真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ワイセツ隠し撮り 野外露出」(1990/製作:メディア・トップ/配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:周知安/企画:伊能竜/撮影:稲吉雅志/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:佐野正光/監督助手:西栄作/撮影助手:村川聡/照明助手:柴崎太郎/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:加賀恵子・南野千夏・しのざきさとみ・川奈忍・久須美欽一・芳田正浩・荒木太郎・戸田狂貞)。脚本の周知安と企画の伊能竜は、それぞれ片岡修二と向井寛の変名。
 薄暗い林にタイトル開巻、間髪入れずクレジット起動。野外で小用を足す加賀恵子に、別に動画を撮影してゐる訳でもないのに、芳田正浩の声が逐一動作が早い云々注文をつける。続けてチリ紙を使ふ斬新なワンマンショーをさせた中途、今度は公衆トイレで南野千夏を多分純然たる盗撮。一応依頼を受けての仕事らしいカメラマンの、下の名前が渉と来た日には、苗字は轟にさうゐない轟渉(吉田)が女子手洗から南野千夏に遅れて出て来たところを、警邏中の巡査で今度は苗字が園山と来ると、下の名前はまづ高志の園山高志(久須美)が発見。実は二十年来のカメコである園山に、フラッシュを焚かずとも撮れる赤外線フィルムまで見抜かれた渉はその場でネガを感光。一旦放免される一方、園山は夢の職業であつた職業写真家の渉に、渉も渉で手堅い公務員かつ社会正義を守る警察官の園山に対し、双方憧憬の念を懐く。
 配役残り、津田スタに帰宅した園山を迎へるしのざきさとみが、妻の明子。明子が下着ドロの被害に遭ふ友人の相談を園山に持ちかける、矢張りあるいは堂々と、使ひ回す津田スタに暮らす川奈忍が明子の友達・江藤倫子。倫子に関しては江藤も、久須りんの口から明示される。荒木太郎は明子と戸建に同居してゐる―ついでに仕事は普通のサラリーマン―にしては、“恋人”と称される謎氏。非番の園山が江藤家に張り込んだ昼下がり、髭と頓珍漢なツーブロックに、アグレッシブに掴み処のない造形がおかしな―大体全部ぢやねえか―荒木太郎が急に帰宅しての、ありがちな間男サスペンスが木に竹を接ぐ一幕かと思ひきや、案外さうでもなかつた。総勢多分四組の青姦をパンで繋ぐ、不明であつた視点の主が隠れ撮りしてゐた園山、とかいふ無体な件。定石からいふと演出部の、競艇を捩つた変名と思しき戸田狂貞は、南野千夏を介錯する男優部。満足に抜かれるカットが存在しない以前に、抜いて呉れたところで佐野正光と西栄作の面相を知らない。
 何気にでもなく重大な疑問が、劇中固有名詞も呼称されないとはいへとりあへず渉の彼女ではある加賀恵子はまだしも、南野千夏は台詞すら限りなく与へられない単なる盗撮要員。そんな二人が上位に座るビリングに、ちぐはぐさは否み難い深町章1990年第五作。もつと沢山ありさうな気がしてゐたものの、ちやんと数へてみるとex.DMMの中に未見の深町章は、今作入れて二本しか残つてゐなかつた。
 荒木彼氏との情事を、押入れに押し込んだ園山に見られた倫子が、対明子の口止めに思ひついた奇策が“同じ秘密”。さうはいへマスをかゝせるのもどうかゆゑの、「アタシとしませう」とかいふ神々しい方便には、強引な論理の清々しさに拍手喝采した。底が抜けてゐる?川奈忍の濡れ場をもうひとつ増やす、更なる大事に遮二無二向かはんとする果敢な営為と、それを如何に形成すかに心砕いた、苦し紛れの閃きとに賛意を表するべきだ。その最中、何故かロボットアニメに於ける合体シークエンス風の、金属的な音効とともにファインダーが障子を突破。性懲りもなくその模様を盗み撮らうとした、渉と園山が再会を果たす展開も冴えてゐた、そこまでは。勿体ぶるだけの物語もない、といふか起承転結の結を半ば以上だか以下に放棄したかのやうな体たらくにつき、截然とバレてのけるがさんざ自身の職について執拗に“聖職”を連呼してゐた癖に、先にも触れた通りシレッと園山がスニークに開眼、木乃伊取りが木乃伊にもほどがある。園山が情事を盗撮してゐた加賀恵子の、お相手がしかも写真を捨て警察官になつた渉。ありがちな奇縁に園山が久須美欽一十八番の口跡であげた、「ありやあ!?」の声で渉に覗きを察知されながら、結局渉は男が園山であるのに器用か頑なに気づかないまゝ、適当に追ひ駆けつこして終るラストは画竜点睛を激越に欠く。最終的には詰めの甘さが玉に瑕通り越して致命傷の、漫然とした一作ではある。

 最後に、いはずもがなに触れておくと。特徴ある上の句を共有してゐるからといつて、1993年第三作「ワイセツ隠し撮り 夫婦の寝室」(脚本:瀬々敬久/主演:岸加奈子)と今作は、隠し撮る目的が裏ビデオとエロ写真から根本的に違うやうに、全くも何も、二作がある意味見事に掠りもしない。下手な弾を撃ち倒すのを宗とする、量産型娯楽映画の世界。一歩間違ふと関係者さへ日々の作業に追はれるうちに、気づいてゐなかつたりするのではなからうか。


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