馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

1月の未熟仔

2020-01-26 | 新生児学・小児科

その子馬は、初産で1月半ばに生まれた。

予定日より6日早かった。

体重は40kgない。

立ち上がれず、親の乳を搾って哺乳ビンで与えていたが、それも吸えなくなって2日齢でNICU(新生仔集中管理ユニット治療)のために母仔で連れてこられた。

低体温で脱水あり、低酸素。

持続点滴を始め、尿道カテーテルを入れ、鼻からも胃チューブを入れた。

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来院翌日、私はまず話を聴いたのだが「厳しいな」と思った。

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ブドウ糖、アミノ酸が入った輸液剤を使うようになり、頭を上げられるようになり、翌々日には自力で伏臥できるようになった。

体温も37℃台にはなった。

哺乳ビンから1回50-100mlまた飲めるようになった。

持続点滴は、72時間毎にすべてを取り替えなければならない。

それで、一旦静脈留置カテーテルも外して、哺乳だけで維持できるかやってみた。

しかし、2日ほどでまた脱水が進んだ。

哺乳ビンから飲む量も増えなかった。

初産の母馬は乳が出なくなり、子馬は母乳を嫌いミルクしか飲まなくなった。

母馬はイラつきがひどくなり、邪魔になるだけなので連れ帰ってもらった。

子馬の皮膚テントは延長し、眼は落ちくぼみ、眼瞼内反になり、筋肉は痩せ衰えて、口の粘膜はベージュ色あるいはコーヒー牛乳色。

生まれて1週間目は、朝と夕方に補液した。

後肢の球節あたりから先は浮腫が強くなった。

生まれて8日目、さらにNICU管理と治療を続けるなら、また持続点滴し、血漿輸血もしなければならない。

FPT;Failure of Passive Transfer  受動免疫不全なのだ。

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X線撮影して、手根骨、足根骨の骨化が充分でないことも確かめていた。

肺もX線撮影してクリアではなかった。

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あきらめた。

肺は良い状態ではなかった。

心臓は卵円孔・動脈管が開存していたが、それは正常。

前葉や下垂部には硬化部があり、小さい膿瘍もあった。

肺が未熟であったことと、哺乳で誤嚥したのだろう。

BUNも100を超えていた。腎臓は虚血。

消化管も充分動いていたとは思えなかった。気脹している部分があった。

腹腔臓器は黄色みがあった。肝機能も充分ではなかったのかもしれない。

生まれる準備が充分にはできておらず、未熟児としてのNICU管理も充分にはできず、MOF(多臓器不全)に陥った、というところだろう。

今年、最初に観た子馬だった。

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ごろごろと

あちこちで

雪が冷たくて気持ちいいのも元気ならでは。

 

 

          



2 コメント

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Unknown (はとぽっけ)
2020-01-26 20:37:25
 予測したとはいえ残念な結果でしたね。変な疲れが残りそう。
 母馬もつらかっただろうと思います。
 妊娠期間中も含めどこかに救えた可能性はなかったかと思わずにいられない。
 新生児・小児科カテゴリーの記事は関節鏡手術の倍ほどもあるので、どこかにヒントがあるかも。

 ニューヨーク冬物語という空飛ぶ白い馬がでてくる映画では熱発しては冷気や雪で体を冷やす場面があったっけ。((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
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>はとぽっけさん (hig)
2020-01-27 05:07:42
すぐ死んでしまう状態ではなく、しかし未熟で衰弱していって、管理・治療しているとそれを遅らすだけで・・・
無菌的な保温されたインキュベーターに入れれて24時間管理するなら可能性があったのかとも思いますが、結局MOFと感染でした。

相棒は散歩してると暑くなるみたいです。水があったら入るし、おなか冷やしますから。
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