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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

ミステリアム

2022-05-10 | 図書室

ゴールデンを亡くした飼い主は何を読めばいいのか・・・

あのウォッチャーズのミステリー作家クーンツの新作。

時代設定もだいぶ新しくなっている。

荒唐無稽とは言え、科学的な記述もちょっと新しさがある。

リアリティーが、というところまでは行かないけど。

           -

人と犬の進化の歴史、そして今後のお互いの進化にクーンツは思いを寄せているのだろう。

いつか、人に劣らない知性を持つ犬が現れ、テレパシーで意思疎通できたら?

犬の飼い主の夢であるかもしれない。

           -

書評はそれほど高くないようだ。

しかし、私は充分たのしめた。

読後感も悪くない。

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夜、有茎脂肪腫による空腸纏絡を手術した。

眠ろうとしたが、何か騒がしい音がする。

そのうち雷だとわかった。

眠りに落ちた頃、電話で起こされた。

          ー

11歳。午後8時に疝痛を発見したが、その時にはもう痛がっていた痕があった。

そして、午後10時過ぎ。

PCV65%、厳しいんじゃないの・・・・・

開腹して、膨満した結腸のガスを管付きの針を刺して抜いた。

それから術創外へ引っ張り出した。

ひどい色と浮腫性の肥厚だが、骨盤曲を切開して内容を捨てる。

それで色調が回復する症例もあるから。

骨盤曲の粘膜はすでに壊死の状態。

色調も回復しない。

盲腸も引き出して、盲腸結腸ヒダの部分を見るが、そこより基部も損傷が進んでいる。

盲腸結腸ヒダより基部は切除することができない。

あきらめるしかない。

             ー

雨が少なかった4月。

5月になっても暖かい。

それが雨が降った。

草が伸びている。

土曜日に結腸捻転2頭。

日曜日に結腸捻転1頭。

月曜日に結腸捻転2頭。

事故が少ない春だったが、疝痛の季節がやってきた。

 

 

 

 


この冬は事故が少ない、そして海獣の本

2022-03-26 | 図書室

今年は分娩時期の事故が少ないようだ。

難産も少ない。

1月2月に流産の難産が来たのと、数頭ひどい難産があったくらいで、帝王切開も1頭かな。

難産の一番多いパターンは、前肢の屈腱拘縮で腕節が伸びないために起こる。

焼却場へ運び込まれる奇形や腱拘縮の子馬も少ないように思う。

分娩に伴う消化管破裂の事故も少ないように思う。

分娩前後の疝痛による開腹手術も少ない。

とても良いことだ。

理由はわからないのだけど、気候のことくらいしか思い当たらない。

この冬は、冬型の気圧配置が安定していた。

北海道の太平洋側は、雪が積もるのが記録的に遅かった。

12月はほとんど雪が降らなかった。

1月に入って雪が降った後も、日本海側は記録的な積雪量になったが、太平洋側は好天が続いた。

しかし、放牧地の雪はなくならなかった。

例年、厳寒期でも寒波がゆるんで雨が降ることがあるのだが、この冬は雨は降らなかった。

放牧地に氷の池ができるようなことはなかった。

ひどい冷え込むこともなかった。

2月後半から3月にかけては何度か低気圧の通過で雪が降ったが、ひどいドカ雪ということもなかった。

そして、順調に暖かくなってきた。

           -

もう3月も終盤なので、4-5割の出産は終わったのではないだろうか。

今年を見ると、天候が安定していることが事故の少なさにつながるのではないかと思わされる。

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獣医師にして国立博物館の研究員である解剖学者さん。

彼女の専門はイルカ、クジラ、シャチ、ジュゴン、マナティ、アザラシ、オットセイ、トド、ラッコといった海洋性哺乳類。

飼育も難しく、だからもっぱら研究はストランディングと呼ばれる海岸に打ち上げられた彼らのサンプリングと解剖ということになる。

標本としても貴重なのだそうだ。

その学問と研究や、博物館の世界も今まで知る機会がなかったので興味深かった。

難しく書かれていないで、明るく軽い語り口なので読みやすかった。

写真や挿絵も多く、楽しい本になっている。

海獣を調べることで、海、そして地球の環境についても考えさせられる。

ビニールやプラスチックはもう使うのをやめないといけないよね。

あるいは完全に変質して分解される物質を開発しないと。

だけどそんなことができるのだろうか・・・・・

 

 

 


黄金旅程

2022-01-29 | 図書室

私の父は競馬には興味がないのだが、図書館で借りてきて読んだらしい。

私も、家庭内又貸しで読んでみた。

相棒のそばに居る時間にちょうど良かった。

主人公は生産地で働く装蹄師。

その同級生で、かつてのJRAの花形騎手だった男。

そして、架空の設定だとされながら、明らかにモデルが居て想像してしまうほかの登場人物。

生産牧場とか、育成施設とかもかなりリアル。

馳星周さんは浦河出身で、近年の夏は浦河で過ごしているらしい。

             ー

本の帯を見て、

陳腐?

