真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ボインのお宿 熟女大宴会!」(2016/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:深澤浩子/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/録音:小林徹哉/音楽:OK企画・友愛学園音楽部/助監督:小関裕次郎/監督助手:植田浩行/撮影助手:福島沙織/照明応援:佐藤雅人/スチール:本田あきら/着付・髪結:佐倉萌/ロケ協力:嬬恋村フィルムコミッション/録音所:シンクワイヤ/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:伊織涼子・加山なつこ・折原ゆかり・深澤幸太・津田篤・紅森伐人《写真出演》・柳東史)。出演者中、紅森伐人は本篇クレジットのみ。
 旅館の女将ぽい和服の伊織涼子と、従業員のやうな法被の津田篤の絡み。遺影か、伊織涼子は最中傍らに置いた紅森伐人(=鎌田一利)と写つたスナップをチョイチョイ見やる、完遂してタイトル・イン。嬬恋の傾いた―温泉は出ない―旅館「浜や」。十年前に事故死した両親から「浜や」を継いだ三姉妹の長女・浜口純子(伊織)が女将として、三女で仲居の理恵(折原)と切り盛りする。純子の夫(紅森)はアルバイトの仲居と駆け落ち、風景の撮影に嬬恋を訪れた山田健太(津田)が「浜や」に置いて貰ふ代りに下働きと、純子のいはゆるバター犬を務めてゐた。開巻に話を戻すと山田は正直閉口しつつ、事後乱雑に箪笥の中に放り込まれるスナップは純子が山田との情事を、見せつけてゐるつもりの格好だつた。婿に逃げられるのも仕方がない、愚かしい女だ、痛くも痒くもないは。
 他愛ない憎まれ口は兎も角、そんな「浜や」に三姉妹の次女で、二十年前に上京し郷里を捨てた真由美(加山)が不意に戻つて来る。当然居心地がいい訳がなく、何気にキナ臭い「浜や」に続けて、見るから危なげに沈痛な中年の一人客・大島俊之(柳)が現れる。大島の顔に見覚えを感じた真由美は旅館ブロガー・宿吉(アイコンは柳東史の二役)に辿り着き、「浜や」の名を上げる千載一遇のチャンスだと純子と理恵にハッパをかける。
 配役残り目深に被つたキャップで満足に顔も見せない深澤幸太は真由美の同級生で、純子に筆を卸して貰ひ、理恵を水揚げした過去を持つ島本大助。現在は―恐らく継いだ―酒屋「島本酒店」の大将、袖の振れぬ「浜や」の酒代を何ヶ月もツケてゐる。一日撮りの城定秀夫でも自分達でどうにかしたのに、「浜や」を賑す団体客が人つ子一人見切れないのは、スポイルされたかに見せる地味に致命傷。
 エロVシネ畑で活動してゐるらしき、深澤浩子を新たな座付脚本家に擁した―今のところ三作連続起用―加藤義一2016年第一作。因みに三本柱は熟女×爆乳AV女優ユニット「3boins」を結成し目下も活動中、ついでに年齢の公称がビリング順に46・45・41。オッパイはそれは好きだが肉襦袢は論外で、元来の年上嗜好を拗らせた基本年増好きといつて、ものには限度がある気合の足らない性癖の愚生にとつては、正直最大限によくいつて裏ローテのやうな女優部ではある。
 閑古鳥の鳴く旅館の一同が、アルファな来客の登場に文字通り色めきたつ。狙つたのか単なる量産型娯楽映画の大海から生み出された豊かな偶然か、我等が前田有楽こと正式名称「有楽映画劇場」ではちやうど前の週に上映されてゐた、新田栄の「熟女温泉女将 うまのり」(2001/脚本:岡輝男/主演:仁科夕希)とまあよく似た物語に、2006年第三作「混浴温泉 湯けむりで艶あそび」(脚本は相変らず岡輝男/主演:上原空)以来十年ぶりの忘れた頃に師匠のスピリットを継承するいい湯加減の一作を期待しかけたのは、明後日だか一昨日な早とちり。確かに羽目を外すとはいへ、碌に弾けもせずにマッタリマッタリ尺を喰ふ漫然とした人情劇は、その癖無神経に毒ガスサリン事件を二人の馴初めに持ち出すクスリとも来ないブラックジョーク―の、つもりなのか?―も癪に障り、斯様な代物を寝落ちもせずに観通した己が不思議に思へるほどに、清ッ々しく面白くも何ともない。深い山の中や奥行きを望めるロケーションを活かし、ロングを多用するショットはそこかしこ―の繋ぎのカット―で―無駄に―気を吐く一方、肝心要の濡れ場は何でだか総じて妙に暗い。大体、棚牡丹の団体客を丸々オミットした結果、最大の敵と三姉妹がジェット・ストリーム・アタックを敢行どころか単騎でも誰一人交戦しない、即ち看板に謳つた“熟女大宴会!”を完全にスッ飛ばしてのける豪快な姿勢には、改めて思ひ至るや吃驚した。加へて恐ろしいのが城定秀夫や山内大輔に紛れて、今夏開催されるOP PICTURES+の特集上映に今作を絡めた大蔵のブレイブ。ブレイブといふか蛮勇といふか、狂気の沙汰といふか。最短距離で直截にいふと、大丈夫?(´・ω・`)


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )