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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

臨床のセンス

2020-06-02 | 図書室

センスがない。ある。

よく言われることなのだが、センスとは何か?

たぶん、知識や技術以外のもので必要なものを言うのだろう。

そして、経験によるものであれば経験のおかげだと考えられるが、

年数を重ねても的外れなことをしていると、それもまたセンスがない、ということになる。

では、どうすれば身につくのか?

         ー

 

しばらく手元において読んで、読み返した。

マンガとストーリー仕立てでヒト外科技術の実践的側面について書かれていて読みやすい。

馬外科医に役に立つか・・・・まあまあ。

センスが身につくか?・・・・ほとんどつかない;笑

           ー

「傷は縫うから治るのではない」

外科学の基本は勉強しておいて、の話。だけど何でもそのまま縫えば良いというものではない。

当たり前と言えば当たり前。

           ー

「切り口に術者の心が表われる」

たしかに、メスでの切開には外科医のセンスが表われるかもしれない。

馬の開腹手術創では・・・

The skin and subcutaneous tissues are incised using the belly of the scalpel blade in one smooth motion.

これが、できるかどうかは、やっぱり経験かな。

そもそも、23番ブレードは”腹”で切るんだ、というのは基礎知識かな。

長年やっていてもヘタなのは、センスがないんだろうな。

           ー

「すべての手術はアテローマ」

名医の粉瘤オペのマンガ。笑える;笑

                                       ー

「局麻手術はきくばり手術」

局麻うつのにブスブス針を刺す獣医師が居て、注意したことがある。

でも、そういうヤツは注意してもやめないんだよね。

自分の指に針を刺した経験から考えればわかるだろうに。

馬を枠場に入れて、痛いことをして、馬が飛び出しそうになることもある。

それも馬医者としてのセンス。

その馬がおびえてないか?馬が暴れ出したらどうするか?周りは動けるヤツか?

それを観ながら麻酔方法や鎮静状況や手術敢行可能か、判断できるのが・・・センス?経験かな?

          ー

「手術器具は柔らかく持つ --脇は締めるべきか?」

これは実技指導に行くと私も言うことがある。

ただ、リラックスした姿勢で、縫合部に目(顔あるいは頭)を近づけずに縫えるかどうかは、手指の感覚で持針器と縫合針を扱えるか、にかかっているのかもしれない。

針がどこに出てくるかわからないから目をこらして見てしまう。

あまり姿勢ばかりうるさく言っても仕方がない。

結局は技術であり、経験あるいは練習で身につけるしかないと思う。

いつまでもタカアシガニだったら・・・・センスがないか・・・・眼鏡を変えた方が良い。

          ー

「一寸の針糸にも十分の魂」

”これからの外科医には、材料や糸のコスト意識が求められる”

と書いてあってちょっと安心した;笑

私たちが使っている縫合糸もそれなりに高い。

縫合が上手になるほど無駄に切り落とす末端が短くなる。

糸を無駄にしない縫合もできないなら高い糸を使う資格はない。結局無駄だから。

左手を上手に使えないから、あなたの糸の末端は長すぎるんだよ。

雑巾縫って練習しな。

          ー

「感染したら迷わず切開排膿、抗菌薬でお茶を濁さない」

ペットによる咬傷の寓話として出てくるのだが、”膿が溜まっている状態に薬を使っても、焼け石に水だよ”

知っている、のだろうが、やっている獣医師の多いこと。

子宮穿孔・腹膜炎でもそうだろうと、私は思う。

         ー

この本は形成外科のお医者さんが書いていて、だから皮膚弁とか、皮膚移植とかに詳しい。

一方、”腫れならいいね、折れたらやだね” だし、

「骨の手術」では、”シンプルだ。折れていたら、元に戻して固定すればよい。” とある。

まあ、ヒトはおとなしくベッドで寝ていてくれるからね。

馬医者にはまたちがったセンスが必要。

         ー

「ベテランが手術を独占しては、医療が停滞する」

「先人は伝授を惜しまず、後人は先人を追い越す努力を」

”技術は盗むものでも、背中で伝えるものでもない。”

”大概の、いや全ての手術はちゃんと指導すればそう難しくはない。そうでなければ医療とは言えない”

