真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「発情バスガイド おしやぶり巨乳」(2012/制作:《有》大敬オフィス/提供:オーピー映画/出演・振付・殺陣・美術・音楽・制作・脚本・監督:清水大敬/撮影:井上明夫/照明:小川満・瀬尾進/編集:酒井正次/録音:シネ・キャビン/相談役:丹雄二/助監督:西谷雄一/撮影助手:河戸浩一郎/照明助手:大久保礼司/演出助手:関谷和樹/ポスター撮影:山岡達也/制作進行:野上裕/制作助手:星野周平/現像:東映ラボ・テック/協力:劇団ザ・スラップスティック/出演:中居ちはる・なかみつせいじ・中江大珍・高木圭一郎・生方哲・本田裕一・大滝清孝・田中紀彦・若林立夫・山科薫・平田浩二・土門丈・美咲レイラ《特別出演》・大黒恵・末田スエ子・本田裕子・花椿桜子・岡吉由美・山口裕子・サーモン鮭山・猪鍋吉・三毛猫涼太郎・犬山ワン太郎・凸凹太吉・無鉄砲虎之助・赤城晃一郎・負古太郎・一寸先闇太郎・竹本泰志・中村勝則・太田黒武生・鎌田金太郎・周磨ッ波・石部金吉・和田平助・柏木もえ・冨田じゅん・榎並千陽《友情出演》)。
 重量級のお色気を轟かせる発情バスガイドの中居ちはる(ハーセルフ)に、色んな意味で面子の絶妙さが堪らない助平客(大体何時もの皆さん)が垂涎驚喜する様子に、清水大敬以外のスタッフ・クレジットが併走。出発進行に合はせてタイトル・イン、“相談役”なんてクレジット初めて観た気がする。
 タイトル明けると少し遡つて山桜商業高校卒業式当日、演劇部のちはるが女優の夢を熱く語る、無人の教室に顧問の奥野(なかみつ)が現れ、三年間継続した関係を一通り名残惜しむ。ところに胸の深い谷間までは露に、大根と出刃をガッツポーズに構へ飛び込んで来る美咲レイラは、奥野の妻・博子。仮に今回が「母娘《秘》痴情 快感メロメロ」(2011/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/主演:紗奈・美咲レイラ)で電撃復帰を遂げて以来の、大美神・美咲レイラ第二章の幕引きであるならば、少々どころでなく寂しい。
 主な配役大体登場順に、さそり外伝第二作では窺へなかつたいい具合の熱量を感じさせる若林立夫は、上京後ちはるが憂き身をやつすチラシ撒きのバイト先「東日興業」社長・金本。柏木もえは、ちはるがバイト代を貰ひに行くと金本と乳繰り合つてゐた、何処かで見覚えのある情婦・高橋マリ。清水大敬と竹本泰志は、ちはるが在籍する劇団「ザ・スラップスティック」主宰の石田昇造と、看板俳優の上村城次。映画のオーディションに受かつた城次は劇団脱退を電撃表明、城次と男女の仲にあり同棲するちはるも促されるまゝに、稽古場を後にする。長身を活かした下半身のショットから、竹本泰志に蹴りを入れるファースト・カットが絶品な冨田じゅんは、ちはると城次が情を交す現場に静かに突入する、城次の女房・明美。城次宅を追ひ出されたちはるは、とりあへず再度給料を受け取りに東日興業に。実は高校の同級生であつたマリと再会した流れで、ちはるはマリの元職であるバスガイドをやつてみることになる。目下清水組を主戦場に長いキャリアをしぶとく継続させる山科薫は、AVプロダクション社長・山部。浮気と淫行発覚後妻と職を失つた奥野を、友人のよしみで拾ふ。黒服悪漢ver.のサーモン鮭山は、山辺に金を掴ませた上、演技力を見る面接と称して、ちはるを手篭めにする映画プロデューサー・森山。中江大珍は、石田がちはるを念頭に書いた舞台「バス・ガイドになつては…みたものの」に感銘を受ける、映画制作会社「未来映像」の中田。その他有志勢から選出されるバス会社重役トリオが、踏んだ場数も伊達ではないのか清水大敬の演技指導の成果か、それらしさと息の合ひ具合、妙な完成度を披露する。忘れてた、それとちはるのバスガイド後釜・青木役は、特別出演の美咲レイラに対し、もう一人友情出演とカメオ特記される榎並千陽。
