真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢と覗き 婦人科病棟」(1994/製作:獅子プロダクション/提供:Xces Film/監督:佐藤寿保/脚本:五代響子/撮影:稲吉雅志/照明:小川満/編集:酒井正次/助監督:今岡信治/監督助手:榎本敏郎/撮影助手:村川聡/照明助手:堀直之/スチール:佐藤初太郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:石原ゆり・ゐろはに京子・中村京子・今泉浩一・杉本まこと・神戸顕一・小林節彦)。
 頭部を包帯でグルグル巻きにした―その上にスクエアは載せる―小林節彦が、看護婦のゐろはに京子からクスコで乳首を挟まれ責められる。斬新な膣鏡の使用法も兎も角、かといつてミイラが患者といふ訳では必ずしもなく、寧ろ医者。内科と外科に産婦人科専門の「益川クリニック」を開業する益川(小林)が、看護婦は本職看護婦のチヅル(ゐろはに)に嬲られてゐるプレイ。を、まん丸ロイドの看護師・手塚(今泉)が覗く廊下にタイトル・イン。アイコンじみた眼鏡の有無に関らず、特徴しかない声色で男が小林節彦であるのは一目ならぬ一耳瞭然。
 その場を離脱するかと振り返つた手塚は、花束を持参したカズヒコ(杉本)と鉢合はせ。カズヒコが見舞ひに訪れた婦人科病棟、橘奈緒美と篠原希代子の相部屋。子宮筋腫を患ふ希代子(中村)が案外元気にムッシャムシャ果物を食らふ一方、カズヒコの恋人で、単なる胃潰瘍に過ぎないのを癌であるとの思ひ込みを拗らせる、奈緒美(石原)が読み耽つてゐるのが書名を抜かずとも、記憶の片隅に残る装丁でその本と判る『完全自殺マニュアル』(1993)。アシッドな昔日が、微笑ましくか香ばしく偲ばれる。希代子同様、癌ノイローゼを一笑に付すカズヒコに奈緒美は屋上で遺書を渡しがてら、「抱いて」とか思ひのほかど直球に膳を据ゑ青姦をキメる。のも、最早与へられた役割であるかの如く、手塚が覗いてゐたりするいはゆる変らない日常。配役残り、神戸顕一は両腕を骨折してゐるためマスもかけないのを、ナースコールで呼び出したチヅルに抜いて貰ふ仁科顕一、12インチは優にあらう大砲の持ち主。
 お屠蘇気分を、吹き飛ばせ。新年一月四日、みんなのエク動がエッジの効いた年玉を爆裂させた佐藤寿保1994年第二作は、触れる機会を当サイトは十年切望してゐた傍系「痴漢と覗き」、通史的には第十三作。それまでシリーズを独占してゐた本家新田栄の正調「痴漢と覗き」が、第十一作「-盗撮女湯-」(1993/脚本:夏季忍=久須美欽一/主演:児島理乃)で一時休止。北沢幸雄の「-社員女子寮篇-」(1993/脚本:笠原克三/主演:上杉愛奈)と今作「婦人科病棟」、坂本太の「人妻下宿」(1994/脚本:大門通=浅尾政行/主演:小栗景子)に、大御大・小林悟の「女課長の私生活」(1996/脚本:如月吹雪/主演:三代目葵マリー)。エクセス傍系四連撃の、第二弾にあたる。その後は新田栄が獣姦要素も交へた「未亡人と猫」(1996/脚本:岡輝男/主演:秋山ルナ・牡猫『チャチャ』《6才》)で、本家の意地を見せ敢然と再起動。以降量産される愛徳院ものの元祖でも実はある、「尼寺の便所」(2000/脚本:岡輝男/主演:赤坂美月)の二本の間隙を突き、ソープテクニックの報復がエクセスに誤爆。といふ訳でもなからうが、新東宝が看板を強奪した的場ちせ(a.k.a.浜野佐知)の「奥さんのすけべ汁」(1997/脚本:山﨑邦紀/主演:北原梨奈/激越に観るなり見たい未見)が飛び込んで来る。新田栄の正調全十三作中、栄えある記念すべき第一作「ハードペッティング」(1989/脚本:亀井よし子/主演:林葉なほ)を始め、第三作「むき出し下半身」(1990/脚本:池田正一=高竜也/主演:美保由紀)・第四作「下着の奥まで」(1990/脚本:池田正一/主演:秋山美晴)・第五作「《秘》トイレ篇」(1991/脚本:夏季忍/主演:美保由紀)・第六作「露天風呂篇」(1991/脚本:夏季忍/主演:愛川まや)・第七作「《秘》女子更衣室」(1991/脚本:亀井よし子/主演:島津千秋)の六本。前述した浜野佐知を足して計七本、それでもこの期に見るなり観られてゐないが、諦めるつもりも無論毛頭ない、俺はまだ生きてゐる。
 足をM字に開くエロくてエモい産婦人科検診台に、希代子がしかも何故か全裸で乗る進んで底を抜いた大らかさに関してのエクスキューズを、本当に正真正銘全く一切欠片たりとて設けない。幾ら脚本が五代響子とはいへ、佐藤寿保らしい狂気なり猟奇をおくびにも出さず、ひたすらに直線的な実用性に徹する清々しい裸映画。仁科相手に要は浮気した仕置きに、チヅルが益川からおヒップを戯画的に折檻される。どれだけスッ惚けた馬鹿馬鹿しい一幕であれ、画として強靭に固定してのけるゐろはに京子の超絶肢体―但し、改めてよくよく確認してみるに、面相は山科薫似―は中村京子の爆乳をも斥け、石原ゆりのソリッドな可憐にも勝るとも劣らない一撃必殺。今なほ色褪せず輝く、ピンク映画に咲き誇つた永遠の至宝。一応、“万病の治療の原点は性の解放にあり”。ピンサロ病院第一作「ピンサロ病院 ノーパン白衣」(1997/監督:的場ちせ/企画・脚本:福俵満/主演:麻生みゅう)に於ける、山科恒夫院長(平賀勘一)の医療信条に類似するポリシーが、益川になくもない程度の気配は窺はせつつ、無益な方便に、枝葉を賑やかす一手間さへかけるでなく。別に忘れてはゐなかつた性の悦びはさて措き、奈緒美が生の喜びも取り戻しての大団円にかまけ、藪蛇気味な奈緒美の大量吐血はまだしも、凛々しいチヅルの姿に女々しい手塚が弱々しく起動させる恋路、とかいふ娯楽映画上如何にも重要なモチーフを、事もなげに丸きり等閑視して済ます豪快なラストには何気に吃驚した、それは大団円の名に値するのか。要は新田栄みたいな映画だなあ、と思つて見てゐたところ、最後までまるで新田栄であつた最も直系に肉迫した傍系。退勤前で既に白衣は着替へたチヅルが受付にて、リズムも自ら適当に刻んだ上、ラメッラメのボディコンで乱舞する。超合金Zにガンダリウム合金を接ぐ画期的に素頓狂なシークエンスこそが、全ての意味の放棄を宣言したかのやうな、あるいは佐藤寿保が「痴漢との覗き」の魔力に完敗したハイライト。北沢幸雄は、回避してのけたんだけどな。


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