と読み始める前には思ったが、そこはさすがの筆力、設定、リアリティー。

しかも、馳星周ものの片鱗も見えて、ただの競馬サクセスストーリーではない。

美しい?女性獣医さんも登場するぞ;笑

             ー

楽しんで読めました。

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具合が悪くても車に乗りたい、乗っていたい。

置いていかれる心配がないから?

とうちゃんと一番一緒にいられた場所だから?

 

 

           

 

 


定年ゴジラ

2022-01-21 | 図書室

 

誰がどこから持ってきたのか、家においてあったので読んでみた。

ニュータウンと呼ばれる住宅地で定年を迎えたお父さんたちの日常、そして街が抱える問題。

企業戦士だったお父さんたちは、仕事を失うとすることがない。

散歩で交流することになるが、ある者は病に倒れていく。そういう歳なのだ。

ニュータウンは同じ年齢層、同じ社会階層の者が集まっている。

意識的にそうしたのだ。開発業者も、住民もそれを望んだ。

住民とともに街も老いていく。

二世帯住宅に建て替えて子供と同居する家もあるが、うまくいくとは限らない。

子供は出て行き、連れ合いを亡くし、独居老人になるお父さんもある。

               -

地方から出てきて、東京で働き、一戸建てを構えたのは「勝ち組」と見られることもある。

しかし・・・

               -

故郷で早逝した母を想う章はよかった。

               -

この小説の主人公たちは、昭和初期の生まれ。

私の親の世代だ。

今は、かつてこのように社会を支え、社会を形成した”中流”がすでに崩壊しつつあることが問題になっている。

意識しないでいても、私たちは逆らえない社会や経済の流れの中で生きているし、

自分や家族の生活もその中にある。

この小説はどこかコミカルなのだけれど、今の世相を描くならもっとシリアスなものにならざるをえないのかもしれない。 

                -

どうして”ゴジラ”なのか、興味が湧いたら読んでみて。 

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オレはこの環境が気に入っているけどね。

 

 


ふんわり見るだけ整形外科

2021-12-02 | 図書室

ネットで本を買うのは便利だが、

書店でみかけて読んでみようという気になることもある。

獣医外科学の中では、「整形外科」と分類して習うことはなかった。まあ、私たちの頃は、なのかもしれない。

そもそも、牛は整形外科的症例の治し方をきちんと教わることはないかもしれない。まあ、少なくとも私は教わった記憶は無い。

だいたい整形外科って何よ?

骨や軟骨を扱う外科、くらいのイメージしか私にもなかった。

            ー

整形外科の扱う範囲は?・・・・・頭以外のすべて!

なんだそうだ。

馬の浅屈腱エコーも整形外科なんだな。

ヒト医療でも、有訴者の上位は「肩こり」「腰いた」なので、整形外科の患者さんは多いのだそうだ。

しかし、生き死に直接かかわらないので、ドラマになることが少ない、と著者は嘆いている;笑

            ー

ヒトに多い整形外科障害がイラストでわかりやすく説明されている。

もちろん治療方法、手術方法も紹介されている。

獣医さんの不調も、腰が痛い、膝が痛い、腕が上がらないなど整形外科領域が多い。

手元においておくと参考になりそうだ。

            ー

大動物獣医師が扱うことが多い骨折が、ヒト医療でどのように処置されているかわかる。

部位と折れ方で細かく分類され、専用の治療方法で処置されていることに驚く。

大動物でも進む方向はそういうことなのだろう。

            -

一方で、脊椎の障害、肩の障害、神経の障害、リウマチ、などわれわれ大動物獣医師がうとい障害の治療が多いのにも驚く。

これも勉強しておくと大動物臨床に参考になり、あるいは自分や家族がその病気をわずらったときに役に立つかも。

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ところどころに挿入されているcolumnも楽しい。

現役整形外科医の本音や整形外科の実状が書かれている。

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整形外科では、女性医師は少ない。

そもそも外科が女性医師が少なくて6.2%なのだが、整形外科はさらに少なくて5.2%。

急患が多い、X線を使用する、力仕事が多い。が理由だろうと筆者は考察している。

さて数日後から牛の骨折内固定を教えに行く。

牛臨床で整形外科が根付くように、がんばってこようと思う。

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薪割りは腕、肩、腰の鍛錬になる。

脚も疲れるような斧の振り方をしないといけないのかも。

まだまだ修行が足らんな。