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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

新生子馬の後肢の屈腱拘縮

2021-04-10 | 新生児学・小児科

もう生まれて1ヶ月近くなる子馬。

両後肢の球節がかたくて、特に左後はナックルしてしまう。

何度かキャストしてはずしてを繰り返してきた、とのこと。

擦過傷もできてしまった。

もうキャスト固定による矯正は無理なので、腱を切って繁殖供用をめざしたい、とのこと。

フリーリターン(種付け料の返還制度)も使えるが、可哀そうだから生かしてやりたい、とのこと。

もっともなことだ。

全身麻酔して深屈腱を切ったら断端は2cmほど開いたが、球節も蹄も充分には伸びない。

浅屈腱も切ったらかなり球節が伸びた。

蹄にsuper fast(蹄補修剤)でエクステンションを付けた。

覚醒して起立したら、いい感じ。

蹄底を着けるようになれば球節は自然に沈下するようになるだろう。

以前に前肢の症例を、やはり深屈腱と浅屈腱を切ったことがある。

「繁殖してるよ~。なんともないよ~」、と牧場に教えてもらった。

今回の馬は後肢なので、調教できないものかと思うが、どうだろう。

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歩くのが遅いときがあるし、歩きたがらないこともある・・・・・気まぐれは前からか;笑

9歳になりました。

どんどん歩きたがったので、近所を一周4kmコース。

馬が見当たらなくなって、「馬は・・・?」と訊いたら、「やめた」と、私よりだいぶ年上の牧場主さん。

人もイヌも、歳いくさ、な。

 

 


臍ヘルニアへのゴムリングで

2020-05-30 | 新生児学・小児科

子馬の何%がデベソ(臍ヘルニア)なのかデータはない。

どうやら5%前後は居るようだ。

この地域で5000頭の子馬が生まれるので、5%として250頭。

放置されることもあるが、200頭くらいは処置されていて、

NOSAI20名、HBA10名、開業10名、牧場勤務獣医師数名、が4-5頭ずつくらい処置している、というところではないだろうか。

(NOSAIは40名以上獣医師が居るが馬に対応している労力としては半数ほどだろう)

放置されても自然治癒する臍ヘルニアもかなりあるように思う。

臍ヘルニアが大きすぎる、遅くなって馬が大きすぎる、ゴムリングをかけたら痛がったので外した、などの理由で全身麻酔しての手術をすることもある。

2018年に家畜高度医療センターでは13頭の臍ヘルニアを手術した

           ー

処置のほとんどはゴムリングをかけて臍の皮膚が脱落するのを待ち、

皮膚が壊死して脱落する頃には、腹壁のヘルニア輪が閉じる、という方法を用いている。

           ー

臍の皮膚が脱落したら、腸内容が漏れてくる、ということで手術を依頼された。

ゴムリングをかけるときに腸管が挟まったのだろうと見当はついた。

しかし、どうして腸閉塞を起こさなかった?

たぶん大腸壁(盲腸か大結腸)の一部を挟んだので内容の通過は妨げなかったのだろう。

と推測した。

ただ、臍に腸管が癒着していて、それを剥がすと腸の孔から腸内容が漏れてしまう。

危険な手術になるだろう。

          ー

透明な液体も漏れてくることがあるので、オシッコじゃないか、と言われたが、そんなはずはない。

もう膀胱は臍から離れている月齢だ。

臍の頭よりから開腹して臍を内側から触る。

小腸だ。

腹腔内で腸鉗子をかけておいて、臍の周りをぐるりと腹壁から切離した。

臍を切り取って・・・・・・

空腸が細くならないように、長軸方向に孔が開いたのを、短軸方向に縫合閉鎖した。

            ー

臍ヘルニアの他の処置としてはヘルニアベルトをする方法もあるが、サラブレッドでどれくらいうまくいくのかわからないし、

ヘルニアベルトが事故の原因になる可能性もあるかもしれない。

気をつけてゴムリングをかけてもらうしかない。

ゴムリングをかけて疝痛症状があったら・・・・すぐ取るしかないだろう。

遅れて外して、腸壁が壊死していたら、腸内容が漏れたり癒着したり、致命傷になりかねない。

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研修宿泊棟は内装工事が進みつつある。

裏では西洋ナシの花が咲いている。

 

 

 


