goo blog サービス終了のお知らせ 

馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

胎便停滞の治療は浣腸

2020-03-23 | 新生児学・小児科

前日に生まれた子馬が、その夜から不調で、軽度の疝痛。

翌朝も疝痛、とのことで来院。

              -

胎便の出た量が少ないので胎便停滞だろう、との推定診断はついている。

血液検査して、超音波検査して、X線撮影して、やはり胎便停滞だろう。

潤滑剤をお湯でもっとトロトロにして重力で浣腸した。

                ---

新生子馬には下剤投与はお勧めしない。

簡単に消化管が膨満し、容易に胃穿孔するからだ。

初乳には下剤効果がある。

だいじなのは乳を飲むことだ。

                 -

 

Madigan教授らが書かれた新生仔学の教科書には、胎便停滞の治療としていくつかの処置が挙げられているが、下剤投与について、

「不必要だ」

と書かれている。

                  -

もう1冊のequine naonatology の教科書は、検索にhitしない。

そちらにも下剤投与について書かれているが、ひまし油は使うべきでないことが書かれているし、

主流が浣腸であることが書かれている。

               ///////////////////////

オラにはごはんと、おやつと、おもちゃと、あそびじかんをたっぷりあたえてください

 

 


虐待 abuse

2020-03-16 | 新生児学・小児科

朝、出勤したら外傷縫合が始まるところだった。

これはひどい。

母馬にやられたの? らしいです。

母馬が突然、子馬を襲ったのだ。

母馬は2産目。とくに虐待するそぶりはなかったとのこと。

探して持ってきてくれていた、ちぎれてしまっていた皮膚を張り付けるように縫合した。

そうしないと欠損部位が大きすぎる。

皮膚は生着は望めない。

しかし、その下で傷として治癒が進む1-3日の間、汚れ、感染、蒸発・乾燥から守ってもらいたい。

              ー

毎年、母馬に攻撃されて受傷する子馬を診察・治療する。

間違って踏んでしまう、蹴ってしまったというのとは別。

母仔、親子って何なんだろうな、と考えさせられる。

              ー

この大けがを見つけたとき、母馬は落ち着いて、もう乳を飲ませていたそうだ。

             ////////////

研修者のための宿泊棟の建築が始まった。

 

 

 


