真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「売春婦マリア」(昭和50/製作・配給:ミリオンフィルム/監督:若松孝二/脚本:出口出/撮影:伊東英男/照明:磯貝一/編集:エディ編集室/録音:杉崎喬/助監督:高橋伴明/撮影助手:遠藤政史/照明助手:萩原範敏・原田政幸/?:菊地好夫/効果:秋山実/出演:中島葵・市川貴史・今泉洋・野上正義・国分二郎・坂本昭・星乃宏美・仁科鳩美・小林健作・黒渕達男・斉藤進・渡辺光春)。例によつてスタッフで一括るクレジットにつき、菊地好夫の担当には辿り着けず、現像に該当する名称が見当たらないのは本篇ママ。脚本の出口出は若松プロの共有ペンネームで、今回は高橋伴明の変名。製作ともミリオンとしたのは若松プロ特記が見当たらないのと、jmdbに従つた。
 新宿ゴールデン街、ネタに窮した『女性現代』誌記者の藤田瑞穂(中島)は、懇意のスナック店主・ゴッちやん(坂本)に新宿も大人しい街になつた云々愚痴をこぼす。受けたゴッちやんの切り口が、「美少女の売春婦なんてのはどうかねえ?」。素人で、身銭がなくなると小遣ひ代りに三千円で男に身を任す。“新宿マリア”と呼ばれるその女は、ピントの向かうのボックス席に実は既に座つてゐた。とかいふ次第でマリアこと後々明らかになる本名はヨシノマリ(星乃)の、物憂げなアップを抜いてそのまゝタイトル・イン。よくいへばアンニュイな、直截に脊髄で折り返すと草臥れた主演女優の面相は、昭和50年当時、果たして素面の美少女で通つたのであらうか。
 「僕はもう、ポルノ映画は撮らないよ」。マリアの取材をぼちぼち進めつつ、瑞穂が軸足をテレビに移す演出部・宮川(野上)との結婚の準備を進める中、何事か追はれてゐる風情の鈴木ヒロシ(市川)が、とりあへず一息ついた店でマリアと出会ふ。商売後も何も詮索しないのを気に入られマリア宅に招かれた鈴木は、ベルボトムの腰に回転式を差してゐた。
 配役残り、何気に作中最強の美人に映る仁科鳩美は、宮川の浮気相手、枕で営業する俳優部。瑞穂の射殺事件を捜査してゐるかと思ふと、鈴木兄貴分の梅岡(一欠片も登場せず)らを追つてゐたりもする。終盤に飛び込んで来る今泉洋は一課なのか公安なのかよく判らない官憲で、国分二郎が相棒。小林健作以下は、特定不能ながらマリア客要員と見て頭数は合ふ。
 最後の五都道県の対新コロ緊急事態宣言も明日には解除されるとなると、土台アバウトな期間限定も終りを見据ゑて行かないとならなくなるのか若松プロVODで、若松孝二昭和50年第二作。jmdb準拠だと、既にロマポでブレイク後の中島葵初ピンク。謎なのがウィキペディアの、中島葵が“独立系ピンク映画にも多数出演”してゐるとする記述。jmdbを眺める限り、片手で足るのだが、大量に洩れてたりするんかいな。それは兎も角序盤で女の裸が銀幕に載る尺をしこたま稼ぐ、中島葵と野上正義による大熱戦の入り。部屋が赤々しく点滅するのがこれは全体何のリフレクションなのかと首を傾げてゐたら、以降も随所で同様の現象が多発。要は、劣化したプリントが激しく褪色してゐるだけであつた。
 パン女・ミーツ・テロリスト、といつて、全篇をパレスチナ歌謡が貫くほかは、概ね徒にポリティカルな方向に振れてみせるでもなく。都会の片隅で出会つた行きつぱぐれた二人が、偶さかの蜜月を過ごして、呆気なく弾け散る。星の数より多さうな物語が、満更でなく実を結ぶ。発作的に瑞穂を射殺し、新宿の路地裏を手と手を取り逃げる疾走感。マリアは逃がさうとする鈴木に、マリアが叫ぶ「アタシには明日がないつていつたでせう!」。別に、さういふ内容の発言をマリアが鈴木にするシークエンスが、事前に設けられてゐる訳では必ずしもないものの、些末に一々立ち止まるな。「アタシには明日がないつていつたでせう!」、「だからアタシの好きにさせてよ!」。時代を超えて、新宿マリアが撃ち抜く剝き出しのエモーションこそが全てだ。単館に於いての上映時には、ラストの―マリアが腕を撃たれただけで死ぬ―無防備な銃撃戦に失笑が起こつたさうだが、より頓珍漢なのはその少し前。詰まらない万引きを犯し、富士宮警察から釈放され鈴木が潜伏するアジトに向かふマリアを、今泉洋と国分二郎が尾行。ところが林中のどストレートな一本道で気づかれて、誤魔化すもへつたくれもないだらうといふ間抜けなカット。オーラスの拳銃のアップが、どう見ても弾倉に弾が入つてゐるやうに見えないのは、だから神の宿らぬ細部など気にするな。裸映画的にはドラマの主役は星乃宏美に譲つた格好の中島葵が、濡れ場でビリングを回復する構図はピンクならではといへ感興深い。絡みがいたつて淡白な星乃宏美と、束の間を駆け抜ける三番手。ガミさん相手の質量とも藪蛇もとい闇雲に充実した長丁場で、中島葵が一人大いに気を吐く。のは認めるものの、ただ一点通り過ぎるに難いのが開巻即目を疑ふ、長さから派手に短い、チリッチリに当てた中島葵の壮絶な大仏パーマ。どうかした髪型が流石に攻めすぎだと思ふ、不細工に見せる方不細工に見せる方に突つ走つてしまつてゐる。

 これ今気づいたのが、よくよく考へてみるに、定石からすると日本シネマなりミリオンに買ひ取られたものを、とうの昔に消滅したのをいいことに、若松プロが勝手に配信して金儲けしてゐる形にならないのか?現存する国映には、話を通してゐるのかも知れないけれど、もしかしたら。いやいやいや、待て待て待て。ex.ジョイパック―がex.ミリオン―の、ヒューマックスも現存してるだろ。


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