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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

視力検査 馬と犬の

2012-06-19 | 馬眼科学

P6182369 子馬の視力検査をしている。

片目ずつ塞いで、歩き方がどうなるか観察する。

片方の眼を出していても、両方塞いだときと変わらず歩くのを嫌ったり、物にぶつかったら、そちらの眼は見えていないのかもしれない。

しかし、子馬は障害物があっても平気で踏んだり蹴ったりして歩くし、

見えていても母馬と一緒でないと歩かなかったりするし、母馬の後について行くのは視力がなくても可能なので、

子馬の視力検査は成馬以上に難しい。

「離乳までは正確な視力検査はできないかもしれない。」と書いてある教科書もある。

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一方、イヌは視力が良くないらしい。

獲物を追って生活してきた肉食獣としては不合理な気がするが、鼻(嗅覚)に頼って狩りをしてきたのだろう。

それでも嗅覚だけでなく視力も優れていたほうが狩りに好都合じゃないかと思うが、外界を認識する手段(感覚)はあまり多くて繊細だとかえって不都合なのかもしれない。

イヌは、人は、馬は、どう外界を認識していて、その違いがそれぞれの行動や心理にどういう差を作り出しているか・・・ゆっくり考えてみたい。

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今日は、1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。P6192379

子牛の中手骨骨折のキャスト固定とlimb perfusion。

Rhodococcus equi肺炎子馬の剖検。

今日からセレクションセールのレポジトリー。

(右)

午後は私は検査業務。

1歳馬の球節OCDの関節鏡手術。

1歳馬の頚椎のX線撮影。

当歳馬のフレグモーネの精密検査。

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自己以外のもの、つまり外界を認識しないと「自我」は存在しないし、

外界は認識の仕方、つまり感覚によって捉えられ、自己との対比の中で作り出されている。

匂い(嗅覚)で世界を認識しているイヌと、視覚に頼っている人では、外界のイメージは違うだろう。

では、馬は?

P6192377


涙しんしん湧くごとし

2011-07-23 | 馬眼科学

P7121207_2 「ダムが崩壊したように涙が・・・・」

と言われても、状態を想像できなかった。

上眼瞼を引っ掛けて切ることの方が多いように思う。

この仔馬は、下眼瞼を引っ掛けて切ってしまったが、

ごく小さい傷だったので、放っておいたのだそうだ。

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眼瞼はきちんと縫合して再建しないと、風が吹いただけで涙を流すようになってしまう。とされている。

上眼瞼の眼瞼縁には睫毛があり、それがなくなることで・・・などと漠然と考えていた。

公営競馬獣医師協会版「馬医者のための眼科学」によれば、

馬の睫毛は太く、上眼瞼縁のみにあり下眼瞼にはない

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Brooks先生によるこの本は、眼瞼の機能についても書かれていていて、

眼瞼にはいくつもの重要な機能がある。眼球の保護、角膜前涙液層の産生と流通、乾燥からの角膜の保護、涙点への涙液の汲み入れ、眼に進入する光量の調節である。

下眼瞼の縁が欠損すると、<角膜前涙液層の流通>に問題が起き、乾燥からの角膜の保護に問題が起こるわけだ。

まさしく、涙ダムの決壊かもしれない。

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さらに、

<外傷性眼瞼裂傷>に、<眼瞼機能を保持するためにに、できるだけ眼瞼縁を温存するのが非常に大切である。>とある。

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P7121212_3で、新鮮創を作り、眼瞼縁を再建した。

