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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

北海の狩猟者

2023-02-20 | 図書室

いつだったか、手塚治虫さんの「シュマリ」を読んだ。

明治維新の頃、北海道で生きた男の物語。

ちらりと、その頃の北海道を訪ねてみたかったと思った。

今よりはるかに厳しく、辛く、危なく、乱暴な時代だったと思うが。

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この本の著者は明治生まれだが、大正から昭和を根室から知床ですごした。自伝でありエッセイ。

本の前半は、ヒグマ猟が淡々と描かれている。

ハンターとはなんと執念深いものか。

足跡を追い、数日がかりで付け狙い、撃ち倒す。

子連れの熊でも容赦ない。

まだまだ、自然が圧倒的な強さを持ち、人が傷つけてもびくともしなかった時代の物語。

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この本に記録されている道東から知床の自然の豊かなこと。

山には山女魚や岩魚があふれ、原生林は深く、獣たちの密度が濃い。

本の後半は、どれほど山女魚が釣れたか書かれている。

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この本の時代は、知床や別海方面に入るには、釧路から陸路を行くか、

海路で根室半島を回って標津へ上がるか、

北見方面から山を越すかしか方法がなかったのだそうだ。

今は中標津がけっこうな街になっていて、空港もある。

根室の獣医さんたちは会議や学会に飛行機で出張してきたりする。

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私は知床半島の付け根の忠類川をカヌーで下ったことがあるが、とてもワイルドな川だった。

頭上をオジロワシが舞い、川にはサクラマスが泳いでいた。

川の曲がり角のたびに、ヒグマが水浴びしてないか怯えながら下った。

昭和初期だと、どれほどだったろう、と思う。

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養老牛温泉に二度ほど訪ねたことがある。

この著者は、養老牛温泉の開拓者だったのだそうだ。

開発が壊したもの、そのために失われたもの、そして時代というものを思わずにはいられない。

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早朝、地震があった。十勝沖。このあたりは震度2.

昨夜から何度かに分けて雪が降った。

この冬一番の積雪だったかも。

それでも気温が高く融ける。日照量がもうちがうのだ。

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朝、1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

4歳馬の繰り返す胃潰瘍の内視鏡検査。

当歳馬の食道梗塞。通過できず。

1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

2歳馬の跛行診断。

当歳馬の食道梗塞の再診。通過していた。

今日から、新たな実習生4名。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


熊撃ち

2022-12-27 | 図書室

 

この表紙はいただけない。

内容は、熊撃ち猟師たちが主人公の短編集。

この作者の特徴で、感傷を抑え、無駄をはぶき、とてもハードボイルド。

取材を元にしていて、実話なのだそうだ。

名作「熊嵐」を書いたあとに、同じテーマで短編の連作を頼まれたのだろう、と思ったら、

この連作の取材の中で苫前事件についても取材し、苫前三毛別事件だけは短編に収まらないので独立させたのだそうだ。

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この短編集に出てくる猟師たちを取り巻く事情もいろいろ。

老練な熊撃ち猟師も居るし、まだ熊を獲ったことがない若者も居る。

共通するのは、連射できない村田銃で危険な猛獣に立ち向かう恐怖だろうか。

スコープ付きの高性能ライフルではなく、丸い鉛弾を射っていた時代の物語だ。

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人が襲われる。

復讐と危険排除のために熊撃ちを請われる。

依頼に応えて人食いヒグマを山中に追い、撃ち果たす猟師たちはヒーローなのだけれど、彼らの喜びはほとんど描かれていない。

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背景にあるのは山奥の集落の貧しさ。

豊かな農村ではなく、山に入り山菜を採り、茸を採り、生活の足しにする暮らし。

猟師もまた熊を撃てば、胆嚢は薬として高く売れ、毛皮も手に入り、肉は食糧になる。

先人たちの暮らし、野生動物や自然との緊張感を持ったつきあいに思いを馳せるのも悪くない。

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各短編の表紙のページに描かれた絵は素晴らしい。

シュールでありながら、短編の内容と関係していてリアルでもある。

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もっとリアルでハードボイルドなもの(資料)

