真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 

春画  


 「春画」(昭和58/製作配給:株式会社にっかつ/監督:西村昭五郎/脚本:西岡琢也/原作:西村望/プロデューサー:細越省吾《N・C・P》/企画:進藤貴美男/撮影:山崎善弘/照明:加藤松作/録音:福島信雅/美術:菊川芳江/編集:西村豊治/色彩計測:高瀬比呂志/選曲:伊藤晴康/監督補:伊藤秀裕/現像:東洋現像所/製作担当者:香西靖仁/主題歌《ユピテルレコード》アルバム『春画』より 唄:藍ともこ/音楽協力:ボアミュージック/出演:藍ともこ・趙方豪・信実一徳・田浦智之・斉藤林子・風吹丈・小宮紳一郎・神林浩道・坂上雅一・若原初子・美野真琴・礎道杳子・小川恵)。出演者中、風吹丈から坂上雅一までは本篇クレジットのみ。
 自宅マンションに押し入つた四人組(多分風吹丈以下四人)に、新妻の京子(藍)が輪姦される。嵐の過ぎ去つたのちに帰宅した、弁護士の夫・浅川義之(信実)は事が表沙汰になることを懼れ、なほかつ京子が要望する転居なり、離婚も拒否。お引越ししませうと京子が振り絞る哀願から、朝の雑踏にビデオ合成が滲むタイトル・イン。ルンペンの小室和夫(趙)が、ラジオ体操の歌を歌ひながら起動。行き交ふ人に金を無心して回り、相手にされない小室に、如何にも端金といはんばかりに京子が―勿論博文さんの―千円札を差し出す。小室が一ヶ月ぶりに恋人の君子(美野)の下に戻つてみると、君子は小室のボクシングの後輩・隆男(田浦)に寝取られてゐた。完全に行き場を失つた小室は、京子が入つた美容院と、タバコ屋のおばさん(若原)経由で結局浅川が京子に折れ、反対を押し切つた結婚時に親爺に買つて貰つた、マンションから越した戸建ての浅川家に辿り着く。留守かと空巣狙ひで小室が物色してゐると、大判の紙封筒に収められた春画が出て来た。
 パチンコに負けた小室は、常習なのか浅川家とは別宅に空巣に入る。配役残り礎道杳子は、腰巻を巻いてみた小室が悶えて戯れるところに帰宅、慌てた小室に腹パン一発で撲殺される和服妻。トメに相応しい決定力を滾らせる小川恵は、元顧客を手放してゐなかつた旧居のマンションに囲ふ、あちこちキナ臭い浅川の愛人・康子。整つた顔だちに映える、シャープなメタル・フレームの眼鏡が堪らない。各種資料にも黙殺される、隠れキャラ的な斉藤林子は、小室が乗り込んだ際にバッチリ抜かれる浅川法律事務所事務員。
 小室が二度目に浅川家を襲撃した最中に、浅川が帰宅。ところがその場の勢ひで京子が下宿人と言ひ包めた小室は、そのまゝ浅川家に居つく。原作短篇もさうなつてゐるのかどうかは知らないが、豪快なシークエンスが如何にも西村望らしい、西村昭五郎昭和58年第二作。顎のしやくれた主演女優はぼちぼち平成もな今の目からは心許ないばかりな反面、ブルータルな岡部尚にも見える趙方豪の野太い突破力で、ひとまづ展開の求心力を維持する。ともいへ―多分国内―チャンプまで上り詰めつつ、対戦相手を殺しドロップアウトした小室の外堀を何故か執拗に埋めきらずに放置するため、絶妙に痒いところに手が届かない感を残す。京子がラジオ体操の歌を歌ひながら、小室が愛好したいはゆるにやんこ飯もモリモリ掻き込むラストも、ヒロインが一皮剝けた風情といふよりも、単に類型的な印象が強い。


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