もう涙を流さずに済むかな。

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 永日

野にあるときもわれひとり

ひとり、たましいふかく抱きしめ

こごゑにいのり燃えたちぬ

けふのはげしき身のふるへ

麦もみどりを震はせおそるるか

われはやさしくありぬれど

わがこしかたのくらさより

さいはひどもの遁れゆく

のがるるものをおうなかれ

ひたひを割られ

血みどろにおののけど

たふとや、われの生けること

なみだしんしん湧くごとし

                  室生犀星


立ち馬の眼を抜く

2010-07-21 | 馬眼科学

「生き馬の目を抜く」という言葉があるが・・・・・

立位で、つまり意識がある馬の眼を摘出した報告がある。

     Transpalpebral Eye Enucleation in 40 Standing Horses

Patrick J. Pollock, Tom Russell, Thomas K. Hughes, Michael R. Archer, Justin D. Perkins

          Veterinary Surgery 37:306-309

目的-立位で鎮静した馬の眼球摘出手技と結果を40頭について報告すること。

研究のデザイン-回顧的調査。

供試動物-眼球摘出が必要とされた馬(40頭)。

方法-枠場で鎮静された馬40頭で経眼瞼手技を用いて眼球を摘出した。眼窩構造物の麻酔は神経ブロックと術野の浸潤麻酔で行った。

結果-患眼は立位の馬で成功裡に摘出できた。短期の併発症は、軽度の腫脹(5頭)、傷の滲出(1頭)であった。長期の併発症は観察されなかった。

結論-病眼は立位の馬で安全に摘出することができる。

臨床的関連-立位での馬の眼球摘出は全身麻酔の危険と経費を失くすことができる。

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動物愛護に世界で一番うるさい、おっと失礼、一番熱心なイギリスからの報告だ。

去勢も全身麻酔下で行うべきではないかと考えている私としては、立位での眼球摘出にはちょっと抵抗がある。

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palpate  ・・・を触診する。palpation   触診。だが・・・

palpebral  眼瞼の、まぶたの アクセントは第一音節。パルピボー

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P7130394_2


眼球摘出後の馬

2010-07-20 | 馬眼科学

残念ながら、眼球を摘出してしまわなければならないことがある。

眼球破裂あるいは角膜炎で穿孔し、眼球が萎縮してしまったり、

腫瘍が眼球にも浸潤してしまったり・・・・

眼球摘出後、その馬が片眼でもとの生活にもどれるかどうかが気になるところだが、

馬は片眼でも生活にはほとんど支障がないし、使役・運動も問題ないとされている。

もともと片方の眼の視野が広い。

その分、両眼で物を見る範囲は狭い。

両眼で遠近感を得る能力は猫に匹敵するとされているが、馬は片眼でも距離を判断できるようだ(Equine Ophthalmology for the equine practitioner by Dr.Brooks)。

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下のグラフは文献からの片眼眼球摘出後に馬がもとの飼養目的に戻ったかどうかを示している。

Return to work following unilateral enucleation in 34 horses (2000-2008)

                   Equine Veterinary Journal, 2010, 42(2), 156-160

P5180243_3

トレイル・プレジャー(外乗)では13頭中11頭、

競走では10頭中7頭、

障害飛越では4頭中4頭、

馬場馬術では3頭中3頭、

繁殖雌馬としては1頭中1頭、

グループ練習用では1頭中1頭、

障害物競走では1頭中1頭、

イベントホースでは1頭中1頭、

だから、眼球摘出後引退したのは5頭。

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失明した眼が治療不可能で、馬を不快にしつづけたり、

腫瘍や感染で命に関わるなら、

その眼球は摘出してしまった方が良いようだ。

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朝から2歳馬の疝痛。予定の手術は延期。

診察予定の馬は死亡して到着。

午後は1歳馬の飛節の関節鏡手術。

当歳馬の肢軸異常の手術。

1歳馬の口角の外傷。

1歳馬の両前肢と後肢内股の外傷。

最後に、繁殖雌馬の結腸捻転。

夜、不快指数高し。


馬回帰性ブドウ膜炎

2009-12-06 | 馬眼科学

質問にお答えして、馬のブドウ膜炎について書きたいのだが、まずその前に獣医師ではない方もいらっしゃるので・・・

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ブドウ膜、ブドウ膜炎とは?