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もう40年前、ずいぶん日高山脈や他の山々を登ったが、ヒグマには一度も会わなかった。

NHKのアルバイトで、日高のカムイエクウチカウシ山の近くで、ヒグマを撮影したいと稜線から1日見張っていたこともある。

それでも姿も見えなかった。

10年ちょっと前に家の近所で見たけど;笑)

最近、北海道のヒグマも増えているのかもしれない。

そして、行動がおかしいヒグマも散発しているのかも。

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週明け、午前中、競走馬の腕節骨折の関節鏡手術。

1ヶ月前にTieback&cordectomy した競走馬の再検査。

昼、ショック状態の当歳馬が来院。消化管破裂のようだった。

午後、当歳馬の肢軸異常のscrew抜去。

夕方、当歳馬の飛節の細菌性関節炎。全身麻酔して関節洗浄。

有茎脂肪腫が巻きついて空腸切除・吻合した高齢馬は、POI(術後イレウス)が改善し退院していった。

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年末だ。

 


刺さる爪、光る牙

2022-12-18 | 図書室

 

ヒグマもの。

舞台は日高山脈。どうやら日高町、地元ではヤマ日高と呼ばれている旧日高町らしい。

作者は元自衛隊員。

アウトドア経験も豊富なんだろうから細部もリアリティーがあるんだろう、と思って期待した、が・・・

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まあ、楽しみながら読めた。

なにせ主人公が・・・・Higなのだ;笑

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10日前に後肢の管部の底側に外傷を負った繁殖雌馬。

傷はひどく化膿し、内側、外側と切開したのに排膿が治まらない、との経過。

X線画像では異物は写らなかった。

超音波画像では、長いもの、キラキラしたもの、が写った。

後肢なので全身麻酔して外科的に探りたい。

しかし、妊娠馬なので麻酔覚醒が良い麻酔方法を選択したい。

プロポフォールで麻酔してもらうことにした。

肉芽で覆われていたが、鉗子が刺さり込む。

骨片?異物?と触れるものの一部が出てきた。木片?

もっと大きいものが入っている。傷を切り広げないと取り出せない。

繋靭帯と深屈腱の間に入り込んでいる。一部は繋靭帯に刺さったようになっている。

蹄のかけらだ。

この怪我した馬が牧柵を蹴飛ばしたわけではなかった。

他の馬に蹴られて、その拍子に欠けた蹄壁が屈腱部に刺さったんだ。

蹄壁がささくれていたので、皮膚を破って刺さったのかも。

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ヒグマの爪も恐ろしいけど、馬の蹄も怖い;笑

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日高山脈は、スキー登山には向かない。

尾根が細くて急峻なので、スキーで登って行ける広い斜面が少ない。

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いわゆるクロスカントリースキーと登山に使う山スキーは違う。

登山に使う山スキーは幅が太くないと雪に沈んでしまう。

登るときはシールと呼ばれる毛を植えたバンドを滑走面に貼る。アザラシの皮を使う方法もある。

だから登るためにワックスを塗ったりしない。

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森林保護官、、ね~

 

 


オシムの言葉

2022-12-02 | 図書室

 

この本は出版されたとき読みたいと思ったがそのままになっていた。

今年、オシムさんが亡くなった。

文庫版には、脳梗塞で倒れて日本代表監督を辞任したあとについて、数名の選手のインタビューが増補されている。

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Qatarワールドカップの合間に読むのに良い本だった。

他民族国家がサッカーに強い。

フランスも、イングランドも、USAも、etc.

