真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「性犯罪捜査II 淫欲のゑじき」(2009/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督・脚本:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:中川大資/編集:有馬潜/監督助手:新居あゆみ・府川絵里奈/撮影助手:浅倉茉里子/照明助手:塚本宣威/選曲:山田案山子/効果:東京スクリーンサービス/出演:倖田李梨・大塚ひな・佐々木麻由子・天川真澄・甲斐太郎・佐々木恭輔・牧村耕次)。
 舞台は前作「性犯罪捜査 暴姦の魔手」(2008)から二年後、相田紗希(倖田)は城西署の性犯罪捜査課に配属されてゐた。とはいへ捜査四課に間借りした性犯罪捜査課に、紗希のほかには絵に描いたやうな昼行灯ぶりを披露する万年巡査部長の岩崎正則(甲斐)しかをらず、要は紗希は直属の上司を逮捕したことが上層部の逆鱗に触れ、閑職へ追ひやられたものだつた。あんまりだろ、警察組織。本部長から降格したのか捜査四課長(牧村)も、二人を何時も目の敵にする。今回も、牧村耕次は徹頭徹尾高圧的に嫌味なイジメ役に徹し、濡れ場の旨味には与りもしないといふ起用法は、何気に前作を踏襲したものともいへる。
 紗希と恋人の外科医・相馬大樹(天川)の関係も、依然継続してゐた。実は血を見るのが苦手といふ致命的な欠点を抱へる相馬は、準教授として教鞭を執るやうになり手術執刀回数の減つたことを喜ぶ。そんなある日、紗希をとんでもない衝撃が襲ふ。何と相馬が、強姦傷害事件の重要参考人として捜査対象となつたのだ。被害者は、相馬の教へ子でもある城南大学医学部三年生の若宮リエ(大塚)。犯行時刻、勤務する大学病院にて当直の不在証明があるといふ相馬は事件への関与を否定するが、リエの体内からは相馬の体液が検出され、犯行現場には愛用の万年筆も落ちてゐた。エポック・メイキングな形で取調室で紗希と対面した相馬は、浮気に関してはひとまづ自白といふか白状する。相馬が最近元気のないリエに声をかけたところ、二年間付き合つた彼氏を寝取られた悩みを打ち明けられ、その時から関係は始まつたとのこと。取調べ後、紗希に対して呑気にニヤニヤしながら岩崎いはく、「ひよんなことからバレるんですよ、浮気つて奴は」。強姦傷害は凶悪事件だ、全然些事ではなからう。この辺りのいい加減な大らかさは、如何にも関根和美的、とでもいふことにしてしまへ。
 リエの事件の捜査権は、四課に奪はれる。四課長から押しつけられた、正直どうでもいい結婚詐欺事件の資料整理に忙殺される紗希は、フと目を留める。事案は全て起訴にまでは至らなかつたものの、容疑者ファイルの中に、バーを経営するリエの母親・笑子(佐々木麻由子)の名前があつた。笑子の店に出向く一方、紗希はリエの元カレ・桂木龍平(佐々木恭輔)にも接触する。紗希も紗希で顔を仮面で隠した暴漢に襲はれつつ、桂木の死体が、リエの自室の浴槽から発見される。
 基本としては女優・俳優各三名づつのピンクの安普請も顧みず、犯人探しのサスペンスを展開するなどといふ土台負け戦を性懲りもなく展開し続ける関根和美ではあるが、今回は珍しく、どちらかといふと成功寄りの善戦を見せる。主人公に下手な推理を最早させずに、演者の地力にも頼り犯人の方から真相を明かさせた、逆説的に開き直つてもゐるやうだがそれはそれとして大胆な方策が、今作最大の勝因か。厳密にはそこかしこに無理も鏤めつつ、動機に説得力を持たせるドラマを構築し得た点に関しては、らしからぬ上出来を素直に称へるべきであらう。紗希が相馬の恋人であることなど勿論知る由もないリエが、別の意味で複雑な表情を浮かべる紗希に事件の状況と同時に相馬が犯人ではないといふ確信とを語るシークエンスなどには、中々お目にかゝれない熟練の底力が垣間見える。一見頼りなさげでゐて、肝心要ではヒロインの危機を救ふ活躍を見せる岩崎の造形も、麗しく定番。ひとまづ万事事件の解決したオーラスを、お痛は寛い心で赦し終に結婚も約した紗希と相馬の濡れ場で畳んでみせる幕引きは、娯楽映画として、ピンク映画として正しく完璧だ。その上で、クライマックス犯人の手に落ちた紗希が、まるで必死に自分の方から死なうとしてゐるやうにしか見えない微笑ましい不自然さは、この際御愛嬌の範疇に含めて済ますとしても、なほ一点、取り零した要点がなくはない。

 改めて整理すると、劇中起こる事件は四つ。第一の事件:相馬が重要参考人となるリエ強姦傷害事件。第二の事件:紗希強姦未遂。第三の事件:桂木、リエ宅浴室にて死亡。そして第四が、紗希全裸殺害未遂事件。この中で、犯行現場が明確に描かれ検挙もされるところから、第四の事件の犯人はいふまでもない。第三の事件の犯人も、無防備な罪を被る覚悟の第四の事件の犯人によつて語られる。第二の事件の犯人に関しては、被疑者死亡につき最終的には確定的ではないとはいへ、香りのヒントから概ね紗希が自力で辿り着く。問題が発端の事件で、一度抱かれた男の感触は覚えてゐるとかいふリエのはしたない自信を真に受けるならば、犯人はペニパンを着用した女でなければならないところだが、そこで後頭部の外傷の有無を確認し全ての事件にケリをつける段取りに欠いてゐる。そもそも、これでは単に相馬は純粋に劇的に運が悪かつただけにもなるまいか、だから劇なのだが。


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