真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「鬼の花宴」(2007/製作・配給:新東宝映画株式会社/監督:羽生研司/脚本:吉野洋/原作:団鬼六『鬼の花宴』《幻冬舍アウトロー文庫刊》/プロデューサー:寺西正己・浅木大/ラインプロデューサー:寿原健二/撮影監督:創優和/助監督:泉知良/縄師:桜妓揚羽/音楽:Yoshizumi/演出助手:江尻大、他一名/撮影助手:宮永昭典・池田昌平/照明助手:竹洞哲也、他一名/製作協力:フィルムワークスムービーキング/出演:黄金咲ちひろ・松本亜璃沙・加治木均・宮路次郎・山本剛史・松浦祐也・佐野和宏)。
 地方紙・日報新聞広告部長の岡本(加治木)は、伊織竜介として小説家の顔も持ち、日報紙上に連載を持つてゐた。編集部員として全国紙から何故か日報新聞に移つて来たミステリアスな才媛・久美子(黄金咲)は、伊織のファンであると岡本に接近する。妻・静代(松本)との間では不能であるにも関らず、岡本は久美子に誘はれると案外ホイホイ関係を持つ。日報新聞の主要広告主である新興宗教団体崇徳教教祖・吉岡(佐野)の、過去に性犯罪の容疑者として捜査対象となつてゐたといふ醜聞を久美子がスッパ抜いてしまふ。大スポンサーの怒りを買ひ、日報紙は俄かに激震する。岡本は、吉岡の命を受けた専務(宮路)に強ひられるままに、静代を巫女として一週間吉岡に差し出さざるを得なくなる。
 未だ記憶に新しいヒット作「花と蛇」(2004/製作:東映ビデオ/監督・脚本:石井隆/主演:杉本彩)、の二番煎じ企画「紅薔薇夫人」(2006/製作:株式会社アートポート・日活株式会社・新東宝映画株式会社/監督・脚本:藤原健一/主演:坂上香織)から、更にアートポートと日活も手を引いた、矢張りといふか性懲りもなく鬼六映画である。今回は一般映画の小屋で観たものなので、御馴染み虹色の新東宝カンパニーロゴにはお目にかかれず。
 何処から手をつけたものか、悩むほどの中身が何程か存する訳でもまるでないのだが、兎にも角にも開巻即座に頭を抱へたのは、日報新聞広告部長にして、男女の情愛の本質を描く人気小説家・伊織竜介たる岡本役の加治木均。絶対王様とかいふ小劇団の公式サイトのプロフィールには“ドラマ班エース”とあるから、劇団の看板役者であるのやも知れないが、同時に他の人間が“中心役者”であつたり“一番人気役者”であつたりもするので、その点すら最早覚束ない。ともあれザックリ説明するならば昭和45年生といふ実年齢よりは幾分若く見えるほかは、まるつきり多少色男目の単なるそこら辺を歩いてゐさうなアンチャン。キチンと剃つてゐない髭、ネクタイすら締めない第一釦の開いたワイシャツといひ、吹けば飛ぶやうなミニコミ紙ならばまだしも、幾ら地方紙とはいへ一新聞社の広告部長には全く、どうしやうもなく、恐ろしく見えない。徒に苦味走つてはみせるものの、怠惰な不倫物語ならばまだしも、苛烈な運命に翻弄される悲劇の主人公としての重量感なんぞ端からその身に纏ふこともなく。結論からいふと、いきなり空滑り始めた映画は、終にそのまま挽回されることはなかつた。
 SMポルノとしての二枚看板を担ふは、夫の目の前で陵辱される、妻として松本亜璃沙、愛人に黄金咲ちひろ。松本亜璃沙に関しては、神野太の良心的エロ映画「「親友の恥母 白い下着の染み」(2006/脚本:これやす弥生/撮影監督:今作と同じく創優和)での好演が記憶にも新しい。とはいへその魅力の肝は絶妙な大人の女としての色香と、同時に絶妙なアイドルアイドルした可愛らしさとの同居にあるところと見るものなので、演出のトーンもあるのであらうが、そのアイドル性が、SM映画の被虐のヒロインにしてはどうにも軽過ぎる。ビリングトップの個人的には初見の黄金咲ちひろが、矢張り十八番の全身金粉塗りを披露する「金粉FUCK ずぶ濡れ観音」(2005/監督:荒木太郎/脚本:三上紗恵子)に関しては未見。広く浅い経歴は面倒臭いので通り過ぎると、適当に見た感じはキャノン姉妹の四女、五女辺りに居さうな感じ。ここから先は潔く私的な趣向にも大きく左右されるが、直截にいふと岡本がどうして静代には勃たずに、久美子は抱けるのかが映画を観てゐてどうにも理解出来ない。静代との夫婦生活が儘ならぬ時点で、岡本は性的に不能なものと思つてゐた。さういふ岡本の便宜に関して、展開上一度は原因の触りが説明、されかかりはするものの、最終的に観客に明示されることはない。よく判らないのが、岡本が別に普通に静代は静代で抱いてゐたところで、その後の展開には全く差し支へないし、その分成就される濡れ場も増え、全く不都合もないとしか思へないのだが。ミスキャストに出鼻を挫かれたまま、正体不明な展開を経て、いよいよ邪欲の権化たる吉岡が登場してからの中盤以降のSM万華も、教科書通りの描写が漫然と羅列されるばかり。全篇を通して明る過ぎる撮影にも妨げられ、宗教団体教祖までプロットに担ぎ出しておきながら、業の深さにも似た黒い情炎が蜷局を巻いて、みたりすることも終になかつた。クライマックスを飾る全身金粉塗りの上のレズシーンも、成程画面(ゑづら)としての衝撃力ならば有してゐるものの、事そこに至る過程は大幅といふか全く省略され、といふか殆ど初めから描かれず、おまけに差し挿まれる岡本の描写はまるで意味不明。そこだけ掻い摘むならば兎も角、一本の劇映画としての血肉の通つた求心力は失してしまつてゐると言はざるを得ない。配役の齟齬、テーマにそぐはぬ演出と撮影のトーン、大きな穴と凡庸ばかりの脚本。羽生研司の名前に惹かれて小屋へと足を運んだものではあつたが、凡そ拾ふべく点も見当たらない、度し難い空疎が吹き荒れるばかりのストレートに残念な映画であつた。

 山本剛史と松浦祐也は、吉岡の弟子、乃至は手下。山本剛史は白手袋にストライプのスーツでクール担当、松浦祐也は銀縁メガネにライオンズ帽の、白痴のセックス・マシーン。松浦祐也も期待して観に行つたところではあるが、そもそも初めからあまりいい役ではなかつた。
 かうして一応は一般映画のフィールドに飛び出してしまつたことで、羽生研司が今後ピンクを撮ることは最早ないのか、些か気懸りなところではある。デビュー作「和服熟女の性生活 二十・三十・四十歳」(2001/脚本:遥香奈多/主演:佐々木麻由子・南あみ・くすのき琴美)の瑞々しいポップ性は、今でも脳裏に鮮やかなのだが。
 そもそもよくよく考へてみるならば、そこに於いて全てが決せられるといふ訳では必ずしもないものの。主演女優が、杉本彩→坂上香織→黄金咲ちひろ。縮小再生産、といつてしまへば正しくその一言で片付いてもしまふ。


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