イングランドとウェールズは、別な国として代表を送っている。

クロアチアとセルビアは・・・・

日本人は、特にそのへんの事情は理解しがたいのかもしれない。

オシムは、最後のユーゴスラビア代表監督だったのだ。

            ー

この本の著者は、スポーツライターではないようだ。

この本の内容も、サッカーについてではあっても、それ以上に、

旧ユーゴスラビアの崩壊と戦乱に翻弄されながら生きたオシムさんの生涯を追ったルポルタージュになっている。

            ー

チームづくり

組織論、そして組織や会社、あるいはオーナーとの対峙方法

マスコミ対応

指導者とは、リーダーとは。

そして、哲学でもあり、人生論でもある。

オシム語録だけ読んでも、その内容や背景を理解しがたいかもしれない。

この本を読めば、その意味を理解しやすい。

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オシムさんが引き受けたジェフ市原は、観客動員数も選手給与も低いチームだった。

活躍した選手は次々に引き抜かれ移籍していった。

しかし、チームは成績を落とさず、J1のビッグクラブと互角にわたりあった。

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獣医さんが次々辞めていき、募集しても人材が補充できないどこかの地域・組織も、参考にすべきところがあるかもしれない。

            ー

オシムさんが日本へ来てくれた事情が興味深い。

ユーゴ代表として東京オリンピックで来日したときの印象が良かったらしい。

自転車で街を走り、言葉も通じない一般の人に親切にしてもらった。

東京でオリンピックをやったことの成果のひとつだろう。

オシムのところにはレアル・マドリーやパリ・サンジェルマンからもオファーが来ていたが、ビッグクラブを嫌った。

そして、ジェフ市原の祖母井ジェネラル・マネージャーだけは自分自身が会いに来た。

リクルートとはそうでなければならないのだろう。

募集してます。応募がありません。「あたまかず」だけはそろえました。は無責任で無能だ。

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さあ、スペイン戦だ!!

 


診療実績2021 去勢 そして、「銀の匙」

2022-11-19 | 図書室

診療実績2021 去勢は76頭。

これもかつてより倍増した。

近年は、ケタミン・プロポフォールで全身麻酔して、追注することはあっても点滴麻酔はせずに済ませている。

手術手技は、ほとんどすべてが捻転式。

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健康手帳を必ず持ってきてください。

去勢証明を書き込み、去勢証明書を添付します。

去勢馬なのに、牡馬として競馬に出ていた、などという不祥事が起きているらしい。

うちは、もう20年以上前から、必ず健康手帳に去勢証明を書き込み、去勢証明書を2通添付している。

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玉(精巣)が二つあることを確認してから去勢の依頼をしてください。

まれに陰睾(隠睾)の馬がいます。

本当の腹腔陰睾だと、吸入麻酔して、手を腹腔へ入れる必要があります。

手術前の絶食も厳格にする必要があります。

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一般の去勢でも、半日~1日の絶食が望ましいでしょう。

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蹄鉄は外せるなら外してきてください。

着けておきたいなら、それでも構いませんが、ちょっとした手間がかかります。

去勢後は、多くの馬で、翌日から引き運動やマシン運動が可能です。

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今朝は出勤したら結腸捻転の手術中。

重症ではなかった。

私は、きのうの夕方、5回目のコロナワクチン接種を受けた。

BA4-5の二価ワクチンだそうだ。

昼ごろ、かなり倦怠感。夕方悪寒。

夕方36.8℃。この程度で治まりそうだ。

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新冠温泉の回数券を買った。

ら、期限付きだった;笑

がんばって入りにいかないと無駄になってしまう。

新冠温泉のロビーは、しゃれた図書館のようになっている。

「銀の匙」が置いてあったので、読んでみた。

帯広(大蝦夷)農業高校が舞台になっている。

主人公の二人は、隣の畜産大学へ進学する。

私の後輩になるわけだ;笑

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身近に感じられてとても面白かった。

北海道の農業・畜産の現実も楽しく紹介されていた。

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主人公は、肉にするために動物を飼うことに葛藤する。

しかし、手塩にかけた豚肉のうまさに驚きもする。

学生企業して、放牧豚の生産を始めたりもする。

それが、畜産というものだろう。

たとえば去勢だって、長い年月の中で人が動物を利用するために考案してきた技術なのだ。

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最終巻、主人公はロシアの大地での畜産に夢をかける。

・・・・・現実だったらどうなっていただろう。

事業を放棄して帰国しなければいけなくなっていたか・・・・・