真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「巨乳ソープ 谷間でイつて!」(1996/製作・配給:大蔵映画/監督:小林悟/脚本:如月吹雪/撮影:柳田友貴/照明:藤森玄一郎/編集:フィルムクラフト/助監督:佐藤吏/スチール:佐藤初太郎/タイトル:ハセガワプロ/監督助手:堀禎一/照明助手:那雲哉治/録音:シネキャビン/現像:東映科学《株》/協力:吉原・エルメス 03・5603・0233/出演:細川しのぶ・吉行由実・風間晶・雪村まどか《新人》・坂入正三・山本清彦・真央はじめ・白都翔一・港雄一)。確認出来てゐる藤森玄一郎の照明部メイン作は、ほかに杉浦昭嘉2000年第二作「愛人・人妻 ふしだらな性癖」(監督・脚本・音楽:杉浦昭嘉/主演:葉月螢)、最近は一般映画でチョイチョイあるみたいだけれど。
 実名登場吉原のソープランド「エルメス」、目下はララァ・スン専用モビルアーマーに改称といふのは完全無欠に不必要な与太で、なほかつ店自体が現存してゐるや否やも知らん、我ながら酷過ぎる。源氏名くららこと里中有希(細川)が、常連客の森村(坂入)を決戦兵器たる迫力に満ちた爆乳を活かしパイズリで抜く。元々親の借金が原因で泡風呂に沈み、金の方は完済した有希はトルコ稼業に嫌気がさし、先輩のゆかり(吉行)に足を洗ふ希望を適当に口にするも、ゆかりはファーストフード店で働いたところで、客に顔バレして終りだと突き放す。イヤイヤと頭(かぶり)を振る細川しのぶの、服を着てゐてもブルンブルン揺れるオッパイを押さへる誠実が麗しい。深夜の帰宅、ボディコンのロングが如何にもタイトル・インにうつてつけの画に見えたのは早とちり、有希はストーカーと化した森村に追ひ詰められる。その場に通りがかつた、通りすがりの好青年・健太(山本)は妙な戦闘力を発揮し森村を一撃で昏倒、気を失つた有希をいはゆるお姫様抱つこで運ぶ。実は意識を取り戻した有希が、気絶したまゝのフリに改めてタイトル・イン。別れ際に名刺を渡した有希は後述する果歩の冷やかな視線も意に介さず健太からの電話を待ち侘びつつ、やがて看護婦への道を本気で歩き始める。
 配役残り風間晶は、何かにつけて有希を矢鱈と小煩く敵視するのなら、同居生活を解消してしまへばいいのにとしか思へない、有希のルームメイト・中林果歩。バーケーな造形にてつきり場末のホステスか何かかと思つてゐたら、普通の勤め人だといふのにはそれでOLなのかと意表を突かれた。堅いコンビネーションで二人して清々しいまでのダニぶりクズつぷりを披露する白都翔一と真央はじめは、ゆかりのヒモ・ツグオ?と、ツグオを度々麻雀でカモる遊び仲間。無論、負け金の形方便で濡れ場に突入するのはある意味王道展開。尤も、まどかと後に有希とで、一本の映画の中で同じカードを二度切つてのけるのは信頼は兎も角量的な実績は比類ない貫禄の大御大仕事。港雄一はエルメスのオーナーだか店長で、踊り子らしい雪村まどかが、エルメスに入店するハーセルフ。新人の“お勉強会”と称して、如何にも港雄一らしく女をいいやうに貪る絡み。実際に緊張してゐる風に見えるまどかが、一回他人の目を見る勢ひでカメラの方を向く。
 小林悟1996年全十一作中第九作、ピンク限定だと九の八。数年前までは“最後の”詐欺を幾度と繰り返してゐたにしては、デジタル時代に突入してなほ相変らず定期的に薔薇族の新作が作られ続ける現状が、何気に不思議でさへある。己の話で恐縮だが、小屋でのみ戦つてゐた頃は、ピンクの感想千本なんて目指すのは勝手だが辿り着けないかもなと、片足諦めかけた日もあつた。クソ以下の懐旧はさて措き、足を洗ふ腹のトルコ嬢が、ストーカー化した常連客に襲はれたりパイセンのヒモに犯されたりしながらも、最終的には憧れの色男とラブラブに結ばれる。桃色の量産型娯楽映画でなければ、あるいはであるのをいいことに、まるでバーホーベンでも撮らないやうな底が抜けるか腰も砕ける物語ではあれ、細川しのぶと吉行由実。四峰の巨山の否応ない破壊力と、有希の部屋着にシースルーのチュチュのやうな無茶苦茶な衣装を着せる、それはそれとしてそれなりの至誠。有希の想ひ人を豪快に誤解した果歩が森村を寝取る―寝取つたつもりの―ネタのオチがない点に関しては画竜点睛を欠くにせよ、裸映画的には徳俵一杯一杯に辛うじて止(とど)まる、詳細に判定するとチョロッとはみ出てるやも知れないけれど。

 最後に、チーフついでにセカンドの話も。現在CMディレクターとして活躍する那雲哉治は、本篇上映前の映画館で御馴染「NO MORE 映画泥棒」の監督。さうかうしてみると、二十年の歳月があれやこれや感慨深い、マオックスもだけどサカショーとか今どうしてるんだろ?


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