真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「フェリーの女 生撮り覗き」(2001/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督:荒木太郎/脚本:瀬々敬久/撮影照明:前井一作・横田彰司/編集:酒井正次/助監督:森山茂雄・石田朝也/制作:小林徹哉/録音:シネキャビン/現像:東映化学/挿入歌:『フェリーの女』 作詞:瀬々敬久 作曲:足達英明 アコーディオン:〃 トランペット:永島幸代 唄:野上正義・中川真緒/協力:佐藤選人・睦月影郎/パンフレット:堀内満里子/出演:中川真緒・佐倉萌・佐々木基子・縄文人・内藤忠司・石川雄也・野上正義/ナレーション:今泉洋)。
 青地に白い意図的にプリミティブな筆致と、今泉洋のナレーションで「昔々、男のロマンは女だつた」。久保チンより九つ上のガミさんより更に一回り上で、堺勝朗と同世代。昭和30年代中盤から昭和末期にかけてピンク映画で膨大な戦歴を残した今泉洋は、翌年没する。久保チンでさへその死を後々知つたといふから、内々に継続して親交のあつたガミさんが、いはば一種の花道を用立てたのか。それ、とも。今泉洋最後の出演作「裏ビデオONANIE 密戯」(昭和63/監督:北沢幸雄)の、脚本を担当したのが監督デビューを遥かに遡る初脚本となる荒木太郎!あるいは荒木太郎自身が、今泉洋とある程度以上近しい間柄にあつたものやも知れない。しかも、その「裏ビデオONANIE 密戯」がex.DMMで見られると来た日には、次に見る。
 一旦さて措き、行進曲が起動して日の丸。今度は荒木太郎の、ヤケクソすれすれに性急なナレーションで「オマンコ×オメコ×ヴァギナ、呼び方は色々だが男は必死にそれを追ひ求めた」、「これはそんな時代の物語である」。東京湾フェリー運航のかなや丸を正面から抜いて、如何にもこの時期の多呂プロテイストなイラストタイトル・イン。結構デカい軍船と飲み屋街、平成24年八月に閉館した金星劇場(神奈川県横須賀市)の画を連ね、ボンカレーを皮切りに、昭和な雑誌なりポスターがこれ見よがしに撒かれた部屋。裏ビデオ監督兼ビニ本カメラマンのフーやんこと藤川オサム(縄)が、ノリの悪い恵(佐倉)相手にビニ本を撮影する。悪戦苦闘の末に、とまれバナナを使つたワンマンショー完遂。第三者の気配にフーやんが気づくと、恵の義父・菊池(内藤)がマスをかいてゐた。荒木レーション曰くフーやん同じく“エロの虫”たる菊池とフーやんの関係は、菊池が経営する電気屋―キクチなのに屋号は「PANA PORT タジマ」―で、フーやんの裏ビデオをおまけにデッキを売り捌いてゐた。佐々木基子が恵の母親にして、パートの子連れ未亡人に菊池が手をつけた真紀子。客で広瀬寛巳が、完全無欠のクレジットレスで飛び込んで来る。菊池に話を戻すと、m@stervision大哥はフーやん役が佐野和宏の瀬々ver.を観たいと仰つておいでだが、さうなると菊池役は、諏訪太郎だと思ふ、目に浮かぶツーショットが超絶カッコいいぞ。菊池がフーやんに、製作費を出す老人が脚本も自分で書き、ついでに主演もその老人とかいふ、要は俺裏ビデオを撮る話を持つて来る。恵には逃げられつつ、とりあへず乗つた老人が住む島に渡るフェリーの船内、フーやんは鼻歌でローレライを歌ふ夢子(中川)に見惚れる。
 配役残り、最終的には佐々木基子の濡れ場を介錯する役得、もとい大役を果たす荒木太郎は、真紀子にソニーのベータを売りつけられる男。フーやんが、ベータでも裏ビデオを出してゐたのかは不明、店でダビングすれば済む話だけど。てか、そもそもベータ規格に手を出してゐない、松下の特約店なのに。兎も角石川雄也は、後を追ふフーやんの眼前、夢子と自販機の物陰で致す行きずりの絡み要員。よくよく考へてみると、瀬々が悪いのか荒木太郎の所為なのか、大概な力技ではある。そして野上正義が、島でフーやんと夢子を待ち受ける菊池。ガミさん登場で、展開が偶さか走り始めるラッシュは圧巻。電車で七十の婆に痴漢した菊池を逮捕するのと、菊池が口を割り、フーやんも追ひ駆ける刑事は小林徹哉と森山茂雄。コバテツは殆ど変らないが、森山茂雄が何か凄え若い。
 別れ際、「傑作を期待してますぞ」と波止場から全身を使つて手を振る菊池に、声など届かぬのをいいことに、フーやんが「早く死ね糞爺」と爽快に毒を吐くカットと、菊池が仕出かした恵との親子丼を知り、一修羅場起こした真紀子は荒木太郎を捕まへ、二人が本番する裏ビデオを撮るやうフーやんに強要。四の五のしながらもオッ始めたゆゑ、勢ひに吞まれるやうにフーやんがカメラ、夢子はライトを構へるカットは覚えてゐた、荒木太郎2001年第四作。如何なるものの弾みか、現状といふ限定も最早必要あるまい、最初で最後の瀬々敬久大蔵上陸とは、いふものの。生死が熱くか、真逆に冷たく立籠めるでなければ、政の気配が滾るでもなく。軽妙でリリカル、且つギミック過多の下町譚は、徹頭徹尾荒木太郎の映画にしか見えない。見えないのと、よくいへば穏やかな、直截にいへば硬度に乏しい演出の中に放り込むと、これまで絶対美人かに思つてゐた中川真緒の、案外間延び具合が際立つのはこの期に及んでの発見。もうひとつ興味深いのが菊池と夢子、あるいは野上正義と中川真緒が完パケ題は「戦場に燃ゆる恋」となる裏ビデオの歌パートとして披露する、挿入歌「フェリーの女」―劇中題は「人生裏表」―のメロディが、「恋情乙女」(作詞:三上紗恵子 作曲:安達ひでや 唄:牧村耕次)とほぼほぼ同じな件。なんて思つてゐたら、足達英明は安達ひでやの本名であつた、長い付き合ひなんだね。

 とこ、ろで。ナレーション特記はないまゝに、他の俳優部とともにポスターにも名前の載る今泉洋であるが、驚く勿れ仕事はラストで再度使用される、「昔々、男のロマンは女だつた」の正真正銘一言のみ。正直その口跡は、少なくとも力強さを感じさせるものではない。


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