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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

眼糸状虫症

2007-06-14 | 馬眼科学

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Photo_134  眼に入れても痛くないほど可愛い。などと言うが・・・

馬の前眼房に寄生虫が迷入することがある。

たいていは Setaria equi 馬糸状虫の幼虫のようだ。

虫は生きていて動いている。

ブドウ膜炎や角膜内皮損傷を起こす可能性がある。

上の写真でも角膜の辺縁が白く濁り始めている。

虫が死ぬと炎症はさらに増強されるらしい。

 馬糸状虫は北海道では感染しないらしい。

馬の腹腔内で成虫を見ることはあるが、眼への迷入はほとんど診たことがない。

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 本州の競馬場の先生には、このフィラリアを摘出する名人がおられるそうだ。

立位保定の馬で角膜を針で穿刺して、フィラリアを流し出す。

私は馬が動いて角膜を過剰に損傷するのが怖いので、全身麻酔でやりたい。

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海岸沿いにハマナスが咲いている。P6130439


眼の血管肉腫 hemangiosarcoma

2006-10-29 | 馬眼科学

Pa230062 この馬の右目はかなり前に腫瘍の増殖で失明してしまっていた。

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 もとは瞬膜と下眼瞼に腫瘤ができて、1年近く経つうちに出血するようになったとのことで診せられた。

そのときバイオプシーした組織では、

「瞬膜の腫瘤 : 独立した円形細胞のシート状の増殖を認める。浸潤細胞には小型リンパ球と異型性の強い大型細胞を認める。

下眼瞼の腫瘤 : 瞬膜の腫瘤と同様、腫瘍細胞の腫瘍性増殖を認める。

組織診断 : リンパ腫。

進行は遅いが、多発性の症例が多く、他の部位における発生が懸念される。」

ということだった。 

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 それから約2年、その間、馬は右目を失明し、衰弱した。

剖検による最終的な組織診断では、「異型細胞が管状構造あるいは列隙を形成しており、典型的な血管肉腫の組織像を示している。」

最終診断 : 右眼瞼および右頬における血管肉腫 Hemangiosarcoma (局所リンパ節への転移を伴う)。

という所見だった。

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 腫瘍はできる場所や、腫瘍の性質によっては完治させることが難しい。

外科的に完全に摘出することが鍵になることが多い。

腫瘍の性質の診断も大事になるが、病理組織学的にも確定診断が難しいこともあるようだ。

「血管肉腫」も難しい腫瘍のひとつだ・・・・・・


眼の扁平上皮癌 2

2006-10-18 | 馬眼科学

Pa170062 この症例は上瞼側の結膜に扁平上皮癌ができて、瞼をかぶっているためかなり大きくなるまで気づかなかったらしい。

角膜が白くなってきて、なんかへんだということで気づいたらしい。

しかし、瞼をめくってみると見事にカリフラワー状。

妊娠中の繁殖牝馬で、全身麻酔のリスクも考えたが、分娩を待っていては眼を失うことになりかねなかった。

Pa170061 この馬の腫瘍は、眼結膜から広がって、角膜の上に至り、角膜にも浸潤しているようだった。

すでに角膜にも炎症と血管新生が起きている。

完全に切除することは難しいと思われた。

大学病院へ連れて行くことも考えて、眼に詳しい酪農学園大の小谷教授に相談した。

結局、輸送の負担なども考えて、大学病院は連れて行かないことになったが、小谷先生は角膜手術用のメスを貸してくれた。

Pa170065 Pa170064 全身麻酔下で、眼瞼結膜の腫瘍塊を切除し(左)、

角膜の上の腫瘍も特殊なメスでできる限り削り取った(右)。

一部は、止血と再発防止のために焼烙した。

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完全に取りきれたとは思えず、再発は避けられないかと思ったが、再発せずにすんだ。

小谷先生には馬の眼の症例で随分お世話になった。

小谷先生が亡くなってから、眼科で教えを乞うことができないでいる。


眼の扁平上皮癌 1

2006-10-17 | 馬眼科学

Pa030008 眼の周囲ははどういうわけか腫瘍ができやすい。

擦りつけることが多いのでウィルス性の腫瘍であるSarcoidも多い。

日光にさらされる粘膜である結膜、瞬膜に扁平上皮癌が多いのは、紫外線の発ガン性によるのだろう。

眼の周囲に色素が乏しい毛色の馬(サラブレッドではない)が多く、おまけに日差しが強いカリフォルニアなどでは、とくに眼周囲の扁平上皮癌は多いようだ。

扁平上皮「癌」というと予後が悪そうに聞こえるが、瞬膜(第三眼瞼)にできることが多く、根こそぎ取ってしまいやすいので、今まで再発の経験はほとんどない。

もちろん、腫瘍が大きくなりすぎないうちに見つけることが必要だ。

目やにが出て、瞬膜、結膜に何かできているようなら獣医さんに診てもらったほうが良い。

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Pa030012外見上、上の写真の様でも瞬膜を引っ張り出すと、りっぱな腫瘍組織ができている。

扁平上皮癌はもっとガサガサ、カリフラワー状であることも多い。

この馬も瞬膜をできるだけ切除した。

組織検査では、やはり「扁平上皮癌」だった。

もっとひどい症例はまた今度。

                       


眼の麻酔

2006-10-06 | 馬眼科学

 最近、眼の症例がばらばら来る。

角膜炎に、瞬膜の腫瘍に・・・・・

たいてい全身麻酔が必要になるのだが、局所麻酔も併用する。

全身麻酔中で身動きしなくても、痛い思いをさせると麻酔が安定しないし、神経伝達物質が神経節に残り、全身麻酔の覚醒状態を悪くするとも言われている。

で、全身麻酔していても、局所麻酔も併用すべきだという考えだ。

とくに眼の手術などでは痛みが強く、眼球が動いて手術しにくいことがあるので、角膜の浸潤麻酔や神経ブロックを併用している。

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Pa050039 よく使うのは左の眼窩上孔へ針を入れて眼窩上神経(前頭神経)をブロックする方法。

            と

Pa050035右の耳介眼瞼神経のブロック。

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Pa050036 それと部位によっては、

涙腺神経

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Pa050038 頬骨神経

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Pa050037 滑車下神経

のブロックも使うことがある。

これらの神経は、三叉神経の枝の眼神経の一部として、眼窩の奥から眼の周囲へ分布している。

各神経のブロックされる部位は影で表現されている。

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Pa050040  出典は、オハイオ州立大の麻酔科の教授Muir先生のEquine Anesthesia.

新しくはなくなったが、良い本だ。

横浜で行われた世界獣医学会のついでに静内で講演をしていただいたPa050041 1995.9.10に

本にサインをしてもらった。

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このとき外科の教授Alicia Bartone先生も一緒に講演に来られた。

お二人はその後、結婚された。

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 オハイオ州立大で研修された先生によると、麻酔科の部屋の前には

「手術が決まるまでは、麻酔科医を呼ぶな!!」

と張り紙してあるそうだ。

麻酔科教授夫人が外科教授だと・・・・・外科医も麻酔科医もやりにくい?だろうな~