 前作に引き続き中居ちはるを主演女優に迎へた、清水大敬2012年第二作。情熱を正方向にコントロールする術を身につけたのか、単に経年劣化が上手く転んで灰汁が抜けただけなのか。あるいは二作続いた点に注目するならば、中居ちはるとのケミストリーであるのか。従来の映画文法を粉砕し観客を絶望の淵に叩き落す魔展開と、翻弄され倒す主人公以外ほぼ全ての登場人物に―清水大敬―自身と同じ芝居を要求―強要ともいふ―する怪演出。清水大敬作を良くなくも悪くも歴然と他と逆の意味で一線を画す、大敬印は基本的には鳴りを潜める、山科薫が一人気を吐くのを除けば。所々暑苦しいにせよ、案外普通の娯楽映画の枠内に今回も納まる。何より、殆ど蚊帳の外で棚牡丹を待つてゐるばかりといふ前回最大の弱点を克服し、度々逆風に見舞はれながらも、ヒロインが主体的に奮闘してゐるのが―至極普通のことに過ぎないが―大幅な改善点。寧ろ展開の進行に重きを置くあまりに、清水大敬にしては随分濡れ場が淡白と思へなくもない。何れにしても、映画史上最凶のネガキャンを仕出かしてみたり、「グヘヘヘヘ、たつぷり中に出してやるぜ」とゲスく女を手篭めにするギャングが、三度腰を振ると顔射するやうな映画を撮つてゐたのを思へば、かういふ感興を隔世の感といふのか。簡単に掻い摘むとちはるが躓いて、でもめげないで。また躓いて、それでもめげないで。ひとまづひたむきに追ふ夢を、浅いにしても熱く描いた―強ひていふならば“だけの”―物語を、子供騙しあるいはステレオタイプと嘲笑することはそれなりに容易い。けれども、かういふとかく全方位的に腹立たしく塞がつたクソ時世につき、清水大敬のプリミティブな善意が一服の清涼剤に、不器用な熱意は一吹きの南風たり得まいか。これは状況分析に基く認識といふよりは、その時々の機嫌なり体調により左右される、要は気紛れでしかないのではといふ疑問ないしは反論に対しては必ずしも否定出来ないものの、時に娯楽映画といふ奴は、言葉を選べばこのくらゐ牧歌的でちやうどいい頃合もあるのではなからうか。愚直、正しく愚直といふ言葉がこの上なくしつくり来る今作に、偽らざる清々しさを覚えた。意外といつては失礼・・・・いや、矢張りこれまでを振り返るとどうしたつて意外だが、2012年の清水大敬は、地味に二打数二安打であつたやうに思へる。


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 「団鬼六 修道女縄地獄」(昭和59/製作配給:株式会社にっかつ/監督:藤井克彦/脚本:中野顕彰/原作:団鬼六『嘆きの天使』《東京三世社刊》より/プロデューサー:奥村幸士/企画:山田耕大/撮影:野田悌男/照明:野口素胖/録音:木村瑛二/美術:後藤修孝/編集:西村豊治/選曲:伊藤晴康/助監督:金沢克次/色彩計測:佐藤徹/製作担当:高橋伸行/出演:高倉美貴・小川亜佐美・伊藤麻耶・山口ひろみ『新人』・宇南山宏・兼松隆・山本伸吾・高山千草・本庄和子・白井達始・高山広士・伊藤睦啓・白石実/緊縛指導:Dr.ハルマ)。配給に関しては事実上“提供:Xces Film”か。
 緊縛され吊られた、小川亜佐美のショットにて鮮烈な開巻。薔薇で打たれた小川亜佐美が恍惚と花弁を貪り食ふと、クレジットとともに海町の駅に、高倉美貴が降り立つ。森を抜け、マリアの聖心修道院に続く吊り橋を渡るところでタイトル・イン。修道院に入るには、吊り橋を画面左から右に渡るしかないカメラ位置―逆側からは海につき撮れない―をここで確認されたし。
 病に床に伏せる修道院老院長の亜佐(高山)が、藤瀬貴子改めシスター・マリア(高倉)を、院長代理を務めるシスター・セシリア(小川)に引き合はせる。伊藤麻耶と山口ひろみは、セシリアがマリアに紹介するシスター・テレジアと英子こと、自己紹介でエコ。その夜、自慰に耽つた末悪夢に跳ね起きたマリアが火照つた体をシャワーで冷まさうとしたところ、テレジアとエコは百合の花を咲かせてゐた。翌日、黒服×グラサン×鼻髭のコンボを決めた強面・川辺(兼松)の運転で、マリアはセシリアとともに、修道院の篤い援助者である作家の熊本文造(宇南山)邸に招かれる。熊本は敬虔なクリスチャンといふよりは、ガッハッハ系の捌けた実力者であつた。吊り橋の渡り口まで戻つたマリアに、本田(山本)が詰め寄る。