手術は芸術か芸能か。

百年にひとりの天才が担うべきか、ひろく普及してひろく恩恵が享受されるべきものか。

ヒト医療の需要のひろさがうらやましい気もする。

優秀だとされた獣医さんが居なくなったあとに廃れてしまう地域や組織もある。

本当に優秀な人だったら、その人が居なくなったあとも隆盛が続き、さらに発展するはずだ。

          ー

          ー

つまるところセンスとは意識。

教わったことや教科書を鵜呑みにせず、自分で考えながらやることで、センス”意識”は磨かれる。

そういった意識は、上手になろう、良い診療をしようという意欲に支えられている。

センスがないヤツのひとつの多いパターンは、「この程度でイイんだ」と開き直っているヤツかな。

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キミに飼い犬としてのセンスはあるか?!

 

 

 

 

 


山女日記

2020-02-09 | 図書室

娘が図書館で借りてきていたのを、返却日を延ばしてもらって途切れ途切れに読んだ。

 

短編集なのだが、主人公たちはつながりがあって、全体がひとつのまとまりを持っている。

一気に読まないのなら、登場人物の一覧をメモしながら読むと良いかもしれない。

私は、登場人物が、え~と誰だっけ、どういう人だっけ、とわからなくなった。

しかし、小説を創りあげる手法としてうまいな~と感心してしまう。

最初の章に出てくる帽子作家も、最終章に主人公として登場する。

全体の構成を考えた上で短編ごとに書かれているわけだ。

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少し登山礼賛が過ぎるのではないかとは思うが、女性たちが恋愛や結婚や仕事や家庭での悩みを抱えながら山に登り、それが逃避ではなく、明るい希望と活力につながっていく様子は爽やかだ。

登山のきつさも描かれていて、基本的に体力がなければならないこともストーリーの中で書かれている。

主人公たちは、自分が登れる山を選び、装備を整え、食料をしっかり持って登山している。

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篠田節子、湊かなえ、森絵都、窪美澄、それから以前に読んだことがあるのは唯川恵だったか?

女性作家の女性小説を読むときに感じる抵抗は、主人公たちの打算か、周囲との比較、いや何だろう・・・

主人公たちが幸福を求めていること自体か?

思えば私が好んできた小説の主人公たちはそもそも自分の幸せなど求めたりしていなかった。

まだまだ男と女は、同じ社会で生きていても、物の見方も、求める物もちがっているのではないかと思う。

これは日高山脈北部の山。

左奥が日高山脈最高峰幌尻岳。

右がイドンナップ岳。

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今シーズン1頭目の帝王切開をした翌朝、また難産の依頼。

私は休みだったので、除雪作業をしてから引きあげた。

が、水頭症の胎仔で、帝王切開(今シーズン2頭目)をやったそうだ。

                -

その翌日、早朝に難産。

気腫胎で、全身麻酔してひっぱり出した。

さらにもう1頭難産。

下胎向で頭が遅れていた。

やはり全身麻酔下で整復して牽引・娩出。

破水から3時間経っていて、胎仔はダメかと思っていたが生きていた。

                 -

勉強に来ていた女性獣医さん。

牛の難産なら子宮捻転であろうが、失位であろうが、手に余すことはないそうだ。

筋トレしていて、6kgのダンベルを振っていたとのこと。

頼もしい!

今朝はとても寒かった。この冬一番の冷え込み。

 

 


苦手図鑑

2020-02-07 | 図書室

人気があって、新聞の書評なども書いておられて、札幌在住で・・・・

 

一冊くらい読んでみようと、図書館でみかけたので読んでみた。

よくまあ、くだらないこととるに足らないことでこれだけ文章を書けるものだと感心した。

別におかしくもないし、同感することがないわけではないが、何をぐだぐだと言っているのだ、が私の感想。

でも、最後まで読めてしまった;笑

文章がうまいのか?そんなことはない。内容にしてはずいぶんと切り口上な文体。

癒やされるか?そうは思えない。

でも、ベッドサイドにおいて、ときどき読みたいかも・・・・・笑

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凍える朝、相棒と散歩。

相棒は妙に元気。

暖かい地方で室内でゴールデンを飼っている方々、それは本当の姿ではないかもしれませんヨ。

夜中中放牧されていたサラブレッド1歳たち。

う~ん、アラビア馬の末裔達の寒さに対するこの適応力はどう解釈する??

