真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「美少女図鑑 汚された制服」(2004/製作:小川企画プロダクション/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/プロデューサー:小川欽也/原題:『思ひ出がいつぱい』/撮影:創優和/照明:野田友行/助監督:山口大輔/編集:フィルムクラフト/録音:シネキャビン/監督助手:絹張寛征/撮影助手:原伸也/照明助手:吉田雄三・金谷健児/音楽:藤田満/スチール:佐藤初太郎/ヘアメイク:高野雄一/現像:東映ラボテック/協力:加藤映像工房・ACE/出演:吉沢明歩・冬月恋・林由美香・伊藤謙治・松浦祐也・なかみつせいじ・湯川タケシ)。出演者中、湯川タケシは本篇クレジットのみ。
 故障で運休した通学電車の線路を、シャボン玉を吹き吹き吉沢明歩がホテホテ歩いて来る。幾ら山間のローカル線とはいへ、どれだけ打たれ弱い電鉄会社だ。吉沢明歩は現在と比べると、若いといふよりは垢抜けないといつた印象も受ける。カット変り田舎駅に降り立つ中年男が、緑色のポロを着た伊藤謙治の姿に十二年の時を遡る。
 生徒からは“青ヒゲ”と呼ばれる―別にそれほど髭が濃いでもない―不良教師・中尾友也(なかみつ)の車で、坂上千絵(冬月)が大学入試の推薦と引き換へにその身を任せる。事後自転車通学の千絵は別の高校に通ふ、神山円香(吉沢)がプラプラ歩いてゐるのと出会ふ。二人は生徒が四人だけとなり廃校になつてしまつた中学校の、最後の卒業生だつた。もう二人は男子で、千絵と同じ高校の戸沢正太(松浦)と、中学生当時円香が片想ひしてゐた木津公平。正太は中学時代から千絵にベタ惚れながら何時まで経つてもコクる踏ん切りがつかず、千絵からは煙たがられてゐた。映画監督を夢見る公平はコンテストで賞を取ると親の金を盗んで家出し、東京に行つたきりだつた。円香と千絵がダム建設で水の底に沈むことが決定した中学校の校舎に立ち寄ると、何とそこには公平(伊藤)が居た。飛び出して以来初めて、帰つて来たのだといふ。とはいへおいそれとは実家に出す顔もない公平の思ひつきで、その夜正太も呼び同窓会を開く運びとなる。
 中学男子の股間をダイレクトに刺激した上で、まほかつ女子からも憧れの対象のセクシー女教師。といふいふのは簡単だが甚だ困難なカテゴリーを完成させてしまつた林由美香は、四人の中学の担任・進藤敦子。察した熱い正太の視線を焦らすやうに足を組み換へる所作と、叱責する際の指の美しさが超絶。正太は公平と並んで用を足しながら、最終的には自分が下手を打ち未遂に終つてしまつたものの、敦子に性の手解きを受けかけた過去を語るが、何のことはない、公平も筆卸は敦子に済ませて貰つてゐた。ここでのサラリとした伊藤謙治のイケメンぶりと、思はぬ事実に愕然とする松浦祐也との対照は絶品。おま○こおま○こと痴語を連呼しながらの敦子と正太の濡れ場が、今作桃色方面の決戦兵器。林由美香、流石の仕事ぶりである。今作の敦子を見てゐて、今となつては叶はぬ話だが、もしも「ヱヴァンゲリヲン」を日本で実写化するならば、少し胸は小さいがミサト役は林由美香ではなからうかとフと思つた。あるいは、成長したアスカか。少し戻るが正太が三人と夜の中学に合流する前のファースト・カットでは、中尾が相手役となり地味に巧みな送りバントを以降に繋げてゐる。考へてみればメイン・キャスト四人以外の、半ば濡れ場要員が林由美香となかみつせいじといふ贅沢なまでに磐石な配役は、流石に強い。
 四人は夜の教室で三年前に公平が撮つた8㎜を観たのち、翌日には銘々未来の自分へ向け書いた手紙を納めたタイムカプセルを掘り起こす。目新しいものも、我武者羅に前に出て来るものも特にない、まるで課題制作の秀作のやうな青春映画は、過去の自分から宛てられた手紙に背中を押され終に意を決した正太と千絵の絡みを足掛りに、色褪せることを知らない永遠を輝かせる。公平は正太に気を利かせて円香を連れ出すが、反面それは円香にとつては、公平と二人きりになれる瞬間であつた。2004年の十二年前の1992年の更に三年前、1989年。昭和から平成に跨いだ中学最後の冬、円香は公平の方を一途に向いてゐた。対して公平は、追ひ求める夢だけを見てゐた。やがて故郷も捨て公平は旅立つが、一旦矢尽き刀折れる。それで公平は東京から戻つて来てゐた。円香とひとまづ結ばれ、夢を諦め円香とのんびり田舎で暮らす選択に転びかける公平に対し、円香はかつての望みも捨て、それまでは憧れてゐるだけだつた主体性を振り絞る。よしんば悲劇であつたとしても、少女が初めて自分の人生の主役を演じる、円香のドラマ自体も成長を描いた鉄板として完成されてゐるが、なほのこと円香が公平に送つた、三年前に公平が自身に向けて書いたものに一文字と一記号だけ書き添へた、正しく世界一短いであらう手紙は、残念ながら今作は成人映画につき現役の少年世代に見せる訳には行かないが、かつて少年だつた全ての者の涙腺に、李三脚ばりのインパクトを叩き込む。そこだけ切り取つてみれば、ジャリ向けの今時人生応援歌の如き浅墓なメッセージでもありつつ、実直に積み重ねられた、胸一杯の思ひ出の数々に彩られた物語の頂点に於いて吉沢明歩から繰り出される一言が滂沱の涙で銀幕を水没させる、青春映画必殺の一作。涙を拭き拭きいい映画だつたと席を立つと、劇場最後部では相変らずオッサンがオッサンの尺八を吹いてゐる。平素はピンクの小屋に映画なんて観に来る方がどうかしてゐやがる、といふ視点も節度のひとつとして持ちたいとは心掛けてもゐるものだが、珍しく、少しだけイラッとした、いい映画なんだから偶には観ろよ。今作を前に今強く思ふことは、松浦祐也だけではなく、竹洞組全体でもう一度、下手な作為は捨て真直ぐ映画を撮ることを思ひ出してみてもよいのではあるまいか。臭くともダサくとも在り来りだとも、それが最もエモーションへの最短距離であつたとしたら、時に映画的完成度を放棄してでも、そこに飛び込んでみせる勇気はもつと賞賛されるべきだと常々思ふ。

 最初と最後に見切れる湯川タケシは、第一回監督作「思ひ出がいつぱい」の脚本を手にダム湖のほとりに佇む2004年の公平。小松公典御当人のブログによると、冬月恋のマネージャーであるらしい。


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コメント
 
 
 
大人になった公平 (XYZ(白木努))
2009-11-16 22:11:55
最初に観た時から、あの俳優さんは誰なんだと気にはなっていた。しかも、他のピンク映画で観たことが無いからなおさらである。
冬月恋のマネージャーではもっともである。
長年の疑問が解けました。
 
 
 
>大人になった公平 (ドロップアウト@管理人)
2009-11-17 07:21:16
>長年の疑問が解けました

 有難う御座います、お役に立てたとしたら光栄です。
 ピンクは初めは画面とクレジット・ポスターだけから数こなした上で、
 消去法で役者を特定するところから始めなくてはなりませんから。
 その頃の苦心とときめきとを、忘れずにゐたいと思ひます。
 
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