貴子は本田と不倫関係にあり、その現場に飛び込んだ本田の結構年の離れた妻(本庄)はオッカナイ赤い照明の中その場で手首をカッ切り、簡単にいふと椿三十郎のラスト感覚で血飛沫を噴き絶命する。その体験が、貴子が俗世を捨てるに至る原因であつた。熊本子飼ひのチンピラ三人組・健+サブ+次郎(白井達始+高山広士+伊藤睦啓)に拉致されたマリアは、熊本邸に監禁。貴子に会はせてやると本田もセシリアに誘き出され、お定まりの淫獄の幕がチャッチャと開く。配役残り白石実は、自力で一旦熊本邸を脱出したマリアが逃げ込む、森の中の発電系か上下水道系か、何かの設備を管理してゐる人。
 藤井克彦昭和59年第一作、高倉美貴ロマンポルノ第三戦。何はともあれ、高倉美貴の魅力を通り越した威力がレジェンド。ローターを仕込まれた膣を大仰な貞操帯に塞がれたマリアが、熊本が弄ぶリモコンに操られ美しい表情を苦悶に歪め、素敵にグラマラスな肢体を妖艶に躍らせるシークエンスの破壊力は圧倒的。反面といふか何といふか、先様はピンク映画とは違ふらしいが所詮は裸映画は裸映画。ロマンポルノ何するものぞ、素面の劇映画としての中身は感動的なまでに別にない。熊本の関心が自身からマリアに移つたセシリアの嫉妬を展開を貫く唯一の縦糸に、最後は車をボカーンと爆発させてゴーゴー燃やせば何とかなるだらう。確信犯的にクリシェ通りのラストはスカッと清々しく、被虐の痴態で劣情をタップリと刺激した後には僅かな余韻すら残さない。シネフィルに喰はせるのは勿体ない、まこと腰の据わつた量産型娯楽映画。消費されてナンボだと捉へるならば、この手の一作こそがポップ・カルチャーの鑑だ。

 ひとつ激しく引つかゝつたのが、熊本の心を取り戻さうとするセシリアに解放されたマリア―と本田―が、吊り橋を右から左に逃げるカット。縄地獄の舞台は、熊本邸でないの?何で修道院方向から逃げて来るのよ。そもそも、それでは二人を熊本一行が車で追跡するのとも齟齬を来しかねない。印象的なショットが欲しかつたのかも知れないが、猛烈に無用な一手間にしか映らない。


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 「欲望といふ名の痴漢電車」(1990/企画・製作:メディアトップ/配給:新東宝映画/監督:鈴木ハル/脚本:井元史郎・鈴木ハル/撮影:長田勇市《JSC》/照明:長田達也/撮影助手:宮田幸司/照明助手:渡辺嘉/音楽:梅田浩一/助監督:井元史郎/編集:酒井正次/スチール:正木晋/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:小川真実・俵ひとみ・青木くるみ・麻生勅可・松本竹二郎・香園寺忍・長谷川いづみ・中山久美子・北村琴・章文英・山本洋江・江藤保徳/友情出演:上野淳)。出演者中、栄えるのではない章文英は本篇クレジットまま。
 痒いところに手の届かない開巻―結果論からいふと、全篇届かせ続けない―を、仕方がないのでそのままトレースすると、「さあ今日も頑張るよ」、「うん」と駅ホームへの階段を上がる、白鳥佳子(小川)と妹分の道子(俵)。何が楽しいのか、マジックハンドを駆使する痴漢師や溜息つく北島(麻生)を挿んで、歴史的にカッコいい公開題であるにも関らず、テローンとした勿体ないタイトル・イン。予習段階では麻生勍司の誤りかとも邪推したものだが、麻生勅可でそのままクレジットされる。
 話が全く見えないまま祝杯を挙げる佳子と道子の仮住まひに、佳子を執拗に追跡し求婚しようとする北島が押しかけ、佳子は間一髪脱出する。サングラスで顔は殆ど見せないマジックハンド痴漢師(何しに出て来たのか疑問な上野淳)と、尻を触りながら女を捜してゐるらしき北島の併走を噛ませて、裸も見せずに道子はニューカレドニアに行つてしまつた為、佳子はセーラ服姿のノリコ(青木)と行動開始。品定め担当のノリコが98点といふ高得点をつけた、オダ(江藤)に接近する。十分弱経過して漸く、佳子が男に痴漢させ、その隙に相方が男から掏るといふ稼業が明らかとなる。一体何処に電話をかけたらそんなことを教へて貰へるのか、掏つた財布の中の学生証から実家が五億の資産持ちであることを知つた佳子が、嬉々とオダに接近を図る一方、北島は車内で劇中三人目の痴漢師・竹ちやん(松本)と意気投合。顔だけが判らず、手だけが―尻の感触を―覚えてゐるとかいふ、北島の惚れた女探しに竹ちやんも参加する。情報が北島の触覚しかないのに、竹ちやんが如何にして手を貸すつもりなのかは知らんけど。