Rhodococcus equi 感染症を減らすために

2020-02-16 | 新生児学・小児科

あちこちの講習会などを聴くと、未だにロドコッカス感染症が生産牧場にとって大きな問題であることを感じる。

生産地の獣医さんたちも、ロドコッカス肺炎の治療に苦慮している。

しかし、みんなピントがずれていると私は思う

            ー

ロドコッカス感染症を減らすためには、生後1ヶ月以内の子馬を感染から守ってやらなければならない。

先日、話した牧場も毎年ロド肺炎に困っている、と言う。

「去年、肺炎で治療していた子馬を入れていたパドックに、生まれたばかりの子馬を放しているでしょ?」

と訊くと、そうだ、との答え。

子馬は、生まれて早い時期ほどRhodococcus equi に感染しやすい。

ロド肺炎に感染した子馬は、糞便中にも大量のRhodococcus equi強毒株を排泄している。

Rhococcus equiは土壌菌で、土壌の中で生存しつづけられる。

去年、ロド肺炎子馬が汚した厩舎脇のパドックに新生子馬を放すのはRhodococcus equiに感染させるために入れているようなものだ。

            ー

パドックを消毒した方が良いか?と訊かれることが多いが、土を消毒しようとするのは無理だ。

汚れたパドックは客土して、草を生やしておくのが良い。

子馬はその上で寝るからね。

            ー

厩舎の中も洗浄、消毒した方が良い。

ロド肺炎の子馬は、咳をして大量の喀痰を厩舎の壁をはじめいたるところにつける。

乾いてホコリとして厩舎内で舞い上がるし、子馬は馬房内の壁をベロベロ舐める。

分娩馬房も使う前にきちんと洗浄・消毒すべきだ。

でないと、次から次へ出産してくる赤ちゃん馬を感染させることになる。

            ー

すぐに、消毒薬は何が良い?とか消毒薬は何はダメ、とか言う話になりがちだが、

消毒より掃除・洗浄することの方がだいじ。

これは獣医師でさえ、それも感染症・伝染病を扱う獣医師でさえ誤解しているか、実践的な認識が足らない。

ホコリまみれ、汚れだらけの厩舎を消毒しようとしても無駄。

その前に、洗浄しなければならない。

有機物が残ったまま有効に消毒する方法はない。

そして、洗浄するためには、その前に厩舎を片付けて掃除しなければならない。

            ー

ロド肺炎の子馬の多くは、生後1ヶ月以内、それも生後1-2週間以内に感染している。

            ー

ロド肺炎の子馬が発症してくるのは30-45日齢だ。

「もっと遅くになった」という人が居るが、それは感染の初期を見逃している

子馬が咳をしてロド肺炎として治療を始めるときに血液検査は強い炎症像を示している。

もっと前に感染し、潜伏期間を経て、化膿性肺炎が始まり、それが肺膿瘍になり、気管の中にRhodococcus equiがいっぱいの粘液が溜まり、ゴロゴロいって咳をするようになって、から、治療が始まることがほとんどだ。

潜伏期間は感染実験で10-13日。

実験馬のほとんどが発症するような菌量に暴露させないと実験にならないのでこの潜伏期間だが、自然感染ではもっと少ない菌量に暴露されているので、野外例の潜伏期間はもっと長いはず。

化膿性肺炎が始まるときに子馬は発熱する。小さな化膿性病巣が集まって肺膿瘍になるのに2-3日。

獣医さんがロド肺炎を診たときに、X線撮影や超音波検査で肺を調べると、膿瘍が確認できることがほとんど。

つまり、多くの症例は肺膿瘍ができるまでの感染初期を過ぎてから”初診”されている。

            ー

はっきりした症状が出ないと獣医師に診療依頼しないし、獣医師もはっきりとした症状がないと検査も治療もしない

それもその牧場にRhodococcus equiを蔓延させる。

ロド肺炎が毎年のように出る牧場の子馬は、ほとんどがRhodococcus equiに暴露される。

そのほとんどの子馬の肺に膿瘍ができる。

それでも、丈夫な子馬は自分で耐えて後遺症なく育っていく。

しかし、弱かったり、体調を崩すと肺膿瘍は大きくなり、化膿性肺炎がぶり返す。

それから治療が始まると、簡単には治らない。

膿瘍だよ?膿のかたまりだよ?切開したり排膿させたりできないんだよ?

簡単に治るわけないでしょ。

早く治したかったら、早期に治療すべきだ。

検温だけでは早期発見できないのなら、30-45日齢の子馬を血液検査や超音波検査でスクリーニングすると。良い。

            ー

Rhodococcus equiに感染した子馬は気管内に強毒株をいっっぱい持っている。

咳をすればそれで馬房やパドックを汚す。

喀痰を飲み込んでいるので、糞便中にも強毒株が増えている。

当然、パドックはじめ放牧地もRhodococcus equi強毒株で汚れる。

その子馬は丈夫で、自分の力で悪化せずに発育しても、弱い子馬、幼い子馬は発症する。

重症化した子馬の治療に何十万もかけるより、もっと軽症の子馬を早期発見して治療した方が良いし、

なんなら早期発見のための検査に費用をかけた方が良い。

          ///////////

トミー・リー・ジョーンズが登場するあのコマーシャル・シリーズは好きだ。

https://youtu.be/f9CoqIVXCUU

トミーリージョーンズの不機嫌な顔が面白いし、日本の現在を風刺していて、それでいて温かい。

コンセプトが秀逸なのだろう。

私もどういうわけか(笑)東京オリンピック馬術競技を馬外科医として手伝いに行くはめになった

スポーツにはしばしば感動させてもらい、エネルギーをもらってきた。

まあ、その代償かな;笑

4年に一度じゃない、一生に一度だ、し。

 

          

 

 

 

 


