真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 早くイッてよ!」(1989/製作:㈱旦々舎/配給:新東宝映画/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影部:稲吉雅志・相馬健司/照明部:牧哲也・佐藤武/演出部:毛利安孝・鈴木静夫/音楽:藪中博章/編集:金子編集室/ヘアメイク:久保早苗/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:鮎川真理・林ひすい・久須美欽一・平賀勘一・佐藤源三郎・佐野和宏)。
 電車に揺られる佐野和宏の横顔で開巻、佐野が旦々舎に出てたことなんてあつたんだ。派手派手しいハット×グラサン×ボディコンのコンボを決めたマリー(鮎川)に目を留めた加川(佐野)は、惹き寄せられるかのやうに後を追ひ背後につく。電車痴漢を開始したのも束の間、振り向きざまに加川の頬を張つたマリーが「アタシを誰だと思つてんのよ!」、「アタシはねえ、痴漢なんかに手出しされるやうな女ぢやないのよ!」と啖呵を切つたところで、頭に“鮎川真理”付きのタイトル・イン。加川はマリーを尾行、住所と名前までは突き止める。表札には、“MARRY.”とだけあつた。くたびれた加川の日常を切り取る、こなれない繋ぎを経た後日、再び痴漢電車。加川の前に花田ゆりか(林)が強引に割り込むや、早速開戦。すると、自ら加川の手を誘ひ長けた指戯に喜悦したゆりかは、降車後加川を捕獲、とりあへず茶店に入る。加川がマリーにやつゝけられたエピソードを聞いたゆりかは、“痴漢の敵”と明後日に憤慨。普通、痴漢が女の敵だ。兎に角ゆりかに焚きつけられ、加川はマリーに報復する流れとなる。ここで登場する髪の薄い久須美欽一は、マリー宅で奴隷プレイに驚喜する会社社長・原田孔三郎。翌朝、ゆりかはガス会社の検査を装ひ血圧は低いと思しきマリーの部屋に侵入、居間のテーブルの裏に盗聴器を仕掛ける。勤め人の筈なのに仕事はどうしたのか、加川はゆりかの車からマリーの監視を開始する。
 出演者残り平賀勘一は、マリー劇中第二の男・大前シンジ。大前とモーツァルト談義に花を咲かせるマリーの姿は、原田に対するマリー女王様とはまるで別人であつた。佐藤源三郎が第三の男・オサム、オサムの前では若いアンチャン・チャンネー同士のマリーは、原田には幼少時に没したとした貿易商の両親のことを、存命でしかも下町のガラッパチと語つた。男毎に顔を変へるマリーに激しく興味をそそられるゆりかの傍らで、加川は標的の照準を失し途方に暮れる。
 小多魔若史先生狙ひは外れた、浜野佐知1989年最終第九作。山邦紀が好んで描く女の正体不明さを軸に据ゑた物語は、三者三様の順調な盛り上がりを経て、一旦完璧に完成する。だらしなく逡巡するばかりで役立たずの加川なれど、ゆりかに促され原田と大前とオサムにマリーの最低三股を暴露。マリーのマンションに三人が呼び寄せられ、ちよつとどころでは済まない修羅場。大前に詰め寄られたマリーは叩いてみせる「退屈なホントのことより楽しい嘘の方がずつと素敵よ」、「本当のアタシ?要らないはよそんなもの!」。これは素晴らしい、江戸川乱歩いふところの“現し世は夢であり、夜の夢こそ誠”を、ドラマの中で見事に結実させ得た圧倒的大名台詞。看板の鮎川真理は今の目からすると然程の上玉にも思へない反面、演出の勝利か、シークエンスの中で前に出る圧力には確かに富む。一方林ひすいはといへば、首から上は完全に十人並に過ぎないものの、フカフカした柔らかさを感じさせるオッパイと、全体的に気立ての良さを窺はせる風情は地味に好印象。二者二様に活写される女優部に対し男優部はといふと、久須美欽一・平賀勘一・佐藤源三郎は、おとなしくマリーに振り回されるに止(とど)まる。肝心の佐野和宏も、マリーに心を奪はれるかゆりかに背中を押して貰ふかするだけで、概ね受動的な役回りに畏まる。尤もこの辺りの配役の力学は、浜野佐知の女性上位映画であることを思へば寧ろ至極当然の結果ともいへよう。一旦完成した物語が、更なる一段上のエモーションに辿り着くことはない上でも、後述する物理的にもサクサク見させるスピード映画である。

 ひとつ吃驚したのが、薄さは否めない終盤を抜群のテンポで切り抜けた―あるいは振り逃げた―ともいへるのだが、何と五十四分で終る脅威の短尺。深町章が、二三分余してチャッチャと映画を畳むのは数本観た覚えもありつつ、流石に五十五分を割り込むのは初めて見た。

 思ひ出した付記< 初めてではなかつた、「どすけべ付き添ひ婦 さはつていいのョ!」(1996/主演:林田ちなみ)が、何とまさかの五十分インパクトならぬコンパクト。


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コメント
 
 
 
54分は有り得ない。 (ヤマザキ)
2013-08-24 04:16:24
これも前の前原祐子主演作品と同様、どの段階かで編集された結果だと思われる。新東宝は、大蔵やエクセスほど尺にうるさくなかったが、職人浜野監督が54分というのは有り得ない。
内容はほとんど覚えていないので、確かなことは言えないが、新東宝のDMMはフィルムを元にしていないのではないか。少なくともこの2作品から類推する限り。
 
 
 
>54分は有り得ない。 (ドロップアウト@管理人)
2013-08-24 23:01:59
 だとすると難しい、あるいは申し訳ないのが、
 結構絶妙な切り抜け方してみせてるんですよ。
 もうこの辺りは最終消費者としては、それも又ひとつの
 量産型娯楽映画らしさとでも受け取るほかないですね。
 
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