真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「夜這ひ尼寺 一夜のよがり泣き」(2001『尼寺の寝床 夜這ひ昇天』の2009年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/撮影:千葉幸男/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/スチール:佐藤初太郎/音楽:レインボー・サウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:前井一作/照明助手:細貝康介/効果:中村半次郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:吉原麗香、しのざき・さとみ、風間今日子、岡田智宏、丘尚輝、佐々木共輔、久須美欽一)。出演者中丘尚輝と、しのざきさとみに中点が入るのは本篇クレジットのみ。
 こんちこれまた、新田栄尼僧映画で御馴染み尼寺といへば大成山愛徳院。だから男子禁制だといつてゐるにも関らず、深夜の愛徳院に忍び込んだ野口充(佐々木)は、何事か過去に因縁のあつたらしい尼僧の優舜(吉原)を手篭めにする。この時期の新田栄作にしては画期的に映画の神、もとい仏に祝福された部類にも入らう主演の吉原麗香は、微妙にキツ目の首から上は尼頭巾で絶妙に隠すと、弾けさうな肢体の堪らないボリューム感は素晴らしく画面に映える。翌朝、何時ものやうに両親の作つた野菜を喜捨に訪れた村の青年・勝俣正和(岡田)は、住職・妙香(しのざき)の目を盗み、こちらも過去の関係を匂はせる優舜に言ひ寄る。何とまあ、大らかに破廉恥な尼寺であるだとかいふ以前に、要は優舜―出家前は優子―も過去を捨てるならば捨てるで、遠く離れた地を選べばよかつたのに。それをいつてしまつては、この物語は一ミリも動かない訳ではあれ。
 原理上当然でしかないが、まゝならぬ優子との恋路を抱へションボリ自転車に乗る正和に声をかける風間今日子は、東京から群馬の山間に嫁いで来た人妻・岡林麻美。とはいへ田舎に溶け込めない麻美は、正和を間男に気晴らしな不倫を重ねてゐた。久須美欽一は、正和を正坊と呼ぶ間柄の村医者・小島弘恒。
 終に正和も意を決し、学生時代は仲のいい同級生であつた優子に夜這ひを敢行する。一応最後まで事は致すものの妙香に発覚、優舜は激しく叱責され、正和もこの期に愛徳院への出入り禁止を改めて喰らふ。丘尚輝が大将の居酒屋にて、正和は小島を付き合はせヤケ酒をあふる。酔ひの勢ひに任せ口を滑らせた正和から、夜這ひのことを耳にした小島はポップか明後日に発奮。潰れた正坊は店に放置し、自身も優舜を狙つて愛徳院に突入する。
 適当な結末自体はさて措くにせよ、結部への着陸滑走路としての役割を実は完璧に果たす転部は、それなりに秀逸、少々褒め過ぎた。お目当ては優舜の二匹目の泥鰌であつたものを、間抜けた小島は妙香に誤爆。慌ててその場を、往診と言ひ包めようとする出鱈目ながら軽妙なフットワークは、久須美欽一ならではのものでもあらう。斯くも底の抜けたシークエンスが、上滑りもせず妙に成立し得てしまへるのも、殆ど別の意味で流石新田栄。もうこの際、さういふことにでもしてしまへ。加へて、小島の男の味に妙香はすつかり考へを改め、あるいは堕落すると、優舜と正和の関係も事実上認める方向に転向するだなどといふトゥー・フランクなハッピー・エンドに至つては、疑問を持つたり立ち止まつたりした方が寧ろ負けだ。一方、プロポーションは兎も角お芝居の方は大根、といふか石のやうに硬い吉原麗香のエクセスライクは潔く初めから諦め、軸を岡田智宏演ずる正和に担はせた賢明な戦略に関しては、手放しで賞賛に値しよう。ところで、五年前優子は正和とその日別れたところで野口に強姦され、その悲劇を契機に仏門に入つたものであつた。さうなると、野口に仏罰を落とし損ねた因果応報の未成就が、十全な娯楽映画としての起承転結の完成を最終的には阻む点は、大いに画竜点睛を欠くとの誹りを免れ得まい。それどころの話でもなからう、と呆れて、もしくは諦めれば正しくそれまででもあるのだが。大雑把も勇猛に通り越し乱暴な、麻美の正和に対する背中の押し様は、展開の中にさういふ段取りを最低限盛り込まうとした一手間で、最早ひとまづ合格とするべきだ。いいのか?そんな大尼な南風で。

 ところで今回新版ポスターの、「襖の向かうに、寝乱れの生き仏・・・」、「男達が忍び込む、一夜限りの極楽浄土」なる惹句(原文は珍かな)が、小気味よく飛ばしたビート感が心地よい。


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