人も多いようだ。

ハンドブックというか、マニュアル的だが、私は便利で良い本だと思う。

上に書いた覚書以上に、詳しく、その理由なども書かれている。

例えば、虹彩脱は・・・・電気メスで切除する。とある。

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Photo 症例数は多くないかもしれないが、眼の障害は必ずある。

適切に対処したいものだ。


ウマ科学会獣医師WG Dr.Brooks症例検討会・実習

2009-12-04 | 馬眼科学

ウマ科学会獣医師ワーキンググループが招聘したDr.Brooksに、さらに生産地日高へ来ていただいた。

午前中は実際の眼科症例について、Dr.Brooksにコメントやアドバイスをもらい、参加者からPc040026 質問も受ける形で、症例検討会を行った(右)。

午後は、実馬での眼科検査のデモンストレーション(左下)。

(外貌検査、神経ブロック、検眼鏡の使用、超音波検査、etc.)

角膜縫合のデモンストレーション。

Pc040027 結膜フラップのデモンストレーション。

眼科手技のための神経ブロック・浸潤麻酔のデモンストレーション。

緑内障治療のためのダイオードレーザーによる毛様体焼烙のデモンストレーション。

そして、それらの手技の練習をやっていただいた。

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馬が居れば、馬獣医師が必要とされるのと同じ意味で、

馬が居れば、馬眼科医が必要とされる。

だから、馬獣医師には眼科学の知識が必要だし、

馬がたくさんいる所には、馬眼科専門医、あるいは世界の馬眼科治療に遅れない知識と技術と経験を持った獣医師が必要だ。

でなければ「不幸にして」失明する馬が続くだろう。

Brooks先生もおっしゃっていた。

「小動物眼科専門医は馬の眼科は不得手で、だから馬獣医師が眼科の知識を持たなければならない」

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海外の優れた講師を招聘するなら、生産地でも講演や実習をしてもらいたいということで、今日の研修が実現した。

今回は、眼科についての症例検討会と実習を行うということで、限られた人数で申し込みを受けての実施になったが、今後はいろいろなやり方があるだろう。

それも、日本ウマ科学会馬臨床獣医師ワーキンググループにかかっている。

馬臨床獣医師の皆さんは、ぜひともウマ科学会に加入していただきたい。

そして、この日本の馬臨床獣医療発展のための試みに参加し、要望も述べてもらいたいと思う。


眼瞼裂創

2009-11-07 | 馬眼科学

Pb050008 馬房の中で金具にひっかけて瞼を切ってしまうことがある。

1歳馬が多いように思う。

フック状のものが瞼にひっかかり、驚いて引っ張るので、瞼の丈夫な端が引きちぎれるように裂けるのだろう。

たいていこういう裂け方をしている。

眼瞼縁から垂直に切れたりしたのは見たことがない。

薄く裂けていると切り取ってしまいたくなるかもしれないが、瞼は決して切り取ってはいけない。

瞼やまつげは馬の眼に必要で、瞼の一部を切り取ると、風が吹いただけで涙を流すようになったり、瞼の端が内反して角膜を傷つけるようになったりする。

瞼は血行が盛んで、癒合が良い組織なので、受傷後時間が経って

縮こまっていようが!、

干からびていようが!

冬に凍っていようが!

切り取ってはいけない。

縫合する上ではいくつか注意することがある。

Pb050009・眼球側に糸を出してはいけない。角膜に擦れて角膜損傷をおこす。

・眼瞼縁(まつげがはえている側、裂けた先っぽ)を先に縫合する。そこがずれないように。

術後管理で注意すること。

・たいていは角膜は無事だが、白濁してくるようなら治療と検査が必要。

・痒くなるのか擦ってまた怪我をする馬がいる。再発に注意!

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Dsc_0095 今日は嘘のように暖かかった。

いい天気だったが、空気が霞んでいた。

今年はどんな冬になりますやら・・

寒さも、仕事も、生活も、世情も・・・・


角膜炎の点眼は1日6回以上

2009-06-19 | 馬眼科学

創傷性角膜炎は、馬の眼科疾患の中でも非常に良く遭遇する。P7160010

角膜は透明なのだが、それは血管がないことを意味している。

そのため傷ができると治りにくいし、傷が感染すると免疫力が働きにくい。

それでも、角膜炎に抗生物質の点眼を始めると数日でどんどん良くなることが多いが・・・・

Pa050025 良くならないようだと、様子を観ていてはいけない。

細菌や真菌(カビ)にやられて角膜が溶けて、孔が開いてしまうと失明の危険もある。

まずは、創傷性角膜炎の治療は、1日6回以上点眼しなければならないとされている。

どうしても点眼させなかったり、1日6回以上点眼しているのに良くならないようだと、すぐ別な方法を取らなければならない。

その判断を遅れずするためにも、角膜炎には1日6回以上点眼しなければならない。

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今日は、DDSPの2歳馬のTieforward手術。

セリ用レポジトリー検査。

牛の第四胃右方変位。

仔馬の肢軸異常のスクリュー抜去。

競走馬の球節剥離骨折の関節鏡手術。

輸送性の肺炎の超音波診断と気管支肺胞洗浄。

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天候もぐずついている。

蝦夷梅雨とは、本州が梅雨あけの頃、梅雨前線が北上して北海道が雨が多い時期を呼ぶのではないのか?


瞳に魅せられて

2009-05-22 | 馬眼科学

馬の眼は美しく、愛らしい。

大きくて、黒目がちで(白目はほとんど見えず)、くっきり二重瞼で、まつげが長い。

まばたきせず、こちらをじっと見つめる。

瞳孔の形は横長でやや四角い楕円。

少女漫画の絵の輝く眼と同じだ(笑)。

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P5030542今年のEquine Veterinary Education の表紙は馬の眼の写真を使っている。

馬がこれほど魅力的な眼をしていなければ、Equine Veterinarian にならなかったという人も多いのかもしれない。

が、ときとしてその馬の眼にもメスをくわえなければいけないことがある・・・・・・  

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Dsc_0671 Dsc_0675 恐ろしや・・・・・・・

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だいぶ前に書いた記事ですが、母が白内障の手術を受ける予定だったのでアップできませんでした。

おかげさまで母の目は視力も回復したようです。

点眼麻酔だけで濁った水晶体(レンズ)を吸い取り、眼内レンズを挿入したそうです。

10分ほどで終わったそうです。

患者が大人しくしていないとは言え・・・・馬眼科も頑張りましょう!

今年12月のウマ科学会学術集会では馬眼科学の権威フロリダ大学Dr.Brooksに講演してもらうことになっている。

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Csc_0188 ノビタキ。

こちらはオスだね。

ノビタキはメスのほうが縄張り意識が強いのだろうか?

オスはピーピョロピョロさえずっているばかり・・・・(笑)