1月の未熟仔

2020-01-26 | 新生児学・小児科

その子馬は、初産で1月半ばに生まれた。

予定日より6日早かった。

体重は40kgない。

立ち上がれず、親の乳を搾って哺乳ビンで与えていたが、それも吸えなくなって2日齢でNICU(新生仔集中管理ユニット治療)のために母仔で連れてこられた。

低体温で脱水あり、低酸素。

持続点滴を始め、尿道カテーテルを入れ、鼻からも胃チューブを入れた。

               -

来院翌日、私はまず話を聴いたのだが「厳しいな」と思った。

               -

ブドウ糖、アミノ酸が入った輸液剤を使うようになり、頭を上げられるようになり、翌々日には自力で伏臥できるようになった。

体温も37℃台にはなった。

哺乳ビンから1回50-100mlまた飲めるようになった。

持続点滴は、72時間毎にすべてを取り替えなければならない。

それで、一旦静脈留置カテーテルも外して、哺乳だけで維持できるかやってみた。

しかし、2日ほどでまた脱水が進んだ。

哺乳ビンから飲む量も増えなかった。

初産の母馬は乳が出なくなり、子馬は母乳を嫌いミルクしか飲まなくなった。

母馬はイラつきがひどくなり、邪魔になるだけなので連れ帰ってもらった。

子馬の皮膚テントは延長し、眼は落ちくぼみ、眼瞼内反になり、筋肉は痩せ衰えて、口の粘膜はベージュ色あるいはコーヒー牛乳色。

生まれて1週間目は、朝と夕方に補液した。

後肢の球節あたりから先は浮腫が強くなった。

生まれて8日目、さらにNICU管理と治療を続けるなら、また持続点滴し、血漿輸血もしなければならない。

FPT;Failure of Passive Transfer  受動免疫不全なのだ。

            -

X線撮影して、手根骨、足根骨の骨化が充分でないことも確かめていた。

肺もX線撮影してクリアではなかった。

            ー

あきらめた。

肺は良い状態ではなかった。

心臓は卵円孔・動脈管が開存していたが、それは正常。

前葉や下垂部には硬化部があり、小さい膿瘍もあった。

肺が未熟であったことと、哺乳で誤嚥したのだろう。

BUNも100を超えていた。腎臓は虚血。

消化管も充分動いていたとは思えなかった。気脹している部分があった。

腹腔臓器は黄色みがあった。肝機能も充分ではなかったのかもしれない。

生まれる準備が充分にはできておらず、未熟児としてのNICU管理も充分にはできず、MOF(多臓器不全)に陥った、というところだろう。

今年、最初に観た子馬だった。

           /////////////

ごろごろと

あちこちで

雪が冷たくて気持ちいいのも元気ならでは。

 

 

          


小児外科病院

2019-05-05 | 新生児学・小児科

午前中、5歳競走馬のTieforward手術。

競走中にDDSPを起こすようなのだ。

甲状軟骨はひどく硬かった。

           -

併行して、子馬の多発性関節炎。

以前にも来院して、腰角の膿瘍切開と、飛節の細菌性関節炎の洗浄をしている。

今度は後膝と対側の飛節が細菌性関節炎を起こした。

抗生剤治療を続けているにもかかわらず・・・・

           -

午後は、

子牛の尿膜管膿瘍の摘出。

もう2.5ヶ月になっていて、膀胱は臍から離れかけている。

その部分に残った尿膜管が膿瘍になっていて、地元で注入していた乳房炎軟膏のどぎついコバルトブルーがあふれてきた。

大網が癒着していた。

かなりの長さの開腹手術になった。

           -

飛び入りで、4日齢の子馬の膀胱破裂。

           -

続いて、3週間前に下顎の骨折をスクリュー・ワイヤー固定したホル育成牛。

経過は思わしくない。

配合飼料は食べられるが、草は食べない、とのこと。

4-5日前から、下顎がひどく腫れた。

右側の下顎のスクリューを入れた部分がひどく化膿している。

口腔内への解放骨折だったので仕方がないのだが・・・・

スクリュー・ワイヤー・ナットを摘出し、切歯を固定していた結束帯もはずした。

代わりにワイヤーで切歯を固定した。

抗生剤投与を続け、局所は洗浄し、あとは牛の治癒力に期待するしかない。

           ---

午後は、子馬、子牛の手術が続き、小児外科病棟の様相だった。

こういうのを”すぱげてぃ”っていうらしい。

なんという勝手な言い草だ。

一つ一つの管に、技術と努力と経費がかかっている。

助けるために必要だからやっている。

望まないなら医療を拒否してそのまま死ねば良い。

         /////////////

あら、こんなところに水芭蕉。