ブドウ膜 uvea とはvascular layer of eyeball ;眼球の脈管層。虹彩(黒目の部分の絞り)、毛様体(レンズを引っ張っている)、脈絡膜(網膜と強膜の間の血管豊富な層)からなる。

眼球全体を覆っているので形も球状だし、血管が豊富なので赤紫をしていてブドウに似ているのだそうだ。

房水の産生、流れ、眼の栄養、眼の病気の治癒に大きな働きをしている。

簡単で、もっと詳しい解説は、人の眼についてだが、こちら

馬の眼はブドウ膜のダメージに弱い。

ブドウ膜炎は、ブドウ膜の炎症で、さまざまな原因・要因で起こる。角膜炎、局所・全身の感染、免疫介在性、とくにレプトスピラ症、眼の寄生虫症、etc.

                         -

馬の回帰性ブドウ膜炎とは?

再発する前部ブドウ膜炎が、馬回帰性ブドウ膜炎 Equine Recurrent Uveitis。

馬回帰性ブドウ膜炎は、レプトスピラ症、トキソプラズマ症、サルモネラ症、Streptococcus,

E.coli, Rhodococcus, その他の細菌の感染、寄生虫症、などで起こることがある。

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原因と治療は?

馬回帰性ブドウ膜炎の原因は不明なことも多い。

角膜潰瘍に併発している場合があるので、治療には注意が必要。角膜潰瘍があったらステロイドの局所投与(点眼や結膜内投与)はしてはいけない。

馬回帰性ブドウ膜炎の治療の目的は、視力を残すこと、痛みを和らげること、ブドウ膜炎の再発を防ぐこと、である。

馬が眼を痛がったら、角膜炎や角膜実質膿瘍による痛みなのか、ブドウ膜炎による痛みなのかをフロレセイン染色ですぐに判断する必要がある。

コルチコステロイドは、馬ブドウ膜炎の最適な治療法だが、角膜の感染と損傷を急速に悪化させる危険がある。

一般的に、コントロールはできても最終的には視力については予後が悪い。失明したら、痛みをなくすために眼球摘出が必要になるかもしれない。

非ステロイド系抗炎症剤は、ステロイドの抗炎症効果を促進する。角膜炎があるときには、非ステロイド系抗炎症剤で、眼内炎を緩和する

免疫抑制剤シクロスポリンAが効果を上げることがある。

アトロピンの点眼は、虹彩癒着を防ぎ、毛様体筋の痙攣を緩和することで痛みを抑え、毛細血管を安定化させて血漿の漏出を減少させる。

アトロピンの点眼により散瞳させられるかどうか、散瞳が続くかどうかは、ブドウ膜炎の刺激の強さと、虹彩癒着の指標となる。

抗生物質の局所or全身投与が馬回帰性ブドウ膜炎によく推奨される。

その他、針治療、光線療法、手術(扁平部硝子体切除術)、シクロスポリンA埋め込み、などが行われることがある。

臨床症状が落ち着いたらすぐに、投薬頻度を徐々に減らす。突然やめると再発することがある。

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terminology(術後、専門用語、術後学)

recu'rrent 頻発する、再発する、周期的に起こる、<神経・血管などが>反回性の(喉なりの原因になるのはこの「反回」神経麻痺)

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Dr.Brooksの著書 Ophthalmology for equine practitioner には、和文の虎の巻が出ている。

眼科専門用語は難解で、英文を読むのは辛いので、たいへん助かる。

公営競馬獣医師協会と物江先生と翻訳者の方に感謝。

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一方的に教わるばかりではいけない。

Dr.Brooksはすっかり燗酒が気に入ったようなので、

日本酒の燗をするにはmicro wave 電子レンジが便利です。とお教えしたら喜んでおられた。

こういうのを interactive education 相互教育(教え合い)という(笑)。

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今日の海はmicro waveではなかった。

寄せては帰すのは、recurrent (笑)。