ボイラーの温水配管から水漏れしている。

低温で金属が収縮して漏れるのだろう、とのこと。

もちろん修理するが、神の創りたもうた進化してきた生物たちに比べて耐久性と適応力のないこと。

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東京での日本獣医師会年次学会に参加される牛医者の皆さん。

北海道から、子牛の骨折とそのプレート固定についての発表が研究報告としてあります。

どうぞ聴講して感想をお聞かせください。

 

 


義男の空

2020-01-18 | 図書室

小児脳外科医で、「子供の魔術師」と呼ばれることもある高橋義男医師を描いたコミック。

全12巻。

12巻だけは地元の図書館になくて、まだ読んでない。

団塊の世代に生まれ、やんちゃな子供時代を過ごしてきたことが、現代の小児脳外科医としての活躍と交互に描かれている。

どんな子が、どんな風に育てば、こんな人間力のあるお医者さんになるのか描きたかったのだろう。

もう、現代の受験制度では高橋義男先生のような医師は育たないのかもしれない。

            ー

北海道発の医療コミックで、各巻にはモデルになった患者さんたちとの対談が載っている。

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きのうは、午前中3歳競走馬のTieback&cordectomy。

その前に、この1ヶ月不調の2歳馬が来院していた。

どうやらずっと小腸閉塞があったらしい。

小腸全体がひどく膨満しているので、人手が要るたいへんな腸管手術になる。

予想通り、ひどい膨満。

とても1人では扱えないし、まず切開して内容を排泄させないと腸間膜が重さで裂けかねない。

所用で来られていた研修所の先生お二人にも手伝っていただく。

豪華臨時手術チームのおかげで、空腸切開・回腸盲腸吻合手術はうまく行った。

 


Equine Fracture Repair

2020-01-16 | 図書室

馬の骨折治療の第二版。

 

だいぶ前からamzonへ予約していのだが、ずいぶん待たされた。

そしてついに手に入った。

第二版は先の版よりずいぶん厚くなった。

世界中で馬の骨折治療の経験と知見が集積されたからだろう。

X線画像をはじめ写真がデジタル化されて精密になった。

しかし、まだ古いアナログのXray写真が使われている症例もある。

馬の骨折治療はまだまだチャレンジングで、治ったのが奇跡、記念碑的な症例もあるのだ。

執筆者はそうそうたる面々が並んでいる。

ほとんどはUSAの大学で馬の整形外科を専門としている教授たちだ。

しっかり読んで、彼らの経験からの金言を身につけたい。

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2018 診療実績のつづき。

静脈維持麻酔でどんな診療をしたか。

もうトリプルドリップで麻酔維持することはしなくなった。

だから、すべてプロポフォール麻酔で、年間76頭。

外傷治療 17

難産整復 15

臍ヘルニア 13

肢軸異常 13

歯科治療 4

下顎切歯骨骨折ワイヤー固定 2

膿瘍切開 2

その他、歯槽骨膜炎、喉頭蓋下シスト、披裂喉頭蓋ヒダ・声帯切除、鼻涙管形成、第一趾骨粉砕骨折貫通ピン抜去、キャスト除去、膀胱破裂、膿瘍切開、パピローマ、骨瘤、耳瘻管、多指症、が1頭ずつ。

                 -

馬をケタミンで倒しただけでは外科処置が終わらず、もう少し麻酔を続けたいが、吸入麻酔をかけるほどではない。

という場合に静脈維持麻酔を使っている。

それとプロポフォールを使うようになって、吸入麻酔より覚醒起立の質が良いことも大きなメリットだ。

難産整復などは覚醒起立が危ないが、プロポフォールを使うようになって少しは安心できるようになっている。

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2018年も1頭、鼻涙管管形成手術を行っていた。

鼻側の鼻涙管開口部が先天的にないので、開口部を造る手術。

他の地域の先生から質問があったので、鼻涙管開口部の写真を載せておこう。

たいていは、ピンクの鼻粘膜と色素がある皮膚の部分の境目あたりにある。

これがないなら手術しないと涙や眼脂は止まらない。