嵌頓性臍ヘルニア

2020-04-15 | 新生児学・小児科

前の晩に生まれた子馬が疝痛で、臍が腫れていて、中に入っている腸を押し戻せない、と依頼。

嵌頓性臍ヘルニアなのだろうが、生まれてすぐというのは珍しい。

消毒しているところ。

切開したら腸管が見えた。

押し戻して・・・・

新生子馬の臍には、臍動脈、臍静脈、膀胱がつながっているので、

それぞれを切断して臍を取り除いて、腹壁を縫うことになる。

(左が臍静脈断端、右が臍動脈断端×2と膀胱尖部)

孔が開いてしまう膀胱は縫合して閉じる。

臍動脈、臍静脈も縛っておく。もう出血したりしないのだろうが、膀胱破裂の時に血が流れ出た症例を記憶しているから。

嵌頓していた回腸は・・・・大丈夫だろう。

増えていた小腸内容を盲腸へ送り込んだら収縮も始まった。

小腸は上位から順に丁寧に腹腔へしまった。

             ー

この子馬、牧場へ帰ったら転がり回って痛がって戻ってきた。

戻ってきたら痛みは治まっていた。

子供の頃、「お臍をあんまり触るとおなか痛くなるよ。」と言われませんでしたか?

腹膜が刺激されて痛むのだと思う。

切り取られたら・・・・痛かったのだろう。

           ////////////////

北海道産業動物獣医学会は中止。

来年の日本獣医師会年次学会も中止の方向。

5月のトレーニングセールも中止だそうだ。

晴耕雨読・・・・・雨が止むまで本を読んで勉強し、できれば書き物をしよう。

今はネットも利用できる。

勉強や情報交換の方法には事欠かない。


壊死性膀胱炎?

2020-04-14 | 新生児学・小児科

50日齢近くになる子馬が、3日前から腹囲膨満、発熱、血液検査で炎症像あり、ということで治療したが、

腹囲膨満がひどく、チアノーゼがあり、一般状態も悪いということで来院。

そんな状態なら類症鑑別の一番は胃潰瘍穿孔だし、予後不良ではないか、と思ったが、来てみたら腹腔尿症だった。

腹腔穿刺して腹腔の尿を抜いたら、チアノーゼも改善された。

膀胱破裂なのだろうが、もう臍から膀胱は離れている日齢だ。

懸念に反して膀胱は容易に術創へ出てきた。

壊死した膀胱壁の一部で破裂していた。

もっと広い範囲で壊死しかかっている。

切除できる範囲を切除した。

粘膜面も異常だ。

縫合して閉じた。

ヒトでは壊死性膀胱炎が数例報告されている。

馬では聞いたことがない。

                /////////////

密飼いされず、放牧されて育てられている家畜を診る獣医師になれて良かった。

都会に暮らさず、田舎で生活してきて・・・良かった。

家畜伝染病学で習ったことだったんだな;笑

 

 


新生子馬の下顎骨折

2020-03-28 | 新生児学・小児科

12日齢の子馬が母馬に下顎を蹴られてひどい折れ方をしている、との連絡。

下顎骨折では、左右とも折れているか?哺乳や採食できるか?が手術の判断の基準のひとつになる。

どうやら両側折れていて、乳を飲むどころではないらしい。

X線撮影すると・・・

これはひどい。

両側折れて、切歯骨部分が完全に変位している。

写真左下が下顎、正中で割れている。

左下顎は奥で開放骨折になっており、口の中へ骨折端が飛び出している。

正中を切開することにした。

左右それぞれを切開したのでは外科侵襲が大きくなりすぎる。

骨鉗子でひっぱると整復できた。

プレートで固定しておくことを考えるともう少し引っ張りたい。

固定している間に下顎が短くなるだろうし。

左右へもきちんと整復できているかどうかわからない。

上下の切歯は崩れていて目印にならない。

顎そのものは腫れてしまっていて形がわからない。

右側は下顎骨が骨膜をかぶっているので、その外から切歯骨まで届くように6孔スモール1/3円プレートを当てて、4.0mm cancellus screw を入れた。

左下顎は骨膜が剥がれてしまっていたが、できるだけ温存して6孔スモール1/3円プレートを腹側に当てた。

切歯骨に入るscrewが、先に入れたプレートへのscrewと互い違いになるようにした。

口の中の傷を縫合した。

              ー

その夜から乳を飲めるようになったそうだ。

感染は避けられないが、抑え込めるか?

            /////////////

長期デモしてもらっているDR.

韓国製で、このサイズの”ふらっとぱねるでぃてくた”だと350万だそうだ。

よくできている。

骨の画像はとても”硬い”印象を受ける。

好みはあるだろうが、鮮明だ。

パネルは防水だし、取手などの付属品もしっかりしている。

日本のメーカーにも頑張ってもらいたい。