 香園寺忍は、佳子宅に突入する北島が、エレベーターで乗り合はせる女。長谷川いづみから山本洋江までは、車内被痴漢と乗客要員。スタッフ動員か、他に男客も若干名。香園寺忍が、車内にも紛れ込んでゐるのかどうかは未確認。乗客要員として確かに、中村京子が2カット見切れる。消去法で名前を潰して行くと、北村琴か山本洋江の何れかが中村京子の変名なのであらうか。正直、この辺りの見知らぬ名前には手も足も出ないけれど、ひとつひとつ詰めて行くしかない。ピンクを観始めた、最初の頃―当方因みに当時ネット、環境も習慣もなし―からさうだつたぢやないか。このなかみつせいじといふ人と杉本まことといふ人、凄く似てるなあ、そんな牧歌的な地点から歩いて来たんだ。
 早い者勝ちなのか皆一度は思ひつけど、重さなりハードルの高さに二の足を踏んだのか。歴史的にカッコいいタイトルに釣られ何時か観たい見ようと思つてゐた、鈴木敬晴の鈴木ハル名義最終第三作。ここでjmdb頼りに改めて鈴木敬晴の略歴を整理してみると、若松プロ製作の「レープゾーン 犯しの履歴書」(昭和54)で磯村一路・福岡芳穂と三人一緒にデビュー後、十年置いて二年間に鈴木ハル名義で三作。更に三ヶ月間を空け名義を鈴木敬晴に戻し十作の、監督作は都合十三と三分の一。鈴木ハル一人立ちデビュー作「昼塗らす人妻」(1989/主演:川奈忍/“濡らす”の誤字?)は見当たらないものの、鈴木敬晴の十作は全て(未見残り七本)DMMの中にある、ぼちぼち拾つて行くか。今作本体に話を戻すと、全篇隈なくツッコミ処の割には、ピクリとも面白くないある意味不思議な一作。主人公の立ち位置が暫く判然としない、別の意味で順調に躓く必要な情報を明確に欠落させる序盤からあちこち、といふかあれもこれも雲を掴まされるのだが、逆の意味で特筆すべきなのが肝心の電車痴漢。基本女の尻を触る男の手元しか映さない上、北島に上野淳なり竹ちやんと画面内に二人の痴漢師が連動するカットが多用されるゆゑ、一体誰が誰に痴漢してゐるのか全く判らない、こんな要領を得ない痴漢電車初めて見た。尻の感触しか知らない筈なのに、北島はどうやつて佳子の名前と、挙句に住所にまで辿り着いたのか。ノリコと組んでアタッシュケース男(不明)を狙つた佳子は、竹ちやんに痴漢されたノリコが機能停止に陥りつつ、車内で児玉商事と取引するアタッシュから一枚のフロッピーディスクを掏る。そのフロッピーの中には、発売前のゲームソフトのプログラムが入つてゐた。加へて、佳子は北島と鉢合はせ、ビアンのノリコが逆筆卸の相手に竹ちやんを選んだことから四人は狭い世間の中で合流。終盤やつとこさ動き始める本筋はいいとして、アタッシュは何でまた、アタッシュケース一杯の金が動くやうな取引を満員電車の車中なんかでしてるのよ。北島・ミーツ・佳子の件は、火にガソリンを注ぐ。チョロ負かせたオダが佳子に求婚したその時、横断歩道の向かう側には北島が。擦れ違ひざまに尻を撫でた北島が、「佳子さん!」だなどといふのは何なんだそのへべれけなシークエンスはよ!中途半端にフロッピーを巡るドラマを盛り込んだ末に、最後の女の裸は四十七分、二人風呂でマッタリするノリコと竹ちやん。即ち、締めの濡れ場を盛り込み損ねた以前に、そもそも俵ひとみが脱ぎさへしてゐない。百歩譲つて劇映画としてはまだしも、裸映画としてすら木端微塵。ツッコミ処があまりにも多過ぎて、全体どれが致命傷なのか途方に暮れる始末。画期的なタイトルの秀逸さに反比例するかのやうな、直截にいふと名前負けした、大概仕出かした痴漢